さようなら!我が国でございます
皆さん過ごしやすい季節秋になりましたなあ。山々は紅葉が鮮やかなことでありますなあ。ちょっと紅葉狩りに山奥に入りぼたん鍋などいただけたら幸せなものでございます。
しかしああ忙しい忙しい。
拙僧は今忙しいのであります。
呑気に秋の話なんぞする暇などありません。えっとパスポートは来週の水曜に名駅に取りにいく。旅行鞄とサブバックは明日大須商店街に買いに行けばよし。後は服に靴にパンツでございましょうか。おっと曹洞教文の英語訳・ドイツ語訳・フランス語訳をちゃんと持参しなければなりませぬ。これは大学に取りに行かないとダメでございます。言葉を拙僧は理解できなくとも外国人が理解されますから。お釈迦さまと道元禅師の有り難きお言葉を訳し諸外国に紹介しなくてはなりませぬ。合掌。
いやいや慌ただしく忙しくでございます。拙僧実はでございます欧州に曹洞門下から派遣されることになりました。その出発が間もなくですから慌ただしく渡航準備をしているところでございます。
と簡単に今の状況を申しました。実際は拙僧はあまり嬉しいことでもないのでございます。と申しますと。
「拙僧24歳でございます。お寺さんの女将である母親に早く身を固めてくれないか。若い衆に示しがつかないなどと言われてお見合いを張り切ってしたのでございます。それがことごとく失敗に喫しました。まあなんと情けないこと。あなたの修業が足りない。もっと徳を積まなくてはなりませぬ。だから母はちょっと曹洞の本部に行って相談してきます。おとなしく本堂でお教をあげて待っていなさい。
とまあ母は怒って本部に参るしだいでございました。お見合い写真を束ねて本部に行く後ろ姿はかなり怖いものでございました、ハア」
その曹洞本部で母親は散々拙僧の悪口をクチャクチャ喋る喋る。女には持てないタイプだ情けないとか。永遠に独身のタイプだから先行きが思いやられてしまう。とまあ好きなことをあれこれと言って来ました。困ったもんでございますなあ。
それを本部は真に受けたようでございます。これも問題ではありますよ、メッ!曹洞本部のおっちゃん達よ。
「副住職さんは独身主義かもしれません」
あらっ、変な変なこと言うなあ。
本部の官職がいい始めたらわいわいとなってしまい好き勝手なことをあれこれになったのです。本部には拙僧の大学同期先輩後輩もいて、
「ああそう言えば副住職さんは女にトンと興味なしでしたなあ」
言葉を重ねちゃいました。
もうあかんあかん!それを我がカアチャンは本気にしてしまい、トホホでございます。本部から帰ってきたらお前女嫌いなんだって。拙僧に聞いた。
「拙僧は女好きでございますよ〜本当にもう。AV女優なんかいくらでも見て楽しんでいるというのに。最新作はネットで必ずチェックしているというのに。イッペン見せたろか、カアチャン」
拙僧あまりにひどく侮辱を受けたから本部に我が同期に、
「キツクお灸を据えてやるぅ!」
と勇んで怒鳴り込んで行きました。拙僧のことを本部で知ってる役員は数がしれてましたから。
「おい本部の役員!いくら大学の同窓だとしても拙僧を悪く言い過ぎだぞ。謝罪したまえ。拙僧は訴訟も考えているんだぜ」
本部役員の同期(2〜3人)に向かって怒鳴りましたでございます。ハア〜スッとしたなあ。
「なんだよいきなり。おい本部の神聖なる寺社で怒鳴り散らすとはなんたるヤカラだ。ちょっとお前こっちに来いよ」
同期のひとりは拙僧を拙僧の綺麗な袈裟をグイッと持ちました。これには拙僧血が逆流しました。
「なにをするんだ。僧侶の命袈裟に手をかけたな」
同期と揉合いでございます。散々ああだこうだとやってしまいました。
この同期と拙僧は曹洞門下の同期幼馴染みでございます。曹洞系中学から同じ学校で高大と同じ机でございます。大学で受けた得度はお互いによかったなあと肩を抱き喜んでいました。
その同期は今2児の父親でございます。3年前に学生僧として結婚式を執り行った際には拙僧が友人代表で挨拶致しました。仲良しさんでございます。がそんなヤカラに拙僧の悪口をポンポン言われては酌に触るですよ。向こうは2児の父親。拙僧は女にもてない。女嫌いな男だ。と言われては腹がたちます。
本部で事務職員のいる前で同期の胸ぐらをグイッ。確かそこまでは記憶がございます。
