Ⅱ芸能界でございます
朝から続いた永平寺ロケは撮影番号テーク5で前半は終了でごさいます。有能なディレクターがテキパキとドラマの進行をやっていただきましたからテーク4まで無事撮ることができました。残りはワンカットのみとなりました。やれやれでごさいますね。
妹女優さんのスケジュールのためにただひたすら早目に撮影を急いだというわけでしょうか、かなりせわしなくカメラが回ったのかなと思えるシーンもございました。
しかし拙僧ドラマは見るのは好きでございますがこのドラマ出演するはちょっと苦手でございますね。ふぅ、ちょっと休みたいなあ疲れました。
「はい皆さんご苦労さまです。皆さんのご協力によりましてドラマ収録はすべて順調に行っています。大したトラブルもなくテーク4まで参りました。そろそろ休憩にしましょう。お昼休みを挟んで午後からまた頑張ってもらいます。ご協力ありがとうございます」
元気よくディレクターがお昼休みを宣言されました。やれやれお昼でございます。お昼はロケ弁当が用意されているなんて言われてますから楽しみでございます。
ドラマのロケ弁当は役者さんにならないと食べれないそうでございますね。役者特別仕様な弁当だなんていやはや食べたいなあ。憧れのあの女優さんも一緒になってパクパクするんでごさいましょうか。どんな優雅な食べ方をなさるのでしょうかね。へへッ、ワクワクでございますね。
拙僧は兄僧侶を誘いましてエキストラの僧侶達よりも早目に食堂に参いろうといたしました。いい席座りたいなあ女優の近くがいいなあとの一心で急ぎました。女優さんはヒロインだけではございませんで、アッハハ。
僧侶の食堂に参ります途中の廊下には"関係者以外立ち入り禁止"の立て札がありました。そこはタレントさん控え室でございます。
「ああここにヒロインの妹女優さんはいらっしゃるんだなあ」
拙僧は胸がドッキンでございます。
しんみりとした廊下のたたずまい。静かな控え室の前を通りかかってチラッと拙僧と兄僧侶はお互いを見るのでございました。
「ここに妹さまが控えていらっしゃるのでしょうな」
拙僧はなにげなく聞いてしまいました。兄僧侶はえっ!まあそうでございましょうかねぇ。投げやりな答えだけ返ってまいりました。気乗りのしない一言でございましたね。
俳優控え室の前の廊下はシーンと静まりいたって静かなたたずまいでござい、うん?ちょっと待ってね。いやいや静かではないな。なにやらゴチャゴチャやかましいや。揉めているような騒がしさが廊下にも響きわたりますなあ。なんだろ?
拙僧と兄僧侶はハタッと足を止めついつい聞いてしまいました。なにごとなのかと単なる好奇心からでございます。
控え室は障子戸でした。耳を澄ませば聞こえる聞こえる中の様子。いやあー澄まさなくても凄いやガォーガォーと雄叫びみたい。声の主は誰でありましょうか。
あっ、いやあー!
妹女優ではなかろうか。そんな馬鹿な!拙僧改めて聞く。いやいや間違いありませんなあ。好きな女の声を間違いなんてね。
彼女はなにやら激しくキィキィわめいていらっしゃる。テメーだとかコノヤローだとかはしたない下品な罵声を飛ばしているでございますなあ。で、相手は誰、罵声を浴びせる相手は誰?拙僧障子に耳を当て聞いて好奇心がますますわきまする。障子に穴開けちゃうかな。指を舐め舐め障子にグイッと、やろうとした瞬間。
ギャー!
