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<12> 再会

 温泉で体をしっかり温めると、さくらは半渇きの寝巻を着て、ドラゴン親子に声を掛けた。


「あの、そろそろ帰りませんか?」


 ノアがイルハンと合流ができれば、すぐに自分を迎えに来るはずだ。戻ったときに自分がいなかったら、どれほど心配するだろう。しかし、ドラゴンは気持ちよさそうに目をつむり、さくらを無視した。


「そろそろ帰らないと。人が迎えに来るはずなんです。返してもらえませんか?」


さくらはもう一度ドラゴンに声をかけた。するとドラゴンはうるさいとばかりに、さくらに背を向けてしまった。


(うそ・・・)


 これにはさくらも面食らってしまった。


「あの滝の場所まで返してもらわないと困るんです!」


 さくらはドラゴンの背中に向かって叫んだ。ドラゴンは面倒臭そうに、顔だけ振り向くと


「勝手に行けばよいだろう」


 と言い放ち、また背中を向けてしまった。


「一人じゃ無理ですよ!!」


 さくらは叫んだが、ドラゴンは振り向かない。


「勝手に連れてきておいて、それはないですよ!ちょっとあんまりじゃないですか!」


 さくらはドラゴンの顔が見える位置に移動し、面と向かって叫んだ。するとドラゴンは目を細めてさくらを睨んだ。さくらは背中にゾクッ冷気が走り、思わず後ずさりした。


「勝手に私の住処に入り込んで、殺されなかっただけでもありがたく思え」


 ドラゴンの目線は冷たかった。自分の知っている瞳と同じ緑色なのに、この親ドラゴンの瞳には温かみを感じなかった。さくらは自分が受け入れられたわけではないと思い知った。

 さくらは仕方なく、戻る方向だけでも教えてほしいと頼んだ。


「この山を西に降りれば城にでる。そのまま森へ入り、南西に向かえばいい」


「お城に出たらまずいんです!私はお城から逃げてきたので!」


「では東に迂回していけばいい」


(・・・東・・・。太陽は・・・?)


 夜が明けてから二時間くらい経ったろうか。まだ太陽は東寄りにあるはずだ。さくらは空を見上げると絶望した。今にも雨が降りそうな曇天の空が広がり、太陽が全く見えなかった。

 さくらは途方に暮れ、立ち尽くした。東西南北も分からない自分の無能さと、親ドラゴンに見捨てられた悲しさで、じわじわ涙が浮かんできた。


「・・・。逃がしてやるのに、何故泣く?」


 ドラゴンは少し不思議そうに聞いてきた。


「・・・東の方向が分からないんです・・・。それに、私、方向音痴で一人じゃ無理なんです・・・。助けてくれませんか?」


 ドラゴン面倒臭そうに、東の方向だけ顎で教えてくれた。それ以上の助けはなかった。さくらは、イルハンが言っていた『ドラゴンは邪悪とは言わないまでも善意は持っていない』という言葉を思い出した。このドラゴンにとって、さくらを開放するだけでも、きっと多大なる善意なのだと思い、これ以上は諦めた。

 ドラゴンにペコリと頭をさげると、教えてもらった『とりあえず東』の方向に足を向けた。




 ノアには不思議なことが起きていた。朝日がすでに昇っているのに、自分は人の姿のままだったのだ。魔法でドラゴンの姿にされて以来、新月の夜から朝日が昇るまでの間だけ、人の姿に戻れていたのだが、今は全身に朝日を浴びているのにドラゴンの姿に戻っていなかった。


(恐らく、首輪と三本の腕輪が外れたからだろう・・・)


 この五つのリングこそが、ノアにかけられた呪縛であった。このリングのせいでノアは醜いドラゴンの姿に変えられ、新月の一時しか人の姿に戻れない呪いが掛けられていたのだ。そしてその呪縛を解放したのは、まぎれもなくさくらだった。いくら魔術の砲弾をまともに受け、リングに傷がついたとしても、簡単に割れるような代物でないはずだった。今までも幾度も外そうと試みたが、リングは肌にピタッと吸い付き、まったく動かない。それでも無理やり壊そうすると、リングは熱く熱を帯び、とても触っていられない状態になる。結果、毎回断念せざるを得なかった。それをさくらは、いとも簡単に割ってしまったのだ。


(本当にさくらは魔術を回避する力があるのかもしれない・・・)


