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Ⅰ芸能界でございます

曹洞宗の朝は大変早ようございます。

拙寺には若い衆が数人寝泊まりいたしておりまして厳しい修行に毎朝早くから励んでおります。朝一番の座禅から仏さまの勤行、寺の掃き掃除。なんとなく心の洗われる朝の日課の数々でございます。朝のお勤めは慣れたら大丈夫なのでございますがいかんせん冬などは寒くて寒くてたまりませぬ。人が見ていなければ、

「適当に手抜きしちゃえ」

でちっとも起きてこない修業僧もございます。


「そりゃあ、あかんこった、メ!」


そんな修行僧の中に可愛らしい妹さんのいらっしゃる者がいます。拙僧あまり知らなかったのでございますが壇家さんから聞きました。

「可愛らしい妹さんだ。見たら見たら?テレビに出ているし売れっ子だよ」

などと言われてそんなもんかいなとテレビをつけて見ました。


NHK朝の連続お勤め、いやいや朝の連続ドラマを拝見いたしました。最初は慌ただしいだけのドラマだなあとわけがわからぬものでございました。

「この手のドラマはつまらないなあ。単なるホームドラマだ。好きだ惚れた離れただけ。渡る世間は泉ピン子ばかりみたいだなあ。こんなものよりホラーが見たいなあ」

でございました。お茶の間の何気ない出来事。

「正直朝からホラーやったら拍手したいでございますなあ。日本中のお坊さん朝からテレビに釘づけになってしまったりして、アハハ」


そんなこんなでドラマも終焉でございます。ポッと画面に現れたのでございます。

「出っ、出たア」


噂の妹さん。髪の毛をたくしあげいかにもやるぞぅの気丈夫なヒロインでございます。いやいやなんと可愛らしいではありませんか。驚きました。


「きゃあわいいなあ」


拙僧しばし口を開けてボォーとしておりました。兄の僧侶に似ているかな、ちょっと気がつかないところでありました。


「似てないがあー」


で、この朝ドラを知りました拙僧は毎朝必ずテレビ前に、チャンチャンお座りして身動きひとつしないものでございます。

「座禅したら修業に見える?いやあ座禅は本堂でのみで充分でございます」

朝ドラ見続けると結構見たくなるものでございます。


ある日でございます。曹洞宗の総本山永平寺に末寺として集まることになりました。拙僧は当然出席いたします。拙僧は副住職ですけどね。親父の住職は行かないだろなあ、福井は遠いし面倒だしサッカーの試合はないし。


この永平寺には弟子僧をひとり供につける予定でございます。拙僧は迷わず妹が女優の僧侶を選抜いたしました。


「では拙僧について永平寺に参りましょうか」

と兄の僧侶を連れ福井に参りました。行く道中は

「妹さん可愛らしいなあ」

ばかり聞いてしまった拙僧でございます。


さて話を聞きました。

可愛らしい妹のことを。

兄僧侶はちょっと家庭が複雑でございますな。可愛らしい妹さまとは異母兄妹であるそうでございます。


母が違いますとキッパリ言われて後は詮索することは拙僧からはありません。さらに妹だと言っても一緒に住んでるわけでないし苗字も違うらしいでございます。


妹がプライバシーをマスコミにあれこれと言われたら兄僧侶の存在は迷惑になるから黙っていて欲しいと言われてしまいました。


「複雑な家庭環境にありますね」

拙僧はしばし同情してしまいました。弱ったなサイン書いてもらいたいと思っていたのに。兄僧侶はそんな家庭環境は表には出さず黙々と修行を積み拙寺の手習いをこなしていたのでございます。


さて福井の永平寺に参りました。我が曹洞宗は本山でございます。気がひきしまる思いでございました。息が切れそうでございますなだから親父は来たくないだろうか。副住職が行ってなぜ住職が来ないのかと本山で言われたら

「親父は息が詰まるから来ないんだよ」

言いたいでございますなあ。


皆さんご存じでしょうか永平寺の精進料理。肉類を一切使わない根菜料理でございます。なんともうしましょうか肉類がないため連日食事が物足りないなあと苦情が出そうなものでございます。


「実際あまりうまくない」

拙僧の素直な意見となります。いつもいつもステーキ焼き肉だとは申しませんがたまには、歯応えしっかりしたものがムシャムシャやりたいでございますな。


永平寺の所用は一週間でございます。兄僧侶と二人永平寺での修業をするような所在でございます。なあにやることは拙寺と代わりありません。早く起きろでパッと撥ね起き座禅と掃除で勤行でございます。で驚いたことには、朝ご飯食べながら朝の連続ドラマをテレビで皆さんご観賞になられることでございます。かつてはこの永平寺がドラマの舞台になったことがあるそうでございます。

