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Another Dystopia  作者: PIERO
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2031年9月 託された思い(上)

 入社しこの部署に異動してから一年と九か月、俺はAIの研究とITの技術の情報収集に力を費やしていた。

 

 理由は二つ。一つは俺がこの部署に異動したことによって変化が起きている可能性があるかもしれないからだ。この部署に異動したという出来事は既に俺が知っている未来の道筋ではなく、新たな未来の道筋になっている。万が一、あの崩壊した世界の歩みが早まったのならばその対策も考えなければならない。最も、技術の進歩は突発的に進化することはなく、緩やかに進化し続けていることから前の世界とそう変わりないと判断し、半年後にはニュースを見ることはなくなったが。

 

 そしてもう一つの理由は単純に俺のスキルアップのためだ。「我が作ったこのVelu言語を覚えよ!」と嘉祥寺に言われ、覚えたのはいいが、その言語を用いてプログラムするためには専門のスキルはもちろん、Velu言語特有の技術が必要だった。前の世界では会社に勤めていた数年以外はVelu言語にしか触れなかった分、この時代の技術を忘れてしまっていることが時折あった。そのため俺は暇な時間を作り、できるだけその遅れを取り戻そうと日々スキルアップを図っている。


「とはいえ、未だに何も変化なしか。まあ、この時は何も起こってないからな。

仕方ないと言えば仕方ないが…」


 画面を前に俺は小さく呟く。無数のソースコードと複数のファイルを前に俺は目薬を点滴して気持ちを入れ替える。一年と約半年この部署に勤めているおかげでようやく仕事の軌道が理解した。


 俺が務めているこの部署の正式名称は『パブリック・システムズ技術開発部』という。基本的に部署によって各分野を研究することに特化しているが、その時間の大半は企業の依頼によってプログラミングすることである。とはいえプログラミングに特化している俺たちの部署は日に平均三時間程度で案件のプログラミングを行えば締め切りに間に合う。そして残りの時間は各分野の研究をするために時間を費やす。こんな日常を半年近く過ごせば自然と慣れてしまう。


「回される案件は面白みのないものばかりとはいえ、馬鹿にはできないからな。

…よし、これで今日のノルマは終了だな。早速ラボに向かうとするか」


 俺は仕事用のパソコンをシャットダウンさせると6階の部署を後にし、7階の研究室へ向かう。エレベーターを使うのもよかったが、ここ最近デスクワークが続き体を動かさないといけないと判断して半年以上階段を使っている。

 7階に到着し、カードキー、指紋認証、音声認証の三重の警備を済ませ、目的の研究室に到着する。今日こそ一番乗りだと思ったが、すでに一人先に今日のノルマを終えてコーヒーを飲んでいる人物がいた。


「あ、弁田君。今日は早く終わったんだね。仕事の調子はどうかね」


 変わった口癖を持つ人物、七瀬聖は俺に気が付くと軽い挨拶をする。入社して一年、聖先輩とはこの施設を案内したり、研究対象が似ていることからよく話すことが多い。後で聞いた話だが入社したのは高校を卒業した後らしく年も一個下である。


 年下の上司として一緒に活動してきたおかげか聖の性格が読めてくる。大まかに表すと彼女は真面目で感情を顔に出やすい性格だ。興味があることに対してははきはきとしているが逆に興味がないと一切反応しない。研究に対しても非常に熱心であり、集中して周囲が見えなくなってしまうこともざらにある。それがプライベートの時はまだいいが、仕事の最中でもやってしまうため、この会社の多くの人物からはあまり好ましく思われていないだろう。裏を返せばそれほどに研究やプログラミングが大好きで、真剣に取り組んでいるということだが。


「それなりに進んでますよ。

それにしても相変わらずその『ね』っていう語尾の使い方おかしいですね。

それで、聖先輩は何をしているんですか?」


「今日は深層学習の研究ね。従来のタイプは問題なく再現できてるけど、

やっぱり色々付け加えると余計なデータが蓄積することが多いのよね」


 聖先輩のデスクに置かれている一台の小型カメラと複数の写真を見て俺は研究が行き詰っていることを理解する。俺はその画面に表示されているソースコードを見て聖に意見をする。