あっ、この男の声!聞き覚えがある。拙僧とドラマの中で修行についての会話をいた有名俳優のほらっ、このドラマの主役ではありませんか!トレンディー俳優ですよトレンディー。
その男も負けてはいませんね、ちゃんと言い返している。障子に穴開けちゃうの辞め辞め。だって総住職に見付かったら叱られちゃうの嫌だもん。
中の二人は売り言葉に買い言葉をやりまくりです。ああでもないこうでもないでやりあっておりますね。イヤアー激しく罵り合いしているなあ。ハチャメチャな言い争いだ。どっちがいいか悪いかなんて判断できない状態です。
あれっトレンディー俳優は大丈夫かな。興奮してきたら罵声に東北弁が混じっているのかズーズーしているぞ。ダッペ、ダッペ、ウンダウンダなんて言い争いして怒鳴ってイッペぺでございます。あらっ、拙僧までもダッペ。
妹女優もエキサイトしてしまいましたね。ギャーギャーヒステリーしていたのが加熱されさらに煮詰まってきました。ここらでなにか冷却されるものをポンと入れないとこりゃ危ないぞ。
罵声浴びせるうちはいいが黙ってしまったりしたらそろそろお互いに手を出したりしそうだなあ。
口喧嘩は序の口でありましょう。拙僧次の展開が楽しみでございます。パンチかな蹴りかな、回し蹴りが有効!
あっ、いやっ、ゴホンゴホン、心配で、アハハ、心配でごさいます。
東北訛りは何を怒鳴っているのかと言うとこれがちょっと複雑な話でして。
トレンディー俳優東北訛りは一昨年のテレビドラマで妹女優と共演いまします。そこで意気投合してしまいました。当時は主役とちょい役の駆け出し女優だった。俳優のキャリアには明らかな差があり対等な付き合いは望む方が難しいくらい。当然にして、
「ヒョッコ女優なんか遊んで遊んでいたぶってやってお釣りがくるくらい」
程度の話だった。トレンディー俳優からしたらたくさんいるコレクションのひとつぐらいにしか思わないもの。
番組で顔を合わせたら連絡取り合い付き合うような程度のものだった。それでも彼女としてはいずれ自分だけを見てくれるであろうと俳優の変身に期待し健気に待っていたところでしょう。
「だからいくらスキャンダルがあっても好きなものは好きなの。いつまでも待つわ」
だからゾッコン惚れ込み外野からの雑音には煩わされなく夢中となった。今をトキメクはトレンディー俳優。それだけ男性的魅力も秘めていた。
この付き合い方からの交際はスタートからまずかった。男の女癖の悪さは折り紙つきで常に週刊誌の格好の餌食。スキャンダルの嵐の中にいた。
そんなトレンディー俳優にある日突然有名女優との婚約が発表される。
週刊誌はトレンディー俳優の笑顔をちゃんと写真にスクープしていた。婚約相手は悪いことに妹女優のライバルと言われている女。よりによってまた火に油でしたねぇ。
「そんな馬鹿なことがありますか」
婚約されては最早どうすることも出来ない。彼女は危機感を持ってこの場を借り半狂乱から男をやりこめていたのだった。ガタガタ言われた男は男で面白くない。
「お前と結婚するとは言ったことがない。勝手な思い込みは甚だ迷惑だ」
とやり返す。話は平行のままとなり二人は大喧嘩となった。怒鳴り合いの様子からしてどうにも両者まったく折り合う気はないようだった。
折り合うつもりはなくともとにかくこの喧嘩を停めないとなりません。そのうちお寺の僧侶たちがここを通って食堂に行きますからみんな気がつくでありましょう。
「こんな場面を見られたら一大事。芸能スキャンダルどころか永平寺の恥となってしまいましょうに。お釈迦さまと道元禅師さまに顔向け出来ません」
朝ドラのヒロイン半狂乱お寺で暴れる。男の争奪に躍起となる。
「そうなりますと話が別方面に進んで参りそうでございますね。後で化け猫が登場してお皿を一枚一枚数えそうでございます」
拙僧は気をしっかり持ってここは鬼の心境になり
「止めに行かねばなりませぬ」
まずは軽く準備体操いたしませんとね。首や手足首は入念にしてグリグリ。関節はストレッチを取り入れる。体が堅いとすんでのパンチすらも避けきれないですから。普段見ている格闘の成果を試したいなあ。オイッチニィと体をほぐして準備よし。
「いざ出陣でございます」
ほらがいが高らかに鳴り響く我が頭の中でございます。
スゥーと喧嘩している二人の部屋の障子を開けた。あちゃあ、今にも殴りかかろうかの二人でございました。
「なんだ!キサマは」
トレンディー俳優の罵りの言葉でした。拙僧この手の乱暴なセリフにカチンッでございます!
