拙僧はお見合でございます
拙僧は最近忙しくなりました。檀家さんの法事からお寺さん回りの管理からと目がまわる忙しさ。曹洞宗派の集まりに高校や専修学校の宗教の講義の講師。父親が住職さんですが最近は体調が悪くなりほとんどの職務は拙僧副住職がやっております。いやあ父親その体調ですが入院させたいくらいでございますなあ。
だからちょっとアルバイトにひとり僧侶が欲しいなあと思う頃でありましょう。尼さんがいいなあ。20歳のピチピチギャルはんリクエストしましょう。人材派遣に尼さんないかなあ。
そんな忙しさの拙僧に近く母親から進言がございました。
「お前も副住職からそろそろ住職になるんだから。それにいい歳(24歳)なんだから女将さんをもらっておくれ。若女将さんがいたら若い僧の修業にも手を貸してもらえる」
でございました。
「はれー嫁はんでございますか。どうしましょ、モジモジ」
拙僧自室に篭りひたすら嫁さんの夢を見ているしだいでございます。
拙僧の故先代住職17代目は曹洞宗門下の仙台のお寺さんから嫁をもらいました。確か20歳ぐらいでした。おばあちゃんは若い娘さんで16〜17歳だったそうです。よくまあ嫁に来ましたなあ。
18代目の祖父も20歳ぐらい。拙僧のじいちゃんでございます。おばあちゃんは歳上さんで結婚されました。福井は永平寺の娘さんでございます。おばあちゃんについて永平寺に参りますとお寺の僧侶が全員で出迎えをしてくれました。おばあちゃんの兄は永平寺の住職さんでございます。ハハァ頭が高い。
我が父親は19代目住職でございます。愛知学院大学でサッカーやりながら道元禅師の元修業をして参りました。球蹴る坊ずは我が父。その嫁が我が母親なのですが。
我が両親は大学の同窓だそうで。父親サッカー部。で母親は、母親はハア。あまり言いたくないなあ。重量挙げの選手でございます。目指せ女・三宅でございましたね。愛知県選手権は優勝しています。仏壇の横に優勝カップが並んでますから。
なんでもトレーニングジムで知り合ったらしく二人で仲良くバーベル持ち上げたりしていたそうでございます。その仲良くが仲良くなり過ぎたのかお子様が出来ちゃって。ゴチャゴチャあった後に結婚、出産、お寺の跡取りとなったようでございます。あのぅ出来ちゃった出来ちゃったのオコチャマはこの拙僧でございましたハハ。
考えてみたら先代の住職達は20歳〜22歳で身を固めているわけでございます。拙僧は24歳でございますからかなり遅い、我が家では晩婚の部類になりましたなあ。
「ならばひとつ身を固めてやるか」
拙僧の嫁取り大作戦と参りましょう。
毎日檀家さん回り曹洞宗学校講師と忙しくとても彼女を探す時間が見つかりませんですなあ。親父のように大学在学で重量挙げを見つけたらよかったんでありましょうけどね。
そんな拙僧に母親がデーンと見合い写真を持って参りました。はあデーンっていうのは数が、数が山のごとくでございました。
「こんだけあればひとりや二人気になる嫁もいるでしょ」
まるで日本全国曹洞宗のお寺さんの娘さん品評会のごとしでございます。北は北海道、南は九州まですべてを網羅してございます。徹底しているなあ。あれ、日本重量挙げ選手権の女子のやつ(写真入り)もあるや。いやはや親子2代重量挙げてしまってはどうもこうもですなあ。
かあちゃん、メッ!
