【クラウド】
中から出て来るのは、この前に見たばかりの男、レオンが乗っていた。
しかも後席にも 何やら人影があった。
「どうやら 目当ては “鬼神”や“妖姫”じゃなさそうだな」
ボソッと呟いた棗。 その声ははっきり聞こえた。
中から偽りもなく スラっと出て来たのは 思った通りのレオン。 彼は出た後、周りに人がいないかを確認しているように キョロキョロと見渡す。
どうやら気付かれなかったマキ達。 レオンは安心したらしく、ガンッとなる後席の扉を開ける。
中から出て来たのは......
「......嘘......」
「......悠?」
出て来たのは 1年前に乱闘したあの 川村兄妹の妹、「川村 夏香」と、まさかの棗の弟「龍雅 悠」だった。
嘘だろ? と心にあった言葉を無意識に吐き出す。 黒い車......それは100% 任務時に乗る車だ。 でもそれは Lv.5の能力者だけ。 棗が思うに、悠達は 教室で見たことがなかった。
「なんで よりによってあの2人が......?」
そのまま出てきた悠達は 何かを話していた。 任務の終わりなんだろう、全身がかなり傷だらけだった。 多分、全身からかぶっている血は、相手のものだけじゃないらしい。
Lv.5じゃない奴にまでやらせるセガレ。 そんなに魔力に困っているのか。
口を一切開かず じっと悠達をみるマキ。 のちに 話がおさまったらしく、ガチッと握手を交わしあった。
その後だ。
思いもしなかった ことが起きた。 そのまま正門中に歩き出す悠達。 歩いて行くたびに だんだんと薄れていくその体は 正門に入る時には完璧に消えていた。
その時にもレオンは消えていた。 黒い車とともに。
思いもしない状況がだんだんと降り積もったマキ。 2人とも抑えきれない感情が外に出ていた。
最後に消えた言葉は 「なんだったんだ......?」という棗の声だけだった。
セントラル祭の最中。 酷く起こった出来事は、取り消しにはできない。
「やっ......やめろ!!」
奇妙な騒音がなる 現地不明の研究所。 そこには冷たい鉄細工にまとわれ、捕まっている男が叫んでいた。
「大丈夫よ...... すぐに痛みなんか 無くなるわ......」
ニヤっと笑う女の裏に、男はすぐに気づく。 彼女の手には......ありとあらゆる 解剖時に使う道具があったからだ。
フルフルと男は必死に首を振る。 だがそんなの知ったこっちゃないと言うように 再び闇笑。
「無駄な死じゃないわよ。 ......私のために貴方は死ぬの」
グチュ......
ただでさえ嫌な音がなる研究所に、また新たな音が響く。
......男が殺 された音。 部屋中に飛び散る血の音。 最後に残った......男の悲鳴。
「貴方の血って 赤いのね」
クスっと笑った女。 実験台に広がる男の血を指で取り、右手の親指と人差し指でこする。
「......今日はこれで 終わりにしましょうか」
死んだ男をそのまま放置し、ゆっくりと部屋を出て行く女。 それと同時になる、恐怖のハイヒールのなる音。
ガチャ......
女が向かっていた扉が開かれる。 中からは......
「あら、珍しい」
かけていた眼鏡を女は外し、目の前の人をみる。
「久しぶりね、クラウド」
その言葉に当てはまる人物......それは......
あの校長だった......