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秋葉原ヲタク白書40 サイリウムを掲げよ

作者: ヘンリィ

主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。

相棒はメイドカフェの美しきメイド長。


この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第40話です。


今回は、主人公の前カノの御屋敷が、謎のヘヴィメタ集団に襲撃され、厳重に保管されていた金属BOXが盗まれます。


中には、新興宗教「洪水の化学」大教祖の娘との百合を撮ったガラケーが入っており、教団は追跡をコンビに依頼しますが…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 消えたガラケー


「警報システム…解除した」

行くぞ(ゴー)

「あら、どちら様?きゃあ!」


雑居ビルB1にある御屋敷(メイドカフェ)

閉店時刻後の深夜に強盗?


その御屋敷の名は"ノーシグナル"。

そして、メイド長の名は"エリス"。


僕の…前カノ(ちょくぜんのカノジョ)だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「みんな、タイヘンよっ!テリィたんが"推し変した"エリスさん、昨夜、強盗に襲われて大ケガを負ったそうよっ!」

「わ、わかった、わかった。だから、その"推し変した"ってのは余計じゃね?」

「あらっ?じゃ何て逝うのかしら?ま・さ・か!"テリィたんの元カノ"、とか?」


開店早々飛び込んで来たのは、お騒がせメイドのリンカだ。

アキバが古くて、しかもミユリさんの親友と逝うのが厄介。


あ、ココは僕の"今w"の推し(てるメイド)であるミユリさんがメイド長を務める御屋敷(メイドバー)

失われた愛w…じゃなかった失われた知識に因み"古代天文学の叡智(ゴールデンハット)バー"とも呼ばれる。


「メイド長が戸締りして階段を上がりかけたトコロを上からスタンガンで撃たれたんだって!」

「ええっ?あの電気でビリビリとシビれる(ガン)のコト?」

「階段から転げ落ちかけたエリスさんを手下が素早く下からキャッチしたそうだ。強盗とは逝え、訓練されたチームみたいだ!」


翌日のアキバは"ノーシグナル"に入った強盗の噂で持ち切りだ。

御屋敷の常連も口々に推理を述べるが、拍車をかけるのはリンカ←


「とにかく、アソコのメイド長は"テリィたんが推し変した相手"なワケよ。つ・ま・り!"テリィたんがミユリの前に推してた相手"なワケ。一言で逝っちゃうと"テリィたんの元カノ"ょね!」

「ええっ!テリィさんの元カノですと?ミユリさんと全然タイプが違うじゃナイですか!エリスさんは、純粋培養のホンキな御令嬢だって聞いてますけど!?」

「ありぇナイ!テリィさんの元カノが御令嬢だとぉ?絶対にありぇナイ!」←


あのなぁ!どう"ありぇナイ"んだょ?

今wのミユリさんも御令嬢だけど何かw


まぁ見ようによっては、だけど笑


しかし、強盗の狙いが不明、実はエリスは御屋敷に"囲われてる"身で、あの地下室に通う者は限られ、売上などナイも同然のハズ。


金目当ての強盗のハズはナイ。

となると、強盗の目的は何か?


「おい、リンカ!お前、どーせまた自分の御屋敷ほったらかして遊びに来たトコロをみると、また何か魂胆があるんだろ?何だか知らないけど逝ってみろ(元カノ元カノってウルサイんだょw)」

「そうよっ!そこなのよっ!さすがはテリィたん。ミユリが羨ましく思えちゃうわ、あくまで一瞬だけど。とにかく!困ってると思われるワケょ"テリィたんの元カノ"であるトコロのエリスさんが」

「そのワケわかんない関係代名詞もヤメろ…ってコレは使い出したのは僕かwあと、その"困ってると思われる"って何なんだょ?もしかして、エリスに直接頼まれたワケじゃないの?」


ちょっちバツが悪そうなリンカ。


「だ、だ、だから何なのょ?メイド同士で助け合っちゃイケナイとでも逝うの?ソレに、ココに直接エリスが来て修羅場になるのと、私が来て陽気に相談するのとドッチが良いかしら?そもそも、東に困るメイドあれば左の頰を差し出せとイエス様も仰ってるわ!もうすぐ、クリスマスだって逝うのに、テリィたんったらヒドい!あんまりよっ!私の実家が日蓮宗だからって」

