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3、友人たちとの迷宮探索、そして最悪の裏切り

 僕は皆にフォローされながら、最後の迷宮探索を堪能した。

 順調に地下一階、二階、三階と進んだ。


 そして、とうとう地下五階の最奥、『魔界の顎』の前まで来た。


 リウーカ学園内でもっとも危険な場所『魔界の顎』――――――。


 生徒が魔族との戦闘を体験実習するための人工迷宮の地下五階にある、およそ一〇メートル四方の殺風景な部屋である。

 床に魔法陣が描かれており、人間が入ると転移魔法が発動し、何処かへ跳ばされるようになっている。

 発動する条件は不明。

 また、どこへ跳ばされるのかについても、誰も知らない。


 学園創立時、部屋には扉がなく、誰でも簡単に足を踏み入れることができた。

 そして、何人もがこの部屋に入り何処かへと消えて、だいたいひと月から二カ月ほどで『魔界の顎』へ帰ってきた。


 帰還した者全員、跳ばされて以降の記憶を失っていた。

 跳ばされる数日からひと月ほど前の記憶も、奇麗さっぱり消えていた。


 その代わりなぜか、誰もが以前にはなかったトラウマを抱えていた。

 原因は不明。


 皆、得体の知れないなにかに怯え、悪夢に泣き叫ぶようになった。

 神聖魔法も治療魔法も精霊魔法も効果なし。


 自然と誰もが部屋の中に入るのを恐れるようになった。


 そして、初代学園長が突然の病に倒れて息を引き取り、二代目が引き継いだ時、防御魔法の掛けられた石扉が設置され、立ち入り禁止となった。


 いつしか、その部屋は『魔界の顎』と呼ばれ、怖れられるようになった。


 石扉を開けるためには、特殊な魔力の込められた石鍵が必要となる。

 その石鍵も本当なら学園の地下倉庫の奥に眠っていて、誰も持ち出せないようになっているはずだった。


 ところが……。


「へへ、ユーリ、これがなにかわかるか?」


 ジルはゴツゴツした大きな石鍵を、懐から取り出した。


「それはまさか……」

「『魔界の顎』の鍵だ。ディシャナ先生がおまえのためにって貸してくれたんだ」

「ディシャナ先生が!?」


 ジルがいうには、僕の思い出作りのために、そして、ちゃんと進級できるように教えてやれなかった償いとして、特別に許可してくれたらしい。


(ずっと無表情で冷たいひとだと思っていた、あのディシャナ先生が……)


 僕は感激した。


「これは見ないわけにはいかないか」


 ルカがいった。


「うん。あのディシャナ先生の好意だもんね」

「ディシャナ先生も味なことするよな。全然、そんなタイプに見えねーのに」


 リンとエイシャも賛成した。


 そうなると、僕も嫌とはいえなくなってしまった。

 でも怖かったので、最初はジルたち三人に先を譲った。


「なにもねーな」

「でも、やっぱりどことなく不気味だよな」

「魔法陣は見えないな。発動したら見えるようになってんのかな?」


 三人は平気を装いつつ、やはりどこか怖がっているようだった。


「ユーリ、次はおまえの番だ。たいしたもんはないけど、雰囲気だけはさすがに他の部屋とは違うぜ」

「うん……」


 正直、少し怖いけど、彼らが見た後でおじけづくわけにはいかない。

 おそるおそる部屋の前へ行き、中を覗き込んだ。


………………なにもない。


 けど、この不気味な雰囲気は、たしかに他の部屋とは違うなあ。


「リンたちも見……」


 僕が振り返って呼びかけようとしたその時、


 ドンッ!


「うわあっ!」


 いきなり背中に衝撃を受けて、前方へ跳ばされた。


 抵抗することもできず、そのまま『魔界の顎』の中にゴロゴロと転がりこんでしまった。


「わわっ、た、助けて!」


 僕は慌てて立ち上がり、部屋から出ようとした。

 だが、


 ガンッ!


