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第4話 何も問題はなし


「え〜、本日の夕会はいつも通りクエストの反省から…」


ここは引き続きギルドの酒場レッドハウス

ジャングルのリーダー兼、常識人担当の俺がメンバーを前に切り出した。


ゴリラ「俺様の評価がCから上がらねぇのがムカつく」


痴呆サムライ「手応えのある相手がいなかったでござる」


残念美人「アロウズの買ってきた芋が小さすぎたヨ!」



俺たちジャングルはクエストの反省会という名の酒盛りをしていた。



超絶美形天才リーダー「…よし、何も問題はなしと、ひっく」



いちおうギルドの推奨通りクエスト前後に打ち合わせを行っているが……意味あんのかこれ?



「ひっく…そう言えば何やら情報屋と話し込んでいたようでござるが?」

「あぁ、それな……ひっく。次のクエストが決まった」


正確にはまだでござるがな。


「テメェまた勝手に…ひっく」

「ニィ、うるさいヨ!リーダーはアロウズって決まったネ!長に従うのは群の掟ヨ!」

「なんか下克上が必須の立場に聞こえるな…まぁいい、ダインにとっても悪い話じゃねぇ…えっとウホッ、ウホホッホッ」

「アロウズ…テメぇいつかその首捻り潰してやる」


せっかく俺がゴリラ(ダイン)側に歩みよって喋ってるというのに…


ドレッドヘアの大男ダインの両腕はとてつもない筋肉で盛り上がっている上に、190㎝オーバーの身長と考えても異様に長い。


いつか冗談でなく襲いかかってきそうで割と本気で怖い。


俺はゴリラの本能が発揮される前に続きを急ぐ。


「冗談だ…とはいえ悪い話しじゃないってのは本当だ。3日後に開催される軍との協同任務の説明会に参加する。難易度は上級カテゴリーだ」


難易度の高さに皆の目に力が入る。


「上級か!!なら成功させりゃ俺達もついに…」


目の前にいたゴリラが今にもドラミングしそうな勢いで立ち上がる。


「国が依頼元だ。依頼金は当然だが成功すりゃギルドの査定も相当上がるだろうよ…そうなりゃジャングルも上級ランク…B級に昇格して女の子にモテモテよ!」


手段(昇格)目的(女の子)を間違えてはいけない。


「ふむ、斬りごたえのある相手だと良いのだが」


手段と目的が微妙に一致してそうだが、実はそうでもないサムライが何やら物騒な事を言う。


「ウーン…何やら怪しい気がするヨ…B級になってモテモテって……アロウズはいつも手に届く花で満足できる男のはずヨ」


砂漠の民の特徴である銀髪に褐色の肌を持つ美しい女…イジィが詩的な表現で私的な見解をもって指摘してくる。


「アロウズ…今なら間に合うヨ?」

「ぐぬぬ……じ、実は」

「リニスとかいう一度フラれたハーフエルフが都合よく現れて…都合よく任務を達成して…都合よく惚れてくれる…なんて考えてないよネ?」


俺の背中には頭の中を写す魔法の紙でも貼ってあるのだろうか?


