03-01幕間:孤父の戈
「――様。お食事の用意ができました。……置いておきます」
カタ、カタと、皿の音。
代わり映えのしない、灰色の毎日。
声の主はしばらく佇んでいたが、諦めたように去ってゆく。
「ふん……」
靴の音が小さく遠ざかった頃を見計らい、男は大仰そうに身を起こす。
からかってもよかったが、下賤の者に同情される事自体、プライドが許さなかった。
銀の盆を手元に引き寄せる。
香りのない灰色の粥に、灰色の豆。それと、カラカラに乾いたベーコン。
辛うじて塩味のする、生きるためだけの食事。
皇都のものとは、比べるべくもなし。
質の良い食材は、そもそもここには届かない。
だが、もう慣れた。
苦い顔で、食事を済ませる。
その後は、何もやることがない。
この一室に文字はない。灰色の床、灰色の壁。
己の顔を映す鏡もない。従者が運んでくるものが全てだ。
明日は、ここから出られるらしい。
一週間前も、同じ知らせを受けた。
この環境が終わるとヌカ喜びした俺は、ただ髭を剃り、体を拭き、祭壇で神に祈った後、再びこの部屋に戻された。
まるで道化だ。
道化といえば、俺のあり方そのものが道化ではないか。
なすべきことをなすためとはいえ。神子を想い、神子に恋し、約束された身分すら放りだした。
そして、最終的にはこのザマだ。
因果が応え、報いとして灰の中。
己の浅ましい本能を恨まなかったことはない。
己の浅ましい欲望に打ち勝てる姿は、未だ想像に難い。
道化だ。
カードの道化師。法則から外れた、理外の手札。
俺の頭では、ジョーカーにはなれない。それは理解している。
ならば。
せめてジョーカーを演じよう。
善く通る声で、俺にしかできないハッタリを決めてやろう。
硬いベッドに体を預ける。
この夜。皇太子ルシュリエディトはどこか満足し、ぐっすりと眠れたらしい。
ソルモンテーユから北の離塔。
罪人の収容所。水に囲まれた、灰色の塔。
三年前の、火の季節のことであった。
感想はtwitterタグ「#業深少年旅行」にて行われますと拾えます。当タグでは、随時AIによる挿絵も公開されてゆきます。




