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拙僧の失恋物語でございます(涙)

愛知県は奥三河新城市鳳来寺に真言宗の有名なお寺がございます。7世紀から山岳信仰の霊験あらたかなる霊峰として鳳来寺山に建立された名刹でございます。そのお山のお寺さんの末寺があらま拙僧の彼女ミニスカートのお嬢さまのご実家でございました。


拙僧はお寺は、お寺、てっきり岡崎の所在かと勘違いしておりました。まさか鳳来寺の末寺であるとは思いもよりませんでした。「いかんせん曹洞門下とは宗派が異なりはすれども恋は全うしたいものでございます。すでに拙僧心は決めておりますから後には引けぬ所存でございます。ひたすら宗派の違うこの恋につき進むだけでございます。行くぞ、拙僧は男だあ」


まず彼女に奥三河までドライブに行きましょとお誘いいたしました。その場の雰囲気で拙僧のプロポーズの答えをもらいましょうと考えていたのでございます。彼女からデートはふたつ返事で、OKをいただきました。

「お!やったなあ。ラッキーだあでございます」


拙僧嬉しいところでございます。嬉しさのあまり、反り返りイナバウワーしてしまいました。背中が痛いなあ。


愛知の山奥は自然がいっぱい。さぞや楽しいデートが待っていることでございましょう。


さっそくデートの準備、愛車を綺麗にと車磨きいたしました。いやあ、冬の洗車は厳しいものでありますなあ。手がかじかむわ、長靴から水が入るわで、大変でありました。内装の清掃は助手席に気を付けて入念に綺麗に致しました。なにせ女神さまが天使さまが助手席に、ハハ!お座りになられあそばしますから。彼女に少しでも快適にお座りいただきたい一心から綺麗にでございます。後は香水を振り撒いて。


車のドライブはよろしいのですが、ちょっと不安がございます。拙僧はっきり申し上げてペーパードライバーでございます。自家用車はこうしてあるのはあるのですが、何度乗りましたかなあ。運転はからっきし自信はございません。かなり不安でございます。もう一度教習に通わないといけない。しからば、仏の道ゆえ、交通安全を自ら祈って運転せねばなりません。背中にお釈迦さまと道元禅師いらっしてますから安全運転は大丈夫と願いたい。


デートの朝はいつもの袈裟姿から着替え爽やかな若者のルックスに身を包み愛車を運転する拙僧。

「いやいや、格好はよしとしましても運転は危ないものでございますなあ」

僧侶はラフな格好は久しぶりだった。普段袈裟ばかりだから不慣れいや着不慣れだった。


さて車の運転はどうなるのか。かなりの低速度の安全運転でトロトロ走り始めた。危ない危ない。幹線道路の後ろからは、早く行けと、頻繁にクラクションを鳴らされっぱなし。ヒヤヒヤの連続でなんとかかんとか彼女のいる岡崎に到着をする。


「拙僧、汗びっしょりでございます。ふぅー疲れたあ」

冬だと言うのに大変なこと。


彼女の学生寮の前に到着し携帯を鳴らす。しばらくしてにこやかに大好きな彼女の登場となった。

「さあさあ、お乗りください。拙僧、本日、しっかりエスコート致します」


大好きな彼女は目いっぱいおめかしでございます。拙僧のために化粧してくださり一段と可愛らしかった。シックないでたちからはチャラチャラとした初対面の印象はまったくなかったでございます。拙僧改めて惚れ直しました。キャーア言わせないで!


