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思考を分割した自分の一つが、淡々と報告を上げる。
(大技の準備に手間取っています。これ以上、思考を裂けませんか。)
(無理だ。これ以上分ければ処理効率が落ちる。周囲警戒と捜索に大半を割いている。)
(……なら、もう少し時間をください。圧縮が、想定以上に難航しています。)
(偵察から報せだ。こちらへ向かう人影が複数。鴉の目では暗くて詳細は不明だが、おそらく敵。)
(猶予は。)
(鴉をぶつけて足止めする。持って四半刻だ。)
ドレークだけに意識を集中すればいい。
そう考えていた自分が、どれほど間抜けだったか。
「逃げてるだけか。腰抜けがッ!」
ドレークの手には、無数の鋭い針を備えた鉄球鎖。
魔力を帯び、唸りを上げながら振るわれる。
瞬歩で距離をずらし、紙一重で回避。
だが、嵐のように続く追撃が、間合いを許さない。
……ボルボに、こんなユニークスキルがあったとは。
《鑑定》
《モーニングスター》
変身者:ボルボ
■ ユニークスキル《武器化》使用中
飛翔する鉄球は、途中で自在に質量と大きさを変える。
間合いを誤れば、その瞬間に終わる。
「鋭利なる毒の槍。」
畝り、練り上げた毒の槍を放つ。
だがドレークは涼しい顔で躱した。
広場中央に溢れた水には、すでに毒が溶け込んでいる。
触れれば、否応なく蝕まれるはずだ。
それでも。
ドレークの動きは鈍らない。
それどころか、武器を振るう力は増している。
「ボルボ。」
その一声で、モーニングスターが空中へ放り投げられる。
形状が歪み、伸び、長槍へと変質する。
回し蹴りの要領で、ドレークは槍を蹴り飛ばした。
速い。
衝撃が思考より先に来る。
左脚が、太腿の先から消し飛んだ。
「……っ!」
バランスを失い、壁を擦りながら地面へ落下。内臓が揺さぶられ、視界が回転する。
一枚じゃ、足りない。
重なる結晶壁
結晶壁を重ね、押し出す。
生成した結晶越しに、凄まじい振動が伝わる。
「我が身は望む……。」
詠唱を噛み締める。
「偽りの現実」
結晶壁を自分を覆うように展開し、並行して幻影魔法を起動。
視覚と気配を歪め、存在を覆い隠す。
「殺す、殺す、殺す……!」
ドレークの咆哮。
一枚目が砕かれ、二枚目が粉砕され、三枚目を貫いて、内側へ侵入してくる。
「……いねぇ?」
一瞬の間。
「……いや、まだここにいやがる!!」
直感。
本当に、嫌になるスキルだ。
ドレークの拳と、自分の蹴りが同時に突き刺さる。
「痛ってぇな。」
「……ぐっ。」
右脚から、毒を一気に放出。
確実に当てたはずだった。
だが、耐えている。
高すぎる基礎能力値。
それだけじゃない。
拳を受けた瞬間、体内から魔力を引き剥がされる感覚。
吸われた。
これが、未知のスキルか。
下肢に魔力を回し、脚を再生させる。
何を奪えるのか分からない以上、直接攻撃は危険だ。
「いつ回復した? そんな隙は与えてねぇが。」
「教える必要はありますか。」
ドレークの身体から魔力が立ち上る。
「武技《灼骨》」
燃え上がる拳が、掠めるだけで肌を焼く。
「我が身は望む……幻惑の霧」
霧を裂くように、拳が空を切る。
「また隠れんぼかよ。」
「武技《嵐脚》」
突風が吹き荒れ、竜巻が広場を薙ぐ。
肌が裂け、血が滲み、霧が散らされていく。
左からの蹴り。
腕を交差させて防ぐが、骨が折れる音と共に吹き飛ばされ、壁へ激突する。
また、魔力を引き剥がされる。
「……かはっ。」
気づいた時には、背後にボルボがいた。
長槍が刺さっていた地点。飛ばされる瞬間に武器化を解除したのか。
片腕が武器へと変じ、返しのついた刃が肩に突き刺さる。
「そのまま抑えとけ。」
拳が迫る。
ドレークの手が、わずかに震えている。
ならば過剰生成。
毒を濁流のように生み出し、爆発するが如く押し出す。
効いていないはずがない。自分自身が焼けているのだ。
全てを、飲み込め。
……それでも。
流れる毒を割り、ドレークは抜け出してくる。
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作者の決意の火に燃料が投下されます。




