嘘からの真実
嘘で固められた人生。あるいは社会。あるいは世界と呼ばれているもの。
毎日、ここの人々は嘘をつく。
ここは、とある町。
この町は周りの町から嫌われている。ここでは本当の事は何一つ話されないし、何一つ行われないから。
人々はみなこの町を訪れたがる事はない、嘘をつかれるのが嫌だから。
ある日、この町に世界中を旅している人が訪れた。
この町の噂を聞いてもなお来たがった変わり者。彼は世界中の不思議なものを見て周っている。
この町は聞けば住人全てが嘘しか言わないらしいではないか。
今まで世界中を旅してきたが、大抵は噂があるだけで、本物を見ることはできなかった。
しかし、今回は町と、その嘘しか言わない人々が目的だ。町が逃げるはずもない。実際、今ここに着いたのだ。
彼は本当にこの町の住人が嘘しか言わないのかを確かめたくなった。
彼は町を歩き、一人の男に噂が本当かを確かめるために話しかけた。
「あの、こんにちは。今少しお時間よろしいでしょうか?」
「すみません。私は今忙しいのですぐにでも行かないと」
そう言って男はどこかへ行くのかと思ったが、男はその場に立っている。
とても忙がしそうな様子は見受けられることはできない。
「忙しいのではないのですか?」
「ええ、忙しいですよ。私に話しかけないでください」
そう言うものの、男はその場を動かず、こっちの顔をじっと見ている。
彼は少しだけ気味が悪くなり、その場を離れた。
しばらく歩き、さっきの事を考えてみた。
「全く・・・なんだあの男は。忙しいと言っておきながら全く動こうとしない」
そして彼は気づいた
「そうか、彼は嘘を言っていたのか。忙しいということは、今は忙しくないという事。話しかけないでくださいということは、御用はなんですか?という事だったらしい……」
噂は本当だと知って、彼はうれしくなり次々と通り過ぎる人々に話しかけた。
誰もが嘘を言い、本当の事は一つもなかった。
しかし、何人かに話しかけて一つだけ気がついたことがある。
一つは、ここの住人がつく嘘は絶対に本当の事と真逆という事。
二つ目は、本当に絶対に嘘しかつかないということ。
彼は不思議なものを見れて、満足して今来た道を帰ろうとした。しかし、彼は思いとどまった。
「なぜ戻らなければならないんだろう。この町の人等が言う事を全て真逆に受け止めれば、この町の人たちは世界で一番の正直者なのではないのだろうか。この町以外の場所では、本当の事に少しの嘘を混ぜる。これでは本当の事と嘘は見分けれないではないか。ここよりよっぽどタチが悪い……家に帰ったらここに引っ越す準備をしないといけないな」