「あ、そのウソ泣き、今すぐヤメろ!うーん。何か、ますます、思い切り、絶対的に、怪しくなって来たぞ!まーさか、またリンカが幹部やってる教団絡みじゃナイだろうな?祭祀長だけど実はCIAのリンカのTO(トップヲタク)、元気か?またCIAの下働きとかお断りだぞ!僕達は民間軍事会社(PMC)じゃナイし、ココはアキバでイラクじゃナイからな」

「まぁまぁ。テリィ様も私の御屋敷(メイドバー)で余りお子ちゃまにならないで。リンカ、私達は匿名のリクエストは受けられないわ。とりあえず、お見舞いも兼ねてエリスさんの御屋敷に御帰宅してみましょう。私も御一緒します。つぼみん、その間、御屋敷をよろしくね」


思いがけないハートフルな言葉に振り返ればカウンターの中でミユリさんが微笑んでる。

思わず瞳を確認スルけど…特にデス光線発射の兆候もなく、ホントにお見舞いモードだ。


しかし、今カノが前カノをお見舞い!

もしかして令和最大のピンチかもなw


「ちょっち、エリスさんの"ノーシグナル"に御帰宅する前に、この画像を見ておいて欲しいんだけど?」

「あ、スピア。また何か拾ったのか?」

「もしかしたら、今回のテリィたんの御相手の画像ゲットしたカモ。しかし…何やらヤタラと"ハード&ヘヴィ"ょ」


常連のスピアは、いわゆるサイバー屋で早速"ノーシグナル"界隈の犯行当夜の防犯カメラ画像をハッキングし僕達に見せてくれる。


真夜中のパーツ通りにゾロゾロと出て来る男達は、黒装束なのはマァともかく、全員が革ジャケなんだが…大量に鋲打ちがしてあるw


「な、な、何だコレ?ヘヴィメタ強盗団?いや、ハードロックかな?あれ?ヘヴィメタとハードロックって何が違うんだっけ?」

「ドッチにせょ、ミュージシャンにしちゃ髪が短過ぎないか?いくらアーティストもファンも高齢化して禿げを隠すのに必死とは逝え…あとジーンズが残念だ。全員パンパンだけど、ココはゼヒ細身ジーンズで決めてもらいたいな」

「ま、色々突っ込みドコロは満載でしょうがっ!とにかく、コレで現場に逝かざるを得なくなったわね(何で?)!さぁ!善は急げとも申します。ミユリも逝くなら、一緒に逝こう?アキバ最強コンビ、ヘヴィメタ強盗団を追えっ!…なんちゃって」


あっさりウソ泣きをやめ、してやったりと笑顔で飛び出すリンカが実に気に入らない。

気には入らないのだが…仕方がナイので後に続く、僕とメイド姿のままのミユリさん。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「あぁ、来てくれたの?ラッツ」


"ノーシグナル"は、僕の苦手な地下の箱で、薄暗い闇の中からエリスの声がする。

彼女は…純白のメイド服に純白の靴、セレブな"オールホワイト"のメイド姿でキメw


表情は変えないが、ミユリさんが唇を噛む←


「エリス、大丈夫か?強盗だって?災難だったな。ソレから、今はテリィだから。ラッツなんて名前、誰も知らないょ」

「お見舞いに来てくださったのね?ありがとう。うれしいわ、ラッツ」←

「で!私達で盗られたモノは地獄の果てまで取り返しに参ります!安心して!その代わり、手掛かりになりそうなコトは何でも話してくださいね!私か、テリィた…じゃなかった、えっと、そのぉ、ラッツ?さんに」


解説しよう。


最初は僕で、実は僕はアキバに来たての頃、ラッツと呼ばれ、エリスと出逢う。

お次はエリスで、彼女は人生を賭けたゲームに敗れて以来、精神を病んでいる。


最後はリンカw


話し忘れたが、彼女はアキバに本山?のある流行りの新興宗教"洪水の化学"の幹部だ。

同教団の祭祀長とイイ仲なんだが、実は僕はCIAの潜入スパイ(スリーパー)である彼には貸しがある。


「ありがとう、ラッツ。実は私、女の子が1番大切にしていたモノを泥棒さんに奪われてしまったの」

「ええっ?!いきなりカリオストロかょ?で、ソレは何?」

「私のガラケー」


彼女の瞳には…歪んだ狂気の色が宿る。


第2章 文通(コレスポンデンス)


