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第8話 自由であるように


「アロウズ!リニアリスさまに何て口の聞き方を…」

「いいのよサラ!ううん、むしろ今のままで…アロウズさんは…このままでいいの」



俺のような冒険者にも垣根なく接するリニス。

マジ天使!!



どれだけ見ても見飽きる事のない、神秘的な色を湛えた碧眼がまっすぐにこちらを見つめてくる。


それだけでまた…鼓動は早く、顔が熱くなったのが分かる。


ヤバい…風邪かな?



「アロウズさん…まずは選抜おめでとうございます。結果はどうあれ、他のC級と明らかに違うというのは素人のわたしにも感じられました」

「光栄です、姫」

「もう…揶揄からかってますよね?」


アッサリとウィークエンドに負けたようでいて、実は選抜試験に合格していたジャングル。


まぁ俺の水操弾改めゴリラ殺しまで披露したしな!



「アロウズ…リニアリスさまを困らせないで。それにしても…あのソールとか言うサムライは何者?ムステインと互角に打ち合うなんて…」

「サラ、その話しは別の機会にでも」

「あっ…はい、も、申し訳ありません」


けっけっけ…サラのやつ怒られてやがる。

まぁ選抜されたのはソールの力が認められたからってのは否定できないけどね。


「俺たちが参加するからには大船に乗った気持ちで精霊石を待っててくれ。『こんなにオッキイの!?』って言わせるくらいのやつを持って帰ってくるぜ!」


そのセリフは男が女に言わせたいランキングで常に上位だ。精霊石の普通の大きさをそもそも知らんけど。


「大きさは選べない気が…それに…いえ、でもそういうところがアロウズさんらしいわ」

「アロウズのは大言壮語というか誇大妄想の類ですよ、リニアリスさま。馬鹿が感染るので真に受けないように」


なんかサラのアタリが強いな…機嫌が悪いのかな?

ロッカーで偶然入手したサラのパンティがポケットに入ってるのはバレてないはずなのに…



「ふふふ、やっぱり2人は仲良しですね。ねぇ、アロウズさん…もし精霊石に何か願い事をするならどんなことを?」

「俺?もちろんリニス…君と一対一サシで飲みに行きたいって願うよ」


豪速球で、だが嘘偽りのない俺の想いをぶつけると、期待通りに顔を赤くしてくれるリニス。


「あ、あわわ…そ、それは…」

「アロウズ…リニアリスさまを困らせないでって言ったでしょ」


サラはそう言うが…駆け引きを楽しめるほどチャンスが多くないのは自覚してる。

あと慌てるリニスはやっぱりメチャンコ可愛い。


「い、いいのよサラ…アロウズさんありがとう嬉しいわ。でもご飯でしたらこの前の金貨のお釣りで奢ってもらえるんですよね?」

「あ…そうだった!っていうかよく覚えてたね?」

「もちろん!こう見えてわたし結構意地汚いんですよ?兄様や姉様からは王女の癖にオヤジ臭いって言われるんですから」


オヤジ臭いリニス…想像つかんな。

そのオヤジはフェロモンとか凄そうだ…


「だから…その願い事はダメです。わたしが損しちゃいますからね、食事一食分」

「おっとこりゃ一本取られたな…じゃあ」


どうしよう…物欲魔人の異名を持つ俺としては…最新の武器・防具カタログとか見てると全部欲しくなっちゃうタイプだからな…

マジックアイテムも欲しいし…いや娼館の貸し切りなんて…ゴクリ…


「アロウズ…さっき盗み聞きして分かってると思うけど…『君を幸せにしてあげる』とか浮わついた事を言っても無駄ですからね」


幸せにしてあげる…?