「黙らっしゃい!喝っ」
両手にある数珠をオウヨウに振り上げ威嚇いたしました。天下の宝刀でございます。まるで悪霊払い。拙僧の背中にはお釈迦さまと道元さまがデェーンと憑いてございます。なにも怖いものなどありはしません。袈裟のポケットには、ほしのあきの脳殺グラビア偲ばせております。一応これでもノックアウトできるんでは、アハハ。
「なっ、なんだ!なんの用だボウズ」
拙僧はまず二人をゆっくり落ち着くよう説得致します。話が聞ける状態にしなければ先には進めません。
二人を落ち着かせ、正座させました。座禅させたいと思いましたが彼女はミニスカートでありましたからやめました。
「喝っ!」
全身の力を込め拙僧は霊験あらたかな仏の身となりました。若い二人の煩悩を道元禅師に成り代わり取り除くことにいたします。
両の数珠はジャラジャラ不気味な音を奏で奉り気合いの入った聖なる雰囲気をかもし出して行きます。
「喝ッ!拙僧を見よ。煩悩を棄てよ」
言っている矢先から拙僧も段々と興奮でございます。
お釈迦様や道元禅師様より、妹女優の可愛らしさとカレンな仕草がじわじわと我が男心を揺さぶり始めてしまうようでございます。なんせ目の前には朝ドラマヒロインですからね。
あかんなあ、興奮してしまったあ!煩悩がいっぱいで世俗的なのは拙僧でございますなあ!
あっ、でぁえ〜拙僧に喝だあ!
トレンディー俳優は畳に正座させられました。時間が経ちましたら気が落ち着く様子でございました。拙僧の説法が効果発揮でございますな。あれだけ悪態ついていたのが急に神妙になりました。冷静になりますと周りも自然に見えるものでございます。
「ふぅ、やれやれ。どうやら気持ちも落ち着くところでございますな。ヤマは越えましたな」
一方の妹女優はまだまだ取り乱しております。キツイ顔をして俳優を睨んだりかと思えばハラハラと涙流してハンケチでそっと拭ったり。
まあ可愛らしさいっぱいの彼女であることには変わりはありません。
まるで朝ドラマの中の愛らしいヒロインをそのまま演じているでございますね。
拙僧は説法をすることをしばし忘れひたすらボォ〜とみとれてしまいました。なんせイメージがダブッてしまいました。かわいいかわいい。さらには健気だなあ。今をトキメク女優さんだけあるなあ。ずっと見ていたいなあ。なんでこんなにいい娘さんハラハラ泣かないといけないのでごさいましょうか。夢見た彼女がそこにいる。
恋をするなら拙僧にしろ!いくらでも相手になってやるぅ。思わず数珠をグイと握りしめて背中のお釈迦さまと道元禅師さまに頼みますと祈ってしまいました。ご利益のあることを!
