春香の意思表示と小雪の気持ち
第四話、読みに来てくださってありがとうございます!
ノロノロ連載かと思いきや、意外にも投稿できているのには自分も驚きです!
些細なことでもいいんで、コメント待ってまーす!
(でも、誹謗中傷はやめてね)
「よーっす」
「おーう、ふぁ~」
「あっ、おはようございます。ダイくん」
俺は玄関を出てすぐの数段ある階段を下りながら雑な挨拶をした。
すると、こちらに気づき門の前に欠伸をしながら挨拶を返す優馬と、キョロキョロ周りを見渡していて俺の挨拶にワンテンポ遅れて返す小雪が待っていた。
「どうしたんだ小雪? 周りばっか気にして」
「いえ、ハルちゃんの姿がどこにもなくて……。家にも行ったのですが綾さんに『用事があるから先に行くね!』とだけ残して出て行ったらしいのですが、何か知りませんか?」
「あー、っとなー」
純粋無垢なその瞳で聞かれてしまうと、なんと返していいか反応に困ってしまう。あとその首をこてっと傾げる仕草にキュンとしてしまった。
「え、えっとなー」
とりあえずの『えっと』で先延ばししつつ適当な理由を考えていると玄関の扉が勢いよく開かれた。
「もー! ダイちゃん待ってよー!」
春香は俺のミスをデカい声で指摘しながら門の前の階段を下りてきた。
「タイミング悪すぎだろ……」
「えっ!」「おっ」と二人は驚いていた。小雪は『どうしてダイくんの家からハルちゃんが⁉』的な感じで、逆に優馬はすぐにこっちを見てニヤッと笑いかけてきやがった。むかつくなその顔。イケメンを台無しにしてやろうか、お?
「ど、ど、どうしてハルちゃんが、ダイくんの家から出てきたのですか⁉」
「んんっ、わたし乾春香は今日から毎朝ダイちゃんを起こす係に任命されました! ねっ、ダイちゃん!」
「いや、勝手にお前が決めたんだろ。ってか誰がそんなこと任命したんだよ」
「わたしだけど?」
なに当然でしょ? みたいな反応しないで。俺が間違ってるみたいじゃん。
「もう、二人で会話しないでください!」
おっと、小雪さんが頬を膨らませてご立腹ですな。その顔もキュートでチャーミングだな。思わず柔らかそうなその頬を指で突きたくなる。ツンツン。
「ダイくん! 頬をつつかないで下さい! それよりも! ハルちゃんはなぜそのようなことを⁉」
しまった。ついツンツンしてしまった。柔らかかったな……。
「だって……」
今度は春香がいじけた子供のようにそっぽ向いた。
なに、今度は春香なの? おいおい……。早く行かねーと学校遅刻すんじゃねーの。これ。
なんとなくいつもより遅い登校なため、遅刻を予感して焦りを感じてしまった俺の心を読んだのか、助け船を出したのは意外にも優馬だった。
「じゃ、先に学校行ってるからな。行こうぜ大貴」
「おっ、おう。じゃあ先に行ってるから……」
優馬が俺のカバンをやや強引に引っ張りながら歩みを進めた。
その間もチラチラ後ろを振り返りつつ歩いていたが、未だ春香と小雪は立ち止ったまま、俺たちとの距離はどんどん開いていった。
二人の姿がかなり小さく見えだしたとき、優馬の手がカバンから離れた。
「どうしたんだよ優馬。お前らしくないぞ」
いつもならあの場面で絶対に面白がって二人の反感を買うのに、今日に限っては大人しく空気を読んだ行動をとった。それが俺には分からなかった。
「まぁな」
「まぁな、って。なんだよそれ……」
こちらを見ず発した曖昧な返しに俺はもっと意味が分からなくなった。優馬の行動に。言葉の心意に。
「ただ一つ言えるなら……」
「ん?」
今度はこちらを見て、フッと鼻で笑った。
「頑張れよ。いろいろとな」
「だから、何をだよ……」
「そのうち分かるさ」
「はぁ、もういいや……」
イケメン野郎のアドバイス染みた言葉と若干呆れつつ笑った顔は何故だか絵になり、無性に腹が立つな……。だが、そのあとにキメ顔で言った「今の俺、主人公のこと理解してる親友ポジションぽくね」の一言で、優馬はやっぱり優馬だったと思わされた。
