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<18> 愛の言葉

 大泣きして落ち着くと、さくらはゆっくりと起き上がった。テナーが慌てて駆け寄り、さくらを支えた。さくらは上半身を起こすと、ルノーからお茶を手渡された。


「あの、私と陛下はどのように助けられたのですか?」


 さくらはお茶を受け取りながら、ルノーに尋ねた。


「さくら様がドラゴンに襲われて、川に落ちてしまった後・・・」


「・・・襲われた・・・?」


「はい。覚えておりませんか?さくら様はドラゴンに襲われ、引きずられるように川に落ちたと聞いております」


「・・・はあ、そうですか・・」


「少し流されたところで、陛下と一緒に岸辺に倒れているところを兵士に発見されたのです。その時には既に陛下は大怪我を負われていたと聞いています」


「きっと、陛下がドラゴンを倒して、さくら様を助けてくださったのですね!」


 テナーは興奮気味に叫んだ。ルノーも頷いた。


「そうだったんですね・・・」


 さくらは一口お茶を飲むと、ふーっと息を吐いた。かなり湾曲されているが、そういうことにしておいた方がいいかもしれない。さくらはお茶をサイドテーブルに置くと、ベッドから飛び降りた。


「さくら様?!」


 突然のさくらの行動に、侍女の二人は慌てた。


「陛下のところに行ってきます」


 さくらはそう笑うと、扉の方に駆けだした。


「お待ちください!まだ安静にしていないと!」


 ルノーが叫んだが、さくらは扉に手をかけて、振り向くと、


「大丈夫ですよ!もう元気です」


とにっこり笑った。そして外に出ようとしたが、駆け寄ってきたテナーに扉を閉められた。


「さくら様・・・。でも・・・、御髪が・・・」


 テナーの気の毒そうな視線に、さくらはハッとした。そう言えば心なしか頭が軽い。首元に手をやると、自分の髪の毛のすそが目に入った。さくらは青くなり、ふらつきながら姿見鏡の前に立った。


「・・・!」


 長かった髪は、肩の上辺りで汚らしく不揃いに切られていた。ジュワンに切られた時の恐怖が蘇り、身震いした。思わず両腕を抱えると、テナーがそっと傍に来た。


「すぐに髪結いを呼びます」


 そして、労わるようにさくらの手を両手で握った。


「そ、そうね!ちゃんと綺麗にしてからじゃないと、陛下の前に出られないわよね!」


 さくらは無理やり笑顔を作って、明るく言った。テナーの目に涙が浮かんでいる。


「泣かないで、テナー。髪の毛なんてすぐ伸びるんだから!」


 さくらはテナーの手を握り返した。そして泣いているテナーの手を引いて、ベッドまで戻ると、髪結いが来るまで、もうひと眠りすることにした。




 さくらは髪を綺麗に整えてもらうと、すぐに部屋から飛び出し、ノアの部屋に向かった。ノアもまだ眠りから覚めてもいないし、さくら自身も安静にしなくてはいけないと、ルノーと医者に止められたが、とてもじっとしてはいられなかった。


「寝ているお顔を見るだけです。すぐに戻ってきますから」


と言い、部屋から出てきた。


 ノアはベッドの上で眠っていた。さくらが部屋に入ると、ノア付きの侍女たちは、さくらに一礼し、部屋から出て行った。


 さくらはノアの傍に近寄り、顔を覗き込んだ。規則正しい寝息にホッとし、傍にある椅子に腰かけた。さくらはノアの手そっと握った。その手にはしっかりと指輪がはめてある。さくらは涙が出てきた。さくらはノアの額にキスをすると、手を握ったまま暫くノアを見つめていた。


「・・・ん?・・」


 いつの間にかノアのベッドに顔を伏せて眠っていたようだ。さくらは慌てて体を起こすと、そっとノアの手を離そうとした。しかし、その手はしっかりさくらの手を握っていた。


「え・・・?」


 驚いてさくらはノアを見ると、ノアはゆっくりと目を開けてさくらを見た。


「陛下・・・!」


 さくらの目から一気に涙が溢れてきた。ノアはゆっくりと上半身を起こすと、しっかりとさくらを見据えた。


「お前が・・・、さくらが無事でよかった・・・。でも・・・」


 ノアは片手で、短く揃えたさくらの髪をすくうと、


「髪を・・・、すまない・・・」


 苦しそうに呟いた。さくらはブンブンと顔を横に振った。そしてノアの手を両手でしっかりと握ると、ノアをじっと見つめた。ノアはそんなさくらを愛おしそうに見つめ返すと、さくらの頬に手を添えた。


