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仲良し作戦その2

 早くも暗雲(あんうん)が立ち込めて来た、親睦会(しんぼくかい)という名の、火雷(からい)兄妹仲良し作戦だが、まだ始まったばかりだし、挽回のチャンスはあるだろう。


 それにしても、まさか利久(りく)が、知らなかったとはいえ、実の妹を口説(くど)き落とそうとするとは思ってもなかったわ。


 しかもこいつは、何故か女性陣は、「自分に好意を持っているはず」、と言う前提で動くからたちが悪い。まあ、よく言えばポジティブなんだけどね。


 俺は文句を言ってきた利香を「まあまあ、あいつも悪い奴じゃないんで」となだめながら、用意された席に着席する。


 お互いが兄妹であることを知らないとはいえ、なんで兄貴にナンパされて不機嫌になっている妹を、俺がなだめにゃならんのだ。


団長「じゃあとりあえず、ライデン君に挨拶でもしてもらおうか?w」


 ライデンの挨拶は俺と団長で決めた事だ。利香の前でみんなの代表として挨拶させることで、ギルド内でも一目置かれた存在なんだよって所をアピールするのが狙いだ。実際は、ギルド内でのヒエラルキーは俺と並んで最下層だけど・・・。


 そんな事を考えてると、ライデンがすちゃっと立ち上がる。そして何故かお兄ちゃんLOVEの方向に向き直った。


ライデン「どうも!自由同盟を代表して挨拶を任されたライデンです!」


 この後、今日集まった3つのギルドとの出会いや、要塞戦の今後について、機会を積極的に作って盛り上げていきましょうという趣旨の挨拶をする予定だ。


ライデン「さて、皆さんもご存じかとは思いますが、俺は前回と前々回の要塞戦には出ることが出来ませんでした」


 うん、まあこの辺りはアドリブで話してもOKとは言ってるんで、問題ないと思う。ライデンが要塞戦出てたかどうかを覚えてる奴が居るかどうかはわからんが。


ライデン「だがしかし!俺が出ていれば、間違いなくかなりの接戦に持ち込めた事は間違いありません!そういう意味では、前回のお兄ちゃん大好きとの戦いに俺を起用しなかった事が、最大の敗因だと思います!しかし、今後は俺が参戦する事により、間違いなく熱い戦いが繰り広げられることでしょう!今後の僕の活躍をご期待ください!」


 しーんとなる、屈強な冒険者の集い亭2階の親睦会会場。その直後、利香からメッセージが届く。


お兄ちゃん大好き:ちょっと!こいつ一体何なわけ?さっきから意味わかんないんだけど!ていうか、自分アピールうざー!もうこんなの良いから、さっさとお兄ちゃんが誰なのか教えなさいよ!


 と言うか、お前の兄貴は何を考えてるんだと、逆にこっちが聞きたいわ!と、言えるわけもなく、利香をなだめつつ、俺はギルドチャットで利久に文句をいう事に。


ダーク【おいライデン!お前何わけわからん挨拶してんだよ!】


ライデン【は?すげえ良い挨拶だっただろ?みろよ、みんな感動して何も(しゃべ)れねえじゃん】


ダーク【お前はその場空気の存在というものを、もっと認識しろ!】


 俺たちがギルドチャットでもめていると、他のギルド員達が「なんかあったの?」などと心配してきた。


ライデン【ダークが、俺の立派過ぎる挨拶にいちゃもん付けてくるんですよ。嫉妬乙(しっとおつ)!】


 俺はPCの前で、自分の肩が「ガクッ」と音をたてて崩れるのを聞いたような気がした。グラマンこと実明さんでさえ、ロールプレイを忘れて無言になっているこの状況を、利久が全くわかっていないのは、ある意味才能かもしれん・・・。


団長「えーでは、口直しと言ってはなんですが、この3つのギルドを結び付けてくれた立役者、ダーク君からの立派な挨拶をご覧ください」


 団長のその言葉で凍っていた空気がちょっと砕けた気がした。が、俺そんなの聞いてないです。


団長【真司君ごめん!ちょっと、僕じゃこの状況を打破できる自信が無い><】


ライデン【はあ!?ちょっと待って!まだ挨拶には続きがあるんですけど!あと口直しってなんすか!】


団長【うん、とりあえずマスター命令で、ライデン君の挨拶はここまでね】


ダーク【とりあえず普通に挨拶でいいですよね?】


団長【OKOK。なんらかのフォローはするからお願い!】


 というわけで、俺が利久の尻拭(しりぬぐ)いをする事になった。とは言ってもたいした話は出来ないので、とりあえず昨日考えていた挨拶(あいさつ)文を適当にアレンジして使う事にする。