それ以後朝の番組と昼の再放送を修行僧侶全員で修行のひとつとして見ることになったそうでございます。


拙僧嬉しかったでございます。どうもあのドラマ続きが見たくてたまりませんでしたから。


いったいあの二人はどうなるのだろうか。気持ちとしては離れろ、イチャイチャするな、ひどく振られてしまえ、でございますがそれではドラマにはなりません。悔しいなあ、拙僧がヒロインの相手してやりたいなあ。選手交代したい。ホラーならもっと熱が入って見るのになあ。拙僧いくらでも仮面被って妖怪やりたいですね。ヒロインの恋路打ち壊してやるねん。


そうそう兄僧侶も一緒にテレビでドラマを見ることになったのでございました。妹さんが見えるからさぞや喜んでいるのかと思いましたらば、


「あまり妹を見たくないです」


おや意外な答えでございました。永平寺の僧侶たちは皆さん修行の一環でドラマを見ていますから女優の妹さんのファンもいらっしゃるでありましょう。ひとつ、

「皆さんここに兄貴がいまっせ。妹のサインぐらいいくらでも貰えますよ」

と教えて差し上げたいものでございます。


ドラマの進行は恋愛が実を結び二人は婚約でございます。ヒロインはふたりの男からプロポーズされますが、将来性のある男の方をガッチリ選びました。拙僧はだからヒロインは生ちょろいのだあっ、と、テレビを睨みつけるところでございます。


そのプロポーズ男の振られた方、ダメだったのがヒロインに振られた腹いせに妹さんと一緒になるというストーリーでございます。妹さんの役はその男と夫婦になりちゃんとした女房を演じるものです。男は振られてもヒロインがまだまだ好きでした。


それでも結婚をする、事情がわかってです。泣けますな、あのシーン、あいやあ泣ける。ドラマを見ていたらさらに涙が出ます。話はドラマの中ですがヒロインよりも控え目で堪え偲ぶ姿の妹さんの演技にはこう話をしても涙がこぼれます。この演技にはファンはたくさんついたようでございます。


拙僧はけなげな妹さんに憧れますですなあ。憧れから恋してしまいましたなあ。いいなあ好きだなあ。


永平寺の修行僧侶たちも妹さんの演技にシクシク泣いている者もいます。大変ですなあ高僧を泣かせたりして。そのお陰で勤行は一段と熱が入って救済の道を見つけてやりたいところでございます。


最新の雑誌や掲示板ブログを見ますと、

「ヒロインより可愛らしい、健気だ、純情だ。人気ある」

かなりの評判になっています。来月には調子に乗って写真集だそうです。買いたいなあいくらだろうかな。拙僧の好みの写真かな。


永平寺修行も中日になって来ました。

修行と同時に末寺のお寺の壇家さんとの付き合いをいかにうまくするかの講義が始まります。要はそろばん勘定でございます。兄僧侶も長男なのでお寺に帰って行かれたらトウチャンと二人してお寺の経営に専念しなければなりませぬな。よって我々は頭かきかき講義を聞くわけでございます。宗教法人のあり方でございます。