「エリスのガラケー?ま、待て。ソレって…何かの暗号か?」

「ラッツ。いつも愉快な人」

「ガラケーだったのね!ハイ!わかりました!命に代えても(ミユリ&テリィが)見つけ出して御覧に入れますわ!さぁ、出動よっ!ワンワン!」


今回の発言順は、僕、エリス、リンカ。

最後の犬の鳴き声が限りなく意味不明w


ココで今カノ、じゃなかった、ミユリさんが微笑みを浮かべながら口を開く。


「御機嫌よう、エリスさん。災難に遭われたと伺って、取るものもとりあえず、お見舞いに参りました。"テリィ御主人様"と」


すると、エリスは初めてミユリさんに気づいたと逝う顔をして同様に微笑む。


「かわいいメイドさん。胸が痛むわ。ラッツに認められたいのね?褒められたいの?そうでなければ、ラッツと組むはずがないものね」

「いいえ。組もうと仰ったのはテリィ様です」

「え?」


その瞬間、エリスは眉をピクリと動かしたまま、暫しの間、黙ってしまう。


「気に入りませんか?」

「理解できないコトは認める。でも、私は理解できないコトには惹かれる性質だから。ラッツもそうょ。だから、いつか貴女を解き明かしたら、ラッツは、貴女を、忘れるわ」

「貴女は、忘れられたから手紙を書くのですか?テリィ御主人様に理解してもらいたくて?」

「…貴女、私がラッツと"文通(コレスポンデンス)"しているコトを御存知なの?どうして、知っているの?ラッツが…話したの?」

「テリィ様は、何も仰いません。でも、テリィ様が文字を交わす相手が貴女だけだ、ってお思いなの?逆にソレって寂しくありません?」

「…そうなの?でも、そう逝う貴女は、ラッツの気持ちを愛だとは思いつつも、自信がナイと逝うワケね?」

「テリィ様のコト、全てを御存知のような口ぶりですが、もしかしたら、自分は何も知らないのでは、と不安になるコトはありません?」

「ラッツは、私にとって、地球上で唯一話が通じる相手なの。だから、私は手紙を書いている。そして、ラッツが私の手紙に返事をくれるのも、私が唯一本当に気持ちが分かち合える相手だから。貴女には、未だ、ソレが、わからない、ようだけど、いつか、わかるわ、必ず」


ココでエリスは、とても、とても長い溜め息をつく。

ミユリさんは、その表情に未だ微笑みを残したまま。


僕とリンカは時間が止まったかのように立ち尽くす。

目に見えない何かとんでもないモノが均衡している。


その均衡を破るのは、エリス。


「私のガラケーを奪ったのは…"金属旅団"の人達ょ。後は、ミリアに聞いて頂戴」


ソレだけ告げて、エリスは、近くのイスに崩れるように倒れ込み…静かに瞳を閉じる。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「メイドカフェ"ノーシグナル"副メイド長のミリアと申します。テリィたんって…貴方なの?本気でそうなの?」


今度は打って変わってカチューシャから靴まで"オールブラック"のメイドの登場だ。

おチビなせいか妹キャラな外見で、自由奔放だが可愛いと逝う、男振り回し系と推察。


「エリス様が、ヤタラと時間をかけてメイド服を選んでたから、幸せな王子様はどんな野郎なのかと思ってたら、まさか、こんな…」

「こんな、何だょ?!僕は、弟キャラだからお前とは水と油だ!あのなぁ!もし、次の機会があったら、エリスにお前が1番キレイなのは、何も服を着てない時だと…ぎゃ!」

「ごめんなさいね、ミリアさん。テリィ様は今日はお疲れなの」


と逝いつつ、僕の鳩尾に肘鉄をキメるミユリさん。

僕は上半身を折って喘ぎ、ミリアはギョッとなる。


エリスは…瞳を閉じたまま唇の端1mmで微笑む。

ココから、一瞬で場を制したミユリさんのターン。


「お疲れのエリスさんに代わり私達の御相手をありがとう、ミリアさん。先ず、貴女達の御屋敷を襲撃した"金属旅団"ってどちら様かしら」

「"金属旅団"は、雇われヲタ芸師グループです。お金次第で現場に派遣され、場を盛り上げるコトもあれば、荒らすコトもある。全てスポンサーの意向次第。元はメタルコアの現場でタムロしてた連中ですが、今年ぐらいからアイドル現場にドロップアウトして来ました」