「ぶひゃひゃ!イジィ、さすがに非常識が服着て勃起してるっつぅアロウズだって……え?まじ?」

「痛い…数々の修行をこなしてきたが……これほど心の痛みを伴う苦行があったでござろうか…」


俺、なんでコイツらとパーティ組んでるんだろう…


「…だからフラれたわけじゃ……そ、それに…手の届かない花に?……オシベ伸ばそうかなって思ったって……」


罪はないはず……


今さらながら金貨なんか賭けなきゃよかった、と心の底から反省する俺であった。






…3日後


◆◇ ◆◇

ウラカ冒険者ギルドの大会議室

…協同任務 受注説明会

◆◇ ◆◇



「ありゃ近衛兵じゃねーか?」

「あっちの女冒険者たちはヴァルキリーのようネ」


なんやかんやで俺の案に従い協同任務の受注説明会に参加しているジャングルのメンバー(愛すべき仲間)たち。


「噂のウィークエンドもいるでござるな。エイベルはどこでござるか?」



ジャングルも含めてライバルとなるB級、C級の冒険者たちが座る席よりも前に……

俺たちとは違って会議室の前の方に予め用意された席に座っているウィークエンドの連中。


エイベルの姿だけ見えないが…

それに肝心のリニスも…



「おい、貴様ら静粛にしろ!!」


藍色の王国軍の制服に身を包み、頭をテカテカと光る整髪剤でカチッと七三で分けつつサイドは刈り上げた若い軍人が怒鳴る。


「今から辺境伯様がいらっしゃる!貴様ら無駄口を叩くなよ?そして伯の言葉を一言一句聞き漏らすことは許さん!それとこの会議の内容を外部に漏らすことも許さん!」


国の依頼とはいえ…辺境伯!?どうしてそんな大物が…?

あと軍人ってのはどうしてこんなに偉そうなのか?



「軍人さま〜、しつもーん!」


俺と同じC級冒険者…アニマルズと言うパーティの男が戯けた調子で声を上げる。


「俺のことはマーカス中尉と呼べ!それで質問はなんだ?」

「中尉殿の髪の毛はどうやって固めてるんすか?もしかして兜がいらないくらい固いんですかぁ?」


質問した男とアニマルズのメンバー達がゲラゲラと笑いだす。


「…これだから冒険者は」


マーカス中尉は質問した男の前にツカツカと歩いて睨みつける。


「ははは、もしかして内緒話しっ……」


ゴチーン!!!


固いもの同士がぶつかる衝撃音がしたかと思うと…

質問したC級冒険者が椅子から崩れ落ちる。


「ふんっ…軟弱な冒険者相手なら武器にもなるな」


めっちゃオデコ赤くなっているが…何とも気合の入った回答だ。嫌いじゃない。そして中尉の髪も乱れてない。



「なっ…!テメェ!」

「冒険者舐めんなよ!」


このタイミングで冒険者の鉄則「仲間想い」の気概を見せる…アニマルズの仲間たち。


しかし…



「うるせぇぞぉ!雑魚どもがぁ……殺すぞぉ!!」


会議室の前方にいたウィークエンドのムステインが怒鳴る。


「ぐっ…剣舞ソードダンサー…」


騒ついた会議室が静まりかえり、いきり立っていた連中も急にしおらしくなる。


ムステインの「仲間」の定義が冒険者全体でない事は確かなので仕方ない…



「…そこのサムライぃ…テメェなに笑ってやがるぅ?俺とやろうってのか…あぁん?」


おい!!

気づかなかったがソールの野郎…口に手をやりニヤニヤしてやがる!