「兄さん。法人税はしっかり勉強しておきましょう。脱税だなんて言われたらかっこ悪いですよ」兄僧侶のお寺は幼稚園経営がございます。実務に直結した話でございます。


拙僧も幼稚園経営を考えていたのですが、なんと、幼稚園教諭さんにアッハハ、振られましたなあ。


「よう久しぶり」

税の勉強の前でございました。我々の前にとある僧侶が現れました。聞けば兄僧侶の幼馴染みだそうです。


「久しぶりですね。永平寺にいらっしゃるとは知らなかったな」

小中と同級。高大と曹洞宗系学校。全部一緒だそうで。ならば二人並んで仲良く机を。


おやっ、気のせいですかね兄僧侶嫌がっているように見えるなあ。迷惑だというような。ちっとも 仲良くには見えないぞ。


「なあ聞いたよ。お前の妹女優になっているんだろ。朝の連続ドラマ、あれ。高僧さまに教えて差し上げたら喜んでいただけるぜ」「ああ、そうかもしれない」


翌朝のことでございます。朝のお勤め読教が済みさて今から朝のドラマ始まり始まりの時でございます。兄僧侶の幼馴染みは高らかに

「高僧さま!このドラマの女優はこの僧侶の妹でございます」


総僧侶前で妹さんを教えてしまいました。兄僧侶はなんとも言えない複雑な顔をしてジッとうつ向いたままでございました。悔しさがにじみ出てました。それからでございます。


兄僧侶は一躍有名になられました。勤行時間、休憩の合間、常に兄僧侶はみなから注目をされてしまったのでございます。


「妹さんはどんな女性なんですか。いつ会われるんですか」


これに始まり根掘り葉掘り聞かれました。なにせ永平寺の総僧侶は数千人は越えますからね。さらに拝観客や出入りの関係者を考えてみたらたまんない数だ。


兄僧侶と、妹さんは異母兄妹。かなり複雑な家庭環境でございますから気の毒さまでございます。


「もう義理の妹なんかどうでもいいではありませんか。あれこれと聞かれましてもね関係ないですよ。拙僧は永平寺に修行の身です。妹のタレント活動を応援しているわけではありません。余計なことは考えていたくありません。ましてや一緒に暮らしたこともないような女の子がたまたまテレビに出てからあれが妹だよ、父親が一緒だぜと言われても困ります。テレビを見たらドラマの内容で感動したらそれだけで充分でありましょうに」


兄僧侶はうんざりな様子でした。いやはや拙僧サインぐらい貰えないかと、アハハ。こうなると言い出しにくいなあ。


勤行の時間、休憩の合間と兄僧侶はあれこれ僧侶たちから聞かれるのが嫌らしく逃げて回っておりました。まるで鬼ごっこでございます。逃げ足早いね兄僧侶くんは。愛知学院陸上部出身。学生記録もあります。


しかし兄僧侶逃げていましてもつかまってしまいました。鬼さんは永平寺の総住職さまでした。大変な高僧さまでございます。


ミナのもの頭が高い!控えろぅー


総住職は拙僧と兄僧侶を執事室に呼びちょっと話があると言います。なんだろうか呼ばれるとは。とんと想像がつきませんでございました。紫衣の新しいのをくれるのかななんて淡い希望を持ってしまいました。総住職のキラキラの紫衣が欲しいなあ。あれがあれば中身なくても高僧侶のフリができるからなあ。売ってもかなりの値がつくだろうし。


風呂入っている隙にコッソリ、なんてね。


我々は執事室にて総住職からお話を聞きました。


「まあよく来てくれました。どうぞおかけになられて。気楽になさってください」


笑顔の総住職の話は永平寺がドラマの舞台になるとのことでした。ドラマは永平寺の僧侶が舞台でエキストラの僧侶たちがたくさん出演するのでございます。


が、なんと俳優の僧侶も必要だとテレビ局から言われたそうです。タレント僧侶がいるがちゃんとした本物にも登場してもらいたいと言われたそうです。セリフを持ち演技も要求だそうです。


なるほどそうなると兄僧侶なんかはうってつけではないかと白羽の矢が当たったわけですね。タレントの妹がいるから兄僧侶もタレントに俳優になれるだろうでしょう。ハンサムですしね。


それにしても拙僧はなんで選ばれたのかな?よくわかんないでございました。刺身のツマかな。


「ドラマそのものは寺の修行の風景を提供するだけなのです。ですが兄僧侶さんの話を聞きましたからこりゃひとつ俳優をやってもらいたいなあとお寺からお願いとなりました」


ちゃんとセリフを持ち演技もだそうです。主役は名のある有名俳優さんがやるそうですが脇役には兄僧侶を、そして三番目に拙僧をでございます。


あらっ、拙僧にもセリフあるの!嫌だなあ。短いやつばかりがえなあ。ホラーだったらホイホイ喜んでやるんだけどね。妖怪のマスク被ってワォーガォー。好きであります。ミニチュアの永平寺踏み潰しやりたいなあ。


「さらにテレビ局の話ですと兄僧侶さんの妹さんも。朝のドラマで大活躍している女優さんも出演予定でございます」


ひぇー、拙僧喜びの、ひぇーをしてしまいました。あのカレンな少女、夢にまでみた女の子とドラマ共演でございます。本当に信じられない話でございます。夢かな。ちょっとホッペつねる、あっ痛たあ〜い。イタアーひねり過ぎたでございます。


このドラマの話は永平寺僧侶の話題を全て独占でございました。


「あの朝ドラマの女優が永平寺にやってくる。あの憧れの可愛らしい女の子がやってくる。ひょっとして僧侶を気に入り結婚なんてなあ」

寄ると触ると話題でございました。永平寺の修行はどっかにポィでございますなあ。


拙僧早速サイン色紙買ってこようと。妹さんなにかプレゼントしたいなあ。彼女は何が好きかな。


紅い薔薇、赤青黄色のチューリップ、緋ぼたんのお龍。いやーん、違ってます!