拙僧忙しい時を縫って暇を見つけ見合い写真を整理いたしました。拙僧は選びに選びました。キャア恥ずかしいなあ。
「100数枚もある檀家さん推薦の中から選びました。これくらいなら後はジックリとひとりに絞られますですね。北から紹介いたしましょう」
最初は青森津輕出身。駒短卒業
「スラッとした背の高い色白美人さんでございました。お名前は福士加代子さん。笑う顔はオコゼがくしゃみしたような豪快さがございます」
拙僧は曹洞宗青森支部に問合せをいたしまして青森の福士さんに会いました。彼女が青森から出てきてくれめでたくお見合いが成立でございます。
会ったことは会ったのでございましたが拙僧は彼女の履歴と写真、そしてご実家の曹洞宗寺院しかわかりません。
「どんなかわいい色白のお嬢さんが現れるか楽しみでございます」
とそんな感じでございます。
福士さまと会ったのは京都の蹴上の都ホテルのロビーでした。都ホテルは国際ホテルとして国際文化の要人もたくさん宿泊。さらには京都宝池プリンスホテルと併用され国際コンベンション(会議)も開催されております。
拙僧としては京都仏教会の高僧との交流をぜひはかりたいなんて貧弱な僧ではありますが考えておりました。
「京都は静かでのんびりできてよろしいですなあ。お見合い相手の福士さんがよろしいと言えば建仁寺(禅寺は臨西宗)を訪ねたいものでございます」
やがてお見合いの時間が迫ります。彼女の登場でございます。拙僧はどんなネーチャンが現れますかと、
「そりゃあ期待に期待でございます。青森は色白美人。津輕美人さんは有名でございます。手元の写真はキリとして気の強い顔ではございます」
約束の時間。都ホテルのロビーには国際コンベンションの要人がわんさか出て外国そのものとなる。
「やあっ、オッサン!」
拙僧はいきなり声をかけられました。おっ、オッサンですと。
声の主を見たらランニングスタイル、今さっきまでマラソンを走ったような雰囲気の娘さんがにこやかに笑っているではありませんか。
「やあっ、和尚さん。曹洞宗の住職だんなあ。こんちは。福士です。イヤアここは息苦しくていけねぇ。どう外に出るかい」
気さくな。いやはっきり申して常識外れな娘さんでございました。礼を重んじる拙僧は一瞬にして怒りがメラメラとこみあげて参りました。
「あの福士さま。いくらなんでもそのような格好でお見合いに来られては」
と説得しようとしましたら、
「あん、だから寺は私嫌いなんだわあ。若者は若者らしくラフに付き合っていかないと。ネェここさ蹴上から走って新京極(繁華街)に行かない?20分もあれば行けるからさ」
福士はまったく小言を気にもしない。まったくもって今風の娘さんであった。
「もう。新京極まで走るですって。拙僧はタクシーで参ります」
つい怒りそのまま福士のペースに乗ってしまう。
「そっか。じゃあ早くおいで。私待っているから。新京極三条通のさ最初の喫茶で待っていて。よーし行くぜ」
福士はダァーと走って消えてしまった。拙僧はゆっくりタクシーを拾い新京極に向かう。
「なんでっかあの娘は。お見合いにランニング。はてはて拙僧はなんのために京都にきたのか」
タクシーに乗って福士の後を追い掛ける格好となる。途中で走る福士をタクシーは捉えた。
「和尚さん、見てごらん、あれ。あの走っている女はさ、京都のワコールのランナー福士だよ。偉いなあちゃんと練習していらあ。いやね昨日ね西日本女子駅伝があってね。あの福士のワコールは負けちゃったんだね。原因は福士がゴール寸前で抜かれたから。テレビで見たが申し訳ないとワンワン泣いてチームメイトに謝っていたね。日本記録保持者の福士が泣いたのは初めてみた。もう走るの嫌になったからお見合いでもして引退するんじゃあないかと思ったが」
福士はそんなランナーだった。拙僧は張り切って新京極の喫茶で将来の女将さん候補を待った。
栃木県栃木市出身青山学院卒業。
「日光近くのお寺さんでございます。お名前は山口智子さん。スラッとした長身。快活なイメージでございます」