そこからはいつものように学校へと向かった。この漫画が面白いだとか、課題をやり忘れたから見せろだとか、彼女が可愛すぎてヤバいとかたわいもない話で盛り上がった。
前にいるダイくんとユウくんの背中が小さく見えだしたころ、私はもう一度ハルちゃんに問うた。
「……どうしてこのようなことを?」
そっぽを向いていたハルちゃんの瞳はこの場から逃がさないとばかりに私を捉えた。
そして、一息吐いたのち言い切った。
「わたしはダイちゃんが好き」
「っ‼ ……やはりそうでしたか。なんとなく気付いてはいましたが、こうもはっきり告げられるとは思っていませんでした……」
一瞬驚きはしたが納得は出来る。かれこれ十年以上の付き合い、それだけの時間があれば相手のことなど知るには事足りる。ただ……。
「……どうしてそれを私に?」
そう、聞くほかなかった。いや、それを聞かなければならなかった。
私の問いの答えは自分でも分かっている。だけど、それを認めてしまうと私たちの関係は大きく変わってしまう。だからその関係を変えることに私は恐れてしまった。
自分のせいでそうなってしまえば、後戻りは出来ない。それが分かっているからこそ口にせず、言葉にせず、気持ちを抑え込みながらいままで過ごしてきた。
しかし、それをハルちゃんは変えようとしている。きっかけは多分昨日の手紙であろう。
私はその結果は敢えて聞いていない。ただ、ハルちゃんの行動で恐らくダイくんは断ったのだろう。だからこそなのだろう。
見ず知らずの誰かに取られるくらいなら、この関係を断ってでもつかみ取りたい。だから彼女は決意を固め勇気を出し、今朝の行動をとったのだ。
私には出来なかったことを……。彼女はやってのけた。
「ユキちゃんも同じだと思ったから。ダイちゃんを想う気持ちが」
「私はユキちゃんみたいに勉強もできないし、お上品でもない。誰かに頼られるほどすごいわけでもない」
「そんなこと……」
私が否定しようとするとハルちゃんが遮った。
「あるよ。わたしなんてテストで赤点回避するぐらいで喜んじゃうし、ユキちゃんみたいに丁寧な言葉遣いだってできない。誰かに頼られるほどの才能なんて持ってない。けど……」
後ろ向きな発言はハルちゃんの表情を曇らせていた。
「ユキちゃんよりダイちゃんを好きな気持ちは絶対に負けてない!」
しかし、先ほどの表情から打って変わって、いつもの雲一つない晴天のようなハルちゃんへと戻った。
やはりハルちゃんには敵いませんね……。
私がハルちゃんの気持ちを知るなら、同じ時間を共にしたハルちゃんも私の気持ちにも気づくのは当然のこと。
それを分かった上で私に自分の気持ちを告白した。それは、つまり……。
「なるほど、宣戦布告ですか……。分かりました。その勝負絶対に負けるわけにはいけません。そして、私の方がダイくんを好きな気持ちを証明してみせます!」
「負けても恨みっこなしだからね!」
「望むところです!」
お互いの視線がぶつかり火花が散ったように見えた。
こうして私たちの恋の争いにやっと火蓋が切られた。
晴れてこれから彼女とは幼馴染という間柄に『恋敵』が加わった。
すると、やや斜め上から声が聞こえた。
「あら、二人ともまだ行ってなかったの? 遅刻しちゃうわよー」
そこには洗濯カゴを持ってベランダに出ていた由美さんがいた。
私は腕時計で時間を確かめると八時三分。
「結構遅くなっちゃいましたね」
「だね。あの二人に追いつくかな?」
「追いつけますよ。必ず」
ハルちゃんと顔を見合わせ二人して笑みを浮かべた。
その時またも由美さんの声が聞こえた。
「車で送って行ってあげるから、追い抜いちゃいなさいよ」
由美さんは洗濯カゴを外に置いたままリビングに車のカギを取りに行った。
私たちはまたも顔を見合わせ今度は苦笑いが零れた。