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 真を初めてあたためてから、一週間が経った。

 俺の日常は、少しだけ変化していた。


 いつものごとく俺を待っている祐介と真の二人と合流し、あたためながら登校する。

 今までは学校まで三人だけで行っていたが、今は違う。


「よー、雄大、真、祐介。おはよ。さみいなあ」

「三人ともおいーす。雄大、あっためてくれ!」


 家が全然別方向のはずなのに、北見と中村が合流するようになったのだ。


「うーす、ほらこっち来いよ」

「はあぁー。ぬくいぜ……」

「だなぁ……。麻薬みたいな中毒性だ……」

「おい、人聞きの悪いことを言うな」


 さらには。


「よ、皆」

「うす」

「はよ、さみい」


 柔道部の東堂、藤井、西川まで合流し。


「皆、おはよう!」

「おっはよー」

「眠い……」


 サッカー部の喜沢(きざわ)、竹村、芳野(よしの)が合流した。


 皆、わざわざおれにあたためられに来たらしい。

 どんだけ寒がりなんだと言う話だ。


 全員をあたためながら登校し、教室につくと、村田、神部(かんべ)高峰(たかみね)がやってきて、俺にあたためて欲しいと言う。

 うちのクラスの男子ほぼ全員が俺にあたためられる事態となった。

 最後の一人は、かたくなに俺に触れることを拒否している。


「なあなあ、神代(かみしろ)もそろそろ観念しろって」

「嫌だよ、キメえ。お前ら全員ホモだろ。男同士くっついてんじゃねえよ!」


 祐介にそう怒鳴るのは、クラスで唯一の不良、神代だ。

 髪を金に染めピアスをいくつもあけている。

 ガッツはあるんだが実力が伴っておらず、喧嘩は弱い。

 だから割とクラスにも馴染んでいるんだが、どうにも俺にあたためられるのは嫌らしい。


「まあまあ、ほら、物は試しにさ」

「試しにホモなんかになりたくねえっつの」

「でもほら、寒くて震えてるじゃん。神代、痩せてるから寒いのダイレクトでしょ?」

「うっせ! 余計なお世話だっての!」


 真にもそんな調子で返していた。

 しかし、本当に毎日がたがた震えていて可哀相になる。

 短ランなんか来てお腹出してるからそうなる。


「なあ雄大。もう見ていてかわいそうだからさ、強制的にやっちまおうぜ」

「まあ、あたためるだけだしな。風邪ひくよりかは良いだろ」


 祐介の意見に賛同し、神代をあたためることにした。


「や、やめろ! 来るんじゃねえ!」

「まあ落ち着けって。おーい柔道部」

「うい」


 祐介の呼びかけに柔道部の二人が神代を脇から捕まえる。

 なんだかイジメみたいだ。

 神代は野良猫みたいに必死に暴れている。

 俺はなんだか、神代が本当に野良猫のように見えてきた。

 寒くて震えてるのに人間が怖くて威嚇する子猫だ。

 ふむ。なら、優しく包み込み、怖くないと教えてあげなくては。

 怖がらせないようにゆっくりと神城に近づく。


「雄大、あのスペシャルなやつやってやれよ」

「ああ、スペシャルか。いいぜ」


 北見の案を採用する。


「なあ、スペシャルって何よ?」

「え、お前知んねえの?」

「雄大の能力は、雄大の肌の接触面積が多ければ多いほど強力になんだよ」

「あれがより強力に!?」

「やべえ……」

「おい、神代の顔隠せ! 誰の眼にも触れさせんな!」

「俺は何をされんだよおおお!! やめろおおおお!!」

「心配するな。怖くないぞ」


 ゆっくりと近づきながら、上着を脱ぎ、Yシャツを脱ぎ、Tシャツを脱ぐ。

 上半身が裸になると、少しだけ湯気が出ていた。


「怖ええよ!! 完璧ホモじゃねえか!! 来るな来るな!!」

「良いから、もう怖くないから」

「うあ、やめ、やめろおおお!! 俺のそばに近寄るなああぁぁ!!」

「ほら、怖くない」

「アッー! あぁ……ちゅきぃ……」

「ブッハハハハ!」

「こ、こいつはひでえ……」

「俺にやられなくて良かった……」


 俺の腕の中で神代はとても幸せそうな顔で笑っていた。

 あたたかいと幸せだよな。


「まーた男子がバカやってる」

「お子ちゃまだねー」

「ってなんで滝本、上裸なの!?」


 教室に入ってきた三人の女子が、俺達の様子を見てそう言った。

 この寒い中、自転車をこいできたのかその足は赤くなっていて、寒いを通り越してもはや痛そうだった。

 そういえば女子は俺が怖いのか、あまり話しかけてこない。

 苗字とはいえ名前を呼ばれるのも久々だ。

 

