入学式兼入隊式かつ防衛戦①
国立四法大学校は法曹山のてっぺんにある学校だ。辺りを取り囲む圧倒的な自然は、ここを訪れる人々を俗世間から隔離されたような気持ちにさせる。僕がこの場所に着いたとき、初めて見たのは、視界いっぱいに広がる桜の風景だった。学校を装飾するかのように縦横無尽に立ち並ぶ桜の木々は、まさに圧巻だった。桜の木々が通り抜ける風にざわめき、桜の花びらが吹雪が如く空中に舞っている。それがまるで僕の入学を祝福してくれているようでうれしかった。
しばらくその光景に圧倒されていたのだが、目の前を横切る人の波に、ふと我に返った。振り返ると、たくさんの人が道を歩いていた。皆、制服を着ている。学帽と詰襟は男女共通の服装で、下は男子がズボン、女子がスカートと男女でわかれている。別にここでいうことでもないが、女子のスカート丈は膝まであり、それは僕の好みとも合う。
1人の女学生と目が合いそうになり、僕はすぐに前を向いた。ちょっと胸がドキドキして、自分の肝の小ささを呪いたくなる。気を取り直そうとして、僕は学帽をかぶり直した。よし。そう小さくつぶやき、僕は校門前に向かった。
校門前は賑やかだった。「ご入学おめでとうございます」と、校門前に待機していたこの学校の教師や先輩方が校門を通り抜ける僕達入学生に声をかけていた。後ろ手に背筋を伸ばし、その言葉を発する彼らの姿はとてもすがすがしいものだった。彼らの言葉の一言一句が僕の体に染み込むようで、僕はまたうれしくなった。
奇妙なことに彼らの前を通り抜けた学生のほとんどが後ろを確かめるように振り返った。振り返った学生はみんな怪訝な顔をしていて、気のせいだったのかなと言わんばかりに前を向き直し、歩いて行った。僕にはそれが不思議だった。
僕が学帽に手をかけて彼らの前を通り過ぎようとするとき、彼らは僕にも「ご入学おめでとうございます」と、言ってくれた。その時、僕は靴の底で地面が揺れるのを確かに感じた。すぐには理解が追い付かず、数歩歩いて、その揺れは彼らの言葉に共鳴したのではないかと脳内回路が直結したとき、僕は帽子を上げて後ろを振り返った。先輩方や教師は何事もなかったように、僕の後に続く新入生に声をかけている。気のせいだったのだろうか。僕は前を向き直し、目の前に高くそびえる校舎に向かって歩き出した。歩きながら、これからのことを頭の中で思い描く。
今日の予定は入学式
兼
入隊式。