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姉貴のパソコンのお披露目会にて

「俺、桐菜(きりな)さんに告白する!」


 俺と姉貴、そして遊びに来ていた古名燈色(ふるなひいろ)は、俺の高校の友人である火雷利久(からいりく)の宣言に、目が点になっていた。


 利久の言う桐菜さんとは、俺たちが遊んでいるオンラインゲーム「ブラックアース」の中のギルド「自由同盟」のメンバーである「千隼(ちはや)」さんである「茅原桐菜(ちはらきりな)」さんの事だ。


 と言うか、なんで今このメンバーが集まっているかと言うと、先日、パソコンショップ「ツクネ」で姉貴が購入したゲーミングパソコンのお披露目会(ひろめかい)を行ってたんだ。


 そういやあの後、結局あの店員さん(一条美琴(いちじょうみこと)さんというらしい)の挙動不審になった理由についてはわからなかった。なんか、俺たちのゲーム内での名前を聞いた途端フリーズしてたからな。そりゃあ気になるじゃん。


 でも、俺が何か聞こうとしたら、「お見積りの書類だけでもお渡ししときましょうか?」と質問を遮り、それに対して里奈が「今すぐ現金を下ろしてきますので、ちょっと待ってて下さい!」と返答。


 まさか、現金でその場で購入するとは思わなかった。で結局一条さんの件に関しては、うやむやになったままなんだ。


 で、現在は里奈の奴、一条さんから説明されたパソコンの話をそのまんま燈色にも聞かせている真っ最中だ。いや、だった。


 利久の告白宣言に最初に反応したのは里奈だった。


「あんた馬鹿じゃないの?」


 あ、俺もそう思った。


「なんでですか!?」


「明らかに失敗するのがわかってるのに突っ込むのは、勇気とは言わず無謀っていうのよ?」


 おお・・・。はっきり言いやがった里奈の奴。


「はあ!?何言ってるんすか!この前の食事会の時だってたくさん話せたし、向こうだって俺の事が気になってるはずです!」


 この前の食事会ってのは、たぶん、俺がグラマンこと「桜菜実明」さんを紹介された時の団長宅での集まりの事だろう。しかしあれは、話してたっつーより、一方的に利久が話してたんだけどな。


「ああ、あの桐菜が凄く嫌そうな顔してた時ね」


「え!?」


「確かに、桐菜さん凄い迷惑そうでした」


「ええ!?」


 里奈に続き、燈色までが追い打ちをかける。すげえなこいつら、まったく容赦無しかよ・・・。


「大体あんた、ラインとかメアドとか交換してるの?」


「え?いや、それはこれからしようかと・・・」


「ようするに、桐菜にとってそのくらいの存在ってことね」


 うわあ・・・。利久の奴、さっきまでのテンションはどこへやら、すっかり意気消沈してるぜ・・・。女子こええ・・・。


「で、でも、それは真司だって同じだろ!」


「な、なんで俺が関係あるんだよ!」


 あほかこいつ!俺を巻き込むんじゃねえ!


「あら、真司なら、私と燈色と桐菜のライングループに入ってるわよ。この前の食事会の時に、真司にメアドと電話番号伝えたって桐菜が言ってたもの」


 うわあ、それをこのタイミングで利久に言いやがりましたようちのお姉さまは。


「・・え?」


 ひいいい!利久の目がこの世の終わりみたいな目で俺を見てる。


「大体ねえ、あんたみたいに勝手に誤解して付きまとうのはストーカーって言うのよ。わかってるの?」


 お姉ちゃん!も、もうやめてあげて!利久の目が死んだ魚の目みたいになってるから!


「そ、そういえば!」


 俺はこのなんとも言えない部屋の空気を一新する為に、話題を強引に変更する事にした。


「お前最近昼休みになると、いつも女の子と飯食ってるって教室で噂になってたぜ」


 その言葉に利久の体が一瞬「びくっ」と反応する。


「え?あんた一緒にご飯食べるような仲の女の子が居るの?」


「え?先輩を好いてくれるような物好きな子がいるんですか?」


 案の定、里奈と燈色は俺の言葉に食いついてきた。なんとか、話題そらしは成功したようだ。が、燈色はホント言葉をオブラートで包むことを覚えた方が良いな!


