全ての謎を、見破りました!
「なっ……なんだって! この事件の犯人が分かったって言うのか!?」
男は探偵の宣言に驚きの声をあげました。
「ええ、その通りです。だからこそ、皆さんにこの場所へと集まっていただいたのですよ」
「そんな……あの世にも奇妙で不気味な完全密室殺人が、亡霊や悪魔の仕業じゃないってこと!?」
不信感を隠そうともせず問いかける女性。
「はい、そんなものはこの世界に存在しませんよ。今から全てを説明します。ですが、その前にいくつか確認したいことがあります……御留崎さん!」
「……なんだよ」
「あなた、女装癖をお持ちですね?」
「……なっ……何をふざけたこと言ってるんだ! そんな訳ないだろうが!」
探偵の突飛で無礼な問いかけに対して、青筋を立て否定する御留崎。
「別に恥ずかしがることではないでしょう。最初に不思議に思ったのは、顔や喉に比べると僅かに日に焼けていないあなたのうなじを目にした時でした。ウィッグを付けて外に出ているからこそ、そこだけ日焼けしていなかったのでしょうね」
部屋の中を落ち着きなく歩き回りながら、推理を披露しはじめる探偵。
「さらに歩き方、重心の位置も不自然、いえ、整い過ぎていました。首・肩・腰・かかとが一直線に並び、足全体で着地している……まるで、ハイヒールを履き慣れている女性のようにね。確信を持ったのは、あなたの服についていたラメを見つけた時です。こっそり鑑識に回して確認してもらい、あなたがこの商品を都内のネイルサロンで購入していたことも裏付けが取れています」
淀みない探偵の言葉にじわじわと追い詰められている男は、滝のような汗をかきながら小刻みに震えています。
「もちろん、ここまで挙げてきたのは、ただの状況証拠に過ぎません。しかし、あなたは言い逃れの出来ない決定的な証拠をまだ持ち歩いて……いいえ、身に付けているのではありませんか? そのスーツの内側に!」
御留崎を指差し最後の決め手を突き付けた探偵。彼は、力なくその場に崩れ落ちました。
「……ちくしょう……ああ、認めればいいんだろ! だが、趣味で女装して一体何が悪いってんだ! それと今回の事件、どう関係あるっていうんだよ!!!」
「全く、これっぽっちも関係ありませんよ」
「……は?」
御留崎だけでなく、探偵を除いた全員が口をポカンと開けていました。
「探偵として、違和感を覚えたものごとに対しては徹底的に追及し、捜査するのは当然の職務です。でも、それらが全て事件に結び付いてくれるわけじゃないでしょう? しかも、謎解きが終われば皆様に確認をする機会は二度と訪れません。せっかく苦労して真相を突き止めたのですから、きちんと答え合わせがしたいじゃないですか!」
「……そ、そんなどうでもいいことのために俺の秘密は暴かれたのか……」
「ふう、おかげでスッキリしました! ……では……次の確認作業に移りましょう!」
悪びれる素振りもなく満面の笑みを浮かべる探偵に対して、全員一歩後ずさりしました。それから、その場に居合わせた全員が今までひた隠しにしてきた性癖、趣味、関係は、容赦なく、ことごとく、白日の下に晒されてしまいました。
あるものは露出癖を、あるものはペンネームを、あるものは不倫相手を、その他文章にすることも憚られるような数々の秘密が次々と暴露されていきました。
全てが終わったときには、呆然として座ったまま静かに涙を流すもの、壊れたように笑い続けるもの、探偵に一矢報いようと拳を握りしめ殴りかかろうとするところを警官に羽交い絞めにされるものたちで、まさに阿鼻叫喚の様相を呈していました。
ちなみに事件の真相は、偶然の事故というあっけないものでした。とある趣味を持っていた被害者は、シルクハットを被り、目隠しをして、両手を後ろ手に縛り、口に生魚を咥え、全裸になった状態でベッドからバク宙を試みて、机の角に勢いよく後頭部をぶつけて亡くなったのでした。
探偵は紳士たるもの故人の秘密を勝手に暴くわけにはいかないと、被害者の謎めいた趣味については頑なに明かそうとしなかったので、この騒動に巻き込まれた犠牲者たちは更に怒り狂い手が付けられなくなってしまったそうです。
弱みを握られ傀儡となっている警察が何とかその場を収拾している隙に逃げ出した探偵は、今もどこかでありとあらゆる謎を見抜き、事件を解決しつつ、順調に被害者を増やしていることでしょう。




