ホテル「NOWEHERE」
――気がつけば、私は暗い森の中をさまよっていた。
「おかしい……確かに家に向かって歩いていたはずなのに……」
さっきまで私は、いつもの様に硬く冷たいアスファルトの道を家に向かって歩いていた。
しかし、ふと周りを見渡せば、世界中の生き物が死に絶えてしまった様な、静かで暗い森の中だった。
枯葉に覆われた土の上をしばらく歩いていると、月すら見えない暗い森の木々の向こうから怪しげな薄明かりがぼんやりと目に入ってきた。
孤独感と虚無感に襲われていた私は、すがる様にその明かりへと近づいていった。
その薄明かりは、今にも朽ち果てそうな古びた洋館から漏れていたものだった。
私は吸い寄せられる様に洋館へと近づいた。
扉は固く閉ざされている様に見えたが、手をかけてみると軋む音を出しながらも簡単に開いてしまった。扉が自ら開いたと思えるほどに。
「お待ちしておりました、お客様」
そこには、怪しげな初老の男性が居た。
顔には深いシワが刻まれており、浅黒いシミも散らばっている。
彼は、古い木で出来たカウンターの向こう側におり、カウンターの上には宿泊客名簿が置かれていた。
どうやらここはホテルの様だ。
「お部屋の準備は住んでおります、どうぞこちらへ」
怪しげな笑顔を向けた初老の男性が歩き出し、私はそれに着いていく。
「紹介が遅れました。私は当ホテル『NOWHERE』の支配人『チャールズ』でございます」
廊下の木材をギシギシと鳴らしながら彼は言った。
「ここにはたまに迷い込んでくる方がいらっしゃるんですよ。その時はこうして決まってお部屋をお貸しする事ににしているのです」
「しかし……今、手持ちのお金がないので……」
「いえいえ、御代は結構ですよ。こんな夜に森を抜けるのは危険ですから、朝まではご遠慮なくお過ごしくださいませ」
私は言われるがままに部屋の前へと案内された。
続きは明日また書きます。