7ページ目「不仲な家族」
お待たせ致しました。続きを投稿致します。
ちょっと重たい描写がありますのでご注意を。
「覚えているかな? キミと会った日にキミも見たあの家族。」
アレックスさんが事情を語り始める。
「ええ、覚えています。懐中時計を持った男の子がいる‥‥。」
少年の名はパイクくんだったか。
ツンツン頭のパッチリした眼が印象的な男の子だった。
「そう、ゴンザレスさん一家だ。そのヨウカイ? に困らされているのはあの家族なんだ。」
『ん?』
アレックスさんのその発言に、ハヤテが疑問符を上げる。
『待て。あの家族、お主の親戚か何かなのか?』
「? いや? 顔を知ってる同じ町内の住人だよ。」
ハヤテの質問にアレックスさんはキョトンとした。
「昔、俺が警備局に配属になったばかりの新米のときによく会ってたんだ。あのパイクくんが迷子の常習でね。両親が『息子がいなくなったっ』って詰め所に駆け込んできてね、よく俺が見つけて保護してた。」
アレックスさんは遠い目をする。当時を思い出しているであろうその表情は穏やかな笑みを浮かべていた。
「キミと出会ったあの日、あのときが再会した瞬間だったんだよね。仕事の都合でゴンザレスさんがこの国を離れて‥‥‥数年振りにこの町に帰ってきたそうだ。」
『なんと。お主、親しいとは言え、血の繋がりもない赤の他人のためにそこまで心を配っているのか?』
ハヤテが驚きと尊敬の入り交じった声を上げる。ハヤテの気持ちも解る。こういう依頼をするときよく来るのは家族や恋人、或いは友人が多いのだ。
彼は警備兵だ。家族ぐるみの付き合いをしているというワケではないはずなのに、そんな家族のために疲れきった表情を浮かべるほどあちこちを駆けずり回って解決してくれる存在を探しているのか。
私は少し感動していた。
「困っている人がいたらほっとけないんだ。俺に出来ることなんて微々たるものかもしれないけど、その微々たる働きが誰かの幸せに少しでも繋がってくれたらいいじゃないか。」
なんか可笑しいかな? という風に彼は言葉を続けた。
「‥‥‥いえ。とても尊く素敵なコトだと思います。」
私は彼に微笑む。
誰かのために動ける人は、笑顔を作る。
この人は素敵な警備兵さんだと思った。
『話の腰を折ってしまったな。失礼、続けてくれ。』
ハヤテが続きを促した。
こんな打算なく動ける人間がいるのかという驚きを隠したかったのだろうが、動揺の声色を隠しきれていなかった。
それからアレックスさんは続きを口にし始める。
「俺が知ったきっかけはパイクの証言からだった。
再会した翌日、アイツ詰め所に顔を出してさ、さっそく昔話をしにきたのかと歓迎したんだけど、様子がおかしくてね。」
「おかしいというと?」
「俺たちと会ったあの日、時計の話をしたろ。
俺たちと別れたあと、家に帰ってからパイクのやつ、ご両親に詰め寄られたらしい‥‥‥『前の母親の持ち物を未だに持ってて、他の人に見せびらかすなんてみっともない。』って。
母親からは『未だに私のコトを母親だと思ってくれていない、当て付けか』って責められ、父親からは『そんなにヘレンを受け入れられないのか、前の母親を思い出させる時計を見せびらかすコトが私たちを辛くさせるのが解らないのか』って、
ひどい剣幕で怒られたそうだ。」
私は口に手を当て、息を飲んでしまった。
実の子供に、しかもまだ九歳かそこらの幼い子供に、大の大人が、それもふたりが詰め寄る???
それは虐待なのではないのか。
「暴力は振るわれなかったそうだが、パイクはえらくショックを受けたそうで、その日は夜眠れなかったそうだよ。詰め所に顔を見せたとき、ひどく落ちこんだ青白い表情で、見てられなかった。」
当然だ、それはトラウマ物だろう。
あんなあどけない笑顔を見せていた少年がどれだけ傷ついたのか‥‥‥
今すぐ飛んでいって抱き締めてやりたい。
「『前の母親を思い出させる物は捨てろ』って有無を言わさず、ゴンザレスさんはパイクからあの懐中時計を取り上げて何処かへ捨ててしまった。
アイツさ、泣きながら言うんだよ。
『俺そんなに悪いコトしたのかなあ。』って。
『俺悪い子なの? 警備員さん。』って。
そんなコトないって、俺そう声を掛けてやって抱き締めてやるのが精一杯だった‥‥‥。」
そう口にするアレックスさんの声は低く辛そうだった。そのときのコトを思い出していたのだろう、今にも泣きそうな辛い表情を見せていた。
「前日寝ていないせいもあったんだろう。ある程度語ったらアイツ寝落ちしてね。その日はパイクをゴンザレスさんのところに帰さず俺の家に泊めたよ。
ゴンザレスさんたち、パイクを探しに俺のところまで来たんだけど、その日は上手く事情を話してパイクを預からせてもらった。
まあ何日もそんなコトは出来ないけど、再会して積もる話もあるとかなんとか上手く言い繕って帰ってもらった。
本当はこんなことしたら警備兵としてまずいかもしれないんだけどね‥‥‥。」
ハハハとカラ笑いをするアレックスさんに、私は泣きそうな表情のままなんとか笑みを浮かべ、彼に頷いてみせた。
いえいえ、アレックスさん。それはグッジョブです。子供のメンタルのケアのためにもそれはよくぞやってくれました。
他が怒っても私が褒めてあげます。
『お主はよくやった。他が怒ったとしても我は褒めてやろう。子は世の宝だ。よくぞ宝を守らんとした、偉いぞ。』
あら、身につまされて声を出せない私に代わって相棒が私の気持ちを代弁してくれた。私は何度も頷く。
気が利く宝刀である。
『‥‥‥だが、まだ話が見えんな。確かにひどい話だが、そこに霊障が絡んでくるようには見えん。続きがあるな?』
相棒は冷静だ。その意見に私はハッと気づく。
確かに言う通りである。
これは児童相談なのではなく、霊障被害の依頼内容だった。
何かある。
思えばこの内容は時系列で言えば六日前の出来事。
続きがあるのだ。
アレックスさんは私たちを見て頷くと、口を開いた。