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オリオンサーバーの噂

 グラマンこと、実明(みはる)さんからのお兄ちゃんLOVEさんへの質問は続いていた。彼女のこれまでの質問を要約すると「ゲームの中でストーカーみたいな人に会ったことは無いのか?大丈夫なのか?」って感じだと思う。


 それに対してお兄ちゃんLOVEさんは、お兄ちゃんへの愛はこんな事では()るがないとか答えて、周りの人間をドン引きさせていたんだが。


 それにしても実明さんは、なんでこんな質問をしているんだろう?言い方は悪いが、実明さんの分身であるグランドマスターは、見かけは完全に男性騎士だし、あの言動なので、もちろんストーカーなんか寄り付くわけがない。


グラマン「その、怖くは無いのですか?ゲーム内とは言え、執拗(しつよう)に追い回されたりするのは・・・」


お兄ちゃんLOVE「んー、まあ確かに怖いです。けど、あまりにひどい時は運営に相談しますし、そして何よりも・・・」


 LOVEさんは一旦そこで言葉を切り、周りを見回してからこう言った。


「ギルドの皆や友達がいますから」


おおっ・・・。なんか、思わず拍手コマンド入力しちゃったよ。一緒に聞いてた人らも同じ思いだったらしく、お兄ちゃんLOVEさんの周りで拍手(はくしゅ)()き起こっていた。


 オンラインでは、もちろん色んなやっかいな出来事も起こるけど、それ以上に色んな出会いや嬉しいことも起こる。考えてみれば、俺とゲーム内の親友「エバーラング」も、たくさんの敵に囲まれた所を一緒に共闘したことから、友人関係が始まったんだよなあ。


お兄ちゃんLOVE「あの、こんなので答えになったでしょうか?」


 グラマンが押し(だま)っているので心配になったのか、LOVEさんの方から話しかけて来た。


グラマン「あ、も、もちろんです!大変参考になりました!」


 そう言って深々と頭を下げるグラマン。LOVEさんもいえいえ~とにこやかに両手を振っている。


 しかし、グラマンっつーか実明さん、一体何の意図があってあんな質問をしたんだろうか?グラマンがストーカーにあった話なんか聞いたことも無いぞ。あ!もしかしてリアルの・・じゃないよな。どう考えてもゲーム内での話だったしな。うーむ、わからん。


 結局その日は、お兄ちゃんLOVEさんから「再戦を楽しみにしていますね!」との言葉を頂き、BMAと自由同盟のドタバタしたデビュー戦は幕を閉じた。あ、ちゃんと反省会もやったよ。


***********


 次の日、俺はいつものように屋上で燈色(ひいろ)と一緒に話をしながら昼飯を食っていた。お題は、昨日の要塞戦だ。


 燈色はこれまで、狩り中の魔法の効果を高める方向で、装備をそろえて来たんだけど、へたしたら休憩がとれない要塞戦の事も考えて、装備を集める必要性に気付いたらしい。


燈色「昨日は途中でマジックポイント【MP】が尽きてしまって・・・」


ダーク「まあ、あれは仕方ない。人も足りてなかったしなあ。だって里奈でさえMP枯渇してたからな」


 INTヒーラーの里奈は、ヒールで消費するMPの量が物凄く少ないので、MPが足りなくなることは、狩り中ではほとんど無い。そんなあいつでも、昨日の要塞戦ではMP管理に苦戦してたんだ。


ダーク「まあでも、出来る範囲(はんい)で装備を強化していくのは賛成だ。俺も含めてな」


 俺は俺で思う所があった。昨日の戦いでは、物理攻撃に対しては、それほど危機感は持たなかったんだけど、高レベルの魔導士からの魔法はマジでヤバかった。


 俺の装備は、物理攻撃にたいする防御力を高めることをメインにしてるんだけど、その反面、魔法防御はゼロに等しい。つまり相手の魔法の威力を、ほぼ100%受けてしまうんだ。それで一回ENDしてしまったんだよな・・・。


ダーク「俺もさ、今後の要塞戦と、魔法攻撃が強い強化ボスを狩る事も考えて、魔法抵抗力のある装備を集めないとな~って、昨日思い知らされたよ」


 次の要塞戦がいつになるかはわからないが、それまでには安価な魔法抵抗が付いた防具を少しは揃えとこう。


燈色「そういえば、話は少し変わるけど、先輩は、オリオンサーバーの噂を知ってる?」


 オリオンサーバーとは、俺たちが活動しているカシオペアサーバーよりもちょっと前に出来たサーバーだ。かなり温厚なカシオペアサーバーと違って、プレイヤーキラー、いわゆるPKも厭わない、要塞戦が繰り広げられていると聞いたことがある。しかしそれくらいしか知らないな。


ダーク「いや、聞いた事無いな」


燈色「実は、オリオンサーバーの要塞ギルドのエース級の人達が、カシオペアサーバーで、要塞バトルのギルドを設立しようとしているって噂があるの」


ダーク「えー!」


 その話を聞いた時、俺は絶対その噂は嘘だと思ったね。だって、このブラックアースでは、サーバー間の移動が出来ない仕様になってるんだ。つまり、サーバーを移ろうと思ったら、そのサーバーで新しくキャラうたーを作り、レベル1から始めなきゃいけないって事だ。そんな苦労してまでカシオペアにやってきて何するって言うんだよ。


