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殺戮機械の英雄譚  作者: 網田めい
“死体に埋もれた勇者の唾”
12/26

狂い貫く極彩感情:参

 聖剣の装飾が綺麗に見えるから、夜空を見上げる。風は吹いていないのに、顔面をぶん殴るように当たっては、何度も繰り返し、溶けた。私が欲しいものは、雪ではない。私は天気にすら、いじめられる弱者だ。呪うものがないのに何かを呪いたい。そういった純粋な悪意をまき散らして、無常観にたそがれてしまおうか。そう思った途端に、降ってくる雪粒が線で繋がり、はっとした。点は線となり、絵画へ変貌した。まさしく星座だった。これは脳回路の仕業か。はたまた、居場所がはっきりしていない心の仕業か。その二つは徒党を組んで、私を弄んでいるのかもしれない。心のしこりが、すう、と、平らな影のように延びた気がした。紫色の醜い夜空へ――……影はどんどん延びて薄くなり、ぷつんと切れた。


「――、――、――、――、――……」

 《……Auto_songs665……(……自動歌唱再生【プリンセス・オブ・エレイン】。 ( ^0^)θ~♪……)》


 対話した意地悪な輩に、泣かさせる三分前の。対話した輩が必死に優しくしてくれる、生温かい感情が伝わった具合の。二分後に死亡する動物を知った時のような、どうしようもない感覚に陥った。


 気が付けば――私は座ったまま、指を指揮棒にして賛美歌の前奏に入っていた。人の形をしている三つの星座は一団として寄り添い、まとまっている。これは“家族”に違いない。そう信じたい。そうでなければ、悲しすぎるだろう。

 星とは違い、雪の粒はひらひらと動いている。当然のことだが、絵画となった星座は動画となり動いていた。地面へ落ちつづける雪は、流れ星とは比べ物にならない良いものだった。


 これは、銀河の中で一番優しい星座に違いない。

 世界でひとつだけの、私のための星座に違いない。


 血の鎖で繋がれた子は、大人を慕う。それだけで成り立った情動結晶体(クリスタル)だ。落ち続ける点々は、私の見たいモノに変貌してくれた、先の見えない物語だ。タイトルをつけるならば、どうか殺してください、となる。


 ああ。ああ。ああ……私が欲しいもの……私の知りたいものは……私は……私は……。


 私は確信することが怖いのだ。敵である魔法剣士が、子供を撫でたよう、微笑んでくれたことが――すでに、類まれなる感情方程式の答えなのだ。


 つまり私は、父親の自害の理由を。その尊き理由を。人間らしい理由を。先ほどの知覚映像で答えを知った。未知数の確証は、笑顔にあったのだ。だからこそ父親の微笑みを、比喩出来た。

 他者の感情はわからないと思えたが、理由はきちんと在ったのだ。


 賛美歌は、明らかに印象主義の曲であった。リズムを押している副旋律が主旋律に食らいつき、歌詞の強さを直に感じさせるそういった品だ。声が震え、交錯した。


「ああ……あっ。あっ。あっ。ら……ら、ら、ら……あっ。あっ。あっ……らら、ら……」


 ただの鼻歌に、肉声の情感が絡みつく。主旋律もリズムも糞もない。音の価値も、構成の思惑も、作曲者の職人じみた多重解釈も破壊されている。ライン上に乗りこんだ痛々しい肉声音符の意味をひらき、潜考したくなる。父親という背景の儚さが、胸を締めつけただけなのに。

 視界ヴィジョンに表示された時間は、二十四時を指していた。明日は来てほしくなかった。


「……しい……悲、しい……しい……」


 音の粒の繊細さに、掠れた肉声が乗り込んだ。腹の底から伝えようとしている(もの)は、悲しみ、だけであった。私は頭を抱えて立ち上がり、聖剣を引き抜いた。雪降る天へ剣を掲げ……空を貫き、銀河を斬る。夜を裂き、朝に切り替われと――頑張って。頑張って。虫けらのように頑張って。何度も何度も飛べない鳥が意味なく羽ばたくよう、振り続けた。

 一家団らんが似合う庭に、私の叫び声だけ響く。それでも雪はしんしんと積もり続けた。父親の死体は、横たわった雪だるまと成り、助けてはくれない。私は囚われている。私個人にとって、魔王も勇者も聖剣ですら、関係無いのだろうか。馬鹿か。そのような下衆な戯言、信じることなどできるものか。

私は楽団指揮者の、音を称えた姿で得物を扱っていない。これは孤高に(そび)える事実であった。


 いやだ。いやだ。いやだ。


 もう見たくない! 気持ちなんて知りたくない! でも私は。私は。最後まで彼を見取ると、誓ってしまった……! 


「あっ。あっ。あっ……」


 つらいよ。こわいよ。おそろしいよ。うそはつきたくない。でも。でも。でも。でも。にげるほうがいやだ! じぶんがいやだ! にんげんがいやだ! ぜんぶぜんぶいやだ! でも。でも。でも。でも。いまのままでいたら、いちばんだいじなじぶんがいやになってしまう! しらなきゃ、しらなきゃ、しらなきゃ、しらなきゃ、しらなきゃ、べんきょう、べんきょう、べんきょう、べんきょ……。


『……ひとつ、聞かせてくれ。貴様の夢とは、何だ』


 讃美歌は鳴き、止んだ。父親の星座が、私に微笑んだ気がした。私は、私は――。


「……l、in、g……」

《shinri_jyokyo_nyan01……(集中により、無意識化した心理中枢部を翻訳いたします……(ฅ'ω'ฅ))》

 


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