春香の行動
第三話、読んでいただき感謝いたします!
続くかどうか怪しいですが、精一杯頑張りたいと思います!
誤字、脱字あれば遠慮なくご指摘お願いします!
面白かったらコメント待ってまーす(笑)
翌日。
自室の窓から日の光が差し込みだした早朝。
「~ちゃん、~きて!」
「んーん……」
何故だか聞こえる誰かの声。寝ている体をゆさゆさと揺らす誰かの手。
この二つが俺を夢の国から半ば強制的に覚醒させられた。
これが世に言うモーニングコールというものか……。俺にもそれをしてくれる相手がいたのか、嬉しいな~。
睡眠を邪魔する迷惑極まりないデカい声で俺はうっすらと目を開けて音のする方を見た。
誰だよ……。こんな朝からデケー声出してんのは……。時間考えろよな……。
するとそこにはベットの横で紺色の制服に身を包んだ春香がいた。
「ダイちゃん、早く起きて!」
その掛け声と同時に俺が掛けていた毛布を引き剥がされ、冷たい空気が俺の体を襲った。
「寒っ! なにすんだよ! 返せ! 俺はまだ寝るんだ! 布団ちゃんとまだまだイチャイチャするんだ!」
俺は奪われた毛布を無理やり奪い返し二度寝を決め込もうとした。
しかしそうはならなかった。抱いていた毛布と共に春香に引っ張られベットから落とされてしまった。
「起きろー!」
「うぉ! 痛てーな……。なんだよ、こんな朝から……。まだ七時にもなってねーじゃん……。ふわぁ……。」
俺は床で這いつくばった姿勢になりながら置時計で時間を確認すると、六時四十四分。いつも起きる時間より二十分早く起こされた。
這いつくばった姿勢でいる俺を春香は見下ろしていた。
だから俺はこの姿勢から視線を上げた。そこにはすらっと伸びた綺麗な肌色の太腿と大事な部分を覆う水色と白のストライプの布がおはようしていた。
「……可愛いの履いてんだな。ごちそうさま……」
「どこ見てんのよ! バカ! 変態!」
「痛っ! 顔を踏むな、顔を! 意識と同時に変な性癖も目覚めちゃうだろ!」
スカートの裾を抑えながら俺の顔を踏みつけてきやがった。
「いてて。……は? なんでいんの? まだ集合時間より全然時間あるんだけど。なに時計の見方忘れたの?」
這いつくばった姿勢からベットに座り、布団を畳んでいる春香に尋ねた。
「そんな訳ないじゃん! わたしそこまで馬鹿じゃないよ!」
「じゃあなんで?」
間髪入れずに俺は聞いた。
毛布を畳み終わった春香は俺の方を向き直し、咳払いの後とんでもないことを宣言した。
「んんっ、今日からわたしがダイちゃんを毎日起こしてあげるね!」
「……なんで? 俺、遅刻したことあんまないんだけど」
「いいから! もう決まったことだから!」
こう言いだした春香に何を言っても無駄。
付き合いが長いと相手の行動が手に取るように分かってしまう。付き合いが長いからこそ成しえる行動パターンの理解。
まぁけど、どうせ春香が朝起きられなくて諦めるだろうけどな。
だから、それを渋々了承した。
その後、ひとまずトイレで用を足し、洗面台で顔を洗い歯を磨いた。
一通り終わり、再度部屋に戻ると、ベットを背もたれにしスマホをいじっている春香に問うた。
「それよりお前どうやって家に入ってきたんだよ。窓から侵入したの?」
「わたしをなんだと思ってんのさ……。 普通にピンポン押したら由美さんが入れてくれたの」
由美とは俺の母親。家族ぐるみで仲がいいため相手の親のことを名前にさん付けで呼んでいる。
「あー、そう……。その姿がありありと目に浮かぶわ」
絶対嬉々としながら玄関開けてただろうな。あのババア。
「とりあえず、朝飯食いに行くか」
「そだね」
「えっ、なに飯までたかる気なの。この子恐ろしいわ……」
「うるさいな!」
俺はパジャマのまま一階のリビングに行こうとして部屋を出た。
「はよー」
「おっはよー!」
リビングに入りながら適当に朝の挨拶をする俺とは違い、朝にも拘わらず元気に挨拶する春香の気が知れない。
「あら、おはよー。ハルちゃん、朝ご飯まだでしょ? パンとご飯どっちにする?」