ダーク「いやあ、サーバー移動は出来ないし、一からレベル上げしても、ブラックアウトなんかには追いつけないでしょ。無いと思うよ俺は」


燈色「私もそう思う。それにオリオンサーバーのバトルギルドの人達、なんか怖いし」


ダーク「なんで?」


燈色「先輩オリオンサーバーの事知らないんですか?」


ダーク「全く」


 そう言うと、燈色はオリオンサーバーの要塞バトルに関する事情を俺に説明してくれた。いやあ、思ってた以上にへヴィな話だったぜ。燈色の話を簡単に説明しよう。


 今現在、オリオンサーバーのコボルト要塞を除く全要塞を、とあるバトルギルドの同盟が占拠している状況にあるらしい。しかも、一部の高額レアをドロップするボスモンスターの出るダンジョンの区画を完全封鎖。侵入者にはPKで対応。


 そのレアアイテムは、そのダンジョンに居るボスからしかゲット出来ないので、サーバー内で、そのアイテムの価格が、それ以前の10倍近く高騰しているんだとか。その金で、また同盟の軍事力を強化して、さらに強くなると言う、まるでリアル世界での社会の縮図を見ているような状況だ。


ダーク「なんか、里奈の奴が聞いたらブチ切れそうな話だな」


燈色「私もそう思って、里奈先輩には言ってない」


ダーク「うむ。賢明な判断だ」


 しかも、怒りの矛先が俺に来そうな予感もバシバシするので、この話題は絶対里奈には話さない事にしょう!


**********


「ちょっと聞いてるの真司!」


「聞いてる聞いてる」


 俺は自分の部屋で、なぜか床に座らされて姉貴の話を聞かされていた。


 昨日、燈色から昼休みに聞いたオリオンサーバーの話だが、何故か里奈の奴の耳にも入っていたらしく、その怒りの矛先は当然のごとく俺へと向けられていた。理不尽だぜ。


里奈「大体、レアアイテムを独占する為にダンジョンを封鎖するなんて、卑怯にもほどがあるわよ!あんたもそう思うでしょ!」


ダーク「はいはい、その通りでございます」


里奈「なによそのやる気のない返事は!」


ダーク「そうは言っても、隣のサーバーの事だぞ?なんでそんなに怒ってるんだよ」


里奈「だって腹が立つじゃない!あんたは何とも思わないわけ?」


 うーん、実を言うとあまりなんとも思ってはいない。でもそう言うと里奈が怒り狂いそうなので、丁寧に自分の考えを説明する事にする。


 このブラックアースってのはさ、前も話したかもしれないが「プレイヤーキラー」つまり「PK」というシステムが採用されている。まあ「対人戦」って事だな。これは要塞戦の場だけでなく、普通のフィールドやダンジョンでも可能だ。


 じゃあ何故そんな事が可能なのか?


 PKを行う場面ってのは、まあほとんどが、狩場でのトラブルだろうと思う。自分が先にモンスターに攻撃したのを横取りされただとか、そういうのをPKで解決する意図が、運営側にあるんじゃないかと思う。だってこのゲーム、舞台は架空のファンタジー世界だからな。それもありっちゃありだと思うよ。


 そしてそれは、ダンジョンを封鎖して、ボスモンスターを独占する事に使うのも、有りだとは思う。だって、そういう事が可能なシステムだもの。運営側は、まさにそういう世界感を提供しているわけだ。


里奈「じゃああんたは、そういう事に賛成ってわけ?」


ダーク「いや、反対だよ」


里奈「言ってる意味がわかんないんだけど?」


ダーク「グラマンがロールプレイしてるのが正しいのと同じ理屈で、それはありだとは俺も思うんだけど、それを俺が好んでいるかって言うと、それは別の話しだって意味だよ。大体、それを好んでるなら、俺はシャイニングナイトに入ってるよ」


 シャイニングナイトってのは、カシオペアサーバーでもトップクラスの要塞戦ギルドだ。マスターは、強さが全てと思っているので、当然ギルド方針もそれに準じている。


里奈「うーん、そう言われると悩むわね。つまりシステムなので否定しようは無いけど、真司としては望んでいない、って事?」


ダーク「まあ、そんな感じ」


 そういうと里奈はしぶしぶながらも納得してくれたようだ。まあ、怒りは収まって無かったが。


 しかし、里奈にまで話が行ってるって事は、サーバー内でもかなりの噂にはなっているのかもなあ。そうなると、オリオンからカシオペアサーバーに移動して来るって話も気にはなるな。こういう事、つまり(もち)の事は餅屋(もちや)に聞くのが一番だと思うんだ。


 なので俺は、要塞バトルギルド「ブラックアウト」所属の友人「エバーラング」に、この噂の信憑性(しんぴょうせい)を聞いてみることにした。

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