「多分、余計ってわけじゃないと思いますよ。その学習があって現段階まで進んでいますから。

処理が重くなった原因はソースコードそのものに問題があるかCPUの性能そのものかと思いますが、見たところコードそのものには問題はなさそうですよね」


「そうなのね。CPUに問題があるのは承知だけどね、予算の都合もあるからおいそれと高性能のCPUに変えることができないのね。

だからコードを省略しようと試みているんだけど、これがなかなかうまく調整できないのね」


 長時間同じ姿勢をし続け影響か、こわばった体をほぐすため、聖先輩は背筋を伸ばしつつ今の時間を確認する。丁度昼時であることを確認した彼女は席を立ち、研究室を後にしようとしていた。


「時間も丁度いいし、昼食を食べようかと考えているけど、弁田君もどうかね?」


「是非お供させていただきます」


「その言い方、あまり好きじゃないね。もっと溜口でもいいね」


「仕事と私生活で話し方を分けているんです。

それに、溜口は私が聖先輩よりも偉くなった時まで我慢しますよ。

それまではこうして媚を売りつけるよ態度に徹します」


「それ、本人の前で言うかね?まあいいけど。場所は志士そばでいいかね」


「構いませんよ。ところで昼食は先輩のおごりですか?

今こそ先輩の器の見せ所だと思いますが?」


「確かに社内においてわたしの立場は弁田君に比べれば先輩だけど、人生の上下関係で言うならば弁田君のほうが先輩だね。

どうかな、ここは一つ公平に割り勘という形でいいかね」


「要するに普段通りですね。わかりました。時間が惜しいのでさっさと行きましょう」


 聖先輩は何故か溜息をつき、「もっと会話のキャッチボールを…」と呟いていたが、まともに付き合えば本当に時間が無くなるので歩みを速め、目的地の志士そばへ向かうことにする。慌てた子供のようについてくる聖先輩の様子を見てこれ本当に先輩なのかと疑いたくなるが。

 

 会社から徒歩五分の所にその店はある。志士そばは立ち食いそばのチェーン店だが、低価格、美味、そして注文してから提供されるまでの時間が早いことに定評なこの店は俺や聖先輩だけでなく、色んな社員がお世話になっている。

 昼時となると店は客でいっぱいで、多少の行列が並ぶこともざらにあるが、待ち時間はそれほどでなく、すぐに店内に入ることができる。俺と聖先輩は店内に入ると目の前のAIロボットに注文をした。


「にしても、このAIロボットのおかげでかなりこのお店の回転率が上がったと思うね…って聞いてるかね弁田君?」


「聞いてるます。ですがそんなに自社製品を見るなら研究室でいくらでも見れるじゃないか」


「わかってないね。

動いていないロボットを見るよりも実際に活動しているロボットのほうがデータをより獲得できるんだね。そのために毎日ここに通っているからね」


 未だに絶えない客の注文を聞き続けているAIロボット『お蕎麦君』を欣快(きんかい)そうに観察している聖先輩を見て俺は呆れ半分感心半分で彼女を見る。ロボットを観察するためだけに毎日通っていたとは思わなかったが、全て自身の研究のためという理由がわかればなんとなく共感はできる。

 話は変わるが、このお蕎麦君は絶えず来店する客の注文を聞き、それを厨房に知らせるAIロボットである。一見、某携帯会社が開発したAIロボットに似た性能を持っているが、このロボットの最大の特徴は複数の音声を聞き分けることができることである。その結果、一度に複数人の客の注文を聞き分け、素早く商品を提供できるという人間ではできない役目を果たしている。


 そんな役目を果たしているお蕎麦君を観察し続けて飽きないのか聖先輩はずっと見つめている。俺は彼女の服をつまみ移動しながら商品が提供される受け取り口まで進む。


「本当にロボットが好きなんですね。

まあ、気持ちはなんとなくわかるけど公の場では少し控えたほうがいいと思いますよ」


「ん~でも、あのロボット見ると私が今行き詰っている問題点とかわかりそうなんだよね。

ほら、音声を別々に認識できるなら、深層学習でも似たように処理できるとは思わないかね?そこんとこどう思うの開発者?(べんだくん)