挨拶を返したのは俺の母親、篠原由美。キッチンからこちらに振り返りスラリとした背丈から黄緑色のエプロンがこちらを向いた。いつもの会社に行くときのオフィスカジュアルな恰好ではなく、ラフなライトブルーのジーンズに無地の白Tシャツ。この服装から察するに今日は休みなのだろう。
四十代後半に差し掛かっているというのに未だ美貌は衰えてはおらず、まだ三十代でも通じると自称するだけあってそれなりに若く見える。俺から見ればただのババアなのだが決して口にはしない。それを口に出してしまうとその日から母さんの機嫌が良くなるまで三食白飯だけになってしまう。以前父さんがうっかり口を滑らして言ってしまったことがある。その時の母さんの顔は一生忘れないであろう……。
「んー、じゃあご飯にしようかな」
「おっけー、もうすぐ出来るから座ってて」
「はーい!」
そんなことなど知らない春香は元気な返事と共に俺がいつも座る定位置の向かいに席に腰掛けた。
おかしい……。なぜこんなに馴染んでるんだ……。確かに春香も他の二人も家に遊びに来るけどここまでとは……。
「……俺には聞いてくんないの?」
「あんたは勝手に食べればいいじゃない」
「この対応の差は一体……。俺、ここの家の子なのに……。」
「ほら、ごちゃごちゃ言ってないでご飯よそいなさい」
冷たい……。実の息子に冷た過ぎる……。
「ハイハイ……。いただきます」
「いっただきまーす」
結局俺は自分のと春香のご飯をよそって定位置に座った。
本日の朝食は玉葱と油揚げの味噌汁、卵焼き、鮭の塩焼きといったなんとも形容し難い、ザ・一般家庭の朝食。
食べ始めて数十秒、春香が卵焼きを一口食べた。
「卵焼き甘くておいし~」
甘いのに目がないJKの感想だった。しかし俺にとってはいつもの食べ慣れた味にしか思わない。
「卵焼きなんて誰が作ったて変わらんだろ」
「違うよ~。うちのは甘くなくて出汁が効いたのだもん」
「そういやそうだったな。確かに綾さんが作るのは出汁巻き卵だもんな。高級料亭で出てきそうな感じでかなり美味いよな」
綾さんとは春香の母親。顔が春香とそっくり仰天。親子だから当たり前なのだが似過ぎている。顔だけ見て「どっちでしょう?」なんて言われたら悩んだ挙句、「勘弁してください」と言って土下座するレベルで瓜二つ。
だが、見分けるポイントを俺は最近見つけた。
それは、バストのサイズだ!
綾さんも結構な大きさだが春香は恐らくそれよりワンサイズぐらい大きいと思う。服越しだから断定はできないが。
友達の母親を変な目で見るなんて、俺ってばいけない子!
まあ、ちょいとばかし話が逸れたが綾さんは料理が上手い。特に俺が食べた中でも卵焼きはトップ3に入るぐらいの美味さだ。
と、綾さんの卵焼きを絶賛していると春香がムスッとした顔だった。
「わたしだって作れるもん」
「嘘つくなよ。中学の調理実習のとき、お前の班のハンバーグ炭みたいに焦げてたじゃねーか。あんときの味は多分一生忘れないと思うぞ、班員たちは。悪い意味で」
「そ、それは中学の時でしょ! あれは班員の子が火つけたままどこかに行ってて、わたしが気付いた時にはもう手遅れだったの! それにわたしだって暇な日にママに教えてもらって練習してるから!」
ムキになりながら春香が反論してきた。
「へぇー、じゃあ最近なに作ったんだ?」
挑発的に煽ってみた。
すると正面にいる春香の目が斜め下を見ながら聞き取れるか微妙な声で答えた。
「……ホットケーキ」
「ほうほう、乾家ではホットケーキを料理にカテゴライズするのか」
「だって柚季が食べたいって言っ――」
「なるほど、柚季の頼みなら仕方ないよな。うん」
「もう、なんでそれで納得するのよ……」
柚季とは春香の妹。今年小学一年生になる天使のような女の子だ。俺のことをダイにーちゃんと呼び、春香の家に遊びに行ったらいつも遊んであげている。いや、俺が遊んでもらっている。
例えるなら、高いお金を払って高級な酒をキャバ嬢とキャッキャッウフフしながら飲むのと同じだ。
それに無邪気な可愛い声でおねだりなんてされたら俺はなんでも買ってあげたくなっちゃう。微々たるバイト代も柚季の「買って~」の一言でゼロになりかねない。