「あぁ。そんな話、ショウさん(ミユリさんのバーの常連で伝説のヲタ芸師)から聞いたコトあるな。ヤワなヲタ芸を打ってる奴とか軟弱ヲタクの類をビシバシ現場から駆逐する乱暴な革ジャケ集団だょね?何だ、お金をもらって掃除してたのか!」


アキバのアイドル現場は、通常1つのステージを10〜20組のアイドルが20〜30分交代くらいで歌い繋ぐスタイルが一般的だ。


(アイ)ドルヲタ(ク)は、お目当てのアイドルの番になると、ステージの前面に出て行ってヲタ(クのダンス)を打ち、アイドルを応援する。


そして、次のアイドルの番になったら、速やかに次のドルヲタに現場を譲る。

コレが、アキバの地下現場の流儀なんだが、時折この流れを乱す奴が現れる。


「うーん。何か最近、ドルヲタとは思えない革ジャケ集団がゼロゼロ(アイドルの正面)に居座ったり、地場ヲタク(ローカル)に喧嘩を売ったりで…まるで、通勤ラッシュ時の京浜東北線状態らしいね。で、その"金属旅団"は、なぜエリスのガラケーに用があるのかな?」

「ソレは…多分、ガラケーで撮った写メに、用が、アル、のだ、と思い、ます、多分」

「え?何が写ってるの?UFO?宇宙人?ま、まさか、ロンギヌスの槍?」


ミリアは、エリスをチラ見するが、彼女は静かに瞳を閉じて、イスに座ったままだ。

ソレを見て、暫く決心がつかズにいたミリアだが、フト思いついたように話し出す。


「何が写っているのかは、やはり私からは申し上げられません。ですので、写っているモノの御紹介はコチラからお願いします(と、唐突にリンカを指差す)」

「ええっ?!私っ?!嫌ょ!ソレはナイでしょ?!せっかく、ココまで話したンだから、貴女が話せばイイんじゃナイ?だって、何たって貴女は副メイド長なんでしょ?(意味不明w)」

「おおおっ!リンカ、お前は何が写ってるのかを知ってたのか?でも、何で知ってルンだょ?ははぁ、わかった!情夫(CIAのスリーパー)絡みだな?ま、まさか、お前の祭祀長の浮気相手は金星人でした!とか?」


ココでハプニング!何と静かに瞳を閉じてたエリスがプッと吹き出したのだ。

エリスとは実は短い付き合いだったんだが、こんな人間臭い仕草は初めてだw


ココは一気に追い込みをかけてみよう!


「おおおっ!わかったぞ!人の前カノを散々コケにしてくれちゃったけど、そう逝えば、お前の愛する祭祀長サマにも前カノがいたょな…確か、大陸のサイバー軍で総参謀部第3部2局61398部隊所属の凄腕女ハッカーだったっけ。僕達が助け出す前に、彼女にアノ手コノ手で責められた、お前の彼は…」

「らめぇぇぇ!やめて!もうヤメて!わかった!話します!全部話します!」

「あのな。大方の察しはついてルンだ!教団幹部のお前が直接モミ消しに来たとなれば、どうせ、また大教祖メジア様のスキャンダルだろう?そして、メジアの今回の御相手は…エリスなのか?」


リンカは半泣き、じゃなかった、半落ちだw

横からミユリさんがその位でと僕を止める。


「テリィたん、貴方は何もわかってない。エリスさんの御相手は大教祖メジア様ではない。メジア様は、そんなコトをする位なら、とっくにこの私を…いいえ!とにかく、違うのょ!」