ダーク「えーでは、紹介されましたので、挨拶させて頂きます」


グラマン「うむ、しっかりと挨拶するのだぞ」


団長「大丈夫。過去最高の挨拶をしてくれるって。だって黒を征する者だもんw」


エバー「楽しみにしとこうかなw」


ダーク「ちょっと!ハードル上げやめて!」


 こいつら100%面白がってるぜくそー・・・。まあでも、凍り付いた空気はかなり溶けてる気はする。


ダーク「サーバーでも1,2を争う「ブラックアウト」、そして今やサーバーで一番勢いがあると言われる「お兄ちゃん大好き!」、そして出来たばかりのBMAと自由同盟」


 今のところ俺の話をみんな真剣に聞いていてくれる様だ。


ダーク「挑戦を受ける側、そして挑戦する側、そして何もかもが初めての俺達。この立場が全く違う3つの勢力が、こうやって親睦会を開く事が出来るのも、何かの縁なのかなと考えています。もちろん僕らは大きく出遅れていますが、最大限の努力をして、皆さんと同じステージに立てればと思います。皆さん、カシオペアサーバーの要塞戦を盛り上げるため、今後も共に楽しんでいきましょう!」


団長「よ!黒を征する者!」


エバー「カッコいいぞ、黒を征する者!w」


グラマン「さすが黒を征する者だな。感動した!」


ダーク「うるせえ!その名前で呼ぶんじゃねえw」


 良かったあああ!どうやら成功したみたいだ。さっきまでの凍り付いた空気が、今では賑やかな空間へと変わっている。だけどこれ、本当はライデンが言うはずだったんだよなあ。こいつはホント何やってんだか。


お兄ちゃん大好き:中々良い挨拶だったじゃない。まあ、さっきのライデンって人のが悪すぎたのもあるけどね!


 利香からショートメッセージがきた。こいつツンデレかよw「ありがとよ」って、とりあえず返信しとこう。


 しかし肝心の利久は、俺の挨拶のどこが良かったのかを全くわからないらしく、俺の挨拶の方が10倍くらい良かったのにおかしい!とかギルドチャットでぶつぶつ言っている。


 もうね、あほかと。


 そして親睦会は、堅苦しい挨拶や自己紹介も終了し、自由に会話を楽しんでいた。


 実明さんは、ブラックアウトギルドの話に興味を引かれたらしく、団長と共に熱心にエバーの話に耳を傾けている。


 んで問題はこいつら、火雷兄妹だ。


察しの良い奴は気付いていると思うが、鎖から解き放たれた利久が、知らぬとは言え、実の妹に猛烈なアタックを仕掛けているという、実にシュールな光景が繰り広げられている。


 それでは以下、火雷利久(からいりく)火雷利香(からいりか)の楽しいトークをご覧ください。


ライデン「ラブさん、ラインの交換しようよ~」


LOVE「私、親しい人としか交換しない事にしてるんです。ごめんね^^」


ライデン「えー!じゃあ俺ら親しい間柄だし、交換できるじゃん^^」


ラブ『ショートメッセ:ダークマスター宛:ちょっと真司さん、ホントこいつなんとかしてよ!マジで気持ち悪いんだけど!』


ライデン「今度二人で狩りいこうよ^^」


ラブ「ライデンさん、LV40ですよね^^」


ライデン「うん、俺こう見えても、かなり頼れる男だよ!」


ラブ『ショートメッセージ:ダークマスター宛:私がこいつと狩りに行って得られるメリットってあると思います?私レベル80ですよ?』


ライデン「そういえばラブさんて歳いくつ?」


ラブ「」


ライデン「俺17歳^^」


 全てを覚えてはいないが、おそらくずっとこんな調子だったと思う。


 俺が失敗したと思ったのは、気を利かせすぎて、利久と利香の席を隣同士にしたことだろう。俺が間に入って、クッションの役割になるべきだったんだ。


ラブ「あ、なんかギルド員から緊急の呼び出しを食らったので、要塞にもどりますね。本日はお疲れ様でした^^」


 利久が一方的に話し始めてからしばらくたった時だったと思う。急に上記のように告げると、丁寧に挨拶をしてから利香はその場を去って行った。


 たぶんブチ切れたんだろう思った俺は、「すぐ戻ります」とだけ言って、すぐに利香を追いかけた。利久も追いかけようとしたが、団長から引き留められてしぶしぶ追いかけるのを断念。


