5ページ目「再会」
事件が起こったのはあれから一週間経った日だった。
その日、私はいつものようにハヤテを背負いながら朝から表を掃き掃除していた。
毎朝教会のシスターが交代で掃き掃除をしているのでそんなに汚れていないのだが、散歩をしている人と挨拶をしたり、近所の人と他愛のない世間話をしたり、また悩みごとや困り事を抱えつつも教会に入りづらい人が声を掛けやすかったりとただの掃除でも会話のきっかけになるのでバカに出来ない時間なのだ。
現にこの事件も、この掃き掃除の時間から事が始まった。
「すみません。【聖浄教会】の方でしょうか?」
落ち葉を拾おうと通りに背を向け屈んでいた私の頭上に声が掛かった。
「はい、そうですが。何かご用事でしょう‥‥‥」
私は立ち上がりながら返事をしていたのだが、振り向いたときに言葉を途切らせた。
「あれ?」
「こちらの教会は、他の教会とは違った‥‥‥‥って、あれ? キミは‥‥‥。」
何かのメモを見ながら喋っていた男の人も、私の顔を見るなり言葉を途切らせたのだった。
私はこの人物を知っていたのだ。どおりでなんか聞き覚えがある声だと思った。
「アレックスさん‥‥‥でしたっけ? こんにちは。
当教会にご用ですか?」
声を掛けてきた人物は、以前出会ったイケメンの警備兵さんだった。
「あのときのシスターさんか。じゃあキミはこの教会の人だったのか。」
向こうも私のコトを覚えていたようで、笑みを浮かべた。
「そう言えば名乗ってませんでしたね。私はジャンヌと言います。こっちはハヤテ。【聖浄教会】所属の【聖女】です。」
「えっ! 聖女さま!? キミが!?」
「ふふっ。【見習いシスター】と思いました?」
私がからかうように尋ねると、アレックスさんは慌て始めた。まあよく見習いだと言われるから気にしていない。悪意を持ってバカにしに来ているワケではないのは伝わっているからだ。
私が所属している【聖浄教会】とは聖魔法を扱える聖女を抱える組織だ。この国中に支部を持ち、怪我をした人の治療や、障気と呼ばれる汚れた魔力の浄化、レイスやアンデッドなどの霊属性の魔物退治の協力をする公的組織なのである。
大きな町にはひとつはあるのがこの聖浄教会。
聖女とは、聖魔法の適正を持ち、こういった活動が出来るシスターのコトを指す。勿論回復魔法専門の聖女や、浄化に長けた聖女、危機探知に優れた聖女など、得意分野に特化した聖女がほとんどで、オールラウンドに全てこなせる者はほとんどいない。
私の住むここの聖浄教会にも正式に認定されている聖女が私を含めて七人いて、普段は教会で祈りを捧げたり孤児たちの世話をしたりとシスターの生業をして過ごしつつ、依頼があればそれぞれが得意分野で活躍するのである。
私? 私が得意なのは戦闘。フランシェスカもそうだね。
さて、立ち話もなんなんで私はアレックスさんを教会の中に招き入れ、応接室に彼を通した。依頼だろうと踏んだからだ。
「私がそちらの詰め所に訪ねる前に、貴方がこちらの教会に訪ねる形になってしまいましたね。」
「ああ。こうなるとは思っていなかったよ。」
お茶を出しながら私が会話の切り口を作る。まあ彼の側からすれば、私に会いに来る目的ではなく、依頼をしにやってきた場所にたまたま私がいたという形なわけなのだが。
「さて、依頼ですね。」
私はハヤテを革張りのひとり掛けソファの脇に立て掛けると、そのまま座り、テーブルを挟んだ対面のソファに腰かけるアレックスさんを見た。
「ああ。まず確認したいんだが、この教会は他の支部と少し趣きが違うと聞いたんだが‥‥‥
‥‥‥合ってるかい?」
アレックスさんは俯きながら口を開くと、視線で正否を確認してきた。
尚、これは事実だ。実は私の所属するこの支部は他とはちょっと違う活動も行なっている。
‥‥‥厳密に言うと、私が普通の聖女とは異なった活動をやっており、この支部はそれを容認してくれている。
「‥‥‥どう伺いました?」
まずは確認だ。
実はウチを訪れて依頼に来る人には二種類のタイプがいる。
ひとつは普通の浄化依頼に来るタイプの人。
普通の、他の教会でもやっているような依頼をしに来たものの、ウチが変わった活動もやっているという噂を耳にしたので、通常の依頼はやっているのか。通常の依頼は受けてくれるのかと確認するためにこの質問をしてくるのだ。
そしてもうひとつのタイプの人は‥‥‥
「他では断られた依頼を受けてくれる、と。
通常では解決できない、一風変わった依頼を引き受けてくれる教会だと。」
そう。
他で解決出来なかったり、断られてしまった人たちが、噂を聞き付けてわざわざウチに訪ねてくるこの人のようなパターンだ。
そんな人たちの駆け込み寺になっているのである。
‥‥‥まあ寺ではなくて教会なんだけどね。
「確かにそういった依頼を引き受けるコトが多いです。他の教会が普通行なっている障気の浄化や悪霊退治以外の依頼‥‥
私たちは【霊障】と呼んでますが。
そんな怪異の解決依頼を引き受けています。」




