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短編だったのですが長くなってしまったのでわけました。

前中後で終わります。

 いつもの朝だった。

 朝からどんぶり飯を四杯ほどかっ喰らい、嫌がる弟や父とハグを交わし、家から六キロほど離れた高校へ向かう。

 途中、小学校からの幼馴染と合流し一緒に登校をする。


雄大(ゆうだい)、おはよう。今日も寒いね」

「ああ、おはよう、(まこと)


 俺の幼馴染である真は、わりと可愛い顔をしていて結構モテる。

 背も小さく小動物といった感じだ。

 背が高くゴツい俺と並ぶと、より一層小動物感が増す。


 よく異性から告白されているが全てフっているので、恋人を作らないのかと聞いたことがある。

 その時は「雄大に彼女ができたら考えてみるよ」とは言っていたが。

 あいにく俺に彼女ができそうな気配はない。


 真の歩幅に合わせてゆっくりと歩く。

 早めに家を出ているから、ゆっくり歩いても充分登校時間には間に合うのだ。


 真はカバンをゴソゴソと漁り、何かを取り出した。


「あ、雄大。これ借りてた漫画。面白かったよ」

「ああ、別に教室で返してくれりゃいいのに」

「忘れちゃうかもしれないからさ。ほら」

「おう、ってお前……手冷たくない?」

「うん、まあ冷え性だから。朝はこんなもんだよ」

「冷えは体に悪いぞ。ほらあたためてやるから手を貸せ」

「い、いいよいいよ。そんなことしなくても。って無理やり手を掴まないでって!」

「いいから。ほら。どうだ? あたたかいか?」

「あ……好き……」

「そうだろうそうだろう。あたたかいのは好きだろう?」

「うん……好き……」


 大人しくなった真の手をひき、通学路を歩く。

 だんだんと生徒の数も増えてきた。

 前方にクラスメイトの姿を確認したので声をかける。


祐介(ゆうすけ)、おはよう」

「おーす、雄大とまこと……げえぇっ!? なんでお前ら手ぇ繋いでんの!?」

「何でって、真の手が冷たかったからだけど」

「でも普通手を繋いで歩かねえよ!! 男同士で!!」


 祐介がそう叫ぶと、真はハッとした顔をしてから俺の手を離した。


「ち、ち、ち、違うんだよ! そういうあれじゃなくて!」

「何が違うってんだよー! わああー!! マジかああー!!」

「あ、祐介ー! 待って! 話し合おう!!」


 真は走り出した祐介の後を追いかけていってしまった。

 俺は空いた手をポケットに入れて歩き出す。


「……ねえ、見た?」

「うん……うん……」

「キテタ……」


 こちらを見てヒソヒソと話す女子の視線が気になり、気持ち早めに歩いた。




 教室へつくと、祐介と真がなにやら言い争っていた。


「あ、雄大! やっと来た! ちょっと祐介が僕がホモだって言ってくるんだよ!」

「だってそうだろう。おま、お前ら、お、お似合いだと、思うぜ?」

「そんな無理して認めようとしなくていいよ! 雄大と手を繋いでいたのは、気持ちよかったからで」


 クラスがざわめいた。


「……気持ちいいだって」

「キタ……キタ……」

「やっぱり……真くん……」


 一部の女子たちがざわめいていた。

 まあ放っておこう。

 今は俺のせいで真がホモ疑惑を持たれているのをなんとかしないと。


「おい、祐介」

「お、おう? なんだよ、彼氏さん?」

「彼氏さん? まあいい。ちょっとこっち来い」

「な!? 暴力反対!」

「暴力なんて振るわねえよ。ほら」


 手を広げ、暴力を振る意思なんてないとアピールしながら近づく。

 しかし、祐介は凄い勢いで後ずさり、教室の壁に背中をくっつけた。

 もう逃げ道は無いぜ。


「うわあぁ!! 来るなあぁぁぁ、あっ……。気持ちぃ……」

「お前、顔めっちゃ冷えて赤くなってたからな。俺の手、熱いから。頬っぺたあたたかいだろ?」

「あたたかい……好き……」


 俺の手の平は結構でかい。

 祐介の頬っぺたを挟んでやれば、顔全体があたたまるだろう。


「見た?」

「うん」

「コナイ」

「コナイネ」


 一部の女子がヒソヒソと話す。

 まったく、女子ってのはどうしてああいう内緒話が好きなんだろうね。

 理解できないな。


「ほら祐介。気持ちよかっただろ? 僕がホモってわけじゃないんだよ」

「ああ……確かに気持ちよかった。まるで寒い朝に目覚めてから二度寝のために潜った布団の中のような安らぎを感じたぜ……」

「うん、例えが下手だってことしかわからないかな」

「なんだと! じゃあ真が例えてみろよ!」

「わかったよ。……あれは、僕が十歳の時のことです。僕の家の近所に住んでいた大学生のお姉さんが」

「なあ、その話ホームルームまでに終わらないよね? 興味はあるけど今はいいかな」


