6ページ目「日本妖怪」
私がまっすぐアレックスさんの眼を見ながら言うと、彼は視線を下げ、溜め息を吐きながら俯いた。
「‥‥‥最初は他のところに依頼したんだ。浄化が得意だという聖女や悪霊退治が得意だと評判の教会に‥‥
でもダメだった。
明らかにおかしいのに、『障気は感じられない』だの『魔力が感じられない』だの‥‥‥
ひどいのになると、何も好転していないのに、『済みました』なんて言う聖女もいた‥‥‥
間違いなく変なのに、おかしいコトが起こっているのに、次第には『偶然』だの『考えすぎ』だの俺以外の人間は気に掛けなくなっていった。
そんな時にここの噂を聞いた‥‥‥。」
アレックスさんは顔を上げ、私の顔を見つめ返してきた。
「他が匙を投げた不可思議な事件を解決してくれる凄腕の聖女がいる‥‥‥って。ここに断られたら、もう他に行くところがない‥‥‥。」
そう述べて、彼は私に頭を下げた。
彼の顔、目の下に隈が出来ていた。
疲れきった顔をしていた。
一週間前に会ったとき、彼は表情豊かに笑う人だった。けれどそんな印象が嘘のように彼は現在くたびれている。
助けてあげたいと思った。
「力になります。状況を教えて貰えますか。」
まずは何があったのかを確認しなければ。
そう思い私は頭を上げた彼に言葉を促したのだが‥‥‥
『ジャンヌ。これは引き受けるべきだ。
我々の仕事だ。』
私の脇に立て掛けられている相棒が口を挟んだ。
「何か気づいた?」
『こやつの身体から、うっすらとだが妖気を感じる‥‥‥。
お主、最近【妖怪】と接触したな?』
私には感じなかったが、どうやらハヤテは感知出来たようだ。伊達に地球で長年妖怪退治をしてきていない。こういう感知には敏感だ。
「‥‥‥ヨウカイ? ってなんだい?」
アレックスさんの視線がハヤテに向かう。聞いたことのない単語に眉をしかめている。
「怪異を起こす霊的な存在‥‥‥とでも言いましょうか。悪意を持って人間に害を及ぼす、異世界の悪霊のような‥‥」
改めて妖怪って何と尋ねられると説明が難しい。
「レイスやアンデッドのコトかい? でも‥‥‥」
「それとはまた違います。レイスと違って妖怪には実態があって物理攻撃が通ります。そういった意味では実態を持つアンデッドに近いかもしれませんが、アンデッドやレイスが魔力で動く存在なのに対し、妖怪は妖力と呼ばれる異なるエネルギーで動いている怪異です。」
「違うエネルギー‥‥‥」
「魔力とは異なる力なので、魔力探知に長けている聖女では気づくことが出来ません。また性質が異なるため普通の聖魔力では退治出来ないんです。」
「!!」
私の説明に、アレックスさんは眼を見開いた。
内心「そうだったのか」と合点がいっているところなのだろう。
そう。現在この世界には、どういうワケなのか妖怪が出没するようになってしまったのだ。しかも日本妖怪が。
剣と魔法の、西洋チックなファンタジー世界に、河童だの雪女だのぬりかべだのといった、あの日本意匠バリバリの妖怪が出現しているのである。冗談ではなく。
この世界の住人はレイスなどの悪霊は理解出来るし、アンデッドは知ってるし、悪魔やオーガは解ってくれるのだが、妖怪は解らないし対処の仕方を知らない。
魔物みたいに単純に斬り殺せばよいというものでもなく。例えば奴らは普段は姿を隠していて、見えないようにしながら人間に害を振る舞ってくる。そしてさっき言ったように妖気という魔力とは異なる別種のエネルギーで活動しているため聖女や冒険者、魔法を扱う人間では探知が出来ない=発見が出来ない。
もし人間に取り憑いてなんていたら尚のこと対処のしようがないのだ。
何よりも、全く知識のない謎の存在なのでどう対処していいのかが一切不明なのだ。
なので一概に他の教会の聖女が無能なのだとは決めつけられないのだ。
‥‥‥退治してないのに『終わりました』って嘘吐くのは許されない行為だが。
何故日本妖怪が現れるようになってしまったのかは理由は一切解らない。
けれど、こうなってしまったのは事実だし、現にここにこうして妖怪の起こす霊障で助けを求めやってくる人がいる。
そして対処の知識を持っていて、力を持っている私という存在がいる。
だったら私がやるのだ。
妖怪の怪異に困っている人を助けることを