ep 22
頑固一徹ドワニコフと、未知なる鉄の筒
エスゼナ・グレスレインから紹介状を授かったユウジ、アヤナ、サーベルの三人は、グレンスの職人街の一角にあるというドワーフ工房「ドワニコフ」を訪ねた。石畳の道の両脇には、武具屋、革製品屋、宝飾店などが軒を連ね、あちこちから金属を打つ音や、木を削る音、そして職人たちの威勢の良い声が響いてくる。その中でもひときわ大きな槌音が響き渡り、もうもうと黒煙が立ち上る一角が、目指す工房のようだった。
工房の入り口には「ドワーフの鍛冶場 ドワニコフ」と、力強い文字で書かれた年季の入った木の看板が掲げられている。
三人が中へ入ろうとした、まさにその時だった。
「てやんでい!こんなナマクラ持ってきやがって、ワシの目をごまかせると思ったか!二度とツラ見せんじゃねぇ!おおいきやがれ!!」
工房の奥から、雷のような怒声と共に、小柄だががっしりとした体躯の男が飛び出してきた。手には歪んだ剣のようなものを握りしめ、それを放り投げると、追いかけるようにして別の商人風の男を文字通り工房から蹴り出した。
「ひぃぃ!も、申し訳ございません!」
商人は這う這うの体で逃げていく。
残されたのは、背は低いが岩のように屈強なドワーフの男。豊かな赤茶色の髭をたくわえ、煤と汗にまみれた革のエプロンを着け、その鋭い眼光はまるで炉の炎のようにギラギラと輝いている。彼こそが、この工房の主、ドワニコフ親方なのだろう。
「ったく、近頃の若いモンは仕事が雑でいけねぇ…」ドワニコフは吐き捨てるように言い、ふとユウジたちに気づいた。「あ?なんでぇ、あんたらも何か用か?見ての通り、ワシは今機嫌が悪ぃんだ。くだらねぇモンだったら、さっきの奴みてぇに蹴り出すぞ!」
その剣幕に、ユウジは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「あ、あの…俺たち、エスゼナ・グレスレイン様のご紹介で参りました、ユウジと申します…」
ユウジがおずおずとエスゼナから預かった封蝋付きの紹介状を差し出すと、ドワニコフは訝しげな顔でそれを受け取り、封を切った。
手紙に目を通すうちに、ドワニコフの険しい表情が徐々に変化していく。
「…なんでい、エスゼナの奥方様んとこの使いか。それならそうと早く言わねぇか。ちっ、帰らすわけにもいかねぇじゃねぇか。…まぁ、入れや」
ぶっきらぼうな口調ながらも、その声には先ほどまでの刺々しさは消えている。エスゼナの名前は、この頑固なドワーフにとっても特別なもののようだ。
ユウジたちは、ドワニコフに促されるまま工房の中へと足を踏み入れた。そこは、まさにドワーフの仕事場だった。中央には真っ赤な炎が燃え盛る巨大な炉があり、その脇には年季の入った金床や様々な種類の金槌、ヤスリ、トングなどが整然と(あるいはドワーフ的な秩序で)並べられている。壁には製作途中であろう剣や鎧、盾などがかけられ、隅には質の良さそうな鉱石や木材が積み上げられている。工房全体が、鉄と汗と、そして何よりも職人の情熱と誇りに満ちた熱気に包まれていた。
「んで?エスゼナの奥方様の紹介ってぇからには、何か特別な用向きなんだろうな。話してみろぃ」
ドワニコフは腕を組み、値踏みするような目でユウジたちを見据える。
ユウジは意を決し、背負っていた袋から例の「消火器」(もちろん、今はただの赤い鉄の筒とホース、そしてレバーに見えるように細工してある)を取り出した。
「これなんですが…その、とある古い遺跡で見つかった物でして…。これが何なのか、そしてもし価値があるものなら買い取っていただけないかと思いまして」
ドワニコフは怪訝な顔でその赤い筒を受け取り、まじまじと眺め始めた。
「ふん、ただの鉄の筒か?いや…この赤色の塗装は何だ?こんな鮮やかで均一な塗りは見たことがねぇ。それにこの取っ手…何かの仕掛けか?」
ドワニコフはルーペを取り出し、筒の表面やホースの付け根、レバーの構造などを食い入るように調べ始める。時折、指で弾いて金属音を確かめたり、鼻を近づけて匂いを嗅いだりしている。その真剣な表情は、まさに獲物を見つけた狩人のようだ。
「な、なんじゃこりゃあ!?この筒の構造…一体どうなってやがるんだ?この管は何だ?この握り手は何を動かすんだ!?」
ドワニコフの興奮は最高潮に達した。その瞳は好奇心と探求心で爛々と輝き、まるで子供のようにも見える。
「こ、これは…もしかすると、古代ドワーフの失われた技術か!?あるいは、それ以上の何かの…!」
「あ、あの…実は、また同じような遺跡を調べる機会がありそうなんです。もし、また何か珍しい物が見つかったら、その買い取りもお願いしたいなー…なんて」ユウジはここぞとばかりに切り出した。
ドワニコフはユウジの言葉にハッと顔を上げ、その赤い筒を抱きしめるようにしながら叫んだ。
「ムハーッ!こいつぁとんでもなく面白い代物だぜ!おぅ、ユウジとか言ったな、兄ちゃん!いいか、よく聞け!今後、その『古代遺跡の品物』とやらは、何があってもワシの工房だけに卸すんだ!他のどこの馬の骨とも知れねぇ奴らに見せたり売ったりするんじゃねぇぞ!良いな!これはワシとの約束だ!」
その剣幕は、もはや懇願に近いものがあった。
「は、はい!分かりました!ドワニコフさんにだけお持ちします!」ユウジは勢いに押されながらも、力強く頷いた。
「よし!話は決まりだ!で、この赤い筒…いや、この『秘宝』だが、そうだな…今回は特別に、銀貨50枚でどうだ!」
「ご、50枚!?」予想以上の高値に、ユウジだけでなくアヤナもサーベルも目を丸くする。
「やったぜユウジ!これで、あの守銭奴カエルに高い手数料を取られずに済むってもんだ!」サーベルが声を上げて喜ぶ。
「ええ、ドワニコフさんなら、きっと物の価値を正しく見てくださると思っていたわ」アヤナも安堵の表情を浮かべた。
ドワニコフは、ユウジにずっしりと重い銀貨の袋を手渡すと、再び赤い筒の研究に没頭し始めた。その姿は、まさに自分の世界に入り込んだ職人そのものだった。
ユウジたちは、この偏屈だが腕は確かなドワーフの親方との間に、確かな繋がりができたことを感じていた。スキル「超学校」で生み出される品々が、この工房でどのような評価を受け、そしてどんな新しい可能性を生み出すのか。
グレンスでの活動の、大きな足がかりを得た瞬間だった。




