深夜のオカルト「事故物件の下」【夏のホラー2025】
ぴちょん
ぴちょん
ぴちゃっ
夜中にひびく水の音、ゆるんだ蛇口をひねった。
ぴちょん
ふたたび起きた俺は蛇口をかたくかたく閉める。
「冴木さん、ぼぅっとして寝不足ですか?」
「えっ、ああ……動画を見てて」
「それ、私もよくやります! 気が付いたら2時くらいになっちゃいますよね~」
神経質な男だと思われたくなくて適当な理由をつける。ミント味の菓子をくれた同僚は鼻歌を歌いながらオフィスを出ていった。すっきりして集中すると瞬く間に晩になった。満員電車にゆられて帰宅する。
俺はさいきん引っ越した。リノベーションされてアパートの内装はキレイだが、ところどころ剥きだしの配管が古さを思わせる。
カギをあけ、生温かい空気を入れかえる。
年代物のアパートの住人はすくない。つい最近まで上の階にいた住人もいなくなり、静けさがただよう。
ぴちょん
真夜中の静寂にひびく水滴の音。
いつものように風呂場の蛇口を閉める。
「そうなんですよ。友だち、事故物件かりちゃって」
「へぇー、君の友だちスゴイな」
休憩時間にきこえる楽しげな会話、興味をもった俺も話に加わる。彼女の友人は家賃が安いという理由で自●のあった物件を借りたようだ。
「興味あります? このサイトで確認できるんですよ!」
彼女がみせた画面にマップが映っていた。地図へ示された赤いマーク、事件のあった物件を確認できるサイトだ。
こんなとき自分の家は検索したくないものだが、俺の指はスライドしてある物件でとまった。
「ひょっとして冴木さんちの近くですかぁ?」
ひょっこり覗いて大きな声をあげた彼女にすこしドキドキしつつ画像を拡大する。うでに髪の毛がふれて花のいい香り、赤いマークなどどうでもよくなってきた頃――――
「ここも赤い! 角の部屋ですかね?」
彼女の声で我にかえった。
位置的にとなりに見えないこともないけど俺の部屋、しかし不動産屋からそんな話はきかなかった。
電話をかけても事故物件ではないと返答された。寝不足もあってイラついてたらしくなだめられた。それもそうだ、俺はこの部屋で幽霊を見たわけじゃない。
ぴちょん
水音で起きるのは深夜2時、いつものように電気もつけず蛇口をしめる。
換気扇をかけた浴室は生温かい。分かっている洗面台も浴槽も濡れた形跡はない、俺は浴室のトビラを閉めて布団へもぐった。
ぴちょん
気づけば朝だった。
期待していた飲み会の予定がつぶれ、はやめに帰宅した。
アパート前に住むお婆さんが植木鉢へ水を撒いていた。ゴミ出しのときにも会う顔見知り、目が合い挨拶するとお婆さんは話しかけてきた。
「かわいそうに脳梗塞ですって、お風呂場で見つかったそうよ」
上の階に住んでいた住人とも顔見知りだったようだ。聞きたくなかった情報が入ってくる。2階へ目をむけると、だれもいない部屋の小窓に人影がうごいた気がした。
ぴちょん
1階へ落ちてくる水の音。
今夜も風呂場へひびく。
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