「なんでもねーよ。あっちいけ」

「ん? なんで雄大のこと教えねえの?」

「バカ、女どもに知られてみろよ。雄大が女に取られちまう」

「なるほど。あいつら独占しそうだよな」

「俺らのあたため係なのに」


 男子が少しホモ臭いことを言っていて、驚く。

 二分が経ったので神代を腕の中から解放する。


「ほれ、神代。あたたまったろ?」

「ん、んん。あ、ああ。サンキュ……。意外と良かったぜ」


 あたたまって幸せそうな神代を見て、俺の中で歓喜の感情が込み上げてきた。

 今までは特になにも気にせずに家族のあたため係をしていたが、人に喜ばれるというのはとても嬉しいことだと気付かされた。


「ありがとう、神代。お前のおかげで俺は新しい扉を開くことができそうだ」

「いいぃ!? お前、やっぱホモだったのかよ!」


 ただお礼を言っただけなのに、神代はなにやら勘違いをしてしまった。

 まあ、いいか。



 二限目の日本史の授業の時だった。


「なあ、滝本」

「ん? どうした、南」


 珍しく後ろの席の女子が、小声で話しかけてきた。


「お前、なんか朝やってたっしょ。なにしてたの?」

「ああ、寒がってる神代をあたためてやってたんだよ」

「半裸で? 見てるこっちが寒かったんだけど」

「肌に触れた方があたたまるからな」

「ふーん」

「もういいか。ノートとりてえ」


 日本史の鈴木先生は、黒板を消すのが早い。

 少しでも遅れるととり終わる前に消されてしまうのだ。

 案の定、俺がノートをとり終わる前に消されてしまった。

 あとで真にでもうつさせてもらおう。


 昼休み、真と祐介と弁当を食べようとしているところに、南を入れた三人の女子がやってきた。


「ちょっと滝本。今日はあたしらとご飯食べようよ」

「俺が? お前らと?」


 意外な提案に驚いていると、隣にいた祐介が「ダメだダメだ! 雄大はお前らにやんねえ!」と声を荒げた。


「なに、木村。お前ホモなの? 必死過ぎてキモいんだけど?」

「ちげーよ!」

「じゃあ別にいいじゃん。ちょっと滝本と話がしたいだけだし」


 ああ、南は俺に話があるのか。

 なら行かないわけにはいかないな、


「わかった。行くよ。わりいな、真、祐介」

「う、ううん。僕は構わないよ」

「ああぁ、雄大が取られちまう……」


 祐介は俺と弁当が食べられないのが残念なようで、しおれてしまった。

 そんな祐介に悪いが、俺は内心で少しだけ浮かれていた。

 もしかしたら、告白なんてされてしまうかもしれない。

 高二にして人生初彼女ができるチャンスなのかもしれないのだ。


「じゃ、行こ。あたしら空き教室で食べてんだ」

「ああ」

「あ、ちょっと待って南さん」

「ん? なによ山口」

「ちょっと、こっちに……」


 なにやら真が南と内緒話をしていた。

 そういうの女子じゃないんだからやめろよ、真。


「なるほどね」

「うん、くれぐれも……」

「おっけーおっけー。じゃ行こ、滝本」

「ああ」


 真との話が終わった南についていく。

 空き教室につくと、南たちは普通に弁当を食べだした。

 告白なんて空気ではない。

 内心で浮かれていた自分が恥ずかしくなる。


 女子の話についていけず、ほぼ「ああ」か「そうか」の相づちくらいしか打てず、弁当を食べ終えた。


「そういやさ、滝本」

「なんだ?」


 南がなにやら言いたげだった。

 もしかして、もしかするのか?

 俺は告白されるのか?

 相手は南だぞ。

 まあ、少しヤンキー入ってるけど、顔は可愛い。

 眉は細過ぎてほぼ無いけど。

 うーん。いいのか、俺。

 本当に好きな人と付き合うべきでは?