 祐介と真は仲良く話している。

 良かった。

 二人が仲たがいせずに済んで本当に良かった。


 二人は少し上気した顔で、先生が来るまで話をしていた。




 放課後、真と祐介の二人と家に帰る。

 小動物的な歩き方で前を歩いていた真が振り返った。


「今日ね、一日ずっとあたたかかったんだ、体」

「あー、俺もだ。体育で外出た時も、皆が寒がってて不思議に思った。今日あたたかくね? って」

「たぶん朝に雄大にあたためられたからなんだと思う」

「雄大、お前すげえ能力持ってんな」

「まあな。俺は人より代謝が良いせいか、体温が高めなんだよ」


 平熱で36.5度あると伝えたら「いや、普通だから」と返された。

 うちの家族は全員35度台だから高めだと思っていた。


「昔からうちの母ちゃんや妹が俺を湯たんぽ代わりにしててさ。朝は絶対抱きしめられんだよ」

「んだよ、それ! 自慢かよ! うらやましい! 雄大の母ちゃんめっちゃ美人じゃねえか!」

「いやいや、祐介。お前自分の母親に抱きしめられるの想像してみろ。お前姉ちゃんもいたな。そっちも想像してみろ」

「うげぇ……。おかんはちょっと無理だけど、姉貴は割りとありかも……?」

「祐介……、さすがにそれは僕も引くよ」

「ちょ、ちょ、冗談だよ!」


 思わぬところで祐介の性癖を知ってしまった。

 できれば知りたくは無かった。


「……まあ、俺の母ちゃんと妹が言うには、毎朝二分程度抱きしめればその日一日は雄大保温効果が続くんだと」

「雄大保温効果か。象印雄大と呼ぼう」

「じゃあ僕はシスコン祐介と呼ぶよ」

「あれは冗談なの!」


 明日には祐介がシスコンだと学年中に知れ渡るだろう。

 主に俺と真が言いふらすせいで。

 

「そういうわけで、俺には謎の保温効果があるんだ。家では家族全員のあたため係をしている。父ちゃんも弟も抱きしめようとすると嫌がるんだけどな」

「そりゃ、お前みたいな暑苦しい巨漢に迫られたら嫌だろうよ。朝、マジで身の危険を感じたし、俺」

「俺がホモだとしても祐介は狙わねえよ……」

「なんだと、お前! 言って良いことと悪いことがあるって教えてやるよ、雄大いぃぃ!!」

「うわ、やめろ」


 飛び掛ってきた祐介をあしらいながら、家に帰った。



 夕食時、幼馴染の真が冷え性だったからあたためたと家族に話した。


「うわ、やっちゃったんだアニキ。真くん可哀相……」

「雄大、周りに人はいなかった?」

「ああ、いなかったけど。なんでだ?」

「ううん、いなかったなら良いのよ。これからも隠れてやってあげなさい」

「真さん、マジ可哀相。俺でさえキツイのに……」

「どういう意味だ?」

「いーの、アニキは気にしないで。ほらご飯食べよー」


 家族は何かを知っているようだったが俺には教えてくれなかった。



 翌朝、母親に言われたとおり真をあたためてやった。

 昨日、俺が真のあたため係をしてやると言ったら了承したので。


「ふあぁぁん……好き……」

「なんか、母ちゃんから人に見られないところでやれって言われたけど、意味わかんないよな」

「うん……わかんにゃい……」

「まあ真面目な感じで忠告してきたから従うけどさ。っと二分経ったな。学校行くか」

「んうぅ、んぁ? あ、ああ、うん。そうだね、行こう、学校」


 あたたまって元気になった真と一緒に学校へ向かう。

 しばらく通学路を歩くと、前方に寒そうに肩をちぢこませて歩く祐介を見つけた。

 祐介の耳は後ろから見てもわかるくらいに赤くなっている。

 とても寒そうだ。あたためてやろう。

 驚かせてやろうというイタズラ心もあり、静かにしかし素早く祐介の後ろに行く。


「よう、祐介おはよう。耳めっちゃ冷えてんな」

「あああぁぁぁぁ……耳だめっへええぇぇん……」

「うわ、祐介ひどい顔してる。まさか……僕もあんな顔を……? だから雄大のお母さんは……!?」


 真がなにやらブツブツと言っているが、祐介がひどい顔してる以外よく聞き取れなかった。


「うわ見て」

「うん」

「ナイワ」

「うーん、クルカモ?」


 一部の女子達がまたヒソヒソ話を始める。

 ここに居たら注目を集めそうなので、何故か膝がガクガクしている祐介の耳を挟んだまま押して歩いた。


 教室につくと、真と祐介が俺から離れてヒソヒソと話をしていた。

 お前らまで女子みたいになるなよ。

 聞いて欲しくない話なら聞かないから安心しろ。


「あーさみいぃぃ! 今日めっちゃ冷えね?」

「教室の中もそんなあったかくねえし!」


 入り口から北見と中村が入ってきた。

 今日の冷え込みは凄いとテレビでもやっていた。

 俺はそこまで寒いとは感じないが。


「よし、来たぞ。獲物だ」

「うん。作戦開始だよ」


 祐介と真がなにやら動き出した。

 イタズラでもしかけるのか?