「プックク、兜いらないんですかって…ププ、しかも武器にもなるって……もうダメでござる…ブハハ!!」


会議室にいた全員が…ムステインを含めてポカーンとした表情になる。



「諸国を巡り…ププッ、数多あまたの漫談を見聞きしたが…ブホッ……お、恐るべし…ブルノート王国流ジョーク…」

「カッカッカ、そうじゃろうて。ムステインもほれ、お主が一番五月蝿いわい」


ウィークエンドの老エルフ…ワイクリフが年長者らしく場を落ち着かせる。


そのセリフは感謝すべきものだったが全面的に納得した者がいたかどうか……年長過ぎて感性に差はありそうだ。


とは言え、その隙をマーカス中尉は見逃さずに仕切り直す。


「貴様らC級冒険者パーティ…アニマルズは退席しろ!あとは大人しく席に座れ!もう質問も無しだ!」


参加パーティ名をキチンと把握している優等生…マーカス中尉の整髪剤の発売元を知る機会は失われたのであった。



10分後…



しばらく笑いが収まらなかったソールもようやく落ち着きを取り戻した頃、唐突に会議室前方の扉が開く。


そして入ってきたのは冒険者ギルドマスターのキャレドを先頭に王国の近衛兵や文官といったお偉方。

キャレドの側にはエイベルの姿が。


こなクソ…と思ったのも束の間、マーカス中尉が口を開く。


「ブルノート王国の重鎮であり国王陛下の縁戚でもあられるウラカ辺境伯様である!皆の者起立!!そして控えよ!」


どう控えるんだよ、とは思いつつもなるべく無害に見えるように笑顔を試みる。



そして静かに、だが見る者に圧迫感を感じさせるほどの威厳を持って姿を現したウラカ辺境伯。


ウラカ辺境伯は貴族らしいフリフリのついた典雅な衣装だったが、可愛らしさは小指一本分も見当たらない。


当然のように会議室の前方中央に立つと、無言のまま鋭い目付きでグルリと俺たち冒険者を見渡している。


陽気がウリの冒険者達も軽口どころか身じろぎひとつすることが出来ない。



これが……高位貴族の迫力…ゴクッ…



俺以外も…冒険者の誰もがそう思ったに違いない。

だが衝撃は…少なくとも俺にとって本日一番の衝撃はこの後にやってきた。



直立不動のマーカス中尉が扉の前で…もう一度声を張り上げた。



「続いてウラカ辺境伯様の御令姪様にして…ブルノート王国第二王女リニアリス様のご登場だ!皆の者!頭を下げろ!!」



リニアリス……リニス……



王族相手に礼を失した場合、下手すれば首が飛ぶ。

常に危険と隣り合わせの……陽気以外にも危機管理がウリの冒険者達が一斉に頭を下げる。



だが俺はその二つ目のウリも発動させることは出来なかった。



ウラカ辺境伯と同様に静かに…

だがその姿は威厳と言うよりは…まさに冒険者なんかには手の届かない高嶺の花。


出会った時と同じ顔と、出会った時とは違う格好。


派手さは控えめだが気品に満ちたドレス姿で歩くリニスに見惚れてしまう俺。


リニスは辺境伯の隣まで進んだあと、優雅な所作で正面を向く。


そして遂に……


顔を上げたリニスと目が合った。

彼女は一瞬だが、驚いたようにその大きな目を更に広げて固まった…ように見えた。



この瞬間の為だけだったとしても来た甲斐が…少なくとも情報料に払った銀貨10枚分の価値はあった。

しかし、そう思った時にふと自分の方を見ている目線がリニスだけでないことに気づく。



しまった、辺境伯と目が……



リニスの隣にいた辺境伯がこちらを見ている事に気付いて慌てて目線を下に落とす。


ヤベェ、超ドキドキしたわ!!

…娘さんをお嫁にくださいって言う時はこんな感じなんだろうか?



決して先ほどまでのゴタゴタで目的リニスを忘れていたわけではない。

だが心構えをしていてさえ、リニスの姿を見た瞬間に頭が真っ白になって当たり前のことも出来なくなる。



「皆の者、面をあげるがよい」


意外にも会議室の全体に響くほどの力強い声量でウラカ辺境伯が口を開けた。

顔を上げた時にはもう、リニスはこちらを見てはいなかった。



「あれがアロウズの…こりゃどう足掻いても無理だわ…」

「ちと若いが…なるほど人形のように整った女子オナゴであるな」


リニスの魅力はゴリラやアホサムライにも理解できたようだ…



そしていつのまにかB級冒険者パーティのヴァルキリーがリニスの周囲を固めていた。


ヴァルキリーは女性のみで構成された冒険者パーティ、正確に言うとパーティより規模の大きいクランである。


クラン・ヴァルキリーは貴族や富裕層といった女性の身辺警護を専門にする、なかば半官半民の立場にある特殊な連中。



リニスの側にいるのがウィークエンド…エイベルでない事に少しだけ安堵しつつも、決して状況が良くなったわけでない事に嘆息する。



リニスが王女……サプライズ演出にもほどがあんだろうが…マジもんのお姫様じゃねーか…



あの日見たロイヤルパンティの記憶は心の家宝とする事が決定した瞬間であった。

だが同時に2人の間にある決定的な距離もまた、判明した瞬間であった。






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