高嶺の花の狼娘
(見たくもないし、聞きたくもないんだけどな…)
私は人のセカイに生きる人外の動物だ。
♡*゜
むくっと起き上がる。朝だ。ふわぁ〜とのびをすると、ぴょこぴょこっと頭の上の耳が動く。
洗面所に向かって鏡を見る。人に近い姿だけど…人にはないものがついている。
頭には黒い三角の耳。顔にあたる水が冷たい。タオルで顔を拭いて、姿身で全身をみる。黒いふさふさの尻尾。
私は人のセカイに生きる狼だ。
お母さんは狼女で、お父さんは超能力者。そんな2人から生まれた私は、超能力を持つ狼娘だった。
持っている超能力は、透視、テレパシー、記憶操作。
持っていることに気づいたのは5歳の時だったような気がする。
朝ご飯を食べ、食器を洗い、学校へ行く準備をする。
耳は両手で抑えて
「んー」
と、力をこめるとすっと、なくなる。
尻尾も同じように…
制服に着替えて、時間に余裕を持って登校。
靴箱を開けるとどさーっと手紙が沢山入っていた。
それらを丁寧にカバンに入れるその様子を呆れたように
「毎朝の日課になってるね」
という声。
親友の奏だ。
「椛、おはよう」
「おはよう」
「一緒に教室行こうよ」
と言うと
「はじめからそのつもりだって」
と返事してくれた。
自分の席につき、椅子を引いてみるとぽろっ。
手紙が落ちてきた。机の中には溢れんばかりの手紙の数々。
「いやー。ほんと毎日すごい数ですな、椛様。読むの大変でしょ? 」
そうこれは全て私に宛てられた手紙。
「みんなの思いが詰まった手紙、そう簡単には捨てられないよ」
「そういう真面目な所も皆から好かれる理由だよ」
っと奏は言うけれど…
「私のどこがいいのか全然分からないや…」
「なーに言ってんの。成績優秀、運動神経抜群、そして美女で優しい。この人を誰が放っておくと思ってんの!」
うぅっ…そんな事言われても…
「美人でも可愛くもないよ?」
「椛、その言葉言ったら女子全員を敵にまわすわよ」
奏から言われた言葉にびくっとなる。そんな事は、おそろしくて仕方がない。
「…はい。ごめんなさい」
と言うと、奏は
「私の前ではいいのよ。椛の親友何年やってると思ってんの? (狼娘の事も、超能力の事も知っているのはこの学校で私と保健室の椛のお母さん、桜井先生しかいないからね。聞こえてるでしょ? 椛? )」
と言う。心で思った事も透視能力で、目を合わせれば聞くことができる。
「えっと…幼稚園の頃からずっと一緒だからすごい年数になるね。13年になるね。(あと、ただでさえ女子の先輩方がこわいです。いつも助かってるよ。奏大好き)」
テレパシーの能力で心の中に思ったことを言う。
「もうっ、椛は可愛いんだからっ!私も大好きだよっ!」
ここ最近、視線を感じる。
(いつも通り?気のせい?)と考えていた矢先…
そんな日常に変化が起きた。
♡*゜
いつも通り手紙を見ていると、『君、人じゃないよね? 』という文字。
並んで『明日の放課後、校舎裏で待っています』
(えっ!? )
背すじが凍るように感じた。
私はすぐに奏に相談した。
「こんな手紙もらったんだけど……」
「!?」
奏も見事に同じ反応。
「これって、バレたんだと思う?」
と聞くと、奏は
「いや……(椛の耳も尻尾も出たところ見たの数回しかないし……椛が隠せなかった所見たことない)」
とフォローしてくれた。
「とりあえず、会ってみないと分からないよね? 」
思っていたことを素直に言うと
「そうだね」
と同意してくれた。
♡*゜
放課後。指定された場所、校舎裏へ。
そこには少し髪が長めの男の子。
「初めまして、桜井 椛さん。僕は同じ1年生の獅子王
風牙 と言います。いきなりですが……桜井 椛さん、これを手に持ってみてください」
獅子王くんから、丸い水晶のようなものを渡された。
持ってみるとぽんっと耳と尻尾が出現する。
「!?」
「やはり、そうだったんですね。桜井 椛さん。貴方は、狼娘でしょう? 」
ここまでバレているなら、仕方がない。
「そうです…」
正直に答える。すると獅子王くんは
「良かった」
と言った。
「何が良かったのです?それと、何故分かったのです? あと、耳と尻尾バレないように収めたいのですが、収まりません。何故ですか? 」
私が質問攻めをすると、獅子王くんは
「人祓いしているので、この周辺には人っ子ひとりいませんよ。大丈夫です」
とにっこり笑う。
「桜井 椛さんは、バレたくないのですか? この狼娘という本当の姿」
笑顔のままだが、その笑顔に恐怖すら感じる。
「えぇ。こっそり暮らしていくことに決めたから」
そう答えると、獅子王くんは何かつぶやいた。
(好都合だ)と。
この獣耳のお陰で、私は耳が良い。少しの音も聞き取れる。
「何が、好都合なんですか? 」
と聞くと、獅子王くんはビックリしたような顔でこちらを見る。
「今のが、聞こえたのか?でも、今のは声には出していないはずだが?」
と驚きを隠せない。
「あれ? 声に出してませんでしたか……でも、私って人の考えていること分かっちゃうんですよ。私の秘密全部知っている訳ではないんですね」
(少しいじわるし過ぎちゃったかな? )
