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1、退学宣告されてしまった

「ユーリ・エルヴェディ、残念ながら、きみはこれ以上、この学園にはいられない」


 魔法担当教師のケイシー・ディシャナが、無表情のまま僕に告げた。


「えっ!? それって、どういう……」

「いわなくてもわかっているだろう?」


「……」


 もちろん、わかっていた。

 けど、この耳ではっきり聞くまでは信じたくなかった。


「きみは先の学年末試験の魔法と武術両部門で最低点を獲った。しかも学園史上、もっとも酷い成績だ。よって、この学園の二年次の授業についてこれないと判断された。きみが誰よりも頑張っていたのを観てきただけに、本当に残念だよ」


 非常な宣告――――――。


(僕が……退学……)


 ショックのあまり、膝から崩れ落ちそうになった。

 と同時に、これまでのことが、脳裏を走馬灯のようによぎった。


     *


 ミティラーガ大陸で生まれた者は、どの国であっても一四歳になった時、全員、各地の聖教会で成人の儀を受けることを義務付けられている。


 成人の儀といっても、ただ単に神聖石と呼ばれる透明な丸い石に触れるだけだ。


 僕が神聖石に触れた時、まばゆい黄金の光を放った。

 周囲のひとは皆、おおっ、と驚きの声をあげた。


 黄金の光は魔法の才能に溢れていることを示しており、光が大きければ大きいほど、才能もより大きいといわれている。


 僕の光は、驚きに充分値する大きさだったのだ。


 そして、僕はミティラーガ大陸でもっとも強大な国・ラドバード聖王国の王都バードにある、冒険者養成学校・リウーカ学園に入学することになった。


 僕は夢と希望を胸いっぱいに抱いてリウーカ学園に来た。


 けど、それもすぐに打ち砕かれた。

 僕に魔法の才能なんか、これっぽっちもないことがわかったからだ。

 魔力量が極端に少ない上に、気や魔力を感知する能力も最低レベル。

 なので錬金術と錬丹術も調薬術も駄目。


 武術の才能もない。


 なにもできなかった。


 それでも、ずっと諦めずに頑張ってきた。

 どれほど馬鹿にされても、どれほど悔しい思いをしても、決して諦めなかった。


 なぜなら、田舎の両親、ふたりの兄、四人の姉妹が、僕に期待してくれているから……。


 僕が立派な冒険者になって帰ってくるのを、楽しみに待ってくれているから……。


 僕の双肩にエルヴェディ家の未来がかかっているから……。


 皆の顔が次々と脳裏に浮かんだ。


 入学するために故郷を旅立つ時、見送ってくれた皆の誇らしげな顔を思い出すと、申し訳なさ過ぎて、今すぐ死にたくなる。


     *


「うっ……ううっ……」


 必死に涙を堪えた。


「寮に戻って、荷物をまとめなさい。部屋の机に校章と生徒カード、教科書と実習で使った道具類もすべて置いていくように。持って帰ろうとすると罰せられる。わかってるね?」

「はい……」


 僕は立ち上がり、ディシャナ専用の研究室を後にした。


     *


 僕は茫然としたまま寮の自室へ戻り、荷物をまとめた。

 といっても、荷物などほとんどない。


 貧乏男爵家の三男で、姉と妹がふたりずつ。

 服もろくに買えず、可能な限り節約してきたのだ。

 教科書と道具類を置いていくとなれば、荷物がほとんどなくて当然だ。


 部屋を出た。


 寮には同級生をはじめ、学園中の生徒たちがいた。


「おい見ろよ、あいつ、退学になったらしいぜ」

「やっぱりなあ。ユーリの奴、ここに入学できたのが不思議なくらい無能だったもんな」

「俺も授業で対戦した時、びっくりするくらい簡単に勝てたからなあ」


「ププッ、惨めだな。身の程知らずに……」

「教会が判定を間違えたんじゃねーの?」

「あんなふうにはなりたくねーなあ」


 誰もが口々に、僕を遠巻きに嘲り笑う。


 僕はまた必死に涙を堪えた。

 ここで泣いてしまったら、あまりに惨め過ぎる。


 途中、僕の前に誰かが立ちふさがった。

 顔を上げると、キース・エスヴァインがいた。


「いいざまだな、ユーリ」


 キースはその整った顔に、酷薄そうな笑みを浮かべた。

 いつもの癖で、軽くカールした金色の髪をサッとかきあげる。


 彼はリウーカ学園はじまって以来の天才といわれている。

 魔法と武術両面に秀で、座学も完璧。

 帝国屈指の名門・エスヴァイン侯爵家の次男で、兄もこの学園を首席で卒業している。

 その兄は現在、スカウトされた冒険者ギルドの高レベル・パーティーで、日々、迷宮探索や魔物退治に励んでいる。


 名門の家系で天才、しかも容姿端麗とくれば、異性に人気の出ないはずがない。

 学園中の女子生徒が彼に憧れている。


 そんな彼がこの一年間、ずっと僕をバカにし続けてきた。

 間違いなく、僕の退学を一番喜んでいる人間だ。


「だからいったんだ。おまえなんかはじめから入学を認めるべきじゃなかったんだってな!」


 僕はなにもいいかえせなかった。

 キースのいうとおりだからだ。


「おとなしく実家に帰って、毎日、牛の乳でも搾ってりゃいいんだ。クズのくせに夢見やがって。俺はおまえみたいにクズのくせに思い上がって、分不相応なことに手を出す奴が大っ嫌いなんだ! おまえみたいな無能な奴がいるせいで、これまでどれだけの冒険者が迷惑をこうむってきたことか、おまえには……」

「まあまあ、キースさん、その辺にしてください。皆が見てますよ」


 そういって止めたのは、キースの取り巻きのひとり、タイレルだった。


「あ、ああ、そうだな。ふん、さっさと出ていけ。二度と顔を見せるなよ。……ふん、なんであんなクズにあのふたりが……」


 キースは割とあっさり去ってくれた。

 さすがに皆の見ている前で僕を罵るのは、みっともないと思ったのかもしれない。


(いわれなくても出ていくよ)


 まともにバカにされたせいで、かえって冷静になれた。

 もちろん、現状を受け入れることができたわけじゃない。


 なので、僕はうつむいたまま、足早に寮の玄関へ向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 学力が最低、実技も最低だったら、退学は極当たり前ですね。努力しても結果がついていないのなら、周りに迷惑です。
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