「拙僧に恋を!」
喉から本音が出そうでございました。出そうかな出しちゃうかな。でもコテンと簡単に嫌よ!なんて振られたら拙僧はプライドを傷つけられてしまうなあ。取り乱して子供のように泣きじゃくったりして。さらには世の中が嫌になって永平寺に火をつけたりして。いやはや立ち直れないなあ。
さて問題を整理しましょう。要は三角関係でございます。単純に四角にしてしまえばよろしいのでございます。
トレンディー俳優=婚約者と繋がる。
妹女優=拙僧とイチャイチャしながら結婚。
これにてハイ解決でございます。
妹女優もどうにか落ち着く頃、がやがやとスタッフ一同が控え室に戻って参りました。俳優は何もなかったかのごとく明後日の方をボォ〜と眺めております。エキストラの僧侶たちも食堂に向かいます。
ディレクターがよっと手を振り上げ拙僧と目が合いました。一瞬なにか言いたそうなそ振りをみせてニッコリと笑いパチンッとウインクをされました。どうやらすべて彼等スタッフにはお見通しでございますね。
さあさお昼です。拙僧楽しみのロケ弁当でございます。俳優もスタッフもみんな一緒になって弁当でございます。この食事風景は壮観なゆえ一枚記念に撮っておきました。芸能界の弁当はいかがなものかなと。蓋を開けてみたら普通の幕の内でございました。がっかりいたしました。なんだこんなもんかな。
お昼をいただき午後からはテーク5。ドラマの前半は一番の盛り上がりのシーンでございます。ストーリーは主人公とヒロインが激しく燃え上がり愛し合うのでございますがちょっとした些細な話が出てヒロインの熱が醒めてしまう。後半の二人の別れの伏線になる重要なシーンでございます。
「ではテーク5参ります。役者さん、エキストラさん、カメラさんスタンバイいいですか」
元気にディレクターは指図をしドラマ撮影の進行をしていく。
ここで妹女優さんがちょっと待ってを言い出しました。なんと笑顔が出来ないと言い出したのです。
「すいません。笑おうとするのですが顔がどうしても引き攣るんです。自然に出来ません。すいません」
役者とは大変な仕事でございます。あれだけの喧嘩をした相手と今度はニッコリ笑って抱き合いなさいですからね。つまり相手が嫌よだから、
「拙僧がバトンタッチしましょう」
ねぇ拙僧ならなんらわだかまりありません。好きなだけこの胸で泣いて笑って抱き合いしてもらいたいで、アッハハ、嘘でございます。
妹女優のわだかまりにディレクターは、
「弱りましたね。このシーンを最後に東京に帰ってもらうんですからね。代わりに次のシーンに行きますとは参りませんからね」
トラブルでございますね。女優も生き物でございますから。ディレクターはしばらくインターバルをおきますと我々に休息を与えました。すると。
「いい加減にしてくれよ。へぇ、笑えないだと。お前何年役者やっているんだ。ガキみたいなこと言いやがって」
トレンディー俳優が我慢に我慢をしての怒り苦情でございます。取り巻き連中は寄せ寄せと制止していますが。
「おいそれじゃあなにか俺のせいでドラマが出来ない役者ができないというのか」
半分喧嘩腰で妹女優に食ってかかってしまいました。慌ててディレクター駆け寄ります。ゆっくりお茶なんか飲んでいたからコップ持ったままで仲裁に入った。
「まあまあ」
止めたつもりでございますがトレンディー俳優は止まりません。先程の喧嘩の続きをここからやりたいようなそ振りでございますね。かなり相手を見下している不遜な態度がアリアリと見て取れます。さらには肩で息をし始めてしまいました。周りの観衆や見学者は心配顔で見守ってます。まさかあのトレンディー俳優が怒るだなんて。東北弁で。
女優は笑うどころかますます顔が引き攣ります。
間に入ったディレクターはなんとか穏便に済ませたいと手振り身振りで頑張っていきます。
「さあさあ仲直りしましょう。あっと、お茶があるから、はい、二人さんサラリと流してねぇ、さあ〜って、アハハ」
お茶を溢して笑いを誘いましょうとしますが効果ありません。
たらりと流れ落ちるお茶を見て女優は、サアッとコップをディレクターから奪い取りました。
「あなたなんか大嫌い!どこかに消えて」
と、バシャ!力いっぱいにお茶をトレンディー俳優の顔にブッカケてしまいました。
慌てたのはディレクター、後ろから駆け寄りアシスタントディレクター達が入り止め石になりました。
