春香と下校
第六話、読んでいただきありがとうございます。
普段話のネタを考えていても執筆中はそれをどう文字にするかすごい時間がかかり、ノロノロ投稿になってしまいます(笑)
ですが、とりあえず一週間は空けないように頑張ります!
感想等コメントお願いしまーす。
ついでにTwitterのフォローもお願いします!
ぽんず @R2RvtsxwMmDidc4
五限の授業は、昼休みの一件から変わることのない空気感のままだった。
いつもはやかましいほどに賑やかなのに、今日に限って誰一人と口を開かず黙々と先生が黒板に書いた文字を板書していた。その授業態度に先生も驚き、逆に心配していた。
続く六、七限も変わらず、弛緩することのなく教室を支配し続けた。
そして、七限の終了のチャイムが鳴ると張り付いた緊張感が解け、俺は安堵のため息を吐いた。
やっと終わった……。こんなに静かな授業久しぶりに受けて、いつもより集中できた気がするぜ……。
恐らく俺と同じことを思っている者は少なくないはずだ。ここの高校は偏差値はそこそこだが、二年になりそろそろ進路について考え始めている奴らからすれば、この緊張感のある授業は逆に良かったのではないだろうか。三年になった時に急に受験前のピリピリした空気感を体験出来て。でも、俺はもう受けたくないけど! こんな中に毎日いたら胃が持たないからな!
そうこうしていると、担任の猪俣先生がいつの間にか来ていてHRを始めた。
HRで軽い伝達を聞き、各々帰り支度を済ませ、この場から立ち去るように散って行った。
かくいう俺もスクバに荷物を詰め、帰りの身支度を済ませた。そのときちょうど四時三十分。
そして、教室を後にしようとした矢先に、春香に止められてしまった。
「ねぇ、ダイちゃん。今日一緒に帰らない?」
先ほどまでの、触るな危険、と注意書きされているような雰囲気は消え、いつも通りに戻っていた。
だから、俺もいつも通りのテンションで返した。
「まぁ、いいけど。でも今日、十七時からバイトだから、ちょっと急ぎ目で帰るけどいいか?」
「うん! じゃあ帰ろっか!」
「お、おう……。」
満面な笑みで頷く春香に、ドキッとしてしまった。
やべぇ、心臓の鼓動が早くなった気がする……。ドキドキしてんのか、今更。
ラブレターの一件でなんか意識しちまってるな……。今朝、起こしに来たときはそれほど深く考えていなかったけど、今思うとなんで? っていう行動だったし、小雪の行動も謎だった。
もしかして⁉ ふ、二人とも俺のことが⁉
なんて、憶測を導き出した。
しかし冷静になりよく考えると、やはりそれは的外れなものだ思い込んだ。
まさかな。それはないだろ。もうかれこれ何十年も見てきたけど、そんな素振り見たことないしな。ハハハ。……なんか虚しいな、俺。
クラスの奴らは、ほとんど教室から姿を消し、いなくなっていた。
周りを見回していたときに、春香の帰る準備が出来た。そして俺たちも教室を後にした。
下駄箱でスリッパから、靴に履き替え校門を潜った。
優馬はたいていバイトが休みの日は彼女と下校していて、小雪と春香は部活の休みが合えば一緒に帰る。俺は二人ともが部活の時は、他の友達と帰ったり、一人で帰ったり。まぁ、ほとんど後者だが。
おい、今あの三人以外友達いないのかってバカにしただろ。ちゃんと他にも遊ぶ友達ぐらいいますよーだ! バーカ!
ま、ともあれ春香と帰る回数は多くないため、貴重な時間とも言える。
今日は女子バスケ部の顧問が出張でいないため、休みになったらしい。
「なんだか久しぶりだね。こうやって二人で帰るの」
春香も俺と同じことを考えていたようだ。
「あぁ、そうだな。部活は基本毎日あるから大変だな、部活生って」
「そうなの、聞いてよね。もうすぐ大会が近いからいつも以上に気合入ってて、練習メニューがきつくて、倒れちゃいそう」
日頃の部活への不満が溜まっていたのであろう。こうして、俺はガス抜きのために話の聞き手になることが多い。でも、それが俺には性に合っていて全く苦に感じることはない。
「それだけ期待してるんだろ、監督も。じゃなきゃそれほど厳しいメニューさせないだろ」
「それは、そうかも知んないけどさー」
「まあ、俺には頑張れとしか応援できないけどな」
「もう、他人事だと思って……」
歩きながら春香はむくれた。
けど、そんなことしか言えないのは、春香も分かっているだろう。俺は小中とサッカーしかやってこなかったから、バスケのルールなんてボールを三歩以上持って歩いてはいけない、ぐらいのルールしか知らない。だから、素人が気安く口を挟んでいいレベルではないのだ。
「でも、辛くなったらまた話ぐらいは聞いてやるよ」
話を聞く、これしか俺にはやってあげることはできない。だから、辛くて逃げだしそうになったら、心の拠り所としてもたれ掛かるぐらいのことはしてあげたい。
「うん……。ありがと……。そのときはお願い、ね」
「おう、任せろよ。慰めにジュースぐらいなら奢ってやらんこともない」
「そこは言い切ってよね。アハハ」
さっきまでむくれていた顔は、照れているのか、顔が赤くなっていた。
その顔を見れただけでも言った甲斐はあっただろう。
そこからは、いつもと変わらぬ道を二人で色々な話で盛り上がった。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ、俺は途中バイト先の店に向かうため春香と別れた。
時間は十六時四十七分。いまの場所からバイト先まであまり余裕もなかったため、気持ち早めに歩きつつ、先ほどまでの会話の余韻に浸りながらバイト先に向かった。