 イザベルという女の魔法の扇も破り捨てていた。全く魔術など意に介してないように。もしかしたら、異世界人のさくらにはこちらの魔術は深く効かないものなのかもしれない。


 しかし、今は余計なことを考えている暇はなかった。皮肉なことだが、ドラゴンに戻れないことは、現時点では不利だった。鷲程度の大きさの自分であれば、敵の兵に気付かれることなく、比較的簡単にイルハンを見つけることができると考えていたのだ。イルハンは優秀な兵士だ。そう簡単に敵に捕まるはずがない。自分と同じように逃げ延びて、入江に向かってはずだ。ノアは周りに細心の注意を払いながら、イルハンを探し始めた。

 

 ノアの考え通り、イルハンは入江へ急いていた。走りながら、上手く二人が船まで辿り着いていることを祈っていた。朝日が完全に登っているので、ノアはドラゴンの姿に戻っているはずだ。無事に船に着いていれば、さくらを船に残し、自分を探しに来るだろう。ドラゴンでいるときの視覚と嗅覚は人間でいるときの数倍はあると聞いていた。ましてや小さい姿で敵に見つかりにくい。ノアの方が自分を見つけ出すだろうと考えていた。


(でも、もし道中に朝日を迎えていたら・・・)


 一抹の不安がよぎる。もしさくらの目の前でドラゴンの姿になってしまったら・・・。そう思うと生きた心地がしなかった。いくらさくらがドラゴンに心を許しているとはいえ、正体が陛下だと知ったらどれほど驚くだろう。何よりも陛下は、自分が醜いドラゴンであることをさくらには絶対知られたくないはずだ。


 しかし、出会ったのは人の姿のノアだった。お互い追手だと思い、危うく襲い掛かるところだった。ノアだと分かると、イルハンは感動で言葉を失ってしまった。


「詳しい話は後だ」


 感極まっているイルハンに、ノアは間髪入れずにそう言うと、すぐに一緒に来るよう命令し、もと来た道へ走り出した。イルハンは慌ててその後を追った。


 二人がもう少しで滝つぼが見えるところまで戻ったとき、何か巨大な影が空を飛んだ。見上げると大きなドラゴンが旋回しているのが見えた。そしてその足元には人らしいものを掴んでいた。


「なっ!」


 ノアとイルハンは絶句した。巨大なドラゴンが足に掴んでいるのは、まぎれもないさくらだったからだ。二人は急いで近くにある木や岩に登り、ドラゴンの姿を追った。ドラゴンが城の後ろの山に向かって飛んで行ったことを確かめると、二人は急いでドラゴンの後を追って走り出した。




 さくらは、東に向かって山道を下り始めてすぐに後悔した。どう考えても、一人であの滝つぼまで戻るのは不可能だった。それだけではない。今朝から飲まず食わずで、激しい運動と過酷な労働をした上に、温泉まで浸かるなどという無謀なことをしてしまったので、体力を消耗し切っており、もはや脱水症状の寸前だった。


(やっぱりもう一度、親ドラゴンにお願いしてみよう・・・。このままじゃ、ヤバイ・・・)


 そう思いながら、川に向かって戻ろうとした。だがもう頭はクラクラしてどこにどう行けばいいか分からない。フラフラになりながら歩いているところを、ゴンゴの一隊の捜索隊にあっさりと見つかってしまった。

 おそらく、東に向かおうが西に向かおうが、さくらが見つかるのは時間の問題だっただろう。ドラゴンがさくらを掴み、飛び立って行ったのを見たのは、ノアやイルハンだけではなかった。当然だが、ゴンゴの兵士たちほとんどが目撃していたのだ。そのため、急遽標的を変え、兵士総動員で、城の後ろの山へ向かってきていたのだった。


 ゴンゴの兵士はさくらを保護すると、まず水を与えてくれた。そして屋根のない輿に乗せると、山道を下り始めた。さくらは輿の上で横になり、ミノムシのように体を丸めた。少しずつ頭が正常に働いてくると、さくらは自分がとんでもない状況にいることに気が付いた。なんという失態を犯してしまったのだろう。ノアとイルハンの努力を無駄にしてしまったのだ。これからどうすればいいのか。さくらは不安に駆られ、さらに体とぎゅっと丸めた。


(考えろ!考えろ!)


 さくらはぎゅっと目をつぶって、自分に言い聞かせていた。その時――。

 二つの人影が音もなく、いきなり攻めてきた。さくらは自分の輿が下に降ろされるのを感じたが、自分の思考に夢中で、暫く顔を上げなかった。しかし、叫び声と異様な物音で、慌てて顔を上げると、目の前に自分を保護した一隊の兵士全員が地面に倒れていた。


 唖然としているさくらの腕をつかんだのはノアだった。ノアはさくらを立たせると、輿から降ろした。そしてイルハンと共にすぐにその場を立ち去ろうとしたが、一足遅かった。

 三人は後から来た二組の捜索隊に追い付かれ、すべての行く手を阻むように、周りを囲まれてしまった。


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