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藍子

作者: ドロップスドロップ

僕が代わりに授業に出てくれと言われたのは昨日のことだった。

「メディア論?」

「そう。出席やばいんだけど、明日はどうしてもサークル行かなきゃでさ。でかい教室だし、誰も気づかないから」

一個上の相田先輩にそう言われた僕は、大して用事もなかったため、恩を売っておくことにした。

そうして今、僕は一度も入ったことのない、文学部の38教室の前にいる。


「大貴?」


何してんの、と肩を叩かれ、振り返ると、藍子がだっていた。


「あれ?理工だったのに、文学部に転部?」


藍子はわざとらしげに微笑むと、カツカツとヒールを鳴らしてドアを開け、もう一度僕を振り返った。


僕は肩をすくめて、ドアを抑え、教室に入った。



♦︎



藍子を振ったのはもう1年も前のことだ。

大学1年の秋、たった3ヶ月だけ付き合っていた藍子を、僕は振った。


好きな子がいた、というわけではない。


言い方は悪いが、藍子といてもこれ以上の自分の成長を見込めない気がしたのだ。


デートして、話して、ラブホに行き、デートして、話して、たまに遊園地などに行く。


このエンドレスループに何か意味はあるのか?


そう思うと、藍子と一緒にいる時間は無駄に思えた。




♦︎


藍子はペンを走らせる。

たまに教授を見つめ、頷き、そしてまたノートをとる。


白い手がしっかりと黒いペンを握る。


藍子はこの1年で、すっかり変貌した。


茶髪になり、メイクをし、ヒールを履く。


今僕の隣に座っている藍子は、僕の知ってる藍子じゃない。


黒髪で、もっさりしてて、服のセンスは皆無だった。


ーーーーーーー僕に振られたから?


傲慢な思いは僕の心を締め付けた。



♦︎



終業のベルが鳴り、藍子はペンケースをゆっくりカバンへしまった。

僕はそれを横目で見て、藍子が立つと同時に立って、藍子へアイコンタクトをした。

藍子はそっと微笑んで「じゃあね」と一言残してドアへ向かう。


「待ってくれよ」


僕は茶髪のポニーテールがゆらゆら揺れている背中に声をかけた


「一緒にランチでも…」



その途端、藍子はドアを開け、そして、ゆっくりこちらを振り返った。


「遠慮するわ」



バタンとドアが閉まる。藍子は最後までドアノブを持ち、ゆっくり回して閉める。そういう女だったのに。変わってしまった。



♦︎



「ーーーだから言ったろ?あいつはそういう奴なんだよ、自分の成長とか言いながら、キミを外見でしか判断してないじゃないかーーー」


名残惜しげにドアの向こうを見つめる藍子に相田は言う。


少し、ほんの少しだけ、藍子はドアノブにそっとふれた。


そして振り返り、「そうね」というと、相田のブルーのパーカーの袖を掴み、階段を降りていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 人の心の中は、その人にしか分からない。 下手をしたら、その人にすら分からない。 色々な思惑が垣間見えるようで、想像力がかき立てられますね。
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