「じゃ、写メられたエリスの御相手は…」

「メジア様ではなく、メジア様の御嬢様。お2人おられる、年下の方」


ええっ?!おいおい、また百合かw

ソレにしても、年の差ハンパなひ←


第3章 譲れない現場


前カノのエリスが大教祖の娘と百合w

証拠写メは雇われヲタ芸師に盗まれ…


大教祖の私設シークレットサービスを自認するリンカが調査と追跡に乗り出す。

後は、雇われヲタ芸師グループ"金属旅団"が、誰に雇われたのかがわかれば。


「実は、先程"金属旅団"からエリス様に連絡があったのです」

「電話?メール?…まさか隣のビルから手旗信号とか?」

「あのね。ボーイスカウトじゃないのょ。オンラインゲーム"蒼い刻のマルガリート"のアバター同士でチャットしてるの」←


そう語り出したのは、エリスの御屋敷"ノーシグナル"副メイド長のミリアだ。

当のエリスは、傍のイスに着席したまま長い瞑想(迷走?)に入り瞳を開けない。


「問題のガラケーは、特殊な金属ボックスに格納されています。解錠には6ケタのコードが必要で、無理にこじ開けるとメモリーは自動リセット、トライは1回のonly one chanceです。旅団は最初2ケタと末尾2ケタは盗んだけど、真ん中の2ケタがわからない。ソレを教えろ、と逝う脅迫でした」

「で、エリスは何て答えたんだ?まさか、途端に狸寝入りをキメこんで、以来、今までズッとグースカ寝てるってワケじゃないょな?」

「まさか。だってさっき、貴方はエリス様とお話ししたじゃない?あんなに楽しそうに、まるで少女のようにはしゃいでお話しされるエリス様は、久しぶりに見たわ。そもそも、朝からソレはたっぷり時間をかけてmakeupをされるモノだから、いったいテリィたんってどんなイケメンなのかと思ったら…」

「ストーップ!ソレ、もう聞いたから。以下は省略してくれ!議事進行!」

「はいはい。ソレでエリス様は、旅団とお約束をされたのです。次のエリス様のライブに来てくれたら、ステージの上から真ん中2ケタのコードを教えると」


ええっ?エリスがライブをやるのかょ?

エリスって…地下アイドル始めたのか?


思わず瞑想中のエリスを見る。

唇の端が1mm動いた…かな?


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


地下10階だw


いや、建築的には雑居ビルのB1なんだけど、ライブの"地下度"がハンパない。

先ず地下アイドルのレベルが地下wほとんど並の女子中高生だょ!助けてくれぇ。


ビルの裏階段から地下に降りるとパイプ椅子に座ったモギリがいて即開場となる。

当然オールスタンディングで詰めても20人位の地下室には客は4〜5人しかいない。


トップバッターは3曲歌って、直ぐ物販を始めたから、ヘタすりゃ小学生カモだ。

"吹っトンダがーるずvol.15"とあるが、コレでよくもマァ15回も続いたモノだ。


まさか、昭和から数えて15回目なのかな?

しかし、この箱w楽屋もトイレも汚そうw


PAと逝うか伴奏用カラオケ当番みたいな兄ちゃんの持ってる時間表(タイテ)を盗み見たらエリスは何と最後から2番目(トリマエ)だw


だから、異変はその前に起こる。


前のアイドル(AKB148(ワンフォーティエイト)卒業生)が歌い始めるや黒革ジャケの集団が地上から降りて来る。

全員1言も発さないけど、革ジャケの大量の鋲打ちがジャラジャラとヤタラとウルサいw


コイツらが"金属旅団"?

解錠コード欲しさの参戦?


元AKB148はAV落ち寸前の太めのグラマーだったが歌もダンスもまるでダメ。

ソレでも健気にヲタ芸を打つ連中を威圧しアッサリと締め出す"金属旅団"。


自分の歌を聞かずに睨みつけてくる"金属旅団"の出現に元AKBは半泣きだ。

ラスト曲なのに拍手も沸かず、追い落とされるようにステージから姿を消す←


次は…エリスだ。


暗転からのカクテルライト、交差するライトの中心にエリスは立っている。

カラオケCDの音声が流れ出し、ピンヒールでリズムをとってエリスは歌う。


コ、コレぞ、美少女だっ(アラサーだがw)!


古今東西、異性の歌とダンスは、常に最強のセックスアピールなのだ。

"泣顔の種""ガラスの熱帯"とメイドカフェ時代のナンバーが続く。


地下室を埋め尽くす"金属旅団"は、腕組したままピクリとも動かない。

でも、素晴らしいライブになりそうだwそして、最後の楽曲のイントロ…


名曲"フルーティフル・シーズン"!


