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プールサイドの人魚姫  作者: 星野 ゆか
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赤い(後編)




トイレから出てくると、青君がママの帰宅を知らせてくれた。




時計を見ると、もう20時を回っていた。帰って来てから2時間近い。






早めに荷物をまとめる。





「あ、ありがとね!!色々‥‥‥‥服も貸して貰ったし、ご飯とか」




「いーよ別に。お礼言われる程じゃないし。若葉さんに宜しく」




「青君ってママの事、そんな呼び方してたっけ?」




「前は若葉ちゃんだったけど、流石に」






言われてみると、そう呼んでた記憶がうっすらある。気がする。






家族での付き合いは7年前までだし、ママと青君が話しているのをあまり見た事がないから当然かもしれないけど。






「今日はありがとね!!ハンバーグ美味しかった‼︎」




そう言って彼の家を後にしたのが、10分程前。








「姫ちゃん姫ちゃん‼︎」






あたしが呼び掛けると、テーブルの上に置いたコップの水から、彼女が顔を出した。







「あら、何か変わった事でもあったのかしら?」




「ふぇ?」




現在、姫ちゃんとお話中です。あたしの部屋で。





今まで試した事なかったけど、彼女の話によると、水があれば何処にでも行けるらしい。




家で話したい時は、コップに水か飲み物を入れて話しかけてくれれば良いと言われていた。





飲み物とは、炭酸も入るのかどうか。





と思ったりもしたが、あたしは炭酸はあまり飲まない為そこまで気にも留めず、結局水になった。








何となく、水の方が良い気がした。何となく、だけど。











「いつもより嬉しそうね」











そう言う彼女には、少し見慣れないものが付いていた。












顔より少し大きくて、薄い透明な何か。















それがたまに水面から出たり入ったりしている。




ぱちゃぱちゃという音と共に、小さな水しぶきが上がる。




単独で動いているというよりは、何かにくっ付いている様な____。












そう。魚のヒレである。











見た感じ凄く柔らかそうだ。 感覚あるのかな。





「姫ちゃん、それ____」



「あ、これ?勿論、魚のヒレだけれど‥‥‥‥」と、当然の様にしれっとしている。




「この姿を見るの、のんちゃんは初めてだったわね。驚いた?」




「いや、人魚なんだから当たり前なのかと。最初会った時は脚があってびっくりしたというか」




「水の中に入ると、元に戻るの。ああいう所では、なるべく控えているのだけど」






「でもやっぱり、どうしても我慢出来ない時は入るわね」と、照れくさそうに笑った。








こんな顔もするのか。







水にしておいて良かった‥‥‥‥。






オレンジジュースとかコーラとかに人魚が浮かんでいるのを想像してしまう。



何だか色々無理がある気がする。ベタベタしそう‥‥‥‥。






「え、服は?」


「脱ぐわよ」




脱ぐのか。





でも、水中では人魚みたいだし‥‥‥‥って、着替え(?)を見られたらまずくないか?




「大丈夫よ。水に入るのはほとんど深夜だし、元々何も着ていない様なものだから」




思った事を声に出してしまっていたらしい。


そう言われて見ると、上半身裸っぽい。


ってか、それって色々とイケナイ気がする。




変な人に襲われないか逆に心配になってきた‥‥‥‥。










「そう言えば、何か私に伝えたい事があっ たんじゃないかしら?」


「そーだった!!」






ヒレのせいで話が脱線してしまっていた。





「その服‥‥‥‥‥‥もしかして、大人の階段上っちゃったり」




「してないしてない‼︎ってかまだ何も言ってないし」


「あら、ごめんなさい。女の子が着そうにない服だったからつい‥‥‥‥」







ついって何だ。







まあ、色んな人の相手してたらそんなもんか。






「これは、雨で濡れちゃったから借りただけで」






「雨、凄かったものね。絶好のチャンス日和じゃない?」




とか言いながら、興味津々な様だ。お目々がキラキラである。



何の?とは訊かない。雨=チャンスと来たら、相合傘しかない。




したけど。




早く話せと無言の圧力を放つ姫ちゃんに、青君の家に行くまでの一部始終を話す。









「なんだかこっちまで赤くなりそうね‥‥‥‥」












話しているうちに思い出して、顔が熱くなった。












「鍵忘れちゃったから、そのまま青君の家にお邪魔して来ちゃった。


久しぶりに、お姉ちゃんにも会って来たんだけど‥‥‥‥」



「お姉様がいらっしゃるの?」



「え、あ、お姉ちゃんってゆーのは、あたしが勝手にそう呼んでるだけで!!


‥‥‥‥本当は青君のお母さんなの。7年前に、事故で亡くなって」











「ごめんなさい。嫌な思いをさせてしまったわね‥‥‥‥」











「いーのいーの!!別に気にしてないし!あたしも誤解させる言い方しちゃったから」
















「‥‥‥‥‥‥」












「‥‥‥‥‥‥」

















だけど。






















本当は、嘘。
























気にしない訳ない。




















お姉ちゃんが死んだのは、あたしのせいだ。























ちょっと気まずい雰囲気になってしまった。



沈みかけた気持ちを強引に引き上げ、話題を戻す。





「そ、それでねっ。ご飯の後、テレビ見ながら寝ちゃって‥‥‥‥‥。


起きたら、その‥‥‥‥ぶ、ブラジャーがっ、腰くらいまで落ちててっ‥‥‥‥。慌ててトイレにっ‥‥‥‥。なんともなかったけど‥‥‥」









「良かったわね、何もなくて」









「ふぇっ??」











「だって、男の子と2人っきりでいたら‥‥‥‥‥‥色々、ね?」
























色々って‥‥‥‥、つまり‥‥‥‥‥‥‥‥?

























「ぅ‥‥‥‥‥‥」
























色々を色々と考えちゃって、元々赤くなっていた顔が更に赤くなるのが自分でも判った。













「あら、ごめんない。ちょっとからかい過ぎちゃった?のんちゃん、耳を貸してくれるかしら」







彼女はあたしに耳打ちして、さっさと帰ってしまった。




















ぱちゃんっ。





















小さな水しぶきが上がると、彼女の姿はもうなくて。



















「明日、か‥‥‥‥‥‥」




















あたしの前には、何の変哲も無い水の入ったコップが置かれていた。









今日は、何だか疲れた。









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