「ちょっと服脱いであたしのこと抱いてよ」

「え、ええぇぇ! 京香なに言ってんのあんた!」

「こんなとこでやめてよね! 家かホテルでやれ!」


 南以外の女子がなにやらわめいているが、俺は南の言いたいことがわかった。

 朝、神代が俺にあたためられているのを見て羨ましかったんだろう。

 そういえば教室に入ってきた時に足が真っ赤になっていた。

 あたためてやろう。


「いいぜ、南」

「わあぁぁ!? 滝本くん、マジ!?」

「硬派に見えて実はチャラかったの!?」


 女子がきゃあきゃあと騒ぐが、俺は特に反応をせずに服を脱いでいく。


「うわあ、すごい、湯気でてる」

「筋肉すご……」

「あははは! 胸筋ピクピクさせてみてよー。あはは」


 そう言いながら俺の胸に春野が触った。


「あははぁぁぁんん……。これ、だめえぇぇ……」

「由梨!? あんた人に見せられないようなメス顔してるよ!」

「だってぇぇ……気持ちぃんだもん……あったかぃょぉ……」

「な、なにこれ……! どういう状況よ……?」


 南と菊池は、あたたまって幸せそうな春野を見て驚いている。

 初めて見たら驚くのも無理はないか。


「俺の体温は高いみたいでな。俺に触るとあたたまるんだよ。俺は昔から家族のあたため係をしていたからな。あたためるのは得意だ」

「あたたまるとかそういうアレじゃなくない!?」

「いや、あたためてるんだよ。あたたかいだろ? 春野」

「ぅん、あったかぃ……。好きぃぃ……」

「ほらな?」


 俺の胸に顔を押しつけるようにして抱きついてきた春野。

 頬っぺたが寒かったのだろう。

 手が空いているのでもう片方の頬っぺたと背中を撫でてやる。


「ふわわああぁぁん……!! 好きぃぃぃ……!」

「そうかそうか。しっかりあたたまれよ」


 春野は幸せそうにして頬をグリグリしていたが、やがてペタンと座ってしまった。

 ちょうど二分が過ぎているので春野を離し南に向き合うと。


「ばっ、ちょ、南!? なんで服を脱いでいる! 着ろ!」

「そ、そうだよ京香! なにやってんの!!」


 なぜかブラジャーとパンツだけの姿になった南がいた。

 やばい、心臓がどくどくしている。

 女子の下着姿とか、初めて見た。


「お、お前、恥じらいとか、そういうのはないのか! 早く服着ろ!」

「え、だって肌と肌をくっつけてたほうがあたたまるんでしょ?」

「ああ、なんだ、そういうことか。寒さがひどいのか?」

「うん。というより生理痛ひどくてさー」

「そうか。焦ったぜ」


 あたためてほしいだけだったようだ。

 うちの母親も妹も生理の時にはあたためてほしがる。

 お腹周りがあたたまって痛みがやわらぐそうだ。


「南はどこをあたためる? 腰か? 腹か?」

「なんか慣れてるね。あたしはお尻が冷えちゃって」

「母ちゃんと妹がな。俺の手のひらであたためるとより効果があるそうだが、どうする?」

「あー、うん。お願い。マジで痛くて」


 よく見たら南の顔は青白くなっており、とても辛そうだ。

 これは、上半身だけじゃ足りないかもな。


「ちょっと下も脱ぐぞ」

「え、あ、うん。どうぞ……」

「きゃああぁ! 滝本くん、変態なの!? パンイチとかありえないでしょ!」


 菊池が騒ぐがほうっておく。

 今は一刻も早く南をあたためてやらないと。


「南、俺のふとももをお前のふとももで挟むんだ。手は背中でも腰でも良いからまわせ」

「う、うん」

「顔や肩も俺の胸にくっつけろよ。俺はお前のケツに手を置く」

「ケ、ケツ言うなし……」


 寒くなってきたのか震えている南に手を広げて近づく。


「ほら、来いよ」

「あ、うん」

「挟むんだぞ」

「……うん、わかった」


 出来るだけ、肌の接触面積が大きくなるように南を包み込む。


「ふ、ふあああぁぁぁぁ! こ、こりぇええぇ、や、ばいよおおぉぉぉ!!」

「あたたかいだろ?」

「うんんん!! あったかいっ、よ、おおぉぉ……!」

「ちょ! 京香、声大きいって!」

「外に聞こえちゃうよ!」

「というかヨダレ! ヨダレ垂れてる!!」


 南の尻はとても冷たくなっている。

 手の平に収まりきらないので、撫で回してあたたかさを広げてやる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛! だめええぇぇええぇ!!」

「ちゃんとあたたまってるぞ。お前のケツ」


 冷えて固くなっていた南の尻は撫でたおかげで柔らかくなっていた。

 もう少しあたためてやれば痛みもやわらぐだろう。


「う、うわ、京香の顔凄いことになってる……」

「由梨もそんな顔だったよ」

「うええ、マジで……?」


 一分が過ぎた頃、突然、空き教室の扉がガラリと開く。


「あ、貴方たち! 何やってるの!」


 日本史の鈴木先生がそこにいた。

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