山口智子さんとは東京の赤坂プリンスホテルでお見合いでございます。曹洞宗門下かなりの末寺があります。そのお寺さんの娘さんの中でも一番美人ではないかと言われておりますからね。ミス曹洞宗とか。
「どうでしょ実際にミスコンテスト開催したら。ミス曹洞宗。ミス浄土宗なんてより集まってお釈迦さまの前ですべての宗派の中からミス仏教を決める。いやシャレでございます」
拙僧は赤坂プリンスホテルに早めに到着いたしました。なんせあの周辺は高層ホテル群ですから間違って違うホテルにチェックインする可能性もございましたから」
山口智子さんは定刻に現れた。
「ウワァー」
拙僧あまりの綺麗さに我を忘れてしまいました。
「今まで24年の人生で最高の美女でございます」
拙僧どうしたことでありましょうか緊張を緊張してしまいました。体が言うことを利かない。硬直状態になってしまった。
「はじめまして山口です。曹洞宗派の私のお寺さんは栃木県支部でございます。和尚さまよろしくお願いします。週刊誌に書いてある栃木のホテル経営も我が家でございます」
山口智子はニッコリと笑った。拙僧に笑った。
「美女が、絶世の美女が拙僧によろしくと。嬉しかったぁ。またお願いしますと語りかけていらっして。感激だなあ」
で拙僧はこちらこそと言いたいのでありますが硬直状態のままで治る気配すらない。
「あらん、やだなあ。うっ、もすっも、言葉が出ないでございます」
山口智子は変な顔をして、
「どうかされましたか」
心配をしてくれた。しかし拙僧はあかんわ。緊張緊張、さらに緊張してしまいました。
コテーン。
椅子から緊張のあまりコテーンと倒れてしまいました。ホテル内でちょっとした騒ぎになりそのまま救急車で病院に搬送されてしまいました。
「あーん参ったなあ」
病院には山口智子さん付き添うことはありませんでした。拙僧は点滴を打たれトボトボとその足で病院から退院いたしました。ひとりでございました。
大阪府大阪市出身。東大経済卒業。
「おお東大出身でございます。名前は太田房江さん。かなりポチャとされておりますから。見た目は奈良の大仏さまがいるような按梅でございます。気のせいか理屈っぽいかな。よく食べるしなあ」
大阪には新幹線でピューでございました。早いなあ。
房江さんはなぜかホテルのバイキングを指定されて参りました。好きなだけ盛って食べ放題というやつでございます。
「こんにちは太田房江です。ウチワなあ、浪速のど真ん中に曹洞宗のお寺さんがありまんのや。ぎょうさん参拝さんいてはるで。さてほな厳かにバイキング料理に参りまひょ。このホテルはな時間制限よって、しゃべっていたら食べる時間なんあらしまへん。ええでっか気合い入れていきまっせ、ほなら。お釈迦様も道元禅師さまもいきまっせ」
カァーン!
ゴングは鳴った。房江と拙僧は無心になってムシャムシャとバイキングテーブルに群れをなして食べまくる。房江は両手を使って食べまくる。目は獲物を狙うライオンか豹。怖かった。
「フガァ〜拙僧は一体ここに何をしにやってきたんでありましょう。あっ、メロンが出たなあ。食べまくるぞ。パクッ」
二人は時間制限いっぱいまで食べまくる。
カァーン!
試合終了のゴング。
「ふぅー食べたなあ。ごっついけましたな。ほなっ、さいなら。また呼んでやあ」
房江はハンドバックを引ったくるようにしてホテルのバイキングを後にした。後ろに拙僧がいることにはまったく気にもしない堂々とした退場シーンだった。
「こりゃ一本取られたなあ」
拙僧はお腹を抱えてよっこらさとたちあがる。あかん食べ過ぎて立ち上がれない。しばらくジッとしていて、
「楽になったら帰りましょう」
自宅に帰って体重を計ったら5キロ増だった。
「ふぅーしんど」
山口県下松市出身。
「山口県は安倍晋三総理大臣の出身地でございますね。下関は有名でございますが下松市とはどこかな。拙僧どこにあるのかちょっとわかりませんでした。名前は秋ひとみさん。写真を見たらモーニング娘。の吉沢ひとみのようでございますね。かわいいお嬢さまタイプでございます」