「どうして・・・、どうして、指輪を外さなかったのですか・・・?」


 さくらの問いに、ノアは黙ってさくらの涙を親指で拭った。


「・・・外したら、こんな目に会わないで済んだかもしれないのに・・・。それに・・・、二度と人間に戻れないってわかっていたのに、何で?何でドラゴンになったのですか・・・!」


 さくらは責めるようにノアに聞いた。ノアが何度も涙を親指で拭っても、すぐに新しく溢れてくる。ノアには自分の為に涙を流すさくらの顔がとても美しく見えた。


「すまない。自分のエゴだ」


 さくらの顔に見惚れながら、ノアは優しく呟いた。


「先王から譲られた王座は大切なものだ。そう簡単には渡せない」


 ノアはさくらの涙を拭いながら、続けた。


「・・・それだけではない。国王の座は自分の意志で止めることができるが、『異世界の王妃』の呪縛は絶対に逃れられない。俺が国王の座を降りて自由の身になったとしても、さくら、お前を連れて行くことができないのだ。」


 さくらはじっとノアの言葉に耳を傾けていた。ノアはさくらの頬に添えている手に少しだけ力を込めた。


「さくらの夫であり続けるには、俺は国王でなければならない。・・・俺は王座というより、お前を渡したくなかった・・・!誰にも!どうなろうとも!」


 ノアは真っ直ぐさくらを見つめた。その目には一切の迷いはなかった。ノアはさくらの手を両手でしっかり握ると、そのまま自分の唇に押し当てた。


「俺はお前以外いらない。生涯、妻はお前以外娶らない。だから、どうかもう一度俺を見てほしい」


 ノアは顔を上げ、さくらの返事を待った。さくらは相変わらず泣いていたが、目は輝いていた。そして、ブンブンを何度も首を縦に振った。ノアはふっと笑うと、さくらの唇に口づけようと顔を近づけた。だが、さくらは急いで手を離すと、片手でノアの唇を塞いで、口づけを阻止した。


「!?」


 ノアが目を丸めていると、さくらはまだ涙が渇かない顔で悪戯っぽっく笑った。


「まだ言ってないことがありますよ、陛下」


「言ってないこと・・・?」


 さくらは微笑むと、


「言ってないことというより、『言って欲しいこと』です」


 さくらは再びノアの手を両手で包んで、じっとノアを見つめた。


「陛下の私に対する気持ちです。私はその言葉が聞きたい。・・・それが聞けたら、私、その言葉を信じて、一生陛下について行きます」


 熱いさくらの眼差しにノアの鼓動が一気に高まった。さくらへの好意は態度でいくらでも示してきたが、肝心な言葉にして伝えたことはなかった。気恥ずかしくて口にできなかったのが正直なところだ。ノアは頬と耳が熱くなっていくのが分かった。こんなに動揺する自分は珍しい。脈がどんどん速くなっていく気がする。


(でも、さくらが望むなら・・・)


 ノアは意を決して、さくらを見つめた。少し首を傾げて切なげに自分を見つめているさくらの愛らしさに、ますます動悸が早まった。ノアはそれ抗うようにさくらの手を強く握りしめた。


「さくら・・・。俺はお前のことが好きだ。お前を愛している。心か・・ら・・」


 さくらの唇で口をふさがれ、最後まで言葉を紡げなかった。さくらはゆっくりノアから唇を離すと、にっこりとほほ笑んだ。


「陛下。私も愛しています、誰よりも。世界で一番好き!」


 そう言うとノアに抱きついた。ノアはしっかりと受け止め、きつく抱きしめた。肩の傷の痛みなど気にならなかった。そして、さくらの耳元に唇を寄せると、愛しているとささやいた。今まで溜めていた思いをすべて伝えるかのように、何度も何度もさくらが求めていた言葉を囁いた。


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