「あ痛っ!」


 部屋の外にたどり着く前に、見えない壁にぶつかった。

 すでに魔法が発動しているのだ。


「うう……なんで……」


 僕は打ちつけた額を押さえつつ、前を見た。


 すると――。


「ギャハハハ! ユーリ、俺たちが本気でおまえに謝ったと思ったのかよ!」

「ハハハハ! あんなの嘘に決まってるだろ!」

「これはな、最後におまえの間抜け面を堪能するために、計画したことなんだよ!」


 『魔界の顎』の入り口のすぐ傍で、三人が僕を見て大爆笑した。


「そ、そんな……、そうだ、リン! エイシャ! ルカ! 助けてくれ!」


 僕は彼らの背後にいるはずの親友たちの名を呼んだ。


「へへっ、呼んでるぞ。おまえらもはっきりいってやれよ」


 三人が出口の前から退いた。

 代わりに、リンとエイシャがあらわれた。


「リン、エイシャ、助けて! 今すぐここから出して!」


 僕は必死に訴えた。


 けど、ふたりはなにもこたえてくれない。


「どうしたんだよ!? ここが危険な部屋だって知ってるだろ!? 早く助けてよ!」


 すると、いつも優しく明るいリンが、今まで見たことのないような悪意に満ちた険しい表情で、


「あんたみたいなクズを、あたしが助けるわけないでしょ!」


 と叫んだ。


「えっ!? リン?……」


「もういいかげんうんざりなのよ! いろいろと親切に教えてあげてても、全然強くならないし魔法も上手く使えるようにならない。ここは名門・リウーカ学園なのよ? なんであんたみたいな無能なクズが入学できたのよ! あんたみたいなクズは死んでしまえばいいのよ!」


「あたしも前からいいたかったんだ。ユーリ、あたしはおまえみたいな弱くてウジウジしてる奴が大っ嫌いなんだ! 無能なくせにリウーカ学園に入学なんかしやがって。これでもうおまえのうっとうしい面を見なくてすむと思ったらせいせいするよ!」


「エイシャ…………」


 リンと同じく笑顔のまぶしいエイシャの顔が、リンに負けず劣らず、憎悪と軽侮に歪んでいる。

 ふたりとも美しく整った顔立ちをしているだけに、凄惨とすらいえる迫力があった。

 

 続いて、ふたりの背後からルカがあらわれた。

 ルカもまた、これまで見たことのないような酷薄な笑みを浮かべていた。


「ルカ……」

「やっとこの日が来てくれた! ちょっと優しくしてやったら、調子に乗って友達面しやがって。もうずっとうんざりしてたんだよ! パーティーを組めば足を引っ張るし、勉強でも全然役に立たないし、ホント糞以下だよ、おまえは! けど、最後にちょっとだけ役に立ったな。今のおまえは最高に笑えるからな、ヒャハハハハ!」


 もう顔を上げたままではいられなかった。


 今まで親友だと思っていたリン、エイシャ、ルカと過ごした日々――。

 それがすべて嘘だったのだ。


 僕は絶望に押しつぶされるように、その場に跪いた。


 涙は流れなかった。


 絶望しきると、涙を流すこともできなくなるらしい。


「じゃあな、ユーリ。ここはおまえも知ってのとおり魔界と繋がってるって話だ。運が良けりゃ地獄に落ちる代わりに、魔王の玩具として、拷問用の実験道具にでもしてもらえるんじゃねーか?」

「ま、帰ってこれるらしいから安心しろよ。もっとも、記憶を失くした上に、一生、トラウマに苦しめられるらしいけどな!」


「「「「「「ギャハハハハ!」」」」」」


 彼ら六人全員の笑い声が響きわたる中、部屋の石扉がゴゴゴゴと音を立てながら閉じていった。


 やがて、部屋の中が闇に包まれた。


(どうして……こんな酷いことを……)


 絶望する時間すらなかった。


 突然、地面が光を放った。

 見ると、魔法陣が浮き出ていた。

 転移魔法が発動したのだ。


(父さん、母さん、兄さんたちと姉さんたち、それにミーナ、リュシー……チヨスは元気にしてるかな……)


 自然と家族や飼い犬の姿が思い浮かんだ。

 無意識に笑みを浮かべた。

 死を覚悟した。



 次の瞬間、僕は見知らぬどこかへ跳ばされた。

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