もうキャバ嬢と同じことを六歳でマスターしてる柚季は将来大物になりそうだな。うん。
と、まぁこんな説明では足りないほどに柚季は愛らしいのだ。
柚季の魅力を再認識していると、パジャマでだらしない格好のままの父さんが起きてきた。
「ふぁー、よく寝たー」
「うぃーす」
「おっはよー! タケさん!」
寝起きの父さんにも春香はバカでかい声で挨拶を交わした。
タケさんこと篠原武史は俺の父親。母さんと同様に普通のサラリーマン。以上。
「ん? おっ、ハルちゃん来てたのか、おはよう。母さん俺にも飯くれー」
「今からあなたの分作るからちょっと待ってなさい」
「へーい」
父さんは返事をしながらソファに腰掛け、テレビをつけニュースを見だした。
……何故だ。父さんまでも春香がいることに疑問を持たないのか……。俺が間違ってるのだろうか……。
そうこう考えているうちにいつの間にか茶碗の中にはご飯はなくなっていた。
「……ごっそーさん」
「えっ、もう終わりなの? おかわりは?」
「朝からそんなに食えねーよ」
「朝だからこそ食べなきゃ力でないよ。ユミさーん! おかわりちょーだい! あっ、それとダイちゃん、部屋にスクバとエナメル置いてきたからついでに持ってきといてー」
「人の家でどんだけ食うんだよ……。それに俺をパシリに使いやがって」
春香の食欲と遠慮のなさに呆れつつ、学校に行く支度をするため自室へ戻った。
パジャマを脱ぎ捨て学校の制服へと着替え、置き鏡で確認しながら髪を軽くセット。
教材を入れるスクールバックを二つ手に持ち、体操服とバイトの制服を詰めたリュックと春香のやや小さめの白とピンクのエナメルバックを肩に掛けリビングに再び下りた。
時間にして約十数分ほど。俺が自室に戻っている間に春香はおかわりした分も平らげ、今は父さんとソファに並んで座り、朝の情報番組を見ながら寛いでいた。
「へぇー、今どきの若者は奇抜なもん食ってんだな」
「そそー。ここのパンケーキめっちゃ美味しんだよ! 今度食べに行ってみてよ!」
「やだよー。そういう店ってなんか男は入りづらいだろ。ましてや四十超えたおっさんが行ったら余計目立つだろ」
「まあそーだよね。学校終わりの高校生がかなりいるからねー。その中でタケさん一人でパンケーキ食べてるの面白すぎんだけど。アハハ」
「だろ? ハハハ」
……なんつう会話してんだよ。息子の友達と。確かに小さいときからの知り合いだとしても馴染み過ぎではなかろうか。
そう思っていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「おい。小雪たち来たぞ。ほら」
「ありがと。じゃあ行こっか」
スマホで確認すると七時五十一分。いつもと変わらない集合時間。
春香に背負っていたエナメルバックを手渡した。
リビングを出て、靴に履き替えていると母さんに呼び止められた。
「ハルちゃんお弁当持って来てないって言ってたでしょ。はいこれ、ハルちゃんの分作っといたから持って行きなさい。ついでに、これあんたの」
弁当を春香と俺の前に差し出した。俺のがついでなのね……。
「わぁー! 由美さんありがとう!」
春香は喜びながら弁当を受け取った。
母さんはそれが嬉しかったのか春香に抱き着いた。
「カワイイー! もうほんとにカワイイ! 家の子にしたいくらいだわ! そうだわ。綾ちゃんに言ってハルちゃんとバカ息子変えてもらおうかしら」
おい。なんてこと言ってやがる。実の息子に。……いや、でもそれもアリだな。毎日柚季に遊んでもらえるし、魅力的な案だ。こんな怖くてツンツンした母親より優しいふわっとした綾さんの方がよっぽどいいな。うん、是非ともそうして欲しい。
俺が母さんの案に賛同するよう考えていたら、春香に抱き着いたまま春香の背中からこっちを睨んでいた。
「あんた今、そうして欲しいって思ったでしょ」
「……別に」
なんで分かんだよ、怖ぇよ! 俺の心の中を読まないで!
俺は逃げるように玄関を開けた。
「じゃ、じゃあ先に行ってるぞ」
母さんに捕まっている春香を置いて、扉を閉めた。
「あっ、待っ――」
春香の言葉を遮るように扉はバタンという音と共に閉まった。