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自転車を漕いで横転した

作者: 自転車を漕いだら横転した

7月下旬。生暖かい風の洗礼を受けながら、アスファルトの上で、自転車のペダルを漕いでいた。

特にこれと言って代わり映えのしない景色を眺めていると、自転車の少し先。詰まる所、目の前を、小さな茶色の塊達が通り過ぎて行った。

空へと舞い上がる三匹の雀。

ふと気を取られて空を見上げる。

気持ち悪いくらいに真っ青で、雲一つ無い良く晴れた空だ。雀は空の遠くに行ってしまって、身体が大きく傾いた。

自転車のサドルから手が離れて、硬いアスファルトの地面の上にスッ転ぶ。

地面に大の字に転がって、後悔の念に襲われながら大空を仰ぐ。

視界の端で、電線の上に1羽。

黒い鴉が、此方を馬鹿にするような調子で鳴いた。


何となく眼を閉じて、開ける。

その何気ない動作の後、猛烈な違和感に襲われる。

息が詰まり、背を汗が伝う。上手く呼吸ができない身体が痺れた様に動かない。視界が揺れて景色が震える。訳も分からず気が動転する中、無理矢理に肺を動かそうとする。大きく息を吸って、大きく息を吐く。


そのまま暫くの間、繰り返していると次第に鼓動が鎮まってきた。寝転がったまま違和感の正体を探る。

心地好く吹き付ける風、嗅いだことの無い程に澄み渡った大気。太陽の無い真昼の青空。その向こうにぼんやりと広がる霞のような不確かな街の景色。


「...何処だよ、此処」


思わず呟いた。本当に何処だよ此処。

右を向いても左を向いても全く知らない処か、人工物の一つも見当たらない。獣の一匹、虫の一つも見当たらない。いっそ清々しいくらいに草花で満ちている。


相変わらず寝転がったまま身体をまさぐる。

薄手のズボンに長袖のワイシャツ。

無造作にポッケに突っ込まれたままの茶色の財布。

誕生日に貰った銀の腕時計の秒針がチクタクと小さく音を立てて動いていた。


深く溜め息をついて漸く身を起こす。幸いにも無くした物は一つもない。後は此処が何処か分かれば良いのだが。そう考えて、もう一度深く溜め息をついて首をもたげ、何処までも広がる青空を仰いだ。

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