「そっちこそ馬鹿なこと言うなサラ…俺がそんなこと言う訳ないだろ?」

「そうなの?リニアリスさまに向かってなら…このウラカで一番言いそうな男に見えるけど」


リニスも…ちょっと意外といった顔でこっちを見てくる。


「何が幸せなのかは自分で決めるもんだ。他人にしてもらうもんじゃない」


この前、路線馬車でお腹の膨らんだ女性に席を譲ったら…私は妊婦じゃないのよ!って怒られたばっかだしな…


かように誰かを幸せにしようとしても、相手にとってはいい迷惑だったりもするのだ。



「じゃあ…アロウズさんはわたしが…幸せかどうかは自分次第だって思う?」

「リニス…そうだね…君の場合は立場が立場だ…俺なんかにはおよびもしない悩みがあるのかもしれない。だから…」

「だから?」

「君が自分のことくらい自分で決められるように…俺たち冒険者と同じく自由であるように、って願うことにするよ」


それならリニスが…

夕飯後にもうちょっと…一晩くらいお泊りしちゃう自由も出来るわけだ!


「…自分で決める…冒険者のように…自由…」


思いもよらない願いだったのか、一語一語の意味を噛みしめるように俺の言葉を繰り返すリニス。



「わたし…そのお願い…本当に嬉しいです。そんな事言われたの初めてだもの」


そして目に薄っすらと涙を浮かべながらも、儚げな笑顔をこちらに向けてきた。


そんな俺は…彼女の新しい表情を見るたび、もうどうしようもなく気持ちが昂ぶってしまう。


泣き笑いで…ハジメテって…はぁはぁ…



「ありがとう、アロウズさん。そんなにわたしの為を思ってくれて…それに貴方とお話ししているととても勉強になります」

「家庭教師を募集してるなら引き受けるぜ?」

「ふふふ、また調子いい事言って…」


リニスは目尻に浮いた涙を上品なハンカチでサッと拭った。


「優秀な先生ともっと議論してみたいけれど…ごめんなさい。そんなに時間があるわけじゃないの…だから、そろそろ本題に入らせてもらいます」


幾分か落ち着きを取り戻した口調でリニスが言う。


「今日アロウズさんをお呼びしたのは…」


なんだろう?

も、もしかして告られちゃう?ドキドキ…


「この依頼の辞退をお願いしたかったのです」

「オッケ……って、え?辞退…?な、なんで?」



ロッカーか?

ロッカーに隠れてたせいか?



「理由は…本当の理由は言いたくありません。ただジャングルはそもそも精霊石を手に入れたパーティ、という栄誉に授かることはないのです」


なに…?


「どういうことだい?件の迷宮だったら…ダンマス部屋の入場制限リミットパーティ数は4だったはず。今日の選抜で選ばれたのは…4組だったから」

「参加する冒険者のパーティは確かに4組です。ただし、ダンジョンマスターの部屋には軍から1組…マーカス中尉の隊が攻略組として参加します。ジャングルはその…予備パーティなのです」


がーん…予備…

保険扱いは男にとって屈辱以外のなにものでもない。


まぁ国の依頼だ…これくらい当然とも言えるけど。



「ちなみにマーカス隊といっても…わたしやダイアボ教の司教様も入るので戦力的には乏しい存在なのですが」

「リニスも!?なぜ!?それに危険すぎる!」

「その理由は申し上げられません。ただその為の特級戦力…軍ではなく冒険者ギルドのA級パーティ『ウィークエンド』なのです」



くそっ…

ターゲットであるB級ダンジョンを荷物《リニス達》を抱えながら攻略するには…ウィークエンドほど相応しいパーティはウラカには見当たらない。


悔しいがその力は認めざるを得ないし、万が一を考えるとこれほど頼もしい存在もいない。



「確かにダンジョンマスターに至る途中まではジャングルも随行は可能ですし、攻略組の負担を軽減する期待もされています」


頭の中は未消化の疑問で渦巻いているが話しは進んでいく。


「でも…そこまでです。成功報酬も他のパーティより下がるでしょうし、ジャングルからすれば危険に見合う成果が得られるとは思えません」



年上の俺を諭すように優しく…だがどこか悲しそうな表情をするリニス。



「だから辞退を勧めます。それに精霊石の入手がなってしまったら…」

「リニアリスさま!!それ以上は…」


サラが話の流れを先読みしたのかリニスを止めに入る。


「サラ…アロウズさんは悪い人じゃないわ。それに…ねぇアロウズさん」

「な、なんだい?」

「わたし…貴方とはもうお友達になったと思っているの。ううん、たとえ一方的な思いでもそのくらいの自由…わたしにだって許されますよね?」


話しの流れが見えない俺は…それでも無言のままリニスの美しい顔に頷き返す。


「だから…お友達の心配をするのは当然だわサラ。たとえそれが…機密に関わることであったとしても…」

「しかし…」


機密に?

