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火雷兄妹、仲良し大作戦

「悪かったから!謝るから!」


 我が家のリビングでわんわん泣いている利香に、おろおろしながら里奈が謝っていると、お袋が帰って来た。


「ちょっと真司!あんた何女の子泣かせてるの!」


「ちょ、俺じゃねーよ!」


「さっき近所の奥さんから、あんたが女の子を泣かせてたって聞いて、母さん慌てて帰ってきたら、これよ・・・」


「あのおばさん、マジで仕事早いな!」


 まあ、俺が泣かせたってのは間違ってないから、あまり強く反論できんのがつらい。


「とにかくここじゃなんだし、俺の部屋で話そうぜ」


「そ、そうね」


 珍しく素直に従う里奈と、まだぐすぐす言っている利香を連れて、俺は2階の自分の部屋へと向かった。


「女の子泣かすなんて最低なんだからね!」


「はいはい、わかってるよ」


 おふくろの言葉が背中に刺さる。今こいつを泣かせてるのは里奈だが、さっき実際に泣かせちゃったからなあ。そこは素直に反省しておこう。


 俺の部屋に入ると、赤くなった目で利香はキョロキョロと部屋の中を見回していた。兄貴以外の男の部屋が珍しいのかもな。


「で、何がどうなって、利久の妹がここにいるのよ?」


「ああ、それはだなあ・・・」


 俺はここ数日の事の経緯を里奈に説明してやった。もちろん利香には同意を得てな。それと、さっき利香から聞いた、お兄ちゃんと仲良くなるために一生懸命頑張ってた事もな。


「それは利久が悪いわね!」


 話を聞いた里奈は即答した。まあ、そう言うとは思ってたけどな。


「女の子が一生懸命頑張ってるのを気付けないのなんて最低だわ」


 そう言いつつ俺の方を「じろっ」と睨む姉貴。そっと目をそらす俺。


「ですよね!私ずーっとお兄ちゃんに仲良くしてもらおうとアピールしてたんです!」


「わかるわかる、大体男って鈍すぎるのよねえ」


 なんだろうこれ。段々針のむしろみたいな気分になってきたんだけど。


「こっちがゲームに最初に誘ってるのに、後から友達と遊び始めるのは良いとして、何のフォローも無いのが最悪よね!」


「そうなんですよ!「え?そんな事言われたっけ?」とか言い出すんですよ!」


「大体デリカシーってもんが欠けてるのよ!」


 やばい、なんか涙目になってきたかも。利香はともかく、里奈の奴は絶対以前俺がやった事を念頭に発言してるのがありありとわかる。


 ただ、ここでへたに反論すると、倍返しどころか10倍くらいになって返ってきかねないので、ここはあえて黙っているか、話題を変えるのが得策だろう。


 これ以上黙っているのは俺の精神面に非常に良くない影響を与えそうなので、話題の変更を試みる事にする。


「そ、そういえば利香は今後どうするんだ?」


「何がですか?」


「だから、兄貴と一緒にゲームしたいんだろ?」


 俺がそう言うと、利香は黙ってしまった。まあ、今まで色んな方法を試して来た結果が現状なんだろうからなあ。


「なあ、俺がお前と兄貴が一緒にゲーム出来るように手伝ってやろうか?」


「え?」


 俺がそういうと、めっちゃ意外そうな顔で俺を見て来た。


「でも、私色々あんたにひどい事やっちゃったし・・・」


「あれくらい大した事じゃねーよ。で、どうする?」


「お願い・・・します・・・」


「おう、任せとけ」


 俺はほとんど筋肉らしきものが無いへろへろな胸を、どんと叩いて見せた。


「でも、あんたどうやって利久とこの子を一緒に遊ばせる気?あいつ今までこの子が頑張って、あの手この手でアプローチしても気付かない様な奴よ?」


「そうだよ。それにお兄ちゃん最近じゃ私の事避け気味だし・・・」


「いや待て。お前ら大事なことを忘れてるぞ」


「何よ?大事な事って」


「いいか?俺と里奈は、利久のキャラクターを知っている」


「当たり前でしょ」


「だったらわかるだろ?利香のブラックアースでのキャラクターを教えてもらって、後は俺達と一緒に狩りに行ったりすればいいだけだ」


「「ああー!」」


 こいつら本当にわかってなかったみたいだ・・・。


「だから、お前の使ってるキャラクターを教えろよ。で、今度兄貴と一緒に狩りにいけるようセッティングしといてやるよ」


「あ、うん。いや、でもなあ・・・」


「なんだよ、何か問題あるのか?」


「いや、作戦自体には不満も何もないんだけど・・・」


 利香はさっきからなにやらもじもじと恥ずかしがっているような素振りを見せている。一体何なんだ?