拙僧と兄僧侶は一週間の永平寺修行を更に延長しました。拙寺の住職親父には俳優になるんだからと連絡いたしました。

「テレビドラマ俳優でございます」


拙僧は気分だけは舘ひろし!あの定番刑事になりきりました。くるりと一回りして拳銃をバアーン!あらっ、永平寺にはギャングものハードボイルものはありません。ちっ、つまんないなあ。激しい銃撃戦の果てに人質の若い女の子をお寺から助け出すなんてのやりたいなあ。


またはミニチュア永平寺を作って潰してやりたいですなあ。大怪獣の出現からお寺の襲来なんてのは快感でございましょう。


踏み潰しの前に総住職の紫衣をこっそり抜いておきませんとね。あれだけは欲しいなあ。後からなくなったなんて騒いだら怪獣のせいにしちゃいましょう。拙僧知らないモン!


さてさて翌朝は早くからテレビドラマのスタッフが永平寺境内にやって参りました。


拙僧と兄僧侶は早速にテレビ局から台本をいただきセリフの練習をやらないといけないのでございます。頂いてすぐ台本パラパラめくりましたがいやあ難しいですなあ。拙僧は僧侶役で出演なんですがかなり高い地位の僧侶らしいです。役は難しいから務まるかな。知らないよん。できなかったら泣いて帰ってしまおう。


兄僧侶は主役の俳優の次に名前があります。だから準主役でしょうか。主役俳優があれこれと兄僧侶に助言を求めればそれに応える役でございます。なるほど仏教の知識を使われています。セリフ回しはあるがどうなんでしょアドリブの方が上回るようでございましょうか。テレビ映りがある役柄で極めて重要でございますね。


さてお待ちかねでございます。妹さんでございます。朝の連続ドラマであれほど名を全国に売りました。さらには日本中に涙を誘った名女優さんでございます。


永平寺は総僧侶一同、たまたま拝観された観光客一同、彼女のおでましを心待ちにいたしました。いたかなお山からの猿さんと日本カモシカも。


ロケ隊が手際よくテキパキ永平寺の中にスタジオを作る。カメラや音声の設備をすっかり整えた時間にロケバスの一行さまが到着されました。なんと手際のいいこと段取りのいいことでありましょうか、感心いたしました。まるで甲子園球場の高校球児みたい。


ロケバスの到着を永平寺の総僧侶は笑顔と勤行でお迎えいたしました。


「あのバスに彼女は妹さんは乗っていらっしゃるだなあ」


拙僧は喜びで胸が張りさけそうでございました。


きゃあー嬉しいぞ〜!


ロケバスは歓迎ムードの中境内にゆっくり乗り入れました。まず降りたのはドラマの監督さん。あれ意外と若い。きっと優秀な人なんでありましょう。続くは脚本家さん。ドラマの進行によって台本を書きなおしたりするそうです。最後は出演の役者さん達でした。


ロケバスからは彼女しゃなりしゃなりと最後の方から降りてまいりました。


いやあ可愛い!本物は実に可愛らしく華奢で細くいたいけだ。


全員お迎えの中にヒロインは優しく微笑みながら小さくも手を振り愛嬌を振り撒いています。


可愛らしくしていらっしゃる。いいなあいいなあ。拙僧も手を振られたからつい、振り返してしまいました。


「ハアーイ」


手を振ってしまいました。夢中でしたからあまり覚えてはおりませんがかなり恥ずかしいですなあ。


ロケバスから降りたらすぐにプロデューサーが挨拶を始めます。


「皆さんこんにちは。この度縁があり永平寺ロケになりました。スタッフ一同頑張ってよりよいドラマに仕上げたいと思います。かなり迷惑をかけてしまいますがどうぞ平にご容赦お願いします」