拙僧は山口の下松に行こうかなどうしょうかなと悩むところ。今からなら下関のふぐが大変においしい季節でございます。檀家さんの中に下関出身の方もいらっしゃってたまにふぐをお裾分けいただいておりますから。
「ふぐ食べたいなあ。下関行きたいなあ」
で下松の秋ひとみさんに電話をいたしました。ふぐを食べながらお見合いしましょうと。
「えっ、和尚さまは下関まで来ていただけるんですか。ハイかしこまりましたお待ちしております。ですが和尚さま。来週の曹洞宗愛知支部主催の仏教教義大会(大規模)で私は父とそちらに参りますけど」
アチャアこちらにやってくるのでしたか。下関はふぐはキャンセルしましょう。
「あっかん。食いシンボウを表に出してはいけないなあ」
拙僧はちょっとガッカリ。ふぐのあの顔がプクゥーと頭に浮かんでしまいました。
とそこに檀家さんの釣り好きな方が入れ知恵をしてくれます。
「副住職さん、ふぐはね何も下関まで食べに行かなくたってさあ」
釣り好きはちょっとわかりにくいけどとふぐの流通経路を説明してくれた。
「えっ!日間賀島でふぐが食べれるですって」
日間賀島もトラふぐが採れる。そのトラふぐを流通させるための経路として下関にまで搬送をして下関のふぐになって始めて庶民の口に入るらしい。
「というと日間賀島も下関もひょっとして同じふぐを捌くのでありましょうか。なら日間賀でいいや。下松の秋ちゃんにもこっちに来てもらうか」
なんだかなあ。
翌週仏教大会が開催され下松の秋ひとみ姫さまは拙僧の元にやって参りました。
「いやあ遠いところをわざわざ。お疲れになったでしょう」
と大会の後の拙僧との会話でございます。さらに翌日は知多半島の先っぽの日間賀島まで行かなければなりませぬ。余計でございましたかな。
「いいえ。名古屋はちょくちょく父のお供さまで参りますからそんなに気苦労はいたしませんわ」
秋ひとみさんはお寺の娘さんらしく礼儀作法もあり好感が持てましたでございます。聞くと年児の弟さんがすでに彼女がおられ、
「姉さんがいつまでもお寺にいたら邪魔なんだよ。早く嫁に出て行ってくれよ。俺だって結婚したら姉さんの面倒まで見たくない」
と弟の副住職さまから突き上げを食らうようでございます。
「ならば拙僧ちょっと真剣に考えていこっかなっと」
そうなりますと見方がガラリと違うのはなぜ?拙僧ついついオッパイを、うん。なにを言わせますですか、ゴホン、ゴホン。
名古屋から車で知多を南下し河和港まで参ります。後は船で日間賀島に行くだけの話でございます。秋さまは何処にでも和尚さまの後をついて参りますと殊勝な心がけでございます。拙僧ますます秋さまのオッパイが気になるなあ。つい覗いて見たくなる。あっ、デカイノカナ。いや重ね着だからでっかく見えるだけだわ。あげ底らしいなあ。
「和尚さま。お聞きしてもよろしいでしょうか。あの知多の河和と言いますと戸塚ヨットスクールがありますね」
拙僧あまりにジロジロ秋様のオッパイをみたから、
「ジロジロ見んといて!このエロじじぃ」
と怒るかと思いました。
「フゥーよかった。戸塚ヨットですか。あの河和港の左カーブに建物はございますね。戸塚の先生は最近出所してスクールを再開されましたね」
河和は河川と三河湾の海の潮が混ざる汽水地区。川魚も海魚も汽水に溜るプランクトンを求めてやってくる。だから昔から釣り客がひっきりなしにやってくる。
「そのひっきりなしにやってくる釣り客の中になんとカッパさんもいらっしゃる。川のカッパは釣り客の足を引っ張って海にドボン」
秋さまは、拙僧の話をジッと熱心に傾聴していたがカッパと聞いて、
「キャア〜カッパがいるんですか。怖いわあ」
目をひんむいて驚く。
「私の下松にもカッパ伝説がございます。沼に棲息していて村のかわいい娘を引きずり込んでしまうそうです。カッパがかわいい娘ばかり引くから下松には美人がいないと言われております」
秋さまは平然とカッパ伝説をおっしゃる。エッ、下松には美人がいないのか。なら、この娘はブチャイクなんか。