いかなことがありましてもここで喧嘩されてはたまりません。いやあ大変なことになりました。
女優はその場にヘナへなしゃがみこみワンワン泣き出してしまいました。その泣きじゃくる姿はまた可愛らしい。可愛らしいがそんなことを言っている場合ではありません。
これではとてもラブシーンなんか撮影出来はしません。ディレクターは一旦休息にします、休息にと怒鳴りその場を解散させました。
お茶をかけられたトレンディー俳優は怒る怒る。
「ウンダッペ、なんさ、やるぺさ」
通訳が必要になりましたが怒っています。
ディレクターは女優の肩を抱きかかえ控え室に行きます。もはやドラマは中止にしなければなりません。そうなりますとスケジュールに無理が生じます。売れっ子ゆえに今永平寺でロケを撮らないとどうにもならない。東京は東京で撮影は待っていますから持ち越しが出来ない。
が賢いディレクターは考えた。
「仕方がない。吹き替えを用意しましょう。テーク5はキスと抱き合いだけどまあ仕方がないです。スタンバイして」
しかし控え室の妹女優は、吹き替えには賛成しなかった。あくまでも自分の持ち場だからテーク5はやりたいと言う。ディレクターが吹き替えを用意すると言い出したら涙を拭きシャキっとする。すぐさまメイクを呼んで、
「早くしてちょうだい。私やりますから。私の出番です」
気丈夫にも答え化粧室に消えていった。彼女はもうこれ以上迷惑はかけられないとキリリとしていく。
顔の表情は化粧とヘア〜メイクでなんとか誤魔化し誤魔化しで作る。さらに台本からは笑顔のシーンを書き換えてもらう。にこやかな笑顔からシニカルな笑いに。主人公に疑惑を持つヒロインにしてもらう。
「笑わなくなれば後は演技の力でなんとかやりぬけてみせますわ」
売れっ子女優は高らかに宣言をする。
台本は大幅に書き換えてもらえ妹女優は迫真の演技自らの得意とする薄幸な女となった。メロドラマ仕立てがいきなりサスペンスになる。女優は役作りにしばし時間をもらう。その間に主人公に対する恨みや憎しみを体得し感情を交えて本番に備えていく。愛していたが今は裏切りにより憎しみが倍増している女。
「よろしいです。ディレクターさん。ちゃんとやれそうですわ」
ヘアスタイルを調え衣裳をチェック。女優は気合いを入れカメリハの場面に臨んだ。ロケ地には緊張が走った。永平寺の舞台には主人公とヒロインだけが立ち今か今かと演技を待つ。
女優の勢いに押されたか主人公のトレンディー俳優。じっと黙まりカメラの回るのを待っていた。
「皆さんスタンバイいいですね。ではテーク5行きます」
テーク5の女優と俳優の演技は凄かった。恨み憎しみのやりとりは端でみても充分に怖さが感じられた。まったく演技なのか本気なのか区別がつかない迫真の演技。
「お願いだから私のことはもう追わないでちょうだい。私の人生はあなたとは関係がないの」
と捨てセリフを残し女優は永平寺から姿をくらますがドラマのテーク5であった。
二人のやりとりはカメリハ(練習)ではあったがあまりに出来がよかったためディレクターは、
「よろしいです。よかったです。これを使いましょう」
永平寺のシーンは女優、なんとかすべて収録を終えた。
「ありがとうございました」
笑顔が蘇りにっこりと女優はする。ふかぶかと頭を下げロケ班スタッフにお礼を言って回る。
さあロケ終わった。売れっ子女優はトンボ返り東京に向かわなければならない。
チャチャとドウランを落としカーディガンをはおっただけで車に乗り永平寺を後にする。
「早いですなあ。もういなくなりました」
拙僧はしばしポケッ〜としてしまいました。
「さてテーク6、後半を行きます。役者さん、エキストラさんよろしくお願いします」
後の収録は女優の絡まないシーンばかりでございます。お経を読む、お庭を掃くなどの日常的なことをカメラに納めてまいります。拙僧も修行のシーンには数多く登場させてもらい嬉しいところでございました。
そんなこんなの永平寺に夕方頃でありましょうかとんでもないニュースが飛込んで参りました。
女優か失踪した!
第一報は女優が車で福井から東京に向かう道中、おかかえ運転手の目を盗んでいなくなってしまったでございました。運転手はすぐさま警察に連絡。彼女の東京の所属事務所には警察から知らせが参りました。永平寺でのトラブルがトラブルだけに事務所もロケ班も大変心配をするところでございます。