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Jail birds.  作者: zero
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Junky Key.

 

 ほんの、お遊びのつもりだった。

 なのに、今死にかけてる。

 ああめんどくさい。


 人工制御の(この島で制御されてないものなんてたかが知れてるけど)雨に打たれながら、ボクはけらけら笑っていた。

 どうしてこうなったか、なんてふりかえるほどのことじゃない。

 もてあましたヒマを埋めるために遊び相手を探したのは、ほんの昨日のことだ。


 この島じゃ、娯楽は限られてる。

 ってのはタテマエ。

 ほんとは何だってある。ゲームもコミックも、ドラッグだって。

 その中でいちばん効率のいい遊び方をした、らこうなった。

 さっきから、歯がガチガチいってるのは寒いからだけじゃないんだろう。

 それが分かるうちは、ボクはいつもどおり。いつもどおりだ。

 いくら科学がすすんでも依存のないドラッグ一つつくれやしない。なんて不便。

 

「なにか、なんでもいいや」


 気持ちイーことないかな。

 呟けば、雨粒が口に入って、いっそ心地よかった。

 衝動的に笑い出す。大きな口をあけてみれば、流れ込む水滴が気持ちいい。

 喉が渇いてるのは、新しく作ったクスリのせいだ。

 そんで、体がだるいのは殴られたせい。

 それだけの話。

 で、なんだっけ。あーそうだ、死にかけてるんだった。

 思いだしたらまた笑えてきた。

 気のせいか、視界がぐるぐるする。赤に、青に、緑に、見たことのない色がチカチカチカチカ。

 雨音とそうでない音がぐちゃぐちゃにおんなじ大きさで聞こえてきた。

 

「あははははは」


 あー、らりってるなぁ、今。

 そういえば、うさぎのパジャマどこやったっけ?

 あれ、ボクのお気に入りなんだよね。

 遊園地で買ってもらった妖精の羽根は?

 虹いろにキラキラしてた。ちょうど、目の前のコレみたいに………これ?


「……ダイジョウブ、ですか?」


 同じように響く音のなかで、それだけ不協和音。

 意味が分かんなくて顔を上げた。

 渦巻く世界にぽつんと知らない顔。


「なに?」


 うろんげに問いかければ、すっごくフツーに答えられて思わず笑った。


「お兄さん、濡れてるから」


 濡れてる? 濡れるよ、そりゃ雨だもん。

 ていうか、この姿見て言う言葉がそれ?

 うわ、ボクってそんな知られてない?


「あははは、キミ、もぐり?」

「もぐ……ら?」


 もぐら? もぐら?

 この子もぐらって言った?


「っははは、あははははは」


 思わず、笑った。

 なんだ、これ。

 おもしろい。うん、すっごくおもしろい。


「もぐり。つまりボクを知らないなんて変だね、ってこと」


 涙目で説明してみれば、知らない顔がまじめな表情で肯いた。

 純粋培養されたおぼっちゃま、ってところ?

 うわぁ、むしずが走る。

 いつもなら蹴り倒してるとこなんだけどな。

 でもいいや、おもしろいから。


「変……?」


 相変わらずぐるぐる巻の視界で、おぼっちゃまだけがリアル。

 まったく、変な飛び方してるなぁ。混ぜ物が多かったってこと? 粗悪品?

 ケタケタ笑いながら、聞こえた音を拾って、言葉を返してみる。


「変っていうか、物知らず? ああ。じゃあキミ新入り?」


 この間、ラボできいた。新入りが来る、って。

 それがこの子だとするなら、納得できる。

 なよっちいっていうか、まだギムキョーイク受けてる年?

 なら、暴力系じゃないよね……じゃあ、手癖がわるかったのかな。

 うーん……3級逸脱、ってところ?

 考えてるボクに、新入りが口を開く。


「はじめまして。私は」

「名乗らなくて良いよ。覚える気ないから」


 さすがおぼっちゃま。しつけがいい。

 遮りながら、いっそ感心した。


「ああでも君の名前なら覚えてもイーかなぁ」


 呟きながら、考える。

 この子の名前。名前。

 何かとびっきりのヤツがいい。

 だってこんなに楽しませてくれたんだから。 


「ボクは、うさぎ。うさぎのキィ。

 みんなはジャンキーって言うけどね。キミは?」


 名乗ったのは、ほんの気まぐれ。

 新しいお遊びだ。 

 

「うさ、ぎ?」


 首を傾げたのが気配で分かった。

 ぐるぐるの視界に、白黒の顔。あの肌は、目は、髪は、何色なんだろ。

 どーでもいーことを一つ考えてたら、また笑えてきた。

 

「あははははは。その名前で呼んでくれるんだ。ユーキあるなぁ」


 知らないだけなんだろうけど、それでも楽しい。

 命を大事にしたいなら、キィって呼ぶか……そもそも近寄っちゃダメなんだけどね、ボクには。


「で。キミは?」


「……申し遅れまして申し訳ありません。私は、ゼロと言います」


 私。わたし。女の子みたい。

 あははははは。かっわいー。

 でも。バカ丁寧な話かたが東の彼とよく似てる。

 ちょっと苛つく。

 

「ゼロ。ね。ボクと話す時は敬語ナシでよろしく☆」


 笑いながら言ってみたら、こくりと返事が返ってきた。

 素直だなぁ、この子。

 そんなんじゃ、この島でやってけないのに。

 がらにもなく心配なんてものを思いだしたら、また笑えてきた。

 笑えて、笑えて、笑えて。

 笑ううちにあたりが真っ黒になって、そこでおしまい。

 いつものように、倒れるんだとどこかで分かった。 

はじめまして。

もしくは、おひさしぶりです。

私は無事でした。皆さまが無事であるといいなと思います。

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