ep 21
命の恩人と、ドワーフ工房への道しるべ
イアンが無事保護され、屋敷にエスゼナの安堵に満ちた笑顔と、イアンの元気な声が戻ってきた。ユウジ、アヤナ、サーベルの三人は、エスゼナから改めて丁重な感謝の言葉を受けていた。ダイニングルームの暖炉の火が、緊張から解放された彼らの顔を柔らかく照らしている。
「ユウジ様、アヤナ様、サーベル様…この度は、本当に、本当に何とお礼を申し上げて良いか…あなた方には、二度までもイアンと私の命を救っていただきました。ユウジ様は、もはやこのグレスレイン家にとって、命の恩人でございます」
エスゼナは感極まった様子で深々と頭を下げた。その瞳には涙が滲んでいる。
「そんな、エスゼナさん、顔を上げてください。俺たちは、当たり前のことをしただけですよ。イアン君が無事で、本当に良かった」ユウジは少し照れながらも、誠実に答えた。
「いいえ、当たり前のことなどではございませんわ。あなた方の勇気と機転がなければ、今頃どうなっていたか…。どうか、これからもずっと、この我が屋敷にお留まりくださいませんか?私に、そしてこのグレスレイン家に、ユウジ様たちのお力になるという形で、このご恩をお返しする機会をいただけないでしょうか」
その申し出は、心からのものであり、ユウジたちを家族同然に思うエスゼナの強い意志が感じられた。
その時、サーベルが「あ、そうだ」と何かを思い出したように口を開いた。
「ユウジ、エスゼナ様にあの話をしといたらどうだ?お前がスキルで出すモンを、どうやって金に換えるかっていう、販売ルートの件だよ」
「そうねぇ…あの蛙のギルドマスターさんとばかり取引するのも、ちょっと考えものだものね」アヤナも心配そうに頷く。
「販売ルート、でございますか?」エスゼナが不思議そうに首を傾げる。
ユウジは少し躊躇したが、意を決して先日レオンタイガー戦で使った「消火器」(もちろん、今はただの金属の筒とホースに見えるように偽装してある)を取り出した。
「実はエスゼナさん、これは…その、とある古代遺跡で見つけた道具なのですが、こういった少し変わった品物や、あるいは質の良い素材なんかを、安全に取り扱ってくれるような心当たりのあるお店や工房はありませんでしょうか?」
ユウジは、ゴルドゲゴとのやり取りで感じた不信感や手数料の問題を正直に話した。
「ええ、サーベルも私も、できればあのゼニゲゴギルドのゴルドゲゴさんとは、あまり深く関わりたくないなと思っていて…」アヤナも苦笑いを浮かべる。
エスゼナはユウジが見せた消火器の残骸を興味深そうに手に取り、軽く叩いてみたり、素材の質感を確かめたりした後、静かに頷いた。
「なるほど…確かにゴルドゲゴ殿は少々強欲なところがございますからな。左様でございましたら、一つ心当たりがございますわ。グレンスの職人街に工房を構える、ドワーフの頑固者ですが…ドワニコフという名の親方がおります。彼は偏屈で口は悪いのですが、腕は確かで、目も確か。そして、一度認めた相手には誠実です。ドワニコフの工房ならば、大抵の物は適正な価格で査定し、買い取ってくれるか、あるいは加工の相談にも乗ってくれるでしょう」
「ドワーフの工房…ドワニコフさん…!」ユウジの目に期待の色が浮かぶ。
「本当ですか!?それは助かります、エスゼナさん!」
「ええ。ただ、あの親方は本当に気難しくて、普通の紹介ではなかなか取り合ってくれないかもしれません。ですが、グレスレイン家の紹介状があれば、無下にはできないはずですわ」
エスゼナはそう言うと、優雅に立ち上がり、書斎へと向かった。
「では、早速紹介状をお書きしますね。皆様は、どうぞお食事の続きでも召し上がって、ごゆっくりおくつろぎください。イアンも、ユウジお兄様たちと一緒にもっと遊びたいと申しておりましたし」
メイドが新しいハーブティーと焼き菓子を運んでくる。イアンは早速ユウジの隣にちょこんと座り、今日の冒険の(と彼が思っている)話を聞きたがった。
温かい食事と、イアンの無邪気な笑顔、そしてアヤナとサーベルの気のおけない会話。それは、数時間前の死闘が嘘のような、穏やかで幸せな時間だった。
しばらくして、エスゼナが美しい封蝋で封をされた一通の手紙を持って戻ってきた。
「ユウジ様、こちらがドワニコフ親方への紹介状です。これを持って、工房を訪ねてみてください」
「ありがとうございます、エスゼナさん!本当に、何から何まで…!」
ユウジは深々と頭を下げ、その紹介状を大切に受け取った。それは、ただの紙切れではない。この異世界で、自分たちの未来を切り開くための、新たな鍵のように思えた。
スキル「超学校」で生み出される未知の品々。それらが、偏屈だが腕は確かなドワーフの職人の手に渡った時、一体どんな化学反応が起きるのだろうか。
ユウジの胸は、新たな冒険への期待で高鳴っていた。




