自由同盟プチ会議in団長宅
俺は今、自由同盟の団長こと『桐原礼二』さんの家に来ていた。
団長にリビングまで案内された俺は、そこに見知った顔がソファーに座っていたことで、ようやくちょっと落ち着いた気がする。
「やっほー真司君、オフ会ぶり!」
そうニコニコしながら声を掛けて来たのは、ゲーム内キャラ『千隼』である『茅原桐菜』さん。ギルド内のお姉さん的存在で、俺も度々色んな事を相談させてもらっている、頼りになる人だ。
桐菜さんとはゲーム内で何度も会話しているが、実際に会うのはオフ会ぶりだ。ていうか、桐菜さんにまた会えてすげえテンション上がってる。
「真司君、鼻の下のびてるよぉ」
そして俺をからかうように声をかけてきたのがゲーム内キャラ『アッキー』である『明海』さん。団長のリアル奥さんでもある。
「伸びてませんから!」
玄関でいきなり自分の許容量を遥かに超える事件に遭遇してしまったので、若干突っ込みに鋭さが足りてないかもしれない。いや、別にそんなもんいらんだろ!
まずいな、なんかまださっきのショックから復帰できていない気がする。そして俺は、そのショックの原因となった『彼女』のほうへ視線をちょっとだけ向けてみた。
明海さんに促されて、千隼さんの隣に腰かけた少女『桜菜実明』さんは、俺と同じ高校2年生だそうだ。そして、県内有数のお嬢様学校「桜が丘女学院」の生徒さんらしい。男の子にはあまり慣れていないから、そこは勘弁してやってね。と、団長から本人には聞こえないよう、こっそり言われた。
そして、ゲーム内キャラクターはグランドマスターこと『グラマン』だという。「黒を征する者よ!」の、あのグラマンだぜ!?信じられねーよ・・・。
「あはは、真司君なんか混乱してるでしょ?」
「するなって方が無理ですよ」
桐菜さんの言葉にそう反応する。そんなもん混乱するに決まっとるわ!あの『面白ロールプレイ野郎』の正体が、実はお嬢様学校在籍の現役女子高生だったとか、驚かない方がおかしいっつーの!
「あ、あの、すみません・・・」
「あ、いえ、あの、実明さんのせいとかじゃないですよ!」
実明さんが申し訳なさそうに謝ってくるので、慌てて否定した。いかん、なんか調子が狂う。はっきり言って、ゲーム内で密かに憧れていたエリナ師匠が、実は自分の姉だった!ってのが判明した時よりも驚いてるかもしれん。いや、あれはあれですげえ落ち込んだけどね。
「私も最初、実明ちゃんがグラマンだって知った時はびっくりしたもの」
「そりゃそうでしょうね」
そういえば桐菜さんは、シャイニングナイトでグラマンと一緒だったんだよな。
それにしてもだ。さっきからずっとうつむいたまま顔を真っ赤にしている姿は、とてもグラマンの中の人とは思えない。一体何をどうすれば、こんな少女があんな面白ロールプレイ野郎を演じる事になるんだろうか?
「さてと、じゃあ真司君も来たことだし、さっそく本題に入ろうか?」
グラマン実はJKだった事件で頭がいっぱいで、今日俺だけ一足先に呼ばれた理由を聞くのを忘れてたよ。
「真司君に早く来てもらったのは、実明ちゃんの事を紹介する為だったんだ」
「あーなるほど!・・・いや、全然わかりません」
いや、だって紹介するだけなら、俺だけ早く来る必要なくね?姉貴や燈色や利久と一緒に来た時に紹介すれば良いわけで。
「えっとね?里奈ちゃんや燈色ちゃんってさ、割とゲーム内のグラマンの立ち振る舞いに、ちょっとだけ距離を置いてる所が無い?」
おい!グラマン本人を目の前にしてなんつー事を言うんだこの人は。そう思いながら実明ちゃんの方を見ると、俺をじっと見つめて答えを待っていた。こ、答えにくい・・・。
「えっとですね、まあ、人間と言うのは二人以上いれば必ず意見の相違みたいなものは出てくるわけでして、だからと言って必ずしも、それが相手を気に入らないという感情に繋がるかどうかはですね、具体性に欠けると言うかなんというか・・・」
「真司君真司君、落ち着いて。僕らもたぶん一緒の意見だから。ね?」
一気に早口でまくし立てたものだから、軽く息切れしてしまった。はー、落ち着けおれー。
「えっと、まあその、嫌いと言うよりは、ちょっと鬱陶しいって思ってる節はあるかも・・?」
「うわ、真司君ひどっ!」
明海さんから非難の声が上がる。
「真司君、鬱陶しいはあんまりでしょ・・・」
桐菜さんが明海さんに同調する。
「ダーク君、黒を征するのにそれはダメでしょう」
そう、俺は黒を征する者・・・・。
「それ関係ないでしょう!」
は!思わず突っ込んでしまった!ふと、隣をみると実明さんがくすくすと笑っていた。あー良かった!落ち込んでたりしたらどうしようかと思ったが、団長のナイス機転でなんとかなったみたいだ。でもちょっと待てよ?