彼女が今日のドライブをいかに楽しみにしていたかはパッと見てわかるいでたちだった。

「拙僧、幸せです。こんな綺麗な女性が横にいるなんて!この感情の高まりは、口では言い表せないくらい嬉しい。拙僧は幸せだなあ」

ついつい顔がしまりなくなります。デヘへ。がそこはグッとこらえて、威厳ある僧侶を見せています。

「可愛らしくてありがとう。本日はよろしくお願いします」

拙僧本心からお礼を申しました。頼むぞプロポーズの答えも期待したい。

「いいえ、こちらこそ。ドライブに誘っていただき嬉しかったです。よろしくお願いします」

と彼女はういういしく頭をさげました。礼儀正しい娘さんだ。さて拙僧の車に可憐な女神さま天使さまは助手席に乗り込む。


拙僧の愛車はスポーツタイプゆえ、車体がかなり低くなっております。セダン乗用車とは違っておりますね。ちょっと乗るのにコツが入る。


彼女が乗り込む時に頭を打たぬよう、また、オシリが滑らぬようにと、親切心から手を指し延ばしたのでございます。思ったとおりに彼女ちょっと入りにくくてぐらついたので、オシリから支えようといたしました。なんと彼女はその瞬間にバランスを崩してしまう。滑った拍子にオシリでおもいっきり拙僧の手をクシャアンと踏みつけてしまいました。バランスを失ってミニスカートからは真っ白なパンティーが露になりました。

「キャーアャアー!」

彼女は彼女でいきなりオシリを触られたと勘違いして悲鳴でございます。パンティー丸見えの恥ずかしい気持ちも込められておりました。慌ててミニスカートを直し白いパンティーは拙僧の視界からサラリと消えました。

「アガァ〜!いた、痛い!」

でっかいオシリに手を挟まれ拙僧も声を出してしまいました。彼女の全体重を手に乗せられ痛かった!ひょっとして骨折したかと心配でございます。拙僧白いパンティーは見てはいたのでありましょうがそれより痛いなあ。レースがセクシーだったなあ、いやいや見ていませんよ。そんなジロジロは。白いのは目に眩しいなあ。

「和尚さま、大丈夫ですか?」

と心配顔の優しい彼女でありました。一瞬痴漢と間違ってあれだけ騒いだのに。


拙僧は痛かった。痛みはですねかなりあるのですが笑顔です。ここは白い歯がこぼれる笑顔を満面に見せてにこにこします。痛くないぞ。

「ハハ、なんともありません。大丈夫です」

手の痛みが引くのに時間が欲しいかなと時間稼ぎしたくなりました。ドライブコースのあれこれをナビゲーターで確認いたしました。


岡崎本宿から、暗刈渓谷抜け、本宮山ドライブウェー。下って新城市は国道151号線を鳳来寺に。鳳来寺に入れば、三河国定公園なので見所満載です。阿寺の七滝・奇景乳岩を見たら、鳳来寺有料道路を辿り鳳来寺山門に到着。


彼女はフムフムと可愛らしい相槌を打つ。熱心に話を聞き納得されておりました。じゃあ出発!手も痛みがひいたようでございます。骨折ではなかった。


ゆっくりエンジンをかけ拙僧走り始めました。


彼女は奥三河にはかなり詳しい様子でございました。途中の名所遺跡から有名人の立ち寄った場所のエピソードまで教えていただけました。なんと博学なんでございましょ。改めて尊敬します。


さてさて走り始めたらドライブテクニックの問題が起こりました。それは拙僧のトロトロ運転でございます。なんせペーパードライバーですからね。ちょっと狭い道に入ると、途端に拙僧は不安になりトロトロ、トロトロとなってしまいます。危ない運転だなあ。


「あのぅー和尚さま。運転は大丈夫ですか」

彼女助手席からいたたまれなくなったご様子でございました。無理もありませんですなあ。このありさまですから。拙僧冷や汗タラタラのままジッとしておりました。

「あのぅよろしければ運転替わりましょうか」

拙僧のドライブテクニック見透かされました。

「このあたりの山道は慣れないと危ないですから。私なら慣れています。父に連れられてこの辺りはよく走りましたし免許を取ってからは自家用車でよく運転しております。代わりましょう」


彼女に運転を交代してもらいました。


ホッ!