あとはありゃりゃ、警察の取り調べ室あたりしか思い出さないなあ。余程興奮していたんでしょうか。拙僧と同期の仲裁に入ったのが曹洞本部の管主(総住職)でございました。この方を怒らせたらば明日はないと覚悟でございます。
というわけで拙僧は若げのいたりから警察沙汰を引き起こしてしまいました。曹洞門下として懲罰を受けることになりました。本部の同期もでございます。仲良しのあいつもですなあ。
拙僧は曹洞本部から当分の間曹洞門下を名乗れない。副とは言え住職を降ろされてしまいました。
「懲罰を住職の親父に知られこの歳で叱られました。アッハハ情けないことですわ」
親父は病いにありながらバカモンと一喝。いやはやかなり元気はあります。病弱な40歳とは思えないパワーでござんした。学生時代の球蹴りをさせたらそのままゴールさせそうでございます。
「お前みたいなクズ僧は見たくない。もう一度修業を一からやり直せ」
と我が家のお寺からも破門されてしまいました。
拙僧は途方に暮れるところでございます。
「一からやり直せの修業なら永平寺に向かうかなあ」
曹洞門下の総本山でございますから。ところが親父はそれが気に入らないらしく、
「お前寝惚けてんかぁ。永平さまはバアサンの実家だぞ。恥ずかしい恥ずかしい。お前の顔なんぞ管主さまに見せたくないわ」
そりゃあ凄い剣幕でございました。ではどうするかな。
拙僧は考えたのが海外逃亡でございます。欧米に曹洞門下の各支部がありますからそこらを訪問しながら改めて修業、精神の建て直しをいたしたく存じます。親父は、
「なに海外だと。ロンドン支部だとパリ支部に行くだと」
さらに烈火のごとく怒っていました。怒ってはいるものの海外という遠方ならば拙僧なるバカモン僧の姿も見られはしないであろう。
「見る人も少ないだろうな。ならばしっかりやってこい」
となりました。ああホッとしたところでございますなあ。親父は怒らせたら梃子でも槍でも泉ピン子でも動かせませんから。
海外だとなりますと本山の本部に許可を願います。拙僧は管主さまに破門された身分ゆえに勝手にあっちこっち行ってはならないのでございます。
「副住職は海外支部に行くとな。あちらに詰めて修業をなさるつもりかな。うーんまあ元来ならば本山永平さまに荒修業を願いたいが。しかたがない。海外支部を認めましょう。本部から推薦状をメール送信しておきます」
かようにして拙僧は渡航に到るしだいでございます。
渡航先でございますが欧州と米国とありましたがヨーロッパにさせていただきました。ローマカトリック教、英国カソリックなどを見ておいて損ではございません。
というわけで拙僧渡航準備に忙しいしだいでございます。
欧州の曹洞支部に参りましたら拙僧は曹洞の教義の資格を与えられておりますからセミナーを開催し講師となります。問題なのは英語でございます。語学はサッパリだと自慢な拙僧でございます。今から英語の学校に通うかな。よし急げでございます。僧侶割引半額コースのあるところに行こう。
かようにいたしまして慌ただしく渡航準備はなされ少しずつ整いました。英語だけはマスターが不完全ではあります。英会話がちっともレベルアップ致しません。情けないなあ。
後の準備は来週の水曜にパスポートがもらえ旅行会社でビザを発注してもらうだけでございます。
「そうそう僧侶は労働ビザ/就労ビザの特別枠でございます。ビジネスマンの一般労働ビザとは格が違っております。なんたってビザに木魚が彫り込んでございます。アッハハ嘘ですよ」
渡航費用は曹洞門下扱い(本部からの派遣扱い)ゆえに本部から支給されています。少額ですが給与もいただけます。こうしてみたら拙僧は立派な僧になって欧州を回らなくてはならないと身が引きしまる思いでございます。
改めて喧嘩してよかったなあ。同期のやつを後2〜3発ボコボコにしてやればもっとよかった。ではなくてですなあ。
翌水曜になりました。パスポートが仕上がって参りました。写真は男前でございます。自分で褒めてどうする。
今から真新しいパスポートを持って旅行会社でバウチャー(旅行予定)を作ってもらいます。バウチャーは本部からの派遣の行き先によって決まりますから本山本部を訪ねてでございます。
管主さまに派遣の国を決めていただきバウチャーを設定いたします。
「本部には喧嘩した同期や大学の先輩後輩も役員でいるからなあ。偉そうにしているだろうなあ。なるべく顔を見ないようにコッソリ裏口から行こう。コソコソと管主さまに会いましょう」
拙僧は本部の正面玄関を通らず管主さまの部屋の裏口扉から侵入を試みました。裏口はすぐに見つかりガチャガチャとやりました。あれまあ鍵がかかっていたのかな、ドアの取り付けが悪く開かないのかな。とにかく裏口を"開けゴマ"しないと中には入れない。仕方ないからトンと叩いて管主さまに中から開けてもらいましょうとしました。管主さまの携帯番号はわかっていますからかけてみよう。袈裟からズルズルと携帯を取りだした拙僧。
「おいコラッ!そこでなにやっている。怪しいやつだ動くなあ」
携帯かけている最中に本部の警備に見つかりました。かなりきつい口調でまたまた叱られましたわトホホでございますなあ。
裏口作戦失敗して玄関から拙僧ご入場です。会いたくない同期がデンと役員室に構えています。フン面白くないなあ。なるべく見ない見ないそーと行こう。
が、なんでっか。パスポートを同期に提出しなくちゃあならないと言われた。ケッあいつが事務処理すんのぉ。
「おいパスポート出して。バウチャーは今から作るから椅子に腰かけ待ってな。できたら俺と一緒に管主さまのところに行き決裁の判をもらって来る。いいなおとなしくいい子でいるんだぜ」
ケッ面白くないでございますなあ。おとなしくいい子で待てって、拙僧を子供扱いだ。フンだァ、ぐれてやるぞー!
まあいい子にして待ちましたわ。フン面白くはないけどさ。
「おい出来たぞ。じゃあ管主さまに行くから。ちゃんと袈裟を着てくれよ。身だしなみが乱れてないか。ああ裾が汚れているなあ。恥ずかしい。ちょっと拭くから待ってろ。もっと後ろ見せてや。お前裏口でゴソゴソやって埃がついたぜ」
同期は雑巾と乾いたタオルを探して拙僧の袈裟を盛んに拭き取る。
「こうして見たらいいやつなんだけどなあ、でございます。フン!」
同期と管主様に会いました。拙僧の欧州バウチャーを管主さまがチェックして決裁の判をポンで終りでございます。
拙僧は憎たらしい同期と一緒が嫌でございますからあいつの話なんか、
「誰があいつなんかの話熱心に聞くかあ」
同期は旅費の送金方法や欧州曹洞門下の今の実情とこと細かく説明しておりました。政情不安な地域には行かないようにくれぐれもと。キリスト教の教義と仏教・曹洞とは決して争わないことなど。
最後に管主さまが、
「本部を代表していくのですから頑張ってください」
と拙僧に握手を求めておしまいでございます。
管主さまが終わると同期が金銭の振り込みについて話をいたしました。繰り返しでございますね、くどいや。
欧州はユーロかアメリカ弗で換算して精算。月々生活には困らない金額を振り込みされるらしい。振り込みの責任は同期がやる。ということは拙僧は同期の思い通りに動かされてしまうのでございますか。トホホですなあ。
「曹洞門下として恥ずかしいことはしないようにな。さて金銭はそれだけだが」
同期は拙僧に月刊雑誌の宗教曹洞界に欧州からのレポートを書いてブログしろと申します。
「ブログに書いた内容を俺がピックアップして月刊雑誌に掲載してやるよ。当然原稿料金は発生するからいいアルバイトになるさ。欧州レポートなんてみたことないから檀家さんは喜んでくれるさ。頑張れよ」
曹洞門下サイトの開示方法とハンドルネーム/暗証番号を同期は教えてくれる。
「拙僧がブログを書き込みしているとは想像がつきませんな。それからそんないつもいつもコメントを残す出来事があるのでしょうか。かえって疑問ですな」
拙僧はたらたら文句を言ってしまいました。
「まあ強制はしないけどさ。なんかあるだろ。異国に暮らすんだから。食べ物から文化風習とそりゃあ驚きだぜ。そう言えばお前海外は初だな。そりゃあ驚きの連続さ。それに書き込みしたらアルバイトになるんだから身を入れてやって欲しいな」
後は曹洞教教義の話や支部での待遇でございました。同期にあれこれと文句を言って拙僧は本部を出ました。出発の日はまもなくでございます。
拙僧はこれにて日本を離れ欧州に参ります。続編になります。