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続・浪人詩集  作者: 屯田 水鏡
7/7

這い蹲ってへど垂れて

古いノートを捨てようと思ったら、学生時代の走り書きが出てきたので、紹介します。


這い蹲ってへど垂れて

這い蹲ってへど垂れて、今わたくしめが、

こうして嘔吐物をば冷たいアスファルトの上にもどすのを、

あなた方は、軽蔑と憐憫の入り混じった、

まなこを、車の窓からわたくしに向けておられますが、

わたくしめにとりましては、全くの愉快にほかならず、

こうして、うれし涙さえ、うかべております


這い蹲ってへど垂れて

日は唐に暮れて、太ももの間から差し込むヘッドライトが

黄色い嘔吐物を照らしております

限りない胃の腑の痙攣に

わたくしめは衰弱しきった半死人


這い蹲ってへど垂れて

いやいや、こう見えても先ほどまでは

一升ばかりの冷酒と、十七杯のオンザロック

その上、かなりの量のジンバックをば

ぺろりとなめた大つわもの


這い蹲ってへど垂れて

そりゃあ、失恋の痛手もありますが

わたくしめの本当の目的は

生きることへの反逆にほかなりませぬ

おや、もうすっかり吐くものが無くなって

千鳥足で帰ります


這い蹲ってへど垂れて

わたくしめの帰り付くところは

あの丘の中腹の、ほら、満天の星空の下に

今明かりが点滅しております

あの、暗い病院であります

友が待っているのです

友は言います

自分の鼻は、小さな町に行くと小さくなり、

大きな町に行くと大きくなると


這い蹲ってへど垂れて

友はまた言います

ある時、全天の星を眺めていたら、その一つが急に近づいて来て

近くに落ちると、そこに人が立っていて、自分は神である、だから金を貸せと言ったそうです

そこで友は、神という、一片の詩を書いてわたくしめに渡しました

神も仏もないものと、とうの昔に悟りしに、今ここに、なんのみれんぞ、なんのみれんぞ、ああ、神だのみ

神よ仏よ我を救いたまえ


這い蹲ってへど垂れて

先日の七夕に、友は優しい看護婦長さんのために、短冊に婦長死ねと書いて笹に飾りました

それから、友は自分も、その夜、天井から下がっておりました

ああ、あの点滅する光の下に、わたくしめは帰ります






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