「じゃあ、行きましょか」

彼女は運転席で計器類を確かめてすぐさま、ブオーン!凄い吹き上げ音がいきなり響きわたる。拙僧の愛車はスポーツタイプ。アクセルをグイグイ吹き上げられてエギゾ〜ストノイズがブィブィと騒音響かせまくりました。あらあ、乱暴なあと思う間に彼女は三河路を走り始めました。


それもかなり手荒な運転でございました。まるで暴走族のような運転でございました。とても20歳のミニスカのお嬢さまの運転には思えない。


「あのぅ和尚さま、お聞きしますがこの車はノーマル仕様でございますね?チューンナップはされていませんか?気のせいか、トルクの回転が悪く感じます。もっと吹き上げないとエンジンが被って被っていたしかがありませんわ」

さらにグワァーン!あらら、彼女は見掛けによらずカーマニアであられましたか。拙僧なにを言われたかさっぱりわかりませんでした。

「カーマニア?ええ、まあそうですわね。何せ田舎育ちですからバイクや車がないと生活できない環境です。車はよく乗りますわ。朝から夜から」

彼女は荒々しく運転を続ける。さらには拙僧の車に段々慣れてきたようでございます。快適にスイスイ飛ばす、飛ばす。まるで暴走族かのように。

「私にとってこの界隈は庭同様ですから楽しいドライブですわ」

いゃーん!グッとアクセルを踏み込まれ拙僧背中をシートにグイッと押し付けられてしまいました。怖いなあ降りたくなったあ。

「かなり飛ばすなあ!」

助手席にしっかりしがみついてしまいました。

「和尚さま、あの右手にほらっドライブインがありますでしょ。ちょっと休んでお食事にしましょう」

拙僧助手席にしがみついておりました。

「ふぅードライブインがありますか」

かなりの緊張からお腹がすいていることも忘れておりました。いやはやどうしたことでありましょうか食いしんぼうのくせに。ではさっそく行きましょと返事致します。早く降りたくなりました。ドライブインで食事にいくよりも降りたい。


ドライブインに彼女と参りました。そこは普通の幹線沿いにある大衆食堂のはずでした。


彼女はドライブインの自動ドアを開け店の中にスゥーと入っていく。食堂にはなにやら暴走族の革ジャンを着た若者が数人ひと固まりになっておりました。拙僧、この手が苦手でございます。ですからなるべく避けたい関わりたくはないです。すぐさま彼女と回避したくなり、

「ちょっとこちらの隅に行きましょう。こちらなら空いてる」

と彼女のグイッと肩を抱いて誘導したのでございます。


ところが!


「えっ!なぜですか?こっちに行きませんか。こちらです」

と彼女は暴走族の前にスタスタと歩き始めるではありませんか。あいやあ、待って待ってくださいなあ!


彼女は若者の前でにこにこし始めました。


驚いたことには暴走族にやあっと挨拶をするではありませんか。拙僧びっくりいたしました。

「ちょっと紹介しますわ。こちらね私の幼馴染みの」


アガァ〜


「あなた様は、族と、お知り合いでしたか」

拙僧は愕然。さらに知らぬ間に暴走族に自己紹介されてしまいました。


サングラスでくわえ煙草のアンチャンは、ジロリと拙僧を睨みつけました。

「誰でぇテメエ。どこの族だあ」

気がついたら、拙僧は周りを族仲間に囲まれてしまいました。

「だからぁ、今、紹介したじゃんか!寺のお坊さんよ」

ぐるりと暴走族に取り囲まれた拙僧、嫌な気分でございます。一刻も早くこの場を去りとうございます。しかし彼女は急に態度が変わりガラ悪くなりました。

「信じられない。去りたい、去りたい、ああ、逃げたい、逃げたい。その前に泣きそうでございます」


彼女はそんなことまったくお構いなし。親しげに実に親しげに暴走族の仲間と話込んでいらっしゃいます。その話をよく聞くと、


うひゃあ、うひゃあ、弱ったぞ彼女もなんかいな?暴走族か。サングラスのアニイが盛んに大声張り上げていた。

「なんだヨォお前、岡崎に行ったらおとなしくなったんジャン。あれだけさあ手のつけようのない悪だったのによ!テメエもたいしたキツネだなあ。なんでぇやっぱり保母さんとかいうカタギの商売になるんかい。ガキが可哀想だぜ、まったくよ。こんなとんでもないズベコウに先生づらされてお遊戯教えられちゃあよぉ。ガキはょみんな不良になっちまうぜ。カツアゲのうまい園児の出来上がり。ワッハハ」