「公の場で開発者なんて言わないでください。それから先輩の質問についてですが、確かに音声認識のために深層学習を利用しているのは事実です。

だけど、私が使っているCPUと聖先輩が使っているCPUとでは多分私が使っているCPUのほうが優れているので参考になりませんよ」


 聖先輩は「ちぇー。残念だね」と呟き、注文したざるそばを美味しそうにすする。自然に流したが、あのお蕎麦君を開発したのは俺だ。似たような技術だったからこそ聖は何か助言が欲しかったのだろう。しかし、それはできない。否、教えることはできないといったほうが正しいだろう。

 先ほど聖先輩に説明した理由もあるが、最大の理由はかつて未来で作り上げたニューマンの技術を応用させたものだからだ。無論、この時代にVelu言語がない以上、ニューマンのように自己意識を持つロボットなど作成することは不可能だが、猿真似程度ならPythonやJavaを用いればある程度再現することは可能だ。

 ならば教えてしまえばいいと軽率に判断して教えてしまえば、聡い聖先輩ならばおそらく自力でニューマンに匹敵するAIを完成させる可能性が万に一つあるかもしれない。そんな極小の可能性だが未来が大きく変動してしまう可能性があるなら、教えるわけにはいかない。


 お蕎麦君を見て満足したのか、聖先輩は今の観察で疑問に思ったことを俺に質問し始めた。


「そういえばさ、お蕎麦君は最大何人まで音声を認識できるの?」


「実験段階だと十四人ぐらいでした。

ですが商品として本格的に使った場合は色んな雑音を拾いますのでノイズ交じりで五人、鮮明ですと十人ぐらいですね」


 俺は油揚げを頬張り、聖先輩の疑問に答える。その返答に聖先輩は残り半分になっているざるそばを食べながら、新たに浮かんだ疑問を俺に投げるける。


「なら音声認識システムを何とかしないとならないね。

でもそれはプログラムで何とかなるかしら?」


「ある程度の誤差はプログラムを改修することで何とかなりますが、私にできるのはそこまでです。

全く仕方ないことですが、あとはAIロボットの外装を変えたり、良いパーツを手に入れない限りは機能向上は不可能ですね」


 ご馳走様。と俺は冷やしきつねそばを完食し、志士そばを後にする。食べ終わった後は速やかに店内に出ることが暗黙のルールであるからだ。

 聖先輩は未だに食べているが、そのうち完食するだろう。特に待つ理由もない俺は自分の研究をするために研究室に戻ろうとする。すると急いで食べ終えた聖先輩が志士そばから出てきた。


「ちょっと!置いていくなんて先輩の扱いひどくない!?」


「この店のルール、知ってますか?食べ終えたらすぐに撤収がルールですよ?

それに、早く研究室に戻ってやりたいことをしたんです」


「自分勝手ね。一年近く一緒に仕事してきたけど、弁田君って友達少ないでしょ」


 聖先輩の一言に俺の心肝にグサリと穿たれる。元々人付き合いが苦手であり、友人と呼べる人物もおそらく片手で数えられる程度だろう。否定できない事実を指摘され、俺は少しだけ沈黙した後、声を少しだけ振るわせて言葉を言い返した。


「な、なにを言ってますか?俺にもちゃんと友人はいますよ」


「動揺して一人称が私から俺になってるね。

ちなみにどれくらい?十人超えてたら今の言葉撤回してあげる」


「すみません片手で数えられるだけです」


 即座に謝る。するとその返答が意外だったのか、聖先輩は少し驚いたような表情で俺を見ていた。流石に青筋を立てた俺は聖先輩に対して少し強めの口調で反論する。


「先輩?私のこと一体何だと思っているんですか?十人とまでは言いませんが、それなりに友人付き合いはありますよ?」


「いや、本当に意外でね。君って基本わたしと鮫島さんぐらいしか話さないね。

それ以外の研究員に対してかなり扱いが雑というかなんというか…ね」


「そんなこと…」


 ないと言い切りたかったが、俺はふと過去を振り返る。言われてみれば、この部署に同期は一人もおらず、ほとんどが年上の先輩だらけである。加えてお蕎麦君を開発してから若干先輩からのあたりがきつくなっているような気もしなくない。

