表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/36

ー31ー




攻め込まれる前に踏み込む。

足裏に魔力を込め、地面を弾き飛ばすように──瞬歩。

視界が一瞬、流れに溶け、次の瞬間にはバルザックの背後にいた。


回し蹴りを振り抜く。

だが──


「遅ぇ。」


振り返りもせず、奴の左手が自分の足首をがっしりと掴む。

骨が軋む。脛の奥にまで握力が食い込み、背筋が勝手にこわばる。


視界が天地ごと反転し──


ドゴォンッ!


外壁が粉を吐く。衝撃で肺の空気が押し出され、喉が勝手に鳴る。

砂煙の中、低く響く笑い声。


「いい蹴りだな。」


余裕たっぷりの口調。

喉奥に熱がこみ上げ、奥歯がきしむ。


奴の左拳が唸りを上げて迫る。


(正面から受ければ──終わる)


反射で身を捩じり、紙一重でかわす。

直後、足元で地面が爆ぜ、衝撃が脛から腹へ突き上げる。粉塵が舞い、視界が白に溶けた。


「……我が身は望む──幻惑のミラージュ・ブルイャール


足先から淡い霧を吐き出す。空気が乱れ、白がさらに濃くなっていく。

力勝負では押し切れない。なら、手数で削る。


水を生み、形を整える。自分の輪郭を寸分違わず写した人形。

その表面を幻影で覆い、もう一人の自分を作り出す。


偽りの姿(リ・アヴァロン)


奴は霧を警戒し、一歩引いた。

その刹那、水弾を指先で弾くように放つ。


飛沫には細かく砕いた《女神の涙》の結晶。

腕で弾いた瞬間、結晶が奴の肌を裂き、赤が滲む。

……効いたな。


霧の奥から水人形を突進させる。


拳が唸り、頭部が砕け、しぶきが飛び散る。観衆がざわつき、「やりすぎじゃねぇか…」という声が耳に混ざる。

後ろでリリー様が息を呑む音。


(感触で……見抜いたか)


バルザックの目が鋭く細まる。

その瞬間、背後に回り込み、後ろ回し蹴りを放つ──が、再び左手で足を掴まれる。


止まらず、右拳を突き出す。

それも右手で掴まれる。


ならば──残った右足を使うだけだ。


「──ッ!」


頭部めがけて叩きつける。手応えと同時に、甲高い女の声が響く。


「バルザックさん!! あなた何やってるんですか!」


眼鏡の女が駆け込んできて、ギルドマスターを容赦なく叱り飛ばした。


足を掴まれたまま、どう動くか一瞬の思考が巡った時、甲高い女の声が場を切り裂いた。


「私が打ち合わせで出かけている間に、何やってるんですか!」


扉の向こうから現れたのは、眼鏡を掛けた細身の女性。


肩から下げた書類袋が揺れ、その目は戦場の殺気よりよほど冷たい。


「いや、息抜きに少しだな。」


バルザックの声が、さっきまでの獣じみた迫力を失っている。


「それならもちろん、私が頼んでいた書類の始末は終わってますよね──バルザック・ドラバイトさん。」


一拍、沈黙。

観衆も自分も、思わず息を止める。


「……。」


「出来てないんですね! これだから書類は刻々と溜まる一方なんですよ!」


女性の声がギルド中に響き、周囲から押し殺した笑いが漏れる。


「そのなんだ……今、男の約束を掛けた試合をだな……。」


「何を言ってるんですか? あなたの負けですよ。いいから早く汚れを落として部屋に来てください! いいですね!」


……さっきまで自分を圧倒していた男が、子猫のように小さく頷いている。


その光景に、魔法を解き、俺も呆気に取られて立ち尽くしていた。


──これが、帝都冒険者ギルド本部のギルドマスターなのかと。




読んで下さりありがとうございます。


面白かった、続きを読みたいと思ってくださった方、是非フォロー、ブックマークをお願いします。


作者の決意の火に燃料が投下されます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