【黒い車】
「ねぇ~ あれやりたい!!」
「ねぇ~ あれ食べたい!!」
「ねぇ~ あれ見たい!!」
先程から 振り回されるマキ達。 どれもこれも 変に迫力がある絶叫マシン。
あー、乗りすぎて酔って来る......
「......おい、青いの。 いつまでやるんだ、コレ」
さすがに 大きく呆れ顔を見せる棗。
「......えー」
悩むウパーは、マキ達の足を止めないように 悩み続け、答えを逃れようとしていたが......
「ごまかすなよ お前」と、荒れて来た棗の言葉に耐えられなくなり、「......あと1個だけ......」と 情けない声をひょろっ出した。
「あと1個?」
ムカムカしている棗の隣でマキが聞いた。
「さっきみたでしょ? あのクレープ食べた時に 通ったお化け屋敷!! あれなか怖そうだから 行きたいなぁーて!!」
「あぁん!!?」
思い切り目を釣り上げ言った。 お化け屋敷。 つい先程の肝試しで あんなにも怖がった棗に、今度はまた一段 怖そうなお化け屋敷へ行こうだなんて......
「マジでふざけんなよ!! 俺はいかねぇよ、裏と行ってこい、裏と!!」
「えぇー」
強調して言った棗。 もういかない気満々だ。 「私今 魔法使えないから、後で合流出来なくなるんだよね」......と言うことで。
「......我慢しよ。ウパー」
仕方なく......仕方なくの行動だ。 目をウルウルさせるウパーにも我慢し、断った。
しかも今は 手が空いていない。
先程まで行動していた行き先には いい年した女性観光客が大量発生。
真隣を通る まぁいい顔をした10代後半の男が通る瞬間はみんな......
「きゃー!! めんこい男の子だねぇ!!」
「やっだぁ、イケメン~」
などと言う 何処かのおばちゃんのような声が多発。 それと同時に、近くでみんなが買ったと思われる限定品の食べ物を 棗に渡そうとする人が!!
それで今に至る。 もう持ちきれないほどの量。 マキと棗の手がもういっぱい。
仕方ない、今からまた石段に戻るか......
「あー、疲れたよ」
いつもの石段に戻ったマキ達。 完璧に嫌味のように「疲れた」と強調する棗も分からないわけではない。
今帰ってきたばかりなのに、疲れを全く見せないウパーは、貰って来た食べ物のガツガツと口に頬張る。
「......ホント 迷惑だよ」
はぁ~と溜め息をして、ウパーを見ていた目をずらした。
そんなことにも気づかないウパーを見たマキは、「全くだよ」と 静かに呟き 置いてあるサンドイッチに手をつけて 食べた。
「棗もなんか食べれば?」
サンドイッチを 勢い良く貪りながら 無理矢理 口を開き聞く。
そのマキを見た棗は 一瞬苦い表情をして 「食欲ないから」と言って断った。
......私の姿を見て断ったな、コノヤロウ。
ムッとして、向いていた方向を変える。 その時だった。
ブルルルン......
「?」
聞き覚えのある嫌な音。 ......車の音だ。
すぐに立ち上がって 様子を見ようとしたマキ。 だが それを止め、ウパーと一緒に石段近くの気の影に隠れる。
「......んっ!! ちょっと......」
抑えられていた棗の手を退かし 小さく叫んだ。 棗は「しゃべんな」とだけ言って、正門入り口を見る。 あそこには先程 聞こえた音と思われる車だった。 しかもそれは......任務時に乗った黒い車。
「なんで こんな時に......!!?」
目を丸くし、驚いた顔つきをしたマキ。
その顔をしたのは マキだけではなかった。