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ドレークは、苛立っていた。
ボルボがコリンを置いて、単身で報告に戻ってきた時からだ。
「……どいつもこいつも。」
歯噛みする。
バカ真面目が過ぎる部下と、肝心な時に楽観へ寄る馬鹿。
なぜ連れ帰らなかった。なぜ、置いてきた。
爆発音が街を揺らし、ドレークは即座に外へ飛び出した。
次の瞬間、視界を塞ぐ異様な光景に舌打ちする。
「……なんだ、これは。」
濃い。異常なまでに濃い霧が、通り一帯を完全に覆っている。
帝都ではあり得ない密度だ。自然現象のはずがない。
「しゃらくせぇッ!!」
踏み込み、拳を振り抜く。
「武技ッ《灼骨》!!」
魔力を纏った拳から炎が弾け、前方一帯を薙ぎ払う。熱風が霧を焼き、吹き飛ばすはずだった。
だが。
霧は、揺れただけで消えない。
「……チッ。魔法か。」
嫌な感触だ。単なる視界妨害じゃねぇ。
ドレークは即座に判断を切り替える。
「ボルボッ! コリンの所に案内しろ!」
「は、はい!」
ボルボが駆け出す。ドレークも迷わず後を追った。
霧の中を突っ切り、数分。
抜けた先に広がっていたのは
「……開発地区?」
立ち並ぶ元住宅街の広場。打ち捨てられた建材、組みかけの骨組み。地区再開発により、住民が立ち退いた一角だ。
「おかしい……。」
こんな場所まで走った覚えはない。ボルボも同じらしく、戸惑いを隠せていない。
やられたな。
その瞬間、中央に立つ人影が目に入った。
黒髪。黒目。年若い、細身の体躯。
「……ああ。」
ヴァンパから聞いていた通りの見た目だ。
間違いねぇ。
「この場所なら……多少暴れても問題ねぇな。」
獰猛な笑みが浮かぶ。
地面を蹴り、壁を蹴り、空中へ跳ね上がる。
一気呵成。相手に考える時間は与えない。
チンタラやってるから、反撃される隙が生まれるんだ。
「武技《空牙》。」
両手を合わせ、三角を作る。圧縮した空気と魔力を一点に収束。
狙いは、黒髪のガキ。
放たれた衝撃は、空間そのものを削り取る。
地面が抉れ、瓦礫が吹き飛び、広場中央の噴水から水柱が吹き上がった。
ドレークは屋根の上に着地し、削り取られた中心を見下ろす。
「……消えた?」
いや、違う。
真正面から完璧に、受け切りやがった。
クソッ。
喉の奥が鳴る。
このガキ。
聞いていた以上に、骨が折れる。
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結晶壁
熱を帯びた結晶の膜が砕け散り、衝撃を完全に相殺する。
結晶片を尻尾のように操り、広場の中心から屋根の上のドレークを見上げる。
《鑑定》。
名前:ディーヴィ・ドレーク種族:人間職業:モンクレベル:85
■ 基本能力値
HP:14235
MP:6542
ATK:4720
DEF:9620
INT:2660
MGR:3150
AGL:4750
■ アクティブスキル
《体術》Lv5 《魔拳》Lv5《拳技》Lv5
■ パッシブスキル
《身体強化》Lv5 《硬化》Lv5《直感》Lv4 《体力増強》Lv3
■ grant skill
《奪取》
バルザック並。
真正面から戦えば、勝負にすらならない。
だからこそ、この場所を戦場に選んだ。
王都フォリングには、人が集う噴水広場が幾つも存在する。待ち合わせ、憩い、交流の場。
だが、ここは違う。
周囲の住居は老朽化により全て立ち退き済み。住民は既に、国の用意した新居へ移っている。
つまりここで、どれだけ暴れようが、壊そうが。
被害は出ない。
街中では使えなかった毒も、ここなら遠慮なくばら撒ける。
「……。」
事前に準備しておいた結晶壁を展開。
広場に通じる全ての出入り口を、分厚い結晶で塞ぐ。
同時に、噴水の水流も堰き止める。
操れる液体は、多い方がいい。
上空に待機させていた影鴉を数匹、ドレークへ向けて解き放つ。
炸裂する毒の槍
毒の礫が四方へ弾け飛ぶ。
だが、ドレークは当然のように回避する。
「当たってくれれば、話が早いんですけどね。」
「毒だろ?」
ドレークの口元が歪む。
「話は全部、聞いてる。」
貴様を殺す手間ならいくらでも、かけてやる。