「あのさ、私のキャラクター名言わなきゃダメ?」


 俺の姉貴が、自由同盟のオフ会の自己紹介で言ってたのと同じセリフを、利香は俺たちに言っていた。


「お前のキャラを俺が知らないで、どうやったら兄貴にお前を紹介できるんだよ」


「そ、そうだよねー、あははは」


 あほかこいつ。それか、人に言うのもはばかられるほど恥ずかしい名前でも付けてんのか?


「あの、笑わないでくれる?」


「人のキャラで笑ったりしねーよ」


 俺の名前が笑いのネタに使われることはしょっちゅうだけどな!


「じゃ、じゃあ言うね!私のキャラは・・・」


「うん」


「お兄ちゃんLOVE」


「・・・・・は?」


 一瞬「ぽかん」とした表情になる俺と里奈。


「もー!だから、お兄ちゃんLOVEだってば!」


 利香は真っ赤になって顔を両手で抑えながら恥ずかしがっている。 


「あ、でもね!別にお兄ちゃんが好きだから付けたわけじゃなくて、ロールプレイって言うの?ゲーム内で友達とか作るときの話題にしやすいかなーって考えてこの名前にしたの」


「いやでもお前、お兄ちゃんを食べちゃいたいくらい好きって言うのが名前の由来じゃなかったっけ?」


「やだなー、だからそれは表向きの理由で~・・・・・・え?なんでそれあんたが知ってるの!?」


「いや、お前の口から直接聞いたからな」


「え?え?何?どういう事!?あ、二人のキャラクターは何よ!」


「私は「エリナ」よ」


「俺は「ダークマスター」だ」


 一瞬ぽかんとした表情を浮かべる利香。わかるわかる、さっき俺と里奈がその状態だった。


「へ?へ?エリナとダークマスターって、BMAの?この前うちのギルドと要塞戦やってる?」


「BMAは要塞戦の時の同盟ギルドだけどな」


「え!?えーーーーーーーーーーーーー!」


 夕方の黒部家の2階に、お兄ちゃんLOVEこと、火雷利香(からいりか)の声がこだました。いやこっちがびっくりだっつーの。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 それから3日後、俺たちは、要塞戦でのギルド首脳による親睦会という名目で、屈強(くっきょう)な冒険者の集い亭の2階に集まっていた。


 だがギルドの首脳同士での親睦会とは仮の名で、目的はもちろん、利久と利香を引き合わせる事だ。メンバーは、団長・グラマン・エバーラング・お兄ちゃんLOVE・そして利久のゲームキャラ「ライデン」と俺、というメンバーだ。


 本当は黒乃さんも招待したんだが、用があるとかで不参加になってしまった。なので代理でエバーが参加している。そういえば、ついこの前黒乃さんに会った時も、なんか余所余所(よそよそ)しかったんだよなあ。


 今回の真の目的については、団長にだけは伝えておいた。本来なら利久が参加出来るような会じゃないからね。何事も経験だという事で、利久を参加させることにしたんだ。


 まあ、あいつは「これって、俺が将来の幹部候補ってことじゃね!?」とか勝手に妄想して喜んでたけどな。あ、ちなみに俺は、参加者全員と顔が(つな)がっているってことで参加になっている。


 あ、それから利香には、誰が利久なのかは教えていない。利香には「サプライズの方が嬉しいだろ?」と言って納得させたんだが、本当は利香が暴走して、ゲーム内で兄貴に突らないかが心配だっただけなんだけどな。


 そして今は親睦会の時間を10分ほど過ぎた頃だ。なのに俺は今、必死でPCを立ち上げている。本当は早く帰って、利香と事前の打ち合わせをしてから親睦会に(のぞ)みたかったのに、帰り際先生につかまって、手伝いをさせられたんだよ・・・。


 予定の時間から15分程遅れて、俺は屈強な冒険者の集い亭2階へと到着した。俺の心配を他所に、かなり賑やかに会話が行われていた。


エバーラング「よ、やっと到着か。おせえよw」


ダーク「悪い!すんません、学校で頼まれごとされちゃって」


ライデン「大丈夫大丈夫!お兄ちゃんLOVEさんと楽しく会話してたし!ねえラブさん♪」


お兄ちゃんLOVE「そうですね。あ、ちょっと電話なので離席しますね」


 利香はそっけなく返事をしてから、そしてすぐにお兄ちゃんLOVE名でショートメッセージを俺に送って来た。


差出人:お兄ちゃんLOVE

「ちょっと!なんなのよこのライデンって人!さっきからずーっと利香に話しかけてきてすっごいうざいんだけど!」


 うん、利香よ、そいつがお前の大好きなお兄ちゃんである火雷利久(からいりく)だ。で、利久よ、お前が必死になって口説いてるそいつは、お前がストーカーだと言っている、実の妹だ。


 そんなセリフを頭の中で思い浮かべながら、俺はこれからのこの二人の兄妹を仲良くさせるというミッションが、すでに第一段階で最悪な方向に向かっていることに気付き、PCモニタの前で盛大なため息をついていた。

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