ひゃあ、ひゃあ。これを聞いたら完全に逃げたい、逃げたいガヤア〜。拙僧頭の中ではすでに名古屋に逃げておりました。


「でさあ。今から本宮までブッ飛ばして、新城抜けんだけど付き合わない?スカッーと行こうぜ」

彼女、暴走族に走りの相談持ちかけていらっしゃるでございます。でも拙僧は、話無関係でございます。族の集団で、ブィブィ、パカラカ、パカラカやりながら、走りを楽しんでいかれるみたいなんですね。拙僧はまったく無関係でございます。

「あれとにかく逃げたいなあ」


で気が付いたらなんだかわけわからないまま、拙僧の車は暴走族のいかついアンチャンが、勝手に運転席に座っているではありませんか。

「じゃあよ、和尚さん。コロがすからよ、しっかりツカマってな。大丈夫、天国への快適な走りを見せてやっからよ」

拙僧天国はまだ見たくない。といきなりエンジンがかかりました。ブィーン!急発進してタイヤが、キキキィ〜!


拙僧は右に左に助手席で柔道の乱取りを始めてしまいました。


あれー助けて。降りたくなった。


「このクルマ、ノーマル仕様かい?やけにトルク引っ張る感じすっけど」

さらにアクセル踏みつけ、キキキィ、キキキとタイヤを鳴らし蛇行運転を繰り返す。


あー、たまらん!助けて〜降りたいわあ。


拙僧は嫌々ながらも一応ゴールの本宮山に到着です。いやあ生きた心地しませんでしたなあ。


集合場所の駐車場には、先の暴走族たちが待っておりました。拙僧の大好きな彼女もちゃんといる。ミニスカでいた。あまり居てほしくはかったが。


あまりいて欲しくはない彼女。さらに見たら族の黒い車の横に女王さまのようにいます。


泣ける〜


「どうだい、山ん中の走りの気分は!走ると、スカッとすんだろぅ。どうだ、次、俺がコロがしてやっからよ。快感が走るぜ、ワッハハ」

もう結構、もう嫌でございます。拙僧、早くおウチに帰りたい。

「じゃあ、あなた、こっち。アンタ、こっちの運転に代わりんやあ」

ミニスカの彼女優しい顔して族にあれこれ指図してございます。見た限りでは女王さまより手配師でありましょうか。手慣れた様子はまざまざと暴走族の仲間そのもの。とてもあのカワイコチャンだとは信じられない拙僧。白いパンティーも信じられなくなりました。あれだけ見てみたかったのに。


拙僧、すっかり夢から醒めてしまいました。


「よぉーし、山降りんゾ」

サングラスは拙僧の車に乗り込む仕草を見せてくる。


拙僧、ここで堪忍袋の中村玉緒がプチンと切れたでございます。


「喝っ!」


拙僧に背後にお釈迦さまが、デェーンとついてございます。道元禅師もちゃんとついているはずでございます。


何せ僧侶とは自分で自分がなにをしでかすかわからない一瞬すらございます。仏にすがってしまいました。


族の黒い車数台のエンジンを止めさせ、拙僧、無念無想の心境となり説法を始めました。

「無為なる行為に貴重な青春を無駄にしてはならぬ」

と、力説いたしました。小一時間も説法をやったでございましょうか。説法の終わりには駐車場の暴走族の黒い車たちに一般庶民が警察に通報されたのでありましょう。パトカーが走り寄って参りました。

「お勤めご苦労さまでございます。暴走族がいると110番通報がありました。いやあお恥ずかしいところです。奴らは地元の族でしてね」


暴走族は全員きれいにパトカーで連行されていかれました。


「はて?」


拙僧なにやら夢からまだ目覚めておりませぬか?

本宮山駐車場の上には拙僧しかおりません。


ええ、ひとり、ひとりだけでございます。


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