その挨拶の間にも役者さんたちは役造りに一生懸命でございます。彼女はスタイリストについて可愛らしい髪型に仕上げて参ります。


そして拙僧でございますがなんとテレビ映りのために化粧をいたしました。きゃーわがことながら恥ずかしい。白いドウランを塗りテレビ映りをよくするらしいでございます。チラッと鏡見ましたら、


「我が身ながら立派な男に見える。ハンサムだなあ、これなら妹さんにプロポーズしても大丈夫」


ハハ惚れ惚れいたしますなあ。まんざら嘘でもない気分となります。


台本によりますと主人公と妹さん女優とのラブロマンが前半。その恋が破れて途方に暮れてしまうのが後半となっております。


「あらまあっ、妹女優は悲恋が板についてしまったね。可哀想だなあ」

拙僧としては慰めたいなあと道元禅師とともに同情いたします。


後半だけは拙僧と妹女優のロマンス希望したいなあ。濃厚なラブシーンフンダンにしてさらにそれ以上踏み込んで。台本書き直してくれないかな。


ロケは始まりました。

聞けば役者さんたちのスケジュールが目一杯なため短期にて撮影を済まさないといけないそうでございます。可愛いい妹女優さんは半日だけのスケジュールで永平寺でのロケすべてを撮るそうです。後は東京のスタジオに戻って室内撮影だそうです。さらに別のドラマにも出演していらっしゃるから掛け持ちしながらのドラマ撮影だそうで。


まさに売れっ子、飛ぶ鳥落とす勢いでございますなあ。


となりますと少しは休ませてやりたいでございます。拙僧の膝の上でうたた寝なんかさせたいでございますな。きっとリフレッシュされて安らかになるでしょう。


「しかし妹女優さんは半日しかいないのですか?強行なスケジュールです。半日で、はいサラバ!は淋しいなあ。もっといてくれたらねえ。拙僧とのラブロマンスも生まれるはずでございましょうに。ハハ」

拙僧思わず手を合わせて祈ってしまいました。お釈迦さまと道元禅師さまとともに。真剣な祈りです、はい。少しお経もあげようかな。


永平寺ロケは美男俳優の主人公と妹女優さんの偶然の出逢いから撮影でございます。


恋する二人は出逢いから皆さんの憧れな存在でございますね。


拙僧も観光客と一緒に見ておりました。

「いいなあ、憧れちゃうなああんな恋愛。二人は愛し愛されイチャイチャかあ。あらまっ今はあんなに近く寄り添って。まるで恋人みたいにみえるなあ。ああ彼女の手を握りしめた。いやだなあ昼間からあんなことして。彼女の白いブラウスが眩しいなあ」


あ〜ん、主人公やりたいなあ。


テーク2とかテーク3とかになりますとさらに二人は深い関係になるわけでございます。見ているうちに俳優の手が肩にさらに!あらあら嫌だなあ。みんな見ているのになあ。


このテーク1には兄僧侶も入っています。兄僧侶は兄僧侶ですから。ロケの最中に名乗らなければ妹女優さんも恐らく気がつかないままでございましょう。


兄僧侶はいかがされるのでしょうか。


見学しているうちに恋人の出逢いから仲良く付き合っていくストーリーまでアッという間に撮影は進んでしまいました。早いなあ。馴れたものでごさいます。


また拙僧の出番も参りました。緊張致しますなあ。


「ではテーク3行きます。出番の方はスタンバイしてください。お寺の境内から本堂にいたる庭のシーン行きます。カメラさんは植木から待機してください。エキストラはこちらとあちら別れわかに」

ディレクターは的確な指示を出したら慌ただしく主役俳優にことこまかな指示でございます。


拙僧直前まで台本とにらめっ子。なかなかセリフが頭に残りませんね。内容は曹洞宗の僧侶修業の場面でございます。熱心な弟子達に説教を拙僧は景気よく声張り上げてブツところでございます。


楽なもんですけどね。カメラがなければ普段のとおりにやりたいなあ。


ディレクターが拙僧を呼び、

「ではカメリハ行きます。リラックスしてくださいね」


うん?カメリハ?なんだろう。拙僧わけわからないままカメラの前にズドーン。あかあーん!参ったあ。頭の先から足の爪先まで緊張、緊張さらに緊張してしまいました。カチコチでございます。