精霊石に…マーカス隊に組み込まれるリニス…とダイアボ教の司教…


これ以上何があるってんだ…



あわよくば下半身をパンパンになんて思っていたが…

現実は頭の中がパンパンである。



「お友達とは秘密を共有しあってこそよ…それにアロウズさんはお願いしたら分かってくれるはず」


まぁ口の硬さに定評は…あると言えなくもなくもないかもしれない…



改めた様子で俺に向かい合ったリニス。

その顔には何かを決意したような力強い目つきに変わっていた。


「アロウズさん…できれば依頼を辞退してすぐにでもウラカを…いえこのブルノート王国を離れてください」

「へ?」

「精霊石の入手が…そうでなくとも近いうちに」


話しが突拍子もなさすぎると思ったが、次の一言でリニスが言いたいことは伝わってきた。



「戦争がはじまります。だから…」



心配なんです




かき消えるような声で…なんとか最後まで言い切ったリニス。


俺を案じたが為の発言ではあったし、その根拠にもなりうる機密情報でもあった。



「色々聞きたい事はあるけど…詳しくは話せないんだろ?」

「…はい」

「なら結論は決まっている」

「じゃあ…」

「遠征には参加する、その後は…まぁ様子見だな」

「なんで…冒険者だからって…戦争は無関係ではいられないかもしれないのですよ?」


リニスは馬鹿じゃない。

むしろ政治にも精通してるようだし、俺のようなアホの会話にも付いてこれる柔軟な思考の持ち主だ。


そんな頭の良い彼女が…

常ならば軍のみが関わる戦争に…冒険者といえど無関係でいられない、と言ったのだ。


「帝国…『獅子王』の野望か…」

「そ、それは…」


ブルノート王国が隣接する国はいくつかあれど、歴史あるこの大国と戦争を…しかも冒険者を動員しなきゃならないほどの相手は帝国しかありえない。


帝国の次に隣接するなかで大きい国はグゾン教国なのだ。国力は王国の方が上だし、今回の依頼に関わる一連の流れを見てもそれは無いだろう。


「言わなくてもいいよ…ただ戦争は分からないが遠征には参加する」

「どうして…?」

「リニス、君が俺を心配してくれたように…俺にも友達を心配する自由はあるはずさ。ダンマス攻略の参加は出来ないかもしれないけど…そこまでの間は俺が…俺が必ず君を守る」

「アロウズさん…」


またしても目に涙を浮かべてしまうリニス。



サラいるけど…思い切って抱きしめちゃおうかな…



と俺が一世一代の賭けに出ようかと思った時、扉をコンコンっと叩き遠慮がちに話しかけてくる声が聞こえてきた。


「姫さま。辺境伯様がお呼びでございます」


リニスは慌てた様子で涙を拭う。


「承知しました。すぐに向かいます…」


気丈にも先ほどまでの様子は声に滲ませずに、扉に向かって返答をする。


「アロウズさん…貴方の気持ち…確かに受け取りました」

「当然のことだよ…」


気持ち以外の何も出来ない自分が歯痒いぜ…


「でも…本当に戦争になったら…自分と…ジャングルの仲間たちのことを第一に考えて行動してください」

「オッケー、でもそんな今生の別れみたいな雰囲気はやめてくれ」

「でも…ダンジョン攻略でお話しする機会があるか分かりませんし……その後も…」

「たとえどんな状況になろうと…無茶無理無謀は冒険者の得意とするところだぜ?なんとかするさ」


催促するように扉がもう一度叩かれる。


「姫さま?」


扉の外からは中の状況を確認するような声。



「辺境伯さまを待たせちゃ悪いな…これで俺は行くよ…じゃあ」

「…はい」



次は別れる時も笑顔に…



俺は新たな決意を胸に刻みながらサラのロッカーの中に消えたのであった。



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