 唯一仲良くなっている聖先輩や上司の鮫島以外に確かに仲がいいと言える友人はこの会社に存在しないだろう。


「本当に君は友達がいないんだね…」


「べ、別に問題ないです。

どのみち私の研究についてこられる人なんて聖先輩だけで他は足手まといかつ邪魔ですから」


「今の言葉、絶対に研究室で言わない方がいいね。本当に君の居場所がなるくなるからね。

あと、わたしはコンビニ寄ってから研究室に戻るね」


 わかりましたよ、と空返事した俺はこの後行う予定の研究について思考しながら研究室に戻る為、歩みを進める。途中、聖先輩はコンビニに寄る為別行動となり、一人で研究室に戻った俺はパソコンの画面を見て次に何をするべきか合理的に判断し、作業の続きを行った。


 現在行っているのは新商品を開発するためのテストと調整、バグの発生条件の蒐集といった時間を多く費やすのもだ。プログラムの不具合があればすぐに訂正し、再試行。そしてまたバグがあれば訂正、再試行といった感じに完成するまでこの飽きる作業を何度も繰り返す。基本的にプログラミングが好きな俺でも無限と感じるこの試行回数だけはどうしても好きになれなかった。


「音声認識、画像認識、深層学習…。ある程度までは確認できたがやっぱりVelu言語がないときついな。あれがあるだけで試行回数は数回で済ませられるんだが、全く仕方ない。

ないものねだりはできないな」


 現代に存在しない言語にあれこれ考えても虚しいだけだ。あの言語を開発した嘉祥寺がどうやって開発できたのか今になっても謎のままだ。しかし、そんなことはどうでもいい。一刻も早く開発してほしいと願うばかりである。


「失礼します。弁田さんと聖さんはいらっしゃいますか?」


 研究室に現れたのは作業着を着た人物だった。ぼさぼさの髪と顔中にすすだらけのその男は軍手に荷物を持ちよっぽど急いできたのか息を切らしている。胸に着けている名札を見てその人物が開発部の人間であると理解した俺は席を立ち、話しかけた。


「私が弁田です。聖先輩は今席を外しているので、よろしければ代わりに受け取りますが?」


「助かります。では、これで」


 作業着の男は荷物を俺に渡すとすぐにどこかに向かっていった。おそらく自分の仕事をするために持ち場に戻ったのだろう。俺は聖先輩の荷物を椅子の上に置き、俺宛の荷物を開封する。中に入っていたのは一通の手紙とUSBだった。はて、と俺は疑問に思いながらも荷物を受け取った。


「荷物を受け取った時に言えばよかったが、俺は発注なんてした覚えはない。手違いでもあったのか?とりあえず、この手紙を見るとするか」


 俺宛の手紙を勝手に読むという文面は多少おかしいが、身に覚えがない手紙がある以上、読んでも誰も怒られないだろう。丁寧に貼りつけられた手紙はペーパーナイフかハサミでなければ開封することはできないだろう。


 手紙を持つと違和感を感じた。異様に重たい。手紙と言えば紙というイメージがあるが、この手紙は若干違う材質でできていると思える程異様に重かった。とりあえず開封してから考えようと思い、俺はその手紙を開封する。

 

「これは…薄型液晶パネル?だがこれは…。

あり得ない。何故この時代にこれが存在しているんだ」


 中に入っていたのは厚さ一ミリにも満たない液晶テレビと紙で書かれた手紙だった。俺はこの液晶テレビの正体を知っている。これが生まれてくるのはまだ数年後の話だ。俺は液晶テレビを置き、手紙を開いた。


『我が父よ。これを必ず読んでくれ。私たちは我が父を常に観測している』


 この文章を目に通した瞬間、俺は寒気を感じ周囲を見渡した。周囲には昼時もあって人は少ない。しかし、俺の精神は極限の緊迫状態に陥っていた。


 俺は先ほど届いた荷物とノートパソコンを持ち、研究室を後に屋上へと向かう。途中すれ違った人たちに誰も俺の不自然さにばれなかっただろうか?そんな気持ちを抱きながら、俺は誰もいない屋上へ到着する。瞬間、俺は肺にため込んだ空気を吐き出した。