こうなりますと誰がなんだか。なにがなにだかわけがわからない。世の中すっかり異次元になりにけりでございます。


「あわあわ」


口まで動きが怪しくなりました。あら拙僧としたことが情けない。

「ではカメリハ行きます。役者さんは準備いいですね」

ガチンコがパチンと鳴らされドラマスタート。


拙僧のセリフは頭の中にごちゃまんとあるのですが出てくるのでしょうか。詳しくはセリフに聞かないとわかりません。あやあや参ったなあ。


「さてセリフお願いします」

ディレクターから行けのサインいただいたのでごさいます。拙僧気合い入れ背中にお釈迦さまと道元禅師を乗せ勢いよく、言った。


「拙僧の(アガァー忘れタア)」


一気に血が昇ってしまいました。目の前も消えてしまいました。


「どうされました?」

ディレクターが拙僧に駆け寄り心配してくれます。拙僧しかたありません、あがってしまったと正直に申しました。


「あがって?そうですかではリラックスしてもらいましょうか」

とアドバイスいただき軽く手をあげアシスタントを呼んでいただいた。


「大丈夫ですか?皆さん最初は興奮されてねシドロモドロになられますから。大丈夫ですから、とにかく落ち着いてくださいね。深呼吸からいたしましょう」


アシスタントは若い娘さんでした。可愛らしく優しく拙僧のコンディションを整えるのを手伝っていただける。アシスタントさんの言う通りに吸う吸う吐く吐くと深呼吸を繰り返して拙僧少々気が落ち着いて参ります。

「ありがとうございます。なんとか落ち着いて参りました。フゥフゥ」


偽らざる気持ちでございます。深呼吸を繰り返しさらに休んだからだんだんと落ち着いて来ました。かわいいアシスタントさんはディレクターに準備出来ましたと報告しました。


すると拙僧途端に、

「アッ、セリフはなんだろ。わかんない」

またまた混乱し始め血が逆流していきました。

「ではカメリハ行きましょう」

若いアシスタントさんは笑顔が素敵なかつミニスカートがよく似合いましょうか魅力あります。いやいやそんなことより拙僧のセリフはどうなるんだあ。


「では参りましょう」

アシスタントさん座っている拙僧の手を取ってよいしょと立ち上げるつもりでございました。拙僧もお言葉に甘えて、手を、さように手を出してアシスタントさんによいしょと立ち上げてもらいたいなあ。ちょっと恥ずかしいかな。


次の瞬間!


「あんっ、いゃーん」

若いアシスタントの甘ったるいなまめかしい声が響きわたりましたでございました。


なんだろ?拙僧はムムッと目の前をみたら。


あらやだ!アシスタントの手を握るつもりだったのが、しっかりとオッパイを握っているではありませんか。でっかいですなあ。極度の緊張からまったく気がつかない拙僧でごさいました。オッパイの感触すらも感触として記憶にないくらいでごさいます。


「こっ、これは!失礼いたしました」

手を退ける時になんだろ、また"ひとつかみ"してから離しました。無意識でございます。


拙僧かような非礼を詫びて、再びよっこらしょと立ち上がらせられました。


すると。


若いアシスタントは手を出して拙僧を助けましょうはよろしかったのですが、


「あらん(重いやあ)どっこいしょ」


拙僧の体が重いのでありましょうか、彼女はバランスを崩してしまいました。


あらあら。拙僧の上に乗っかかってしまいました。


拙僧あいや危ないなあと彼女を受けとめる仕草をしグッと腹に力を溜めさあいいよと準備いたしました。


彼女はうまい具合にクルリと体を回し拙僧の膝の上にチョンとお座りされた。ハハ、ナイスでありましたね。仄かな女性の香りが漂いました。でかいお尻もそこはかとなく重いし。


しかし。


ミニスカートのアシスタントでした。なんとなんと、サービス旺盛なる一瞬の出来事でありました。


ダメですよ!そんなにもジロジロ見てしまっては。彼女は見せるつもりではないんだから、メッ!


そしてアシスタントさんのお陰で拙僧なんとか出番をこなすことができました。セリフもよどみなく出ました。普段やっている朝の勤行をカメラの前で自然体でやりさえすればなんのこともない話ではございました。


テーク3〜4。ドラマの主人公と妹女優のラブロマンスはこのあたりからずいぶん親密になり観客として見ていましても、

「いいなあいいなあラブラブなんだモン。今後はどうなるのかなあ」

楽しみになって参ります。


「ではテーク4行きます。エキストラさんは本堂に集合してください」

やりてのディレクターはテキパキとドラマ進行を進めて参ります。


やがてドラマは無事に前半部を収録終了。妹女優さんの永平寺ロケも彼女の熱演によりおしまいの予定でございました。

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