決して、激しい楽曲ではないので、ヘヴィメタ系のヲタ芸は合わせるコトが出来ない。

茫然と立ち竦むばかりの"金属旅団"を切り崩すように"光の剣舞"が舞いを始める。


いつの間に現場入りしたのか、ミユリさんを先頭にショウさんはじめ名だたるヲタ芸師達が光り輝くサイリウムを手に舞を披露する。


地下室には、優美で勇壮な、中国の剣舞を思わせるヲタ芸が溢れ"金属旅団"は端へ追い込まれミユリさん達はステージ正面(ゼロゼロ)を奪回する。


その時だ!突如リフレインで、エリスがレイヤード風の長袖トップスを脱ぎ捨てるw

その下は…あ、あれ?ヘソ出しのブラトップじゃナイか!ブラボー!で、でも何で?


決してセクシー曲ではナイんだが。

何かが起こったような気もするが…


何が起きたのかは、ワカラナイ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


結局、あのライブで何が起きたのかがわかったのは、帰り道のパーツ通りだ。

ライブの熱気?も冷めやらぬまま、僕はミユリさんと腕を組んで歩いている。


「こんばんは」

「あのさー。出待ちは禁止だぞ。ソレにアイドルがヲタクを出待ちするって、あり得ないでしょ」

「コレ、開けて」


エリス、だょ。

箱を持ってる。


「テンキー付きの金属BOX。ソレが例のガラケー入れか。コレって、あのヲタ芸の下手なヘヴィメタ"金属旅団"の連中が持ってたんじゃないの?」

「"金属旅団"は、結局開けられなくて、諦めて私に返してくれました。せっかく、私、私のライブでみんなに番号を教えてあげたのに。ね、ラッツ?」

「ノーMCでシャベリはナシのライブだったょね?それとも、小声で何かつぶやいた?あ、振り付けが手話でした、とか?」


エリスは、何も答えズに僕に箱を差し出す。

腕を組むミユリさんが面白そうに僕を見る。


テンキーの横の小窓は6ケタ表示だ。

最初と最後の2ケタは既に入力済み。


空白の真ん中2ケタを乱暴に入力する。

enter key を押すと呆気なく箱は開く。


「コレで御満足、かな?エリスも…その角に隠れてる"金属旅団"の人達も。隠れてても鋲打ちジャケットがジャラジャラとウルサいんだょ。コレでやっとみんな、想い出の記念写真が手に入りそうで良かったね」

「ううん、ムリ。だって、このガラケーはダミーだから。メモリは最初からクリアされてる」

「でも、ソレでも"金属旅団"のみなさんは構わないんだろ?だって"金属旅団"の今回の雇い主は…君だから。エリス」


第4章 永遠のウェスト


"ガラケー強盗騒ぎ"は自作自演?


「エリス。君は"金属旅団"を雇ってガラケーを奪わせ"洪水の化学"に対し、問題の写メの存在を力一杯、アピールしたかったワケだ」

「ホントに愉快な人。でも、あくまで"例えば"だけど、仮にそうだとしても、私には、"洪水の化学"を脅迫したり恐喝するつもりはハナからないの。仮に何かアルとしても、ソレはあくまで私自身の身の安全のためよ。あのガラケーは私の保険」

「そのガラケーには、どうやら、幼気(いたいけ)な百合の他に、幼気では済まない"何か"も写ってるみたいだな。"金属旅団"はエリスの他にも雇い主がいるみたいだ。そうなんだろ?そろそろ名前で呼んでもいい頃かな…ピキィ」


僕達の会話を遠巻きにして聞いてた"金属旅団"に向かって声をかけると、その中の1人が無言で1歩前に出て、黙って僕を指差す。


かつて、勝手にエリスのTOを名乗り、自分に(なび)かないと見るや即誰かに乗り換えた男。

お前がエリスを覗き込む時、エリスもまた、お前を覗き込んでるコトに気づかないのか?


