ー39ー
鴉の導きに従い、夜の屋根を駆ける。
瓦を蹴るたび、乾いた音が風に溶けた。足取りは軽い。
《液体生産》《放出》《液状操作》
意識の底で三つのスキルが噛み合い、流れるように連動する。
成形。圧縮。鋭利化。
視線の先、一軒の住宅に狙いを定める。
古い石造り。外壁に補修の跡。人の気配は薄い。
魔力反応は……動いていない。
―― 鋭利なる毒の槍。
噴き上がった毒液が、瞬時に槍の形へと変わる。
一本、二本、十本、数える意味はない。
畝るように連なった毒の槍群が、意思を持つ蛇のように住宅へ殺到した。
轟音。
石壁が裂け、梁が砕け、建物そのものが内側から穿たれる。
屋根が跳ね、粉塵が夜空に舞った。
「……そのまま死んでくれていた方が、世のためになったと思いますが。」
崩壊する家屋を見下ろしながら、淡々と告げる。
「嫌だなぁ、奴隷くん。」
次の瞬間、道路の中央、瓦礫の外側に、何事もなかったようにコリンが立っている。
「そんな事したら、楽しい事が出来なくなっちゃうでしょう?」
いつもの軽薄な笑み。
瞬間移動。
考察する価値はない。
――鋭利なる毒の槍
即座に再生成。今度は直線ではない。螺旋を描き、包囲する軌道。
コリンは笑みを崩さぬまま、身体を捻る。
紙一重。
槍の間を縫うように、信じられない角度で回避していく。
「いやぁ、相変わらずエグいね。」
その手が閃いた。一本のナイフ。
投擲。
狙いは正確。躊躇も遊びもない。
こちらの喉元へ、一直線。
毒槍を生成し、弾く
その瞬間。
視界が白く染まり、衝撃が屋根を揺らす。瓦が吹き飛び、空気が裂ける。
「……。」
後方へ跳び、衝撃を逃がす。
再生が即座に働き、焼けた皮膚が元に戻る。
「あれっ? 簡単に防がれると、ちょっとショックなんだけど。」
軽口。
だが付き合う必要はない。
距離を詰める。
一気に踏み込み、体重を乗せた回し蹴りを放つ。
「...っ!」
コリンは即座に反応する。だが、遅い。
散華する毒の槍。
地面から毒の槍が展開される。
蹴りと同時に、毒槍がコリンの体と自分を穿った。
「ぐっ……!」
肉を裂く感触。確かな手応え。
「正気じゃないぞ……それ。」
「たしかに。」
淡々と応じる。
「でも、予想は出来ないでしょう?」
槍で貫いた自分の脚は、すでに再生を終えている。
一方、コリンの呼吸は乱れ、顔色がわずかに変わった。
ここで終わらせる。
夢見の毒
即効性の睡眠毒。霧状に変換し、口から吐き出す。
白く淡い靄が、夜気に広がる。
コリンは咄嗟に距離を取ろうとするが、遅い。
「……っ、チッ。」
顔を顰め、歯を食いしばる。瞳が揺れ、焦点が合わなくなる。
「……相変わらず、手荒だね……。」
最後まで軽口を叩こうとして膝が崩れ、前のめりに倒れ込んだ。
石畳に、鈍い音。
「……睡眠確認。」
鴉が上空で一声、低く鳴いた。
「さぁ次に行きましょうか。」
読んで下さりありがとうございます。
面白かった、続きを読みたいと思ってくださった方、是非フォロー、ブックマークをお願いします。
作者の決意の火に燃料が投下されます。