「僕と付き合ってくれませんか? 」
「いきなり、どうしたんです? 」
「もともと、あの手紙はラブレターですよ? 僕の婚約者になって欲しいんですよ」
「いきなりのこと過ぎてびっくりしてるんです。ごめんなさい」
といきなりの獅子王の対応にビックリしつつも、とりあえず謝る。
「あのですね。僕…あっ。その水晶貸して下さい」
「どうぞ」と渡すと
「ありがとうございます」と獅子王くんは受け取る。
「仕切り直して…僕は、獅子なんです」
獅子王くんの頭には、獣の耳。
腰の辺りには、ふさふさの尻尾。
「僕も獣人なんです。貴方と同じように。獅子のね」
「!? 」
驚きが隠せない。
「はじめは、綺麗な人だなー、美人だなーって、見てたんです。遠くから見てたりしてたんです」
「時々感じた、視線は貴方でしたか……」
「視線も感じれるんですか!狼はすごいですね」
と獅子王くんは関心したように声をあげる。
「まぁ、それくらいであれば……」
私は戸惑い気味に答える。
「僕、女の人にあまり興味を持ったことが無くて……いつも遊んでいたのは山の動物達でしたからね……。それで、少し人間離れした身体能力を見たんです。体育祭の時に」
(やっぱり、少し本気出しすぎたかな)と今更ながら後悔。
体育祭のクラスリレーでは、一つ前のクラスとおおよそ、一人分の差ができていたが私はその差を一人で縮め一位でゴールをした。
「僕も獣人ですし、もしかしたらなんて思って高嶺の花の貴方に手紙を書いたんです。貴方はもらった手紙はすべて読む人だと噂で聞いてましたから。丁度、家に本当の姿になる水晶もありましたしね」
(何故? そんな水晶が家に…? )
「何故、そんな水晶が家にあったかです?」
(無意識にテレパシーしてた!? 気をつけなきゃ)
「僕の家が陰陽師の家系だからです。僕の家は代々、獣人で繋いできているんです」
「それで、私を…?」
「はい。僕の代で止めたくないんです。伝統を。
それに貴方ほど優れた獣人はなかなかいませんし。初恋の人ですし」
(この人でも、試してみよう)
「獅子王くん、あなたは私の全ての能力を知った上でも、私の事好きだと言ってくれますか?」
「もちろんですよ!」
(もし、怯えるようなら記憶操作で、今の記憶消してしまえばいい)
「獅子王くん。私と目を合わせてくれますか? 」
「はい。わかりました」
真剣な目。
(この人なら大丈夫な気がするのは何でだろう……? )
テレパシーで送る。
「(私は狼娘です。そして、透視、テレパシー、記憶操作という超能力も持っています)それでも好きだと言ってくれますか? 」
不安ながらにもう一度真っ直ぐに獅子王くんと目を合わせる。
「ますます、相応しいです!僕の家系で一番の婚約者です!」
(あぁ。この人は、真っ直ぐに私を見てくれる。家族や親友と同じように。自分の心が読まれると分かっているのに)
今まで、能力のことを話すと、その後からは目を合わせてくれなかったり、気持ち悪がられる事が多かった。
その度に、話した記憶を消して、隠して生きてきたけど……。
「1ヶ月で構いません。嫌なことや困ることがあれば、僕の中の貴方の記憶を消しても構いません。1ヶ月で、貴方を惚れさせてみせます」
獅子王くんは、息をすぅと吸って、
「貴方を一目見た時には恋に落ちてました。好きです。付き合ってくれませんか? 」
といきなり。
(この人はほんとにいきなりだ)
「ほんとにとりあえず1ヶ月でいいんですか? 脅したりしません? 」
「はい。ご先祖様に誓って嘘はつきませんよ」
獅子王くんは、にこやかにそう答える。
「付き合ってみますか? こんな私と」
と聞くと、嬉しそうに
「貴方がいいんです! お願いします! 」
と獅子王くんは答えた。
♡*゜
私は、最近3人で帰っている。親友と彼氏と。
付き合うことになったと奏に伝えると「良かったね」と言ってくれた。
高嶺の花のと付き合うことになった人『獅子王 風牙』は瞬く間に有名となり、私たち2人は全校生徒公認の名カップルとなった。
♡*゜
1ヶ月たったある日、風牙くんは聞いてきた。
「まだ付き合ってくれますか? 」と。
「なんで、いきなり敬語なのよ」
と笑いながら聞くと。
「1ヶ月前思い出さない? 」って。
「もう、風牙くんって呼ばないよ? 」
なんて、いじわるを言ってみる。
「えっ!? 」
(ふふ、驚いてる)
「ははっ。おかしい」
「なっ何がだよ」
と風牙くんは聞く。
「楽しいの。貴方といるのが。奏と同じようにね」
「そこは、僕の方が上だろ?」
「何、言ってんの。この自意識過剰」
「ところで、最初の返事は? 」
「え?わかんないの? なら、別れる? 」
少しだけ、いじわるしてみる。
「絶対イヤ。このまま人生支えて。あっ。獣人生か」
「なにくだらないこと言ってるの」
「で? 答えは? 」
「もちろん、Yesよ。苦労させたら承知しないからね」
「うっ。わかったよ」
楽しませてくれる貴方が好きよ。
心を読まれるのも気にせず、目を合わせてくれる貴方が。
怖がりもせず傍に居てくれる貴方が。
だから、ずっと支えてよね。ずっと一緒なんだから。