すると、エリスもミユリさんに声をかける。


「私ね。ミユリさんの肖像画を描き始めたのょ。素人目に見ても特徴をとらえてると思うの。いつか、肖像画をお見せしたいけど、その時は、こんな殺風景な場所は嫌だわ。だって、会話も弾まナイでしょ?だから、また1年後に会いに来てね」


そして、エリスは顔を近づけ耳元で囁く。


「ミユリさんを帰して。私、あの人は苦手。そうすれば"金属旅団"も、あのお馬鹿な"旅団長"も帰します。ラッツ1人とお話しをさせて。お願い」


目配せの要請(リクエスト)と無言の了承があり、僕とエリカは真夜中のパーツ通りに(たたず)む。


「リスクはあったけど私は自分を信じてる。今回は私が知る中で最高のヲタクの助けを得るコトが出来た。終わりよければ全てよし。ソレでいいでしょ?」

「何処に隠したのかは知らないが、ガラケーなんか捨ててしまえ。ソレでタダのヲタクに戻れるのに」

「嫌よ。この世界の腐敗はラッツが思っているよりも、ずっと深いの」

「君は何から逃げているんだ?」

「私は、直ぐ自由になれる。ラッツの手紙が私の崩壊しかけた精神の支えだった。ラッツの手紙が、自分をこんなにも変えるなんて、思ってもいなかったの」

「大教祖の娘の人生を破滅させなかったんだね。君の立場ならソレが1番理にかなっていたのに」

「だけど、そうすれば、私はラッツに嫌われちゃう。ねぇ。ラッツは、そうやって、みんなと同じになれたの?そうやって、人がどう感じるか、を考えるようになったの?」

「わからない。僕は、人と同じになれたのかな?僕には、わからない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


パーツ通りの神田明神側エンドにある街灯の下でミユリさんがポツンと待っている。

最初、僕の表情を心配そうに読んでたが、安心したのか、元気よく腕を組んで来る。


「どうせ、エリスさんは筋金入りの御令嬢ですよっ!何でも、浅草と万世橋を結ぶ地下鉄を作った方の血筋だそうですね?代々の資産家だったと伺ってますが」

「ソレが色々あって、最後は全財産を賭けトランプで失うハメになって…結果は知ってのとおりさ」

「テリィ様は、いつからエリスさんと"文通"をなさってるの?」

「僕は、大手町で人に逝えない仕事をしてた時期があるんだけど、その頃に契約していた私書箱に、ある日突然、彼女からの封書が届いた。どうして、あの私書箱を知ったのかはわからない。最初は、気味が悪くて、封書自体が来なかったコトにしてたんだけど、27通目が届いた頃から返事を出すようになった。実は27通目には、別の手段を講じてでも絶対に"文通"するとあったんだ」


フンと逝う感じでミユリさんは顔を背ける。

何だかわからないが、僕はフォローに回る。


「エリスは、アキバで、色々な情報を小出しにしながら、様々な相手と様々な取引をして生きている。ぶっちゃけ、今回、実はエリスは政権に特大のネタを提供してルンだ」

「と・に・か・く!エリスさんのおヘソにホレボレ見惚れてるテリィ様は、ホントに心の底から大間抜けに見えました…ところで、なぜ、真ん中2ケタが"58"なのですか?」

「だから、教えてくれたんだょ。エリスが」

「あの、最後のブラトップになった時?」

「そう。"58"は…エリスのウェストのサイズだ」

「やっぱり?でも、テリィ様だから、申し上げますが、彼女、間違いなく"60"はあったと思うのです」

「だ・か・ら!"58"なんだょ。だって、メイドの年齢は"永遠の17才"だろ?だったら、ウェストは"永遠の58"なのさ」


その時、胸ポケが鳴動してメールが届く。

差出人のアカウント名は"鞭を持つ手"。


本文"聞かれないけど私は元気よ"

エリスだw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同じ時刻。


後ろ手にドアを閉める女がいる。

もう片方の手に鞭を握りながら。


「ミリア。今日も悪い子にしてたかしら?」

「はい。エリス様」



おしまい

今回は海外ドラマなどで見かける"元カノは大悪党"をネタに、お馴染み主人公の前推しで病んでるメイド長、同じく百合で嫉妬深い副メイド長、雇われヲタ芸師グループ、新興宗教のシークレットサービスなどが登場しました。


TVで見聞きするNYネタを秋葉原に"適度"に散りばめて展開する手法をとっていますが"適度"の度合いを模索中です。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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