 団長の「真司君頼む」の声を背中に、俺は屈強な冒険者の集い亭を飛び出した。利香は建物の前に立っていた。たぶん、俺が追いかけてくると踏んでたんだろう。


ダーク「えっと・・・」


 俺が声を掛けようとした瞬間、ショートメッセージが届いた。


ショートメッセージ『ダークマスター宛:スカイポ持ってますよね?ID:*********』


 スカイポのIDがショートメッセージで送られてくる。なので、スカイポIDを登録して、利香にコールを送る。


利香「ちょっと!あれなんですか!?あんなの聞いてません!」


 つないだ瞬間、利香からの猛抗議が炸裂する。まあ、当然と言えば当然だよな。お兄ちゃんと仲直り出来ると思ったら、全然関係ない【無くは無いんだが】男からナンパされてるわけで。


真司「悪い!俺もまさかあんな事になるとは思っても無かったんだ。すまん!」


利香「別に真司さんが悪いわけじゃないですけど、あいつおかしいです!あーいうのをすとーかーって言うんですよ!」


 全く持ってその通りだとは思うんだが、あれはお前の兄貴であり俺の友人でもあるので、そこは黙秘させてもらおう。


真司「いや、とにかく気分を害させてしまって申し訳ない。ごめん!」


利香「まあ、真司さんがそこまでいうならもういいですけど・・・。今後あいつを二度と私と関わらせないようにしてね」


 いや、つーか、あいつこそが今日のお前の目的だったんだが、これどうすりゃいいもんかなあ。


利香「もう面倒なので、お兄ちゃんのキャラクター名教えてください。その方が早いです」


真司「・・・え?」


利香「もうこんな遠回りせずに、私が直接お兄ちゃんと話します」


真司「あーうん、えっと、そのですね・・・うーん」


利香「?」


真司「あのさ、もう別に利久と一緒に遊ばなくても良くね?」


利香「!?・・・・・・・・。言ったのに・・・・・」


真司「え?」


利香「お兄ちゃんと仲直りするのを手伝うって言ったのにいいいいいいいいい!うわあああああああああああん><」


真司「ああ、ごめんごめん!わかった!わかったから泣くな!」


利香「ひっく。じゃあ教えてください」


 正直あまり教えたくはないんだけど、本人がそう言うんだから問題ないよな?な?


真司「えっとさ、今、お前の兄貴ブラックアースで遊んでるだろ?」


利香「うん」


真司「こっそり後ろから、キャラクター確認しちゃえ」


利香「・・・!?なるほど!」


 そしてどたどたどたという家の中を走る音と、親からの廊下を走るんじゃないという声と共に、しばらく無音の状態が続いた。


 2~3分もしなかっただろうと思う。がさがさという音と共に、「はあ」という利香のため息が聞こえて来た。


真司「・・・えっと、利香ちゃん?」


利香「すみません、兄との仲直り計画なんですが、無かった事にして頂けますか」


真司「あーうん、もちろんだよー。というか大丈夫か?」


利香「大丈夫です。私も大人にならなきゃって、たった今気付きました」


真司「そうか・・・」


利香「真司さん、現実って、残酷ですね」


真司「あ、うん。そうね・・・」


 火雷利香、お兄ちゃんとのストーカー騒動を経て、大人への階段を一つ登る。



***後日談***


利久「そういえばさ」


真司「ん?」


利久「最近妹がさ、あまり俺に執着しなくなったんだよなあ」


真司「へ、へー」


利久「でさあ、俺に変な事言ってくるんだよ」


真司「な、なんて言ってくるの?」


利久「それがさ「お兄ちゃん、もういい年なんだがら現実見なきゃダメだよ」って」


真司「ふ、ふーん」

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