「おーす、北見、中村。今日もさみいな」

「おー、祐介。おはよ。さみいなんてもんじゃねえだろ」

「なあ。冬将軍来てるだろ、これ」


 予想に反して祐介は普通に二人と話していた。

 なんとなくその様子を見ていると、真が「ねえ、雄大」と話しかけてきた。


「ん? どうした?」

「あの雄大のあたためる力がさ、どのくらいかを検証したいんだけど協力してくれない?」

「おう、別に構わないけど。どう検証するんだ?」

「ちょうどあそこに外から来たばかりの二人が居るでしょ」

「ああ、北見と中村な」

「うん、で、その二人を同時にあたためたらどうなるのかなって」

「二人同時か。やったことないな」


 今まで家族のあたため係しかやってこなかったから、二人同時なんて初体験だ。

 妹は俺が起きる前に勝手に布団に入ってあたたまって出て行くし、母親は俺が歯磨きをしている時に抱きついている。

 父は俺より早く出て行くので、見送るついでにあたためてやる。弟は俺が飯を食い終わる頃に起きてくるので、嫌がるが膝に乗っけてあたためてやる。

 そう。今まではひとりずつしかあたためる機会がなかったのだ。

 真のこの検証は、俺も俺の力がより知れて良いかもしれない。


「おもしろそうだな。やるか」

「うん、やろう。じゃあ雄大は祐介が気を引いている二人の後ろから肩を組んでみて」

「おう、わかった」


 席を立ち、ゆっくりと二人の背後へまわる。

 隙をうかがっていると、祐介が眼で合図を送ってきたので行動に出る。


「うーす、北見、中村。寒そうだな」

「う、お、おおぉ……。雄大。寒いような。寒くないような……。やべえ、頭まわんねえ」

「なんか、お前あったけえな……。寒くなくなってきた。ああー雄大マジあったけえ……」

「うしっ! 実験成功だな!」

「だね!」


 北見と中村は少し眠そうな顔をして、ポワーンとしていた。

 あたたまって嬉しいのだろう。

 そんな二人の様子を見て、祐介と真も嬉しそうだった。


「ねえ、見て……」

「うん、良い……」

「キタ」

「キタネ」


 一部の女子がざわめいている。

 北見と中村の二人は割りとモテる部類に入るから、嬉しそうにしているのが見れ幸せなのだろう。


「まあ検証は成功だな。二人同時でもあたたまる」

「そうだな! これでなんとかなったぜ」

「うん、良かったよ、ほんと……。あんな顔、人に見せられない……」

「そんなひどかったんか、俺……。俺もそんな顔を誰かで見てみたいな」

「ダメだよ。あんな顔を人に見せたらそれだけで社会的に死ねる」

「え、ちょっと待って。真、お前俺のことそんな風に思ってんの?」


 検証を無事に終えたからか、二人ははしゃいだ様子で話していた。

 二分が経ったので北見と中村の二人から離れる。


「うあー、ありがとな、雄大。なんかおかげであたたまったぜ」

「ほんとほんと。お前体温高いんだなー。また寒くなったらよろしく!」

「ああ、お安い御用だ」


 ちょうど先生が来たので、皆席に戻った。


 放課後、祐介と真はなにやら用があるとやらで、教室に残っていた。

 俺も二人の用事が終わるまで待とうとしたが、時間がかかるから先に帰ってくれと言われ大人しく帰ることにした。


 翌朝、真との合流地点に何故か祐介が居た。


「おーす。雄大、さみいからあっためてくれよ!」

「あ、僕も一緒にお願いね」

「おー、良いぜ」


 どうやら俺にあたためられたくて来ていたようだ。

 冷えは万病の元だしな。

 あたためてやろうじゃないか。


「ふあぁー、なるほどー、こりゃあいいぜ……」

「うん、うん、これなら安心だね」

「そうか。ちゃんとあたたまれよ」


 二人と肩を組み、学校までの道を歩く。

 これ身長的に、俺がだいぶ中腰にならないといけないからつらいんだけど。

 まあ二人が幸せそうな顔してるし、少し我慢するか。

男子高校生って割りと友達同士でくっついてるよね。

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