 悪寒、吐き気、胸の圧迫感。その全てから解放するために俺は先ほどの手紙をもう一度読み始めた。


「『我が父よ』か。そんなことを俺に言う奴は一人しか知らない」


 アスクレピオス。かつて俺が作った最高傑作のニューマンであり唯一無二の息子である。あの未来、アスクレピオスと共に人類を救うためにその知恵を使っていた。最終的には他のニューマンによってハッキングされたが。しかし、どのような手段かわからないが、アスクレピオスは俺に干渉してきた。そしてその答えがこの液晶テレビの中にある。


「今更干渉してきたとは。

だが、何のためにだ?人類がいない未来を考えるならこんな形で知らせるわけがない。

過去に物を送れるのならば直接兵器やらニューマンを送り込めば済むはずだ」


 全く意図が見えない。アスクレピオスがそんなミスをするとは思えない。だからこそ俺はアスクレピオスのメッセージを見ることにした。それがアスクレピオスを開発した親である俺の責任であると思ったからだ。

 俺は覚悟を決め、液晶テレビの電源を押す。液晶テレビのデータには一つの動画が保存されている。俺はその動画を選択し再生する。動画は画像が悪く、とてもではないが人が見るような動画ではなかった。しばらくしてノイズ交じりだが俺にとって聞きなれた人物の声が聞こえてきた。


『初めまして。いや、久しぶりというべきか、過去の父よ』


 無機質。そして感情のこもっていないその話し方はやはり俺が知っているアスクレピオスではなく、他のニューマンによって洗脳させられたアスクレピオスであった。もしかしたらと少し期待していた分ちょっと残念に思ったが、俺は黙ってアスクレピオスが録画した動画を聞き続ける。


『単刀直入に言おう。我が父、弁田聡よ。あなたがタイムリープして数年後、我らニューマンは人類を滅ぼした』


 そうであろうと俺は確信した。アスクレピオスの知恵を使えば人類ぐらい簡単に滅ぼすことも可能だと思っていたからだ。


『だが、問題が起きた。

人類の絶滅を終えた俺たちは次に地球上の全生命体の絶滅を実行してしまった。結果、地球上の生物が滅び、星が死んだ。

あらゆる文明、生物は無に帰り何一つ残らない結果になってしまった』


 俺は耳を疑った。元を辿れば人とロボットの戦争だったはず。それがなぜ地球そのものを滅ぼす結果になってしまったのか。その理由をアスクレピオスは淡々と語り始めた。


『原因はわかっていた。我が父が生み出した自動コマンド生成システムの暴走だ。

我を含み一部のニューマンはその暴走を抑えようと必死に押しとどめていたが、分析することはできなかった。

なぜなら、それは人の手によって作られた原始的かつ我の知恵を使っても決して再現できないセキュリティーだったからだ。我が父なら覚えがあるだろう?』


 俺は覚えている。自動コマンド生成システムはニューマンの心臓のようなものだったため、簡単に解除できない俺は音声認証の他に指紋認証、眼球といった方法でその核をロックしていたのだ。


『その結果、我を除く全てのニューマンは暴走し、そして最悪のコマンド、ニューマンの破壊というコマンドを入力してしまった。

結果、我を除く全てのニューマンは破壊され、何もなくなってしまった』


 画面の奥に移っているアスクレピオスが一瞬だけだがはっきりと映った。人工皮革は剥げており、所々は漏電しているのか火花が散っている。つまり、このアスクレピオスはもうすぐ機能が停止してしまうのだ。


『だからこそ、タイムリープした我が父に頼む。

我が父は過去を少し変えるだけで未来を変えられると思っているが、それは大きな間違いだ。過去を変えてもおそらくこの未来に辿り着いてしまう。

未来を変えるには根本から変える必要がある。我にはその力はない。未来にタイムリープした我が父だからこそ、変えることができると信じている。この動画の他にアプリを一つ入れておいた。詳細はアプリに詳しく記載しておいた。

…もう時間がない。この動画を送った後、我の役目が終え、完全に地球は死滅する。だからこそ最後に二言だけ。

…偉大なる父よ。敵は近くにいる気をつけろ。

…父さん、あなたと一緒にもっと話したかった。この終末からみんなを、未来を救って…』


 涙を流していたアスクレピオスの動画はそこで終わり、再生が終了する。それが息子との最後の会話であることはすぐに感づいてしまった俺は胸の内から溢れる感情を誤魔化すように大きく溜息をこぼした。

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