「い、いや、だから違うって!そんなのじゃないから!」


「昼休みに一緒にご飯食べるような女の子が関係ないって、そっちのほうが意味わかんないわよ」


「そんな事言ったら真司だって、いっつも燈色ちゃんとご飯食べてるじゃないですか!」


「だから、俺は関係ないから!」


「先輩とはブラックアースの話をしてるだけですから」


「あ、うん。そうだぞ!」


 確かにそうなんだけど、間髪入れずに否定されると悲しい物があるな。


「いやだからね?真司が噂で聞いた女の子ってのは、俺の妹の事だから!」


「はあ?どこの世界に、妹とお昼休みの学校でご飯食べる奴が居るのよ。もうちょっとマシな嘘つきなさい」


「オンラインゲームで姉弟で付き合ってる人ならここにいますけどね」


 燈色のセリフに一瞬「うっ」となる里奈。いや全く持ってその通りなんだが、人に言われると気持ちが悪いな。


「と、とにかく!ホントのところ誰なのよ!」


「いやだから、妹なんですってば!」


「マジで?」


「マジ!」


 確かにこいつには1個か2個下の妹がいたのは覚えてる。確か名前は「利香」だったと思うが、ここ数年妹に会った記憶が無いので、顔まではわからないな。


「なんでお前、わざわざ学校で妹と一緒に飯食ってるの?」


 俺の当たり前すぎる質問に利久は顔をしかめている。こいつの妹に最後に会ったのは、小学校の時だったかな。まあ、確かにお兄ちゃんにべったりって感じの妹だったとは思うが。


「あの、その事について、ちょっと相談してもいい?」


「へ?」


 という訳で、姉貴の新しいパソコンのお披露目会は、一転して、火雷利久のお悩み相談へと変わっていた。


「実はその、最近妹の奴がストーカー化していまして・・・」


「ええ?えっとその、一体誰をストーカーしてるんだ?」


「俺」


「は?」


「だから俺だよ俺!俺が妹にストーカーされてんの!」


「ついに異性にもてない病をこじらせちまったか・・・」


「良いから俺の話を聞け!」


 そういうわけで3人で利久の話を聞く事にした。


「・・・と、そういうわけなんだよ」


「あんたの妹凄いわね・・・」


 利久から妹の話を聞いた俺たちは、呆気に取られていた。


 そもそも、妹の利香がストーカー化し始めたのは、利久の奴がブラックアースを始めた頃だそうだ。


 実は、利香は元々ブラックアースを遊んでたらしく、利久にも一緒に遊ぼうと散々誘いを掛けていたらしい。が、利久の奴は全く興味が無く、相手にしなかった。


 ところがある日、利香が利久の部屋を覗いてみると、なんとそこにはパソコンで一生懸命ブラックアースで遊んでいる利久の姿が。


 自分があれだけ誘っても見向きもしなかった兄が、なんで今頃ブラックアースをやってるの!?この疑問が、どうやら利香をストーカーに走らせたらしい。


 つまり、黒部姉弟と同じ問題を、火雷兄妹も抱えていたわけだ。まあ、俺達黒部家の場合は、里奈が俺に対して距離を置くと言う方向へ行ったわけだが、火雷家では逆に、兄に執着するようになったという事だ。


「まあでも、それはあんたが悪いわね」


 いやあ、そんな里奈の言葉に、俺は微妙な顔をするしか無かったわ。たしかにこれは利久が悪いわ。それがわかってるからか、利久も項垂れてるだけで反論はしてこなかった。


「でも実害はないんだろ?」


 そんな雰囲気に耐えられなかった俺は、思わず利久にそう聞いていた。


「あほかお前!あいつ、本気で俺の彼女になろうとか考えてるんだぞ!」


「「「ええー!」」」


 俺と里奈と燈色の声が重なる。それなんてエロゲですか?


「確かに利香の奴は、兄の俺が言うのもあれだけど、すげえ可愛いとは思うよ?でもあいつは妹なんだよ~」


 ああ、それはわかる。里奈も確かに美人の部類とは思うが、でも姉なんだよね。それ以外のなんの感情もわかねーよ。


「あと、お前にちょっと謝っておかなきゃいけない事がある」


 改まって利久がそんな事を言い出した。


「なんだよ、謝らなきゃいけない事って」


「それがさあ、ブラックアースを遊びだしたきっかけを聞かれて、お前の名前出しちゃったら、なんかお前に敵対心持ちはじめてさあw」


「持ち始めてさあwじゃねーよ!ふざけんなお前!」


 なんで、ここ数年会った事も話したことも無い奴に、俺の知らない所で勝手に恨まれなきゃいけないんだよ!


「先輩ファイトです」


「安心なさい。骨は拾ってあげるから」


「うるせーよ!」


 実の兄をストーキングしてるような奴に恨まれるとか、怖すぎだろ・・・。はあ、聞かなきゃ良かったよ・・・。

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