「あれ?でもその理屈だと、俺もグラマンには結構ガンガン言ってましたけど・・・?」
「でも真司君は、グラマンの事いつも気にしてくれてたよね」
団長が言う『気にしてた』とは、グラマンが所属してたギルドを脱退した時の事だろう。まあ、所属してたギルドとは色々あって、グラマンも落ち込んでたみたいだからな。たまに会って、話したりはしてたんだ。
「まあそういうわけでさ、実明ちゃんが特に信頼してる人とだけ、自由同盟とBMAの今後についてとりあえず先に話したい、って事になったんだ」
「なるほど・・・」
あれ?ちょっと待てよ?
「あの、今の言い回しだと、里奈とか燈色には会って行かない感じに聞こえたんだけど・・・」
「あーそれはね、やっぱり実明ちゃんがちょっとそれは緊張するみたいでね。またの機会にしようかってなったんだよ」
「ああ、なるほど」
「すみません・・・」
まあ確かに、この大人しそうな子が、いきなりグラマンであることをみんなにカミングアウトするのは、ハードルが高い気がする。
にしても、なんか、信頼されてるって言われるとちょっと嬉しいよな。いや、別にグラマンが可愛い女の子だったからとかそういうわけじゃないよ?ホントだよ?
そんな事を考えていると、実明さんとふと目が合ってしまう。顔を赤くして下を向いてしまった。うおおおおおおおおおおお、めっちゃ可愛い!とてもグラマンの中の人とは思えん!いや落ち着けえ俺!この人はグラマン、この人はグラマン!
「じいいいいいいいいいい」
はっ!何やら視線を感じた。どうせ明海さん辺りが俺をからかおうとしているんだろう。そう思い、視線の方向へ振り向く。
「真司君、なんか楽しそうだね」
俺を冷めたい目で見ていたのは桐菜さんだった。なんだ、こんな桐菜さんの目は、オフ会でも見たことが無いぞ?
「いえあの、違うんです」
「何が違うのかな?」
ニコッと笑いながら聞いてくる桐菜さん。目が笑ってないんですけど!
ふと隣に座っている実明ちゃんに目をやると、『違うんですか?』と訴えかけるような目で俺を見ている。助けを求めるように明海さんのほうを向くとすげえニヤニヤしていた。
「じゃあそろそろお題に入ろうか?」
まるでその場の空気を全く感じていないかのような団長の言葉に、俺は首を縦にブンブンと振りながら、めっちゃ感謝してたよ!
さて、場の空気も落ち着いたところで、俺たちは本日のお題を話し合っていた。と、言っても、他のメンバーも居ない状況では、決定する事は難しかったので、とりあえず実明ちゃんからの提案を聞き、それを俺たちが里奈や燈色に話すことにした。
「あの、この前話したと思うんですけど、BMAでは要塞バトルに参加しようと思ってるんです」
「この前、ゲーム内で言ってたね」
「はい。それでですね?よろしければ、要塞バトルで同盟を組んでほしいと思ってるんです」
「同盟?」
「はい。要塞バトルにおける同盟です」
実明さんが言うには、BMAだけでは人数も経験も全く足りていないらしい。なので、実践経験が豊富な桐菜さんを中心に、自由同盟のメンバーにも協力して欲しいらしい。
「私は構わないんだけど、BMAって要塞バトルにどれくり本気で取り組む予定なの?」
桐菜さんが質問する。確かにそれは大事かも。自由同盟のメンバーの中には、遊び程度のバトルなら参加するって奴もいるかもだけど、本格参戦だと敬遠する人もいるかもだからな。そこははっきり聞いときたい。
「はい。出来れば、カシオペアサーバー3大ギルドと戦えるくらいになるのが目標です」
「大きく出たねえw」
団長が笑いながらそう言った。現在の3大ギルドは、『ブラックアウト』『シャイニングナイト』『風光明媚』の3つのギルドだろう。つーか、こことタメ張れるくらいが目標かよ・・・。すげえなこの子。
まあ後の話は、BMAと自由同盟との間で、各種イベントなんかを一緒にやっていこうと言うものだった。
「同盟については内容は理解しました。つっても、他の人にも聞いてみないとなんとも言えないですね」
「まあ、バトルに参加する人だけだし、反対は無いんじゃないかな」
俺の意見に団長が答える。そんなやり取りをしていると、そろそろみんながやってくる時間が近づいてきたので、実明さんとはここでお別れになった。
「あ、あの、今日は本当にありがとうございました!」
そう言いながら深々とお辞儀をする。これ、本当にグラマンの中の人か?
「じゃあ僕は実明ちゃん送ってくるから、ちょっと遅れるかも」
「はいはいー、よろしく言っといてね」
「じゃあね実明ちゃん」
明海さんと桐菜さんにそれぞれ挨拶の言葉を送られ、再びお辞儀をする。そして今度は俺の方を向いた。そして上目遣いで話しかけてくる。
「あの、またお会いできますよね」
「う、うん!」
まずいなあ。あの上目遣いで言われたら絶対断れねえよ。そして、グラマンこと実明嬢は団長に送られて帰っていった。いやあ、びっくりしたなあ今日は。
「真司くーん、なんか嬉しそうだね!」
「そ、そんな事無いです!」
桐菜さんからの冷めた視線と言葉に必死で言い訳する俺を、明海さんはずっとニヤニヤしながら見ていた。ちょっとは助けてほしい・・・。




