小雪の行動、春香の邪魔
第五話、読みに来てくださり感謝申し上げます。
幼馴染み同士の恋愛。憧れるー!
感想等お待ちしておりまーす!
午前のだるい授業を適当に流しながら昼休みを待った。
四限の終了のチャイムと同時に教科書とノートを引き出しの中に仕舞い、スクバから弁当箱を取り出し机に広げていると、いつもと同じように隣の席と俺の席がコツンっとぶつかる音がした。
ただ、いつもと違うのは俺の横に来るのは優馬なのに、今日に限っては小雪が座ろうとしていた。
「おとなりよろしいですか?」
小雪が笑顔で尋ねてきた。
「ん? 別にいいけど、急にどうしたんだ?」
「今日はダイくんのとなりで食べたいと思いまして」
「そ、そうか。まぁ座れよ」
「はい。では、失礼します」
朝からどうしたんだ小雪……。春香の行動もおかしいが、小雪もまたおかしい。
それに何故だか気持ち近くないか? 右腕をちょっとでも動かしたら触れちゃう距離にいて弁当が食べずらい。
それを見かねた小雪が聞いてきた。
「お弁当食べないのですか?」
「いや、食べたいんだけど……。なんか近くないか?」
「そうですか? いつもと変わらないと思いますが……」
コテンと首を傾げてお惚けになる小雪はやっぱり可愛いな……。って、そうじゃなくて。
「あのですね小雪さん……。あなたいつもは私の前の席で食べてましたよね?」
「そうでしたか? 記憶が朧気であまり覚えてないのですが」
「嘘だよね! 昨日の記憶無くしちゃうの⁉ 一週間〇レンズ。ならぬ一日フレンズなの⁉」
良い話だったよな……。アニメも実写映画も涙なしでは見られれない作品だったな……。
「まぁ、それは冗談としてお弁当食べましょうか」
「あ、あぁ。俺のボケをサラッとスルーするとは中々やりますな……」
遅れて優馬も来たが、何かを察したのかいつも小雪が座る席に腰掛け、弁当を広げた。それを見て俺の気にし過ぎと思い、無理矢理抑え込みつつ弁当に箸をつけた。
ただ、やはりそんな簡単に腑に落ちるわけもなく、疑問という調味料がかかったご飯は箸が中々進まなかった。
「箸が進んでないようですが、嫌いな食べ物でもありましたか?」
俺の食べるスピードを見かねた小雪が箸を止め心配してきた。
「いや、それはないけど……」
濁した感じにそっと流した。
すると、俺の前にいるバカがとんでもないことを言った。
「そういえば朝来るとき、小雪にあーんしてもらいたいって嘆いてたよなー」
「は⁉」
なに言ってんだ、あのバカは! 一言もそんなこと言ってないだろ! 小雪が真に受けたらどうすんだよ!
「そ、そうなのでしゅか?」
あ、噛んだ。熟れたトマトみたいに顔真っ赤にして恥じらっちゃって、あらカワイイ。って、だからそうじゃなくて!
「いやいや! そんなこと一言も――」
「膝まくらされながら頭撫でられたいとも言っていたような」
優馬は窓の外に顔を向け、そっと爆弾を落とした。
「てめぇ、なにわけわかんねぇ嘘を――」
敵意を向けながら優馬を睨んでいると、
「ダイくん!はい、あ、あーん」
体全体をこちらに向け、左手を下に添えて一口サイズのハンバーグを口の近くまで運んでいた。
「い、いや別に俺は……」
「おい、見ろよ。黒音さんにあーんしてもらってんぞ。篠原の分際で」
「あぁ……。小雪様、なぜ篠原のようなゴミに小雪様のお弁当を……」
「うっひょー! 恥じらう小雪たん! かわゆす! でも、汚物は消えろ」
おい、待て。なんだ俺の呼び名は。分際とゴミは百歩、いや千歩譲って良しとしよう。ホントは、よくないけど。だが、汚物は許せん! 一体俺がなにしたっつーんだよ!
あと、小雪を変な目で見るな。ぶち〇すぞ、モブ。
俺があーんに戸惑っていると周辺がやかましい。……昨日もこんなことあったけど、もう気にしない……。
「あ、あの早く食べてもらえますか……。腕がそろそろ……」
「あ、あぁ」
よく見ると、小雪の右腕がプルプル震えてる。やばい、萌える。
それに、必死であーんをしてくれている小雪の気持ちを踏みにじるわけにはいかない!
俺は小雪の持つ箸に顔を近づけた。
けど、みんなに見られながらされるの恥ずっ!
あと数センチの距離でハンバーグにかかったデミグラスソースの香りが食欲を余計に誘った。
「あーん……」
緩めの前傾姿勢で口を開け、ハンバーグを頬張ろとした。しかし……。
「うおっ!」
前かがみになっていた姿勢が左肩に強い力で元の体勢に戻され、横から掻っ攫うように春香がハンバーグにぱくついた。
「ん~。ユキちゃんのハンバーグ美味しい~」
「ハルちゃん⁉」
ハンバーグを食した春香は満足そうにしていた。
「春香、てめぇ何してくれんだよ! そのハンバーグは俺のなんだぞ! なに横取りして勝手に食ってんだよ!」
「いいじゃん、別に。最初は嫌がってたんだからさー。美味しかったよー、ユキちゃん」
「……そ、それは良かったです」
ニヤニヤと、してやったりと言わんばかりの春香と、笑ってはいるがこめかみの青筋が薄っすらと浮かんでいる小雪。
さっきまで騒々しかった教室は、一瞬にして静寂に包まれた。
そして二人して見合う姿にはバックに龍と虎が威嚇している風に見えて恐ろしい。いい年して小便ちびりそう……。
「美味しかった」の一言には挑発、「良かった」の一言には少々の棘があるように俺は感じた。
そして、並々ならぬ不穏な空気に、俺は寒気に襲われた。
その空気を感じ取ったのか今朝と同じ優馬が助け舟を出した。
「お、おーい、そこのお二人さーん……。見合ってたら飯食う時間なくなりますよ……」
ビビりながらのその一言で二人は動き出し、小雪は前を向きお弁当を食べ進めた。そして小雪の前の席に座り春香がお弁当を食べ始めた。二人の間にも、他のグループにも会話は無く、咀嚼音だけがこの教室を支配した。
その間、俺と優馬もひっそり息を殺しながら急いでお弁当を掻き込んだ。
教室の空気が重すぎるよー! もうやめてー!