赤い(前編)
赤い描写注意です。
事情を説明し、何とか家に入れてもらう事に成功。
「と、とりあえず、シャワーか‥‥‥。今、風呂沸かしてるけど」
青君は少し焦っていた様な気がする。
シャワーだけ浴びさせてもらえれば良かったのだが、
「沸いたら入って良いから」と言われ、そのままバスタオルを2枚渡された。
お風呂場に到着。
前に何回かお邪魔させてもらった事がある為、場所は確認済みだ。
靴下は洗ってくれると言うので、そのまま洗濯機にぶちこんでおいた。
制服の方は、許可を得てお風呂で乾燥を掛けさせてもらう事にする。
制服を脱ぎつつ、その辺にあるハンガーに上下別に掛ける。
下着は‥‥‥‥。
迷ったが、やはり制服と一緒に乾燥させる事にする。
キャミソールだけは別にしてその辺にあるハンガーに吊るし、
その辺に転がっていた洗濯バサミで止めて、制服同様お風呂にある物干し竿に掛けておく。
これで良し。
覗かれたら終わりだ。
何事も無ければ良いが、興味はあるだろう。
もしそうなった時は、1発殴って記憶を消して頂く事にしよう。
お湯が溜まってきた浴槽に出しっぱにしたシャワーを突っ込み、一旦扉を開け、乾燥のスイッチを押す。
もう一度中に入った所で、ふと違和感に気付く。
女物のシャンプーやリンスが無くなっていた。
あ‥‥‥‥、そうか。
もう、居ないのか。
何年も経ってたからあまり実感がないけど、こうして目の当たりにすると少し寂しく感じる。
シャワーの水も温まり、頭を洗う。
男物だろうが、シャンプーとボディーソープだけあれば何とかなる。
取ったら、まさかのリンスインシャンプーだったから驚いたけど。
一通り洗い終わった頃にはお湯が沸いたので、入らせて頂く。
髪はタオルでまとめておいた。
普段はほとんどやらないが、幼馴染とはいえ他人の家だ。
この位の気遣いはさせてもらおう。
「は〜‥‥‥‥‥」
生き返る〜。
湯船に浸かるだけで、全身温まる。
何となくぼーっとしていると、さっきの事を思い出してしまう。
『何か思う所でもあるんじゃないかしら?』
追い打ちをかける様に、タイミング良く姫ちゃんの言葉が浮かぶ。
「あ〜も〜‥‥‥‥」
何なんだ。
あんな事言われたら、気になっちゃうよぉ〜。
も〜!!
感極まって、お風呂のお湯をバシャバシャしていると。
「藤田ー」
「んー?」
「着替え此処置いとくから、使って」
「分かったー」
「‥‥‥なんか作るけど、食べたいのある?」
「ハンバーグがいーなー」
「‥‥‥分かった」
「やったぁ!!」
「あのさー」
「うん」
「‥‥‥‥はしゃぎ過ぎて溺れんなよ?」
「大丈夫だよー、心配しなくても」
返事を返すとすぐ、青君の影が無くなった。
最後のは余計だが、随分と家庭的な息子さんである。
多分、小さい頃に溺れかけた事を気にしてくれてるんだろう。
危ない危ない。
人の家では大人しくしないと。
違う意味で溺れそうだ。
変に意識しているから身体が熱いのか、お湯に浸かってるからなのか分からなくなってきた。
何だか頭がぼーっとしてきた。
もう出よう。
のぼせると困る。
髪をまとめていたタオルで身体を拭き、掛けておいた下着を着け、さっき置いてもらった服に着替える。
風邪を引くと困るので、キャミソールは着ない。
まだ少し湿っているけど、乾いた服を着れば何とかなるだろう。
やはりというか何というか、思っていたよりサイズが大きい。
ぶかぶかする程ではないけど。
身長はそんなに変わらないくせに、男の子なんだなと思う。
青君の匂いする。
この匂いは好きだが、あんまり嗅いでいると変態みたいなので止めておく。
ドライヤーを借りて髪を乾かした後、使っていない方のタオルを肩に掛けて脱衣所を出る。
リビングに行くと、青君がハンバーグをこねている所だった。
「お風呂、ありがとね」
「もう出たのか。これ終わったら、焼くだけだから」
作業に戻る青君を見ながら、それとは反対方向へ足を進める。
ソファーの横の壁。
そこだけ凹んで棚になっている。
棚の上には、小さな仏壇。
色は、明るい茶色。ナチュラルブラウンとか、そんな感じの。
他の家具と色を合わせたのか、調和が取れている。
違和感無さ過ぎて、一瞬なんだか判らなかったけど。
チーン‥‥‥。
仏壇の前に座り、手を合わせる。
座ると言っても棚に高さがある為、実際は膝立ちになってしまっているが。
お姉ちゃん、お元気ですか?
望美です。
大きくなったよ。
とか、そんな感じで。
手短に済ませた後、青君の手伝いをしに行く。
準備もほとんど終わっていて、後は焼くだけだった。
「‥‥‥ありがとな」
「ううん。あたしに出来るのは、この位だから」
「‥‥‥‥まだ、気にしてんの?」
「‥‥‥‥‥ちょっとだけ」
「ごめん。変な事言った」
「大丈夫だよ」
もう7年か‥‥‥‥。
あたしも、そろそろ振り切らないとな。
肉の焼ける音とお皿の重なる音が、しばらく続いた。
「食べようか」
どちらからともなくそう言って、テーブルに着く。
「「いただきます」」
「!!‥‥‥美味しい!」
「‥‥‥良かった」
青君家のハンバーグには、人参とかピーマンとか色々な野菜が入っている。
ピーマンは苦手だけど、これだったら食べられる。
味、変わってないなぁ‥‥‥‥。
何度か食べた事あるけど、久々に食べたせいかこれ以上無い位美味しい。
今までで1番かもしれない。
食べ終わった後、食器を片づけてソファーでゴロゴロする。
「食べたばっかで寝てると太るよ?」
「別にいーじゃん。青君には関係ないし」
ソファーの右端に、青君が座る。
前のテーブルに、氷の入ったコップが2つ置かれる。
「‥‥‥麦茶だけど」
「ん。ありがと」
コップを受け取り、一口飲む。
冷たくて美味しい。
「何か観る?」
「んー‥‥‥」
テレビのチャンネルを回すものの、特に観たいものは無かった。
「何も無いね‥‥‥」
リモコンが青君へ移り、録画番組のメニューが表示される。
「あっ‥‥‥」
「何?」
「このドラマ、青君も観てるの!?」
「まぁ、たまに。最終回だけど良いの?」
「うんっ!!実は、最終回だけ見逃しちゃって‥‥‥」
「ふーん‥‥‥」
彼は興味無さそうに返事をして、決定ボタンを押した。