日間賀島は河和からすぐだった。日間賀フェリーを降りたら料理旅館の大将が出迎えてくれたでございます。
「和尚さまお疲れ様でございます。さあようこそタコの島日間賀島にいらっしゃいました。ささっ、奥さまもよくいらっして」
秋さまは奥さま扱いされました。拙僧は別に悪い気分ではありませんでしたなあ、ウヒヒ。
日間賀島のこの大将にふぐの話、なぜ下関に搬送するのと拙僧は聞きました。
「日間賀ふぐは昔から採れることは採れるんですけどね」
ネックはふぐ免許だそうでございます。免許を持つ板前さんがあまりいないからせっかく採れるふぐも調理できないとか。
「それもここ数年でございますね。ワシ見たいに30越えて苦労してふぐ免許を取りに板前が行くようになりました。うちの旅館は半年前にふぐ調理の許可がでてやっと営業です。ですから和尚さま楽しんで行ってください。ワシ腕によりをかけて作りますから」
大将は腕をまくって見せた。
「エッ、奥さまは山口ですか。そりゃあふぐの本場でございますなあ、こりゃあ下関と比べられちゃうな。頑張るぜ、アッハハ」
そのふぐ料理は拙僧大変に気に入りました。いやあ、うまいうまくないなんてもんじゃあない。
「うまい、ドェリャアウミャアがや」
拙僧目の前にお見合い相手の秋さまが居ることなどポーンと忘れてひたすらふぐに舌ヅツミでございます。出された料理は山海の珍味ばかり次から次から出るわ出るわ。日間賀島はタコが有名だというので、
「拙僧真っ赤な顔をしてタコを食べました。いやあうまい。これもドェリャア、ウミャア〜がね」
満足ダァ満足ダァ。ふぐにタコに満足ダア。
「さようでございますね和尚さま。ふぐといいタコといい美味しゅうございます。私も鱈腹いただきましたわ、ああお腹いっぱい。破裂しそうですわ」
食後には料理旅館の大将がわざわざやって来てくれた。
「ふぐとタコ。いかがでしたか。満足していただけましたか。さいでございましたか、喜んでいただきありがとうございます」
食後少し休憩をして拙僧は秋さまと島をちょっとプラプラ散歩。いや、デートをいたしました。
「拙僧について来てくれますか」
秋さまは小さな声でハイとおっしゃりデートでございます。料理旅館を出る際に大将が何処に行きなさる?外に行かれるならちょっとこれを持って行きなさいとなにやらクスリを手渡してくれました。聞けば食べ過ぎの胃腸薬だそうです。
「途中で気持ちが悪くなったら飲んでください。必ず飲んでくださいよ」
二人ともお腹ポンポンでございますからなあ。
日間賀島は一周四キロ。回ろうと思えばアッという間に回れます。また春先には日間賀島マラソン大会(5キロ10キロ)が開催されます。
「このマラソン大会は別に有名とは言えないのでございますが」
有名ではないが日程が毎年名古屋国際女子マラソンと同じ日になるらしく市民ランナーは、
「そう市民ランナーは気分だけは高橋尚子になりますかね。ガンガン飛ばしていくランナーばかりらしいですなあ。だからよくへばるらしいでございます」
拙僧と秋さまはちょっと浜辺に降りて一休みいたします。
「いやあ拙僧は食べ過ぎましたなあ。まだお腹がパンパンで苦しいや、アッハハ」
浜辺に降りて秋さまとしばしの時間を楽しんでみます。浜には船がありムード満点でございます。
「拙僧はこの方と結婚することになるのだろうか。大変素敵な方だと思う。お寺に理解もある。聞けば得度もされており曹洞宗の位を教授されていらっしゃる。まったく拙僧が願いました女性そのものではござらぬか」
秋さまはどう考えていらっしゃるか。
「私は私は下松のお寺娘。弟が早く姉よ結婚して出ていけと申しますから渋々お見合いをしているところ。この愛知が済みましたら次は京都の曹洞宗派の寺院の息子さんが待っておりますわ。わあスケジュールは満タンですわ。京都は南禅寺の豆腐料理。その次は茨城のお寺さん。こちらは鮟鱇鍋(北茨城)となってます。日本隈無くグルメお見合いですわ。さあ早くお腹が直って帰りたいなあ」
やあ違うことを考えていましたね。
拙僧は海辺の雰囲気に誘われてちょっと秋さまの手を握る。ギュ!
「痛て!何するんですかこのデブ。気安く手を握るなあ。デブが病ったらどうするんだ」
秋さまは心底怒りまくる。
「なんてことになりかねないからなあ。グッと我慢しましょう」
浜にしばらくいたら秋さまが、
「和尚さま。ちょっと気分が悪くなりました。食べ過ぎの報いでございましょうね。先ほどいただいたクスリを飲ませていただけませんか。あらっ、いやだわ横腹あたりがチクチクしてきましたわ」
あやあ、それはいけないでございます。拙僧すぐにクスリを手渡しました。
「あっ水がないや。ええい缶コーヒーかスポーツドリンクか」
慌てて買い秋さまに。
「フゥ〜。気のせいか落ち着きまし」
あらっ、秋さまの顔色が悪くなるでございます。
「あのぅ、私、先に料理旅館に戻って行きます。失礼します」
あっ、秋さま、いかがされましたァ!ざーァ、ざーぁと後には寄せては返す波の音があるだけでございます。
まったくムードも色気もめちゃめちゃです。仕方ないから拙僧もよっこらしょと立ち上がります。するとゴロゴロ。あっお腹がなりました!
拙僧急いで旅館にゴォ〜。早く早く〜
帰りのフェリーは二人一緒ではあったのですが。
「和尚さま、まだ調子が悪くて。気分がすぐれませんわ。すいません」
てな具合です。拙僧もゲソッとしておりあまり話したくないでございました。
その後。拙僧は忙しい合間を縫ってはお見合いでございます。
「いやあねこんなにも伴侶選びが難航するとは。お釈迦さまでも思いますまい。いや冗談はともかく決まらないでございますなあ。話があるから出向いているんですがね」
日本全国47都道府県を網羅し曹洞宗のお寺さんは出尽したくらいになりました。でどうなるかと申しますと。
「曹洞宗アメリカ支部の紹介がございました。ハア、アメリカでござい」
拙僧英語はカラッキシダメでございます。しからば早めに断りましょう。
とパソコンを開け曹洞宗アメリカ支部を呼びましょう。
「パソコンのサイトを開いている間にお寺のファックスが起動しました」
ガアガア、ピー
あちゃあアメリカ支部からお見合い相手が早速送って来ました。
「アガッ!ライス米国務長官だあ」
送ってきた画像にはライス米国務長官がビキニ姿で優しくウインクしてございました。ねぇライス長官って安倍晋三総理大臣と同じ年代だよね。
52歳ぐらい。ケッー我が母より10歳以上年寄りダア。
ファックスはさらに続ける。ライス長官からの直のメッセージ。
「ハーイ私コンザーレライスよ。今はキリスト教だけど曹洞宗に改宗してもいいことよ。もうちょっと待ってね。今から日本語を勉強するから」
英語訳つきメッセージ。そして結婚後の住まいの設計図が送ってくる。
「住まいの?なんでっか。シャワールームにリビングはライスの希望のようにでっかくしてくれ。これはアメリカスタイルそのものでございますなあ。ウワッ!なん、なんですか、トレーニングジムを作れですと。ボディビルをやりたいと。この部屋はわが母と一緒にバーベル持ち上げていけるかな。似合いの嫁姑になりそうですなあ。あやいやそんな呑気なことじゃあありません。とにかくライス長官はダメ。なんとかしなくちゃ」
ファックスにダメでございますと書いた断りを送っておきますです。
ファックス送信のスイッチがかかるかかからないかでNHKで国際ニュースがテレビから流れる。
「皆さんこんにちは。アメリカホワイトハウスからです」
ニュースはホワイトハウスアメリカ政府からでございますね。ブッシュ大統領がなにかしますかな。NHKニュースは続ける。
「ホワイトハウスではジョージブッシュ大統領の命を受けライス米国務長官が日本に向かいます。日米外交の架け橋としてライス初来日となるようです」
アガァん、なんでなんでライスが日本に来るんねん。ここに来るんかいな。どっ、どうしたらよいのやら。
「ひょっとしてライスちゃん拙僧のお寺に来るんではないでしょうな」
拙僧オロオロでございます。
ニュースを見ると日本を皮切りにアジア諸国を歴訪するでごさまいます。とても忙しいらしいでございますなあ。そんな拙僧宅にまでノコノコとやってくるなんてまずは考えられないでございます。杞憂でございます。
ニュースではライス米国務長官は日本・中国・韓国・ロシアを分単位でグルグル回りトンボ返りでアメリカに帰っていくと報じております。
「来日はいつかな。来日だけは覚えておこう」そしていよいよライス米国務長官来日となる。ライスは日本の政治家(首相)・(外務大臣)と外交政策を論じあいかなり強行な面をみせる。安倍首相とは長々と折衝にあたり日米の今後のあり方をより明確にしていきたいと共同声明を出す。
「ニュースを見ると強表な女でございますなあ。あんなんがいきなりハァーイなんて目の前に現れたら大変でございますぞ。拙僧いずこに避難しましょう」
敵機襲来には防空豪が一番でございます。しからば本堂のお釈迦さまのあぐらの下に穴を掘り隠れましょうか。
夕方のニュースではライス米国務長官は次の訪問国中国にフライトしたと報じる。
「あいや行かれましたな。ライスさん中国ですな。バイバイまたねぇ。やれやれですなあ」
ライス米国務長官が日本からいなくなったと知り拙僧急にお腹が減りました。
「なんせ朝からライス、ライスでございましたから、アッハハ。しからば今晩の夜食はオムライスかカレーライスにいたしましょうか」
拙僧冷蔵庫をゴソゴソとやり始めました。インスタントのオムライスが確かあったはずでございます。とゴソゴソしていましたらお寺の本堂で呼び鈴が、
ピンポーン
はてこんな時間にどなたかな。檀家さんなら母屋に直接に入って参りますからね。はてはて。
拙僧は寺の若いモンを本堂にやりました。その間に拙僧はオムライスをと。ありましたね。インスタントではございますが。
本堂に来客を尋ねた若い寺男は、誰がいるかと暗闇に電気をパチン。その姿を見て驚く。
「あわあわ、お副さま(拙僧)お副さま、大変でございます。本堂に外国の方々がいらっしっております。早く早くいらっしてください」
外国?今時外国が珍しいこともないであろうに。若い衆は大ゲサなんでございますなあ。拙僧オムライスをレンジで温めながら本堂にイソイソと参ります。
「外国の方々となると英語かな」
語学には不安がある身でございます。
本堂には2人の人影が見えました。
「どちらさんでありましょうか」
とまあ外国の方ならわからないかな。
「夜分遅く申し訳ありません。なにぶんにもスケジュールが立てこんでおりまして」
おや日本の方でございますね。若い衆はなにを身間違えたのでありましょうか。拙僧その日本の方の後ろに隠れるように立っているご婦人、たぶんご婦人だろうの人影が気になるところでありました。
「つきましてはこちらの副住職さまにお目にかかりたく存じます。こちらのご婦人が逢いたいと申しております」
副?副住職ならば拙僧でございますが。はて?なに用でありましょう。とんと見当がつきませぬ。わけわからないから早く帰ってもらい拙僧はオムライス食べたいなあ。
「拙僧が副住職でございます。なんの用でございましょう」
通訳はさいでございますかと、サァーと横になり後ろのご婦人を紹介した。
「ハロー!ダリーン」
アギャア!オムライス!じゃないライス長官じゃんか。そこにはテレビで安倍首相とドンつき角を合わせていたあのライス。泣く子も黙る寝た子も起きるライス長官がニタァと笑っております。男性通訳つきで威厳を保ち風格ありあり。
「あんれまあ。これはどんなことでありましょう。拙僧わけわかんない。テレビニュースではライス長官は日本を離れ中国に向かいましたと言ってましたのに。まさか中国って瀬戸の中国地方だったとか」
通訳の男性は手短に種証しをしてくれました。
まずはライス長官は双子の姉妹であること。これはアメリカ国家機密であり政府要人もあまり知らないこと。そして姉ライスが今は中国に外交だと言うこと。妹ライスは副住職さまが気に入りぜひお逢いしたいと願ったこと。
「エッ、ライス長官は双子姉妹でしたか。姉はオムライス、妹はカレーライスかな」
拙僧しかたなくライス妹カレーライスと逢うことにいたしました。通訳男性がついてあれこれカレーライスは拙僧に聞いてくるのでありました。
「カレーライスは副住職さまにぜひ水着を見てもらいたいと言ってます」
ゲッ水着。52歳やど。我が母が40歳だから。もう、いらんわい。
と断りをしてもカレーライスはせっせと服を脱いでビキニ姿におなりになる。歳は歳として隠せませんなあ。が、バストはボンボン出てました。ロケットの発射台みたい。
「もっと見たいですか。リクエストありしだい見せてあげたいと申しております」
フガァーノーサンキューでございます。
「カレーライスは料理が得意だと申しております。食べたいなあと思われますか。50年の独身生活で培われた料理テクニックは伊達ではございません」
食べたいなあって、たぶんカレーライスなんでしょ?
「よくご存じで。私の作るカレーライスは50年のキャリアと歴史が深いコクと旨さがモノを言うと自慢しております」
いいよ今は。遠慮します。
その後妹のカレーライスはテレビでみせた強引さをそのままに拙僧をガンガン口説きに参ります。強引なバアバア、あいや長官さんでございますなあ。
「妹のカレーライスはどうしたら私を好きになってくださるかと聞いております。ブラジャーはずしたらいいのかと」
ウワッさすがは長官さんだ難問題を言うなあ。ブラジャーはずされてもなあ。
拙僧はどうしたら黙ってアメリカに帰ってくれるか知りたいでございます。ちょっと戸惑いましたら通訳は細かい点も訳してしまいました。
「カレーライスを邪険にしたら後が怖いわよと嚇しております。こんな小さなお寺さん、スカットミサイルひとつで好きにできるわと申しております。イラク爆撃に比べたら楽ちんよと。やってみたいなあとも。やりましょうか」
ヒャアーミサイル撃ち込まれたら大変でございますわ。
拙僧はこうして本堂で妹カレーライスさんと押し問答を繰り返したでございます。その様子はお寺の若い衆に伝わり、
「副さまいかがされました。カレーライスは嫌いなんですか」
あらっ、皆さん見ていたんかいな。弱りましたなあ。早くカレーライスに帰ってもらいたいなあ。
拙僧が困った困ったしていたらカレーライスの携帯モバイルが鳴る。
「ハロー私カレーライスよ。あなた誰かな」
どうやら姉のオムライスさんらしいですね。いや英語わかりませんが雰囲気から。モバイルの最中に通訳が、
「和尚さま。カレーライスさんは今から急遽成田空港に向かいます。どうも次の交渉相手ロシアのプーチン大統領との外交交渉が難航している予想です。実はカレーライスは英語ロシア語ドイツ語。オムライスは英語フランス語スペイン語と役割分担をしています。ロシアプーチンはカレーライスが担当ゆえに。さあさあ参ります。ヒャアーゴォ〜」
カレーライスはバチッと拙僧にウインクをして帰って行きました。
本堂には拙僧を含む寺の若い衆がいるだけでございました。はてはて今のはなんでございましたか。
拙僧本堂を閉めて鍵をかけようと土間に降りかけました。するとなにやら白い布が置いてあります。
「なんでしょ。ゴミだろうかな。全く若い衆はしっかり掃除も出来ないのか、プリプリ」
拙僧ゴミの布を拾いあげました。なんじゃらあホイて広げてみたら、
「カレーライス嬢の脱いだパンティでございました。フリルのレース刺繍つき。とても52歳がはくようなものではありません」
拙僧ヒョイと拾いそのままポイッと捨てるかな。
なぜでございましょうかね。捨てないでそのままお釈迦さまの前に御供えしておきました。ええ自然にそうしたくなったのでございます。合掌