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<15> 帰還

 皆が驚き、頭上を見上げると、一頭の巨大なドラゴンが、中庭に向け急降下してくる姿があった。一気に地上はパニックになった。さくらを押えていた兵士は、さくらを放り出して、一目散に逃げだした。ノアを押えていた兵士も、一人は腰を抜かし、一人は駆け出した。ガイも恐怖で固まっていた。


 ドラゴンは地上ギリギリまで来ると、口から火を吐き、周りの木々や建物に火をつけ、空中へ舞い上がった。空で旋回すると、再び地上に向け急降下し、火を放った。

 ノアは、恐怖で固まっているガイを蹴り倒し、ナイフを奪うと、テーブルを飛び越え、さくらに駆け寄った。そしてしっかりと抱きしめると、そのまま脇に抱え、イルハンの元に行き、縄を切った。


 その間も、ドラゴンは攻撃を止めず、撒き散らした炎は城のあちこちに引火して、それがどんどん燃え広がり始めた。イルハンは逃げた兵士が落としていった弓矢を拾うと、ノアとさくらを背に庇うように、ドラゴンに向かって矢を構えた。さくらは、慌てて背後からイルハンに抱きついて、矢を放つのを阻止した。


「撃っちゃダメ!!」


 イルハンはギョッとして、自分にしがみ付いているさくらを見た。


「しかし・・・」


 さくらはイルハンから離れると、前に飛び出した。そしてドラゴンに向かって両手を大きく振った。


 空を旋回していたドラゴンは、さくら目がけて急降下してきた。さくらはてっきり自分の前に着地してくれると思っていたが、そんなことはなかった。ドラゴンはさくらを掴むと、すぐに急上昇した。さくらは二人が地面に取り残されているのを見て、青くなった。慌ててドラゴンに、


「あの二人も!!あの二人もお願いします!助けて!」


と大声で叫んだ。風の音が大きく、ドラゴンに自分の声が届いているか分からない。さくらは何度も何度も叫んだ。


「うるさい。聞こえている」


 ドラゴンは呟くと、一気に急降下した。さくらは風圧をまともに受け、目をぎゅっと瞑った。ドラゴンの体勢が上昇に変わったとき、目を開けて横を見た。ドラゴンの反対の足元にノアとイルハンの顔があった。二人は向かい合わせでしっかりと抱き合うような形で掴まれて、少し窮屈そうだった。さくらはホッとして、ドラゴンにお礼を言ったその時、大砲が横をかすめた。驚いて下を見ると、一台の大砲がこちらを向いている。操作をしているのはトムテだった。


 トムテは弾を詰め込むと、ドラゴンに狙いを定めた。だが次の瞬間、トムテの額に矢が刺さった。さくらはハッとして横を見た。撃ったのはイルハンだった。無理な体勢でも何とか矢を放ったのだ。トムテはそのまま仰向けに倒れて、動かなくなった。


 ドラゴンはぐんぐん上昇した。三人が下を見ると、城の全体が見えた。炎はどんどん燃え広がり、城で働く人たちが、わらわらと火の気のない庭の方に逃げていくのが見えた。その中にアンナとカンナの姿も見えた。さくらは二人が無事に逃げているのを見て安心したが、同時に後ろめたさと申し訳ない気持ちが溢れてきた。


(アンナさん、カンナさん。ごめんなさい・・・。そしてありがとう・・・)


この後も、どうか無事でいますようにと心から祈らずにはいられなかった。




 上空で、ドラゴンはどこか好きな場所で降ろすと言ってくれた。イルハンは船が隠れている入り江を教えると、ドラゴンは一直線に飛んで行った。

 小舟では三人の兵士が、今か今かとノア達の帰りを待っていた。そこにドラゴンが現れ、慌てふためいた。それぞれ武器を取り出したが、足元に人影らしいものに気が付き、それがノア達と分かると青ざめた。


 ドラゴンはゆっくり入江に近づくと、砂の上に、三人を放った。相変わらず容赦なかった。さくらはすでに痛めていた左足首から着地してしまい、とうとう自力では立てないほど痛めてしまった。ノアはすぐにさくらのもとに駆け寄ると、上半身を抱き起した。さくらは激痛で顔面蒼白だった。それでも、何とかドラゴンの方に体を向けると、深々と頭を下げた。


「助かりました・・・。本当にありがとうございました」


 イルハンもそれに習い、共に頭を下げた。それを見た兵士たちは慌てて武器を置いた。しかしノアだけは納得がいかにようにドラゴンを見つめていた。


「あの、でも何で助けてくれたんですか?」


 さくらはドラゴンに尋ねた。


「子供のためだ」


 ドラゴンはそう答えた。さくらは首をかしげると


「あの子は温泉をすっかり気に入った。お前のことも気に入ったようだ。泣いていたお前を気にしていた」


 そう溜息をついた。


「仕方なくお前を探していたら、悲鳴が聞こえた。だから助けた」


 さくらは感動した。山ではすっかり見放されたと思ったのにそんなことはなかったのだ。やはりドラゴンだって善意はもっているのだとさくらは思った。


「もういいだろう」


 ノアは話を遮り、さくらを横に抱きかかえると、立ち上がった。あまりにも自然に自分を抱きかかえたノアにさくらは目を丸めた。ノアは無言で踵を返し、船に向かおうとしたが、思いとどまって、ドラゴンに振り向いた。


「俺からも礼を言う」


そう言い、イルハンと共に船に戻ろうとすると、ドラゴンがノアに声をかけた。


「おまえだけ、話がある」


 ノアはドラゴンに振り返ると、さくらをイルハンの腕に預けた。そして二人だけ先に船に戻らせた。


「おまえ、魔術がかけられているな」


 ノアと二人きりになると、ドラゴンは切り出した。ノアは頷いた。


「誰にかけられた?」


「自国の、ローランドの精霊山にいるドラゴンだ」


 ノアが答えると、ドラゴンは呆れたように、


「それはとんでもない奴に術をかけられたな」


と呟いた。そして改めてノアを見据え、


「気付いていると思うが、術は半分以上解けているぞ。もう勝手にドラゴンに変化することはないだろう。だが気を付けろ。もし怒りなどで我を忘れた時、また体に残っている術が噴出し、再びドラゴンに変化するだろう。そうなったら、もはや朔の夜であろうとも、人の姿に戻れないと覚えておけ」


と忠告すると、翼を広げ、一気に空へ舞い上がった。そして一度旋回すると、飛び去って行った。


 さくらは小舟から、飛び立ったドラゴンにありがとうと叫